富野氏、初の展覧会に……

 4月23日、東京千代田区にある都道府県会館にて、“富野由悠季の世界”展の記者発表会が行われた。記者発表会には、富野由悠季監督をはじめ、今回の展覧会を開催する美術館の学芸員が出席。2019年6月22日から、全国6ヵ所を回って開催される“富野由悠季の世界”展の企画意図や見どころなどが発表された。

“富野由悠季の世界”展の記者発表会が開催、富野氏いわく「バカな企画」、「展示するものがない」展覧会とは?_01

 “富野由悠季の世界”展とは、『機動戦士ガンダム』シリーズをはじめ、『伝説巨神イデオン』、『聖戦士ダンバイン』など数々のオリジナルアニメを世に送り出してきたアニメ監督の富野由悠季氏の仕事を、スタッフのひとりとして絵コンテを描いた『鉄腕アトム』から、『ガンダム Gのレコンギスタ』までの55年に渡り回顧・検証する展覧会だ。

“富野由悠季の世界”展の記者発表会が開催、富野氏いわく「バカな企画」、「展示するものがない」展覧会とは?_02
デザインは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のロゴを手掛けた植松久典氏。

 2019年6月22日(土)から福岡県の福岡市美術館で開幕し、2020年秋までに、兵庫、島根、青森、富山、静岡の全国6ヵ所を巡回していくのだが、じつは意外にも、富野由悠季監督自身にスポットを当てた展覧会は、今回が初めてとのこと! しかも、展覧会で展示される作品は、現時点で1000点強!! 本邦初公開のモノも多数含まれており、通常の企画展の規模をはるかに超える作品数の選定には、企画展を担当する学芸員もかなり苦労した模様だ。

 実際の選定作業は、福岡市美術館が監督の幼少期から『機動戦士ガンダム』まで、青森県立美術館が『伝説巨神イデオン』、『戦闘メカ ザブングル』、『聖戦士ダンバイン』……といったように、美術館ごとに担当する作品を分担。それぞれが担当作品の持つテーマを深く掘り下げていくことを目指した。そのため、「担当者によって富野監督の演出を解き明かす切り口も異なり、6部構成となっている展示は、とてもバラエティーに富んでいる」と、福岡市美術館学芸員の山口氏は語った。

展覧会のテーマは“旅立ちと帰還、対立と和解、生と死、破滅と再生”

 記者会見では、学芸員から企画展の企画意図とともに、実際に展覧会で展示される絵コンテやラフなどがスライドでつぎつぎと紹介。残念ながら、ここではその画像をお見せできないが、全6部構成からなる展示で、何が出展されるのかを少しだけ見ていこう。

第1部 宇宙(そら)へあこがれて
(おもな展示作品:海のトリトン/勇者ライディーン/無敵超人ザンボット3など)
監督が初めて演出を担当した『鉄腕アトム』の69話の絵コンテも展示

第2部 人は変わってゆくのか?
(展示作品:機動戦士ガンダム/伝説巨神イデオン)
『機動戦士ガンダム』はドラマに焦点を置いた形に、『伝説巨神イデオン』はストーリーメモ、メカ資料などあまり表に出てこなかった資料多数

第3部 空と大地の間で逞しく
(おもな展示作品:無敵鋼人ダイターン3/戦闘メカ ザブングル/OVERMAN キングゲイナー)
また、『ラ・セーヌの星』、『しあわせの王子』などロボット作品以外の監督作品も展示

第4部 魂の安息の地は何処に?
(おもな展示作品:聖戦士ダンバイン/ガーゼィの翼/リーンの翼/重戦機エルガイム)
重戦機エルガイム』放送以前の1979年に描かれた初期設定ラフなども展示

第5部 刻の涙、流れゆくその先へ
(おもな展示作品:機動戦士Z ガンダム/機動戦士ガンダム ZZ/機動戦士ガンダム 逆襲のシャア、機動戦士ガンダムF91/機動戦士Vガンダム/ブレンパワード)
作り込みとスピード感がテレビアニメとは異なる『逆襲のシャア』の絵コンテなどを展示

第6部 大地への帰還
(おもな展示作品:∀ガンダム/リング・オブ・ガンダム/ガンダム Gのレコンギスタ)
∀ガンダム』では、黒歴史が明らかになる場面の絵コンテなど、膨大な舞台設定の資料から厳選

富野氏、初めての展覧会に大いに語る

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 展示内容の解説が終わると、富野監督自身が今回の“富野由悠季の世界”展について、どう思っているのかを語ってくれた。

 監督によると、企画を聞かされた当初から、企画自体をありがたいと感謝しつつも、“演出という概念を展示する”ことはできないので、「こういうバカな企画はやめろ、と(笑)」と言っていたと、会場を笑わせた。

 そして、“概念を展示できない”という考えは、いまも変わらないとしつつも、「動画というものが世界で一般化することで出てくる価値観、新しく生まれてくる“何か”があるのではないか」と、展示会についての理解も示した。

 そして「今回の展示会が、どのような結果になるかは想像つかないが、結果がどうであれ、死に土産にすればすむことなので」と再び会場を笑わせると、「“富野由悠季の世界”展には、作品を通してコンセプトやメッセージを、どういう風に伝えるのかということを考える、少なくとも課題みたいなものが、含まれているのでは」と、この企画展の意義について明言。

 そして、自身の仕事を振り返り、「ロボットアニメであっても、メッセージ性、ドラマ性を含むことができることを実験的であったかもしれないが、自分なりにやってきたつもりなので、この展覧会に来て下さる方が、その意図を読み取っていただき、新しい“生きかた”の方向性を発見していただければありがたいと思います。 そのような礎になる展示であってくれたらいいなと、富野由悠季の“世界”は望んでおります」と、展覧会を企画した人たちへの感謝と、楽しみにしている人たちへのメッセージでコメントを締めた。

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 2019年6月22日(土)から開催される“富野由悠季の世界”展。今後も展示内容にちなんだイベントなども企画中とのことなので、ホームページもチェックしてほしい。