2000年代初頭に起きた何度目かの“ゾンビ”ブーム(このブームの火付け役となったのはイギリスの“感染者”映画『28日後』だが、ここではあえて“ゾンビ”と書かせてもらう)はいまだ衰えず、現在ではホラーという枠を超えてひとつのジャンルと呼べるまでの人気と知名度を獲得した。
映画から始まったブームは、文芸やコミックなどへと飛び火してさらなる盛り上がりを見せている。少し前まで、客足が遠のくのを恐れてゾンビが登場することを伏せて上映された映画もあったというのが信じられないほどの賑わいだ。もともとゾンビを題材にした作品が少なくなかったゲーム界隈もその例外ではなく、近年はとくに多くのゾンビゲームがリリースされている。
そんな中、2019年4月26日にソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売されるのが、プレイステーション4用ソフト『Days Gone(デイズ・ゴーン)』だ。本作は大規模なパンデミックが発生し、人間社会が崩壊してから2年後のアメリカ西海岸北西部を舞台にした、オープンワールド型のサバイバル・アドベンチャー。パンデミックにより生まれた“フリーカー”と呼ばれる感染者、犯罪に走る人間、獰猛な野生生物、物資の不足など、数々の脅威が生存者を脅かす世界で、主人公・ディーコンが足掻き続ける姿が描かれていく。
本作に登場するフリーカーは、動物にも感染する、夜行性で寒さに強いなどの特徴を持つ“感染者”だ。ジョージ・A・ロメロ氏が生み出した今日のゾンビ像のベースとなったモダン・ゾンビとは一線を画す彼らが、どのような活躍をするのかを含めて本作をレビューしていこう。
※本記事内には、「CERO:Z(18才以上のみ対象)」に該当する表現は含まれません。
ちなみに、ゾンビ映画の歴史を綴った『ゾンビ映画年代記』の序文に、脚本家のマックス・ランディス氏(父親はマイケル・ジャクソンの『スリラー』のMVを撮ったジョン・ランディス氏!)は、「“感染者”は“ゾンビ”の言い換えに過ぎない」という旨の意見を寄せている。映画『ザ・クレイジーズ』や『バイオ・インフェルノ』のような明らかにゾンビとは異なる感染者作品も存在するもが、もちろん彼が言及しているのはおもに『28日後』以降に登場した感染者作品だ。
個人的にはその意見に同意だが、まあ、それはそれとしてゾンビ・感染者作品に登場するさまざまな異形たちを見て、その多様性や懐の深さ、予想外の死角からねじ込まれていく新たな可能性に感服するのもまた非常に楽しい体験である。そして本作のフリーカーも、オリジナリティーやゲーム性にマッチした特徴を与えようという制作陣の意気込みが感じられる、過去に生み出されてきた異形と同じく愛すべき存在なのだ。
ポストアポカリプス的世界で展開する極限のサバイバル!
先述の通り、本作の舞台はパンデミック発生から2年後の世界。わずかに残った生存者たちは、かつての繁栄を極めた文化的な社会とは無縁の荒れ果てた大地で、身を寄せ合って暮らしている。パンデミックの発生から時を経ているということもあり、生き残った人々は結託して強固なキャンプを築き、新たな貨幣(クレジット)で経済を回すなどして、この絶望の世をなんとか生き抜こうと踏ん張っている。ディーコンもそのひとりで、フリーカーや野盗を討伐して日銭を得る賞金稼ぎとして日々を生きているのだ。
本作では、特定のミッションをクリアーしていくことでストーリーが進行していく。もちろんストーリーに関係のないミッションも非常に豊富で、ディーコンの相棒であるブーザーに関係するもの、各地のキャンプで発生する事件の解決、フリーカーの巣の殲滅などなど、その内容は多種多様だ。それらをこなして報酬を得るか、ストーリーに注力するかはプレイヤー次第となっている。ちなみに、ゲーム開始から1時間もプレイすれば、広大なオープンワールドを自由に移動して気ままなサバイバルライフを送れるようになる。
ストーリーは、ときおりパンデミック発生時の様子など、過去の光景がフラッシュバックしながら進行していく。阿鼻叫喚の混乱とそのさなかでディーコンが妻のサラを失った状況が再現され、彼がいまなお失意の底に沈んでいることが手に取るようにわかる。すべてを失ったディーコンは、この希望の見えない世界で何のために生きているのか? 彼自身もその答えを探すべく、バイクに跨って各地を転々としながら賞金稼ぎを続けている。ディーコンがその旅の中でいろいろな人物と出会い、いくつもの争いに巻き込まれながら展開していく物語は、手に汗握る場面に加えてミステリアスな部分も多く、非常に魅力的だ。
“感染者”の新たな形を示すフリーカー
本作において生存者の脅威となるものは数多いが、その筆頭はやはりフリーカーだろう。彼らはパンデミックによって人間や動物が変異を遂げた存在で、ただ本能の赴くままに血肉を求め続けている。フリーカーの中にも複数の種類がおり、もっとも一般的な成人した段所のフリーカー“スウォーマー”、小型で臆病だが弱った者は容赦なく襲う“ニュート”、叫び声で仲間を呼び寄せる“スクリーマー”、ただでさえヤバい熊が感染した“レイジャー”など、そのどれもが生存者にとっては脅威となりうる。ゲーム的な幅の広がりを見せつつも感染者のさまざまなバリエーションを見せてくれるのは、本当にありがたい限りだ。
フリーカー(おもにスウォーマー)がもっとも恐ろしいのは、群れをなして行動しているとき。ふらふらと彷徨っている途中で、フリーカーどうしが絡み合って行動をともにするようになり、成り行きで集団になるというのではなく、明確に“群れ”を形成している。そして、その数が尋常ではない場合もあり、ひとたば獲物を見つけると全員がすさまじい速度で全力疾走しながら、雪崩のような勢いで襲いかかってくるのだ。何気なく道を歩いていて、少し遠くからフリーカーの群れが自分目掛けてなだれ込んでくるのを見たときの絶望感は、筆舌に尽くしがたいものがある。これはぜひ実際にプレイして味わってほしいところだ。
また、フリーカーは基本的に夜行性である。本作は時間の経過とともに昼夜が移り換わっていき、夜になるとフリーカーはより活発に活動し、獲物を狙い始めるのだ。昼でも活動している個体はいるものの、夜に比べれば数は少ない。
加えて、注目したいのがフリーカーは巣を作るということ。廃屋の中などに木の枝を集めて巣を作り、そこを寝床にしているのだ。思わず「『ゾンビ―バー』かよ!」とも言いたくなるこの特徴も、ゲーム性と相まってなかなかおもしろいことになっている。フリーカーの巣の殲滅ミッションでは、見つけた巣を燃やしていくのだが、火をつけると中にいるフリーカーが飛び出してくる。このタイミングが夜だと出てくるフリーカーの数が少なく、昼だと数が多くなる。巣にたどり着くまでの安全を取るなら昼に火をつけ、逆なら夜に火をつけるといった具合に、戦略面にもフリーカーの性質が結びついてくるというわけだ。
翻訳コミック版『ウォーキング・デッド』4巻の解説で小説家の平山夢明氏は、同作のゾンビ(噛みつき野郎)の怖しい部分は“ゆっくり”来ることだと語っている。環境破壊のしっぺ返しなどと同じで年中無休で24時間迫って来ていて、気付いたときにはすでに手遅れになっているのだと。手放しで賛同できる意見だが、異常にすばやく動き、巣で休むことさえある本作のフリーカーはその真逆と言える存在だ。ゲーム的な見かたをすれば動きの面での隙をなくして即物的な恐怖を生み出した分、性質面で隙を作ってプレイヤーのつけ入る余地を生み出しているのだろう。それが『ウォーキング・デッド』のゾンビとは別の角度からの恐怖を生み出しているのだから、本当にゾンビ・感染者のポテンシャルには驚かされる。
豊富な武器でのやりくりバトル!
フリーカーに対してディーコンはライフルやハンドガン、バット、火炎ビンなどバラエティー豊富な武器を手に戦いを挑む。それらの入手方法もキャンプでの購入、野盗からの強奪、探索で手に入れた素材でのクラフトなど多く用意されており、自分のプレイスタイルに合わせて好きな武器を選んで戦える。ただ、本作は弾薬の所持上限数がかなり少なめで、さらに近接武器は初期装備のナイフ(殺傷力最小)以外は使い続けると壊れるため、むやみに使っているとすぐに打つ手がなくなってしまう。探索でアイテムをかき集めたり、うまく弾薬を節約しながら戦ったり、戦いを避けたりしないと生き延びられないというのは、ポストアポカリプス的世界のリアルな世知辛さを感じさせる部分だ。
かなり円熟味を増してきた感のあるゾンビ・感染者ものの世界に、満を持して投入される『Days Gone(デイズ・ゴーン)』。 制作陣のただならぬ熱意とその現れは、これまでに紹介してきた部分で十分に伝わっただろう。たとえゾンビや感染者といったワードにピンとこない人でも、広大なオープンワールドを駆けめぐり、廃墟を探索して物資を確保し、骨太な戦闘が勃発し、濃厚なドラマも展開する本作は十分に楽しめるはずだ。ちょうどゴールデンウィークも控えていることだし、腰を据えて崩壊した世界でのサバイバルを楽しんでみてはいかがだろうか?