ゴールデンウィーク10日間連続で“とっておきインディー”をお届け。トリを飾るのは、Hojo GamesのPC向けアクションRPG『虚無と物質の彼女』。

この儚くも愛しき世界こそが、僕たちの守るべき場所だと気づく

 何でもない日常的な場所の景色が、突然、このうえなく強烈な印象を放つときがあります。子ども時代はあまりに当然すぎて自覚することがなかった“ 世界の感触”が、ふと蘇っているのかもしれません。

 『虚無と物質の彼女』は、体験版の時点でその感触が再現されている、注目すべきタイトルです。のどかさと終末感が現代日本の風景に紙一重で溶け込み、大小の戦闘やクエストをこなす“ 非日常”を正面からテーマにできるのは、まさにインディーの強みです。

ふたりの主人公の視点で観測される歪んだ日常の物語

 物語は、正体不明の化け物たちの出現とともに魔法の力に目覚めた、地方都市の高校生男女の視点で進行する。学校を拠点に身を守ることになった生徒たちの一員として、行動をともにするふたり。しかし、世界の異変に対するスタンスが大きく異なるため、心情面では微妙な距離を保ち続ける……。

月崎咲楓(つきさきさほ)
声:林 鼓子

高校に入学してすぐ不登校となった少女。“異界”との親和性があり、自身の目的を何よりも優先して行動する。

枷場 亮(はざばりょう)
声:ランズベリー・アーサー

ごく一般的な高校生。やや漫然と日々を過ごしていたが、世界の異変後は、事態の収拾を図ろうと振る舞うようになる。

異なるスタイルを使い分けて窮地を打開する戦闘

 直接操作する主人公キャラは、町の探索中、ボタンひとつでいつでも変更できる。それぞれ使用武器や得意とする攻撃スタイルが異なるため、キャラの切り換えのタイミングで攻略の難度が劇的に変化することも。成長要素を楽しみつつ、自分なりのスタイルを確立しよう。

武器のパワーアップ方針や、スキルツリーの伸ばしかたによって、キャラの特性が大きく変わる。
ストーリーの進行に応じて、立ちはだかる敵はより強力になっていく。それに対抗すべく、武器の強化を怠らずに。

『虚無と物質の彼女』開発者・錦の北条氏に聞く

架空の都市・蓮上市に込められた“記憶”

錦の北条氏

1995年生まれ。本業はIT企業勤務のゲームエンジニア。学生時代に『ディザーテッド』『ディザーテッド2』などのフリーゲームを開発した勢いのまま、“Hojo Games”名義で個人ゲーム開発を行っている。

――『虚無と物質の彼女』がどういうゲームか、簡単に説明してください。

錦の北条 突如化け物が溢れかえった日本のとある地方都市で、ふたりの主人公がさまざまなクエストをこなしながらメインの目標を達成していく、ストーリー主導アクションRPGです。メインストーリーやサブクエストを通して、主人公たちの破滅的な物語を体験できます。マップはかなり自由に散策できるので、オープンワールドとしての性質も持っています。マップの様相はストーリーやサブクエストの状況などによって変化していきます。

――主人公・枷場亮(はさば りょう)と月崎 咲楓(つきざき さほ)について、詳しく教えてください。

錦の北条 物語は、宮城県の架空の市“蓮上市”にある高校の不登校生徒・咲楓が突如学校に現われた日から始まります。それと時を同じくして出現した化け物から、学生たちは学校を拠点に身を守ることになるのですが、なぜか魔法の力に目覚めた咲楓と亮は、さまざまな敵と戦いながら街を冒険します。状況をまとめたい枷場と、ほかの学生のことなど気にも留めず自分の目的だけを抱えながら行動する月崎の関係は、物語を徐々に暗く不明瞭な方向へと運んでいきます。
 アクション的な仕組みとしてはキャラクターを自由に変えることでピンチを脱したり、ふたりのスキルや武器は完全に別なので、異なる性質の技を使うなどユーザー次第で幅広い影響があります。もちろん、好きなほうだけを使い続けても問題ないように作ってはいます。ものを調べる際やほかのキャラクターと会話をする際に、操作キャラクターによって反応が異なったりするのはおもしろい点かもしれません。

――“終末的状況に見舞われた現代日本の地方都市”という舞台設定と、そんな世界を自転車で颯爽と移動するビジュアルが印象的であり、そこが本作の強烈なオリジナリティーだと思います。この着想はどこから?

錦の北条 蓮上市は、市街地から田園地帯、都市部まで備えた、日本の平均的な地方都市をイメージしています。ロケーションは多くの日本人が概念的になじみを感じるはずなので、それを説得力のある描画でアポカリプス的状況に置くことで、歩いているだけで楽しいような世界になるかなと考えています。
 “自転車”で“学生”が“荒廃した世界”を冒険する構図は、僕が東日本大震災の被災者だった経験から思い浮かんだものです。2011年当時、僕は中学三年生だったのですが、食糧の買い出しに行く時、友だちとあてもなく自転車でうろうろしたりしていました。水に流された豚の死骸が溝に挟まっていたり、クルマが橋の下に流されていたり……。実際僕も被災者だったので大変だったのですが、いろいろ強く記憶に刻まれる景色がありました。日本の狭い街は人も多いのでふだん冒険なんてしようとはなかなか思わないものですが、その町としての機能を失った瞬間に見えかたが結構変わったんですよね。体験は人によって感じかたが違うとは思うのですが、僕としては日本を冒険舞台にする上ではぜひその空気感は再現してみたいな、と思っていました。

――3D グラフィックの作法と、どのような点にこだわっているかをお聞かせください。

錦の北条 風景描画の調子は基本的にリアリスティックなものになっています。キャラクターはある程度記号的な要素が入るアニメ調の雰囲気を持ちます。この融合はバランスの調整が少し大変でした。
 市街地マップは情報量が多く再現が難しいのですが、そこが一番“日本らしさ”を感じられるシーンでもあるので、さまざまな努力が必要になりました。基本的な指針としては、町の構成を抽象化して表現に必要な要素を捉えて構築するようにしています。長い開発のあいだに僕自身の材質の構築方法やジオメトリの構築技量が変化し、初期のモデルの中には少し扱いが難しくなっているものもあります。そこは全体のライティングの調子や配置の工夫で均一なクオリティーになるようにしています。
 理論的な話は尽きませんが、一言で言えば“愛”ですね!(笑) 昼夜の概念や雨などの天候、当たり前のものはできる限り愛をもって用意しています。

フィールドには時間や気候の変化も再現されている。それぞれの場面が印象的だ。

――ゲーム世界の規模や想定プレイ時間について教えてください。作品のスケール感を知る指標になる情報を、可能な範囲で。コレクション・やり込み要素などもあるようでしたら、そのさわりについて教えていただければと。

錦の北条 メインストーリーを中心にふつうに進めると10時間ほどのプレイになるように想定しています。マップにはサブクエストや、強大なボスなど、メインストーリー以外にもさまざまな探索要素があります。ユニークな技を持つキャラクターごとの武器などの強化アイテムや、スキルツリーや技の強化など、育成的な要素を極めようとすると、かなりの時間楽しめるはずです。

――ゲームとしてやや規模が大きめな本作をなぜ“個人開発ゲーム”として制作しているのでしょうか?

錦の北条 3Dゲームで日本が舞台という、恐らく個人開発としては少し大変な印象がある選択をしているのですが、個人で開発している理由はじつはほとんどないです。会社のように社会的に責任が大きい立場だと倫理的潮流に適切に気を遣わないといけないかもしれないけど、個人なら……程度の開発体制の違いは、多少あるかもしれません。
 開発の根底には僕自身のやってみたいことがありつつ“個人開発ゲームとして”というような自負はあまりなくやっています。何度もグラフィクスやアクション、アニメーションや育成要素などのクオリティーの抜本的な変更が行われていて、やはりひとりで納得のいくクオリティーを達成するきびしさは痛感していますが、それでも知識の蓄積が進むごとに現実的になったかなと感じています。
 あえて個人開発のポジティブな理由を挙げるとすれば、「創作の対象としてゲームを選んでみたいと思ってもらえる人が増えればいいな」という点はあるかもしれません。魅力的に映るクオリティーとして『虚無と物質の彼女』を作り切って、インディーにおけるゲーム開発という場を勇気づけられたらいいなと思います。