2019年5月1日、令和元年の初日となる記念すべきこの日。東京都千代田区のギャラリーエピキュートにて“サクラ大戦アートフェスティバル2018 プラス”が開催された。
アートコレクションハウスが主催するこのイベントは、毎年末に開催されている“サクラ大戦アートフェスティバル”の2018年度の縮小版として、東名阪の3都市で行われたもの(大阪、名古屋では2019年3月に開催)。会場では、『サクラ大戦』シリーズでキャラクターデザインを手掛けたアニメーター、松原秀典氏による原画作品の展示のほか、松原氏によるトークショウやサイン会、描き下ろし版画の発表なども行われている。本記事では、それらの模様をお届けしよう。
会場内に展示されている『サクラ大戦』シリーズの原画は約30点。そのほか、描き下ろしリトグラフ(版画。原画の風味を最大限に残せる手法)の展示・販売、さらにはオリジナルグッズの販売も行われていた。今回は1日のみの開催ということで、あいにくの天候(当日は雨が降り続いていた)ながらトークショウを楽しみに多くのファンが来場しており、それぞれが真剣な眼差しで各作品に見入っていた。
松原氏のトークショウには、この日を楽しみにしていた120名を超える観客が集うことに。予想を超える集まりとなったが、スタッフのユーモア溢れる誘導によってとくに混乱もなく入場も完了し、松原氏を待つ。
そして、松原氏が到着すると、まずはトークショウに先駆けて新作リトグラフの描き下ろし原画が公開された。モデルは『サクラ大戦3 ~巴里は燃えているか~』のヒロインのひとり、北大路花火。セピア調の色使いや、さまざまな表情が印象的な作品となっていた。
トークショウでは、松原氏の近況や『サクラ大戦』シリーズでのエピソードなどが語られた。庵野秀明氏率いるアニメ制作会社のカラーに所属しており、現在は映画制作の真っ最中である松原氏。この日も会場入りする前に作業してきたのだという。今回発表された花火の原画は、そんな多忙なスケジュールの中で描かれたもので、じつはこのイベントの前日の午前4時にようやく仕上がったのだとか。
花火は黒髪なうえにいつも喪服を着ているため、ほぼ肌色と黒しか使わず「地味そうだからラクに描けると思った」松原氏だが、色数が少ない代わりにどこに特徴を求めるかの構想に思いのほか苦労してしまう。1枚でバラエティー感を出しつつ、弓をかまえているポーズを入れたら、このような構図になった模様。
キャラクターデザインの作業以外では、チーム(帝国華撃団・花組や巴里華撃団・花組、紐育華撃団・星組)単位で描くことが多く、隊員個人の絵を描く機会はじつは少ないのだそう。花火に関してはファンからの「描いてほしい」という声が多く、今回の作品につながることに。ただ、キャラクターデザインを担当していたころからすでに10年以上経過しており、いまはまったく別の絵柄の作品を手掛けていることもあって、そう簡単に描けるものではないらしい。たとえるなら「成人して家から独立した我が子の、乳児のころの絵を描くみたいなもの」なんだとか。
一方で、2018年末にTwitterで色紙に描いたレニのイラストを投稿したところ、かなりの反響があったことから、「皆キャラクターに会いたいんだね」とあらためて感じたという。その後、イベントの楽屋などで描いたものをTwitterにアップしてくれているので、気になる人は松原氏のTwitterアカウント(@HideMatsubara)をフォローしてみよう。
メリークリスマス。 #サクラ大戦 https://t.co/KMpqmJE5yG
— HIDENORI MATSUBARA 松原秀典 (@HideMatsubara)
2018-12-24 18:36:09
令和元年五月一日。 https://t.co/oKaiIA1mL4
— HIDENORI MATSUBARA 松原秀典 (@HideMatsubara)
2019-05-01 18:29:46
『サクラ大戦』シリーズを担当していた当時は、シリーズものであるがゆえに、構図ひとつ取ってもそれまでのテイストを大きく変えられない、“冒険できない”ジレンマもあったのだとか。とは言え、その中でさまざまなバリエーションを出していかねばならないため、毎回最後の1滴まで絞り出しながら考えていた松原氏。
そんな中、毎年のように描き下ろしリトグラフを発表するには、裏ではかなりの苦労があるということを明かして会場中の笑いを誘っていた。
今後の予定については、現在携わっているプロジェクトが一段落したら、どこかで休みを取って家族との時間をもう少し増やしたい……と、父としての一面も見せていた松原氏。平成の初日は先輩たちと寿司を食べに行ったことを思い出した令和の初日、恐らくこの日のことは、つぎに元号が変わるときに思い出すかもしれない、と語っていた。
トークショウの後はサイン会に移り、松原氏もひとりひとりにサインを書きながらファンとの交流を楽しんでいた。今後の開催については未定だが、さまざまな企画を検討中とのこと。吉報を期待しよう。