2019年4月22日、“VRから創るパラリアル市場~バーチャルプラットホームに集う人々の新しいライフスタイル”と題されたパネルディスカッションが、東京都内のエイベックス本社で開催された。同イベントでは、多彩なパネリストによりVRの未来が語られたほか、“バーチャルマーケット3”の開催概要なども発表。その模様をリポートする。
オープニングではまず、司会進行役のアナウンサー・大河原あゆみさんより、そもそも“バーチャルマーケット”とは何かが、スライドで簡単に紹介された。“バーチャルマーケット”は仮想空間上の展示即売イベントで、来場者が会場に展示された3DアバターやCGモデルを自由に試着、鑑賞、購入できる。2019年3月には第2回の実施となる“バーチャルマーケット2”が開催され、約12万5000人の来場者を記録。VR関連のビッグイベントとして話題を集めた。
ここでは加えて、その“バーチャルマーケット2”の協賛各社より、メッセージが紹介された。マウスコンピューター代表取締役社長の小松永門氏は手紙を通して、“バーチャルマーケット”の意義や、出店しての印象などをコメント。また、東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター 応用展開部門長の稲見昌彦氏と、エイベックス代表取締役会長CEOの松浦勝人氏は、ともにビデオレターという形で登場。シンポジウムの開催についてお祝いのコメントを送った。
驚きの12万5000人参加で状況が変化
続いては、オープニングセッションとなる“VRの発展・コミュニティから都市へ”。まずは“バーチャルマーケット”主催を代表して、”VR法人HIKKY代表取締役である舟越靖氏があいさつ。“バーチャルマーケット”を取り巻く状況や、今回のイベントが催された経緯などが説明された。ちなみに舟越氏は“バーチャルマーケット2”開催時には、数万人程度の集客を予想していて、「5万人も来たらどうしよう?」なんて話をしていたという。
「それが12万5000人ですからね。本当に信じられませんでした。実際のビッグイベントと遜色ない規模で、僕らにしてみれば大成功だと思っています。せっかく育ってきたマーケットなので、幅広く知ってもらおうと、今回のイベントを企画させていただきました」(舟越氏)。
舟越氏はまた、ディスカッションのテーマにもある、“パラリアル”という言葉を解説。これには、“パラレルワールド+リアル”という意味があるそうだ。「VRの並行世界とリアルな現実世界をくっつけた造語です。このキーワードで、VRのいろいろなお話がしやすくなればと思っています」(舟越氏)。
あいさつのあとは、舟越氏がスライドでパネリストの面々を簡単に紹介。最後にディスカッション進行役のモデレーターとして、Smartly.io社セールスディレクターの坂本達夫氏が紹介され、セミナー本編が始まる運びとなった。
セミナーではVR活用例を報告
セミナー全体のタイトルは、“VR都市空間のインフラ技術”で、パート1では、“XR技術(VR・AR・MR)による手術支援・パラリアルヘルス”がテーマとなった。パネリストは、HoloEyes 取締役COOで、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員でもある杉本真樹氏。医療の現場でVR技術がどう活用されているのか、多くの事例をあげて解説された。
動画で最初に紹介された事例は、空中に浮かぶ立体的なVR映像を見ながら、実際に手術をしているシーン。手が込んでいるように見えるが、杉本氏によると、「ひとり1万円、15分でアプリが作れます」という。この技術が従来と何が違うかというと、平面のモニターではないということ。どれほど精巧な3DCGでも、見ている人が動かない限り、立体的な奥行きをとらえることはできないが、VRならデータと自分が共存することが可能だ。臓器や骨を患者に重ねて見ることもできるので、より正確な手術ができる。
「患者に投影する位置合わせは重要です。平面のプロジェクトマッピングは横から見るとズレますが、VRならどの角度から見てもズレないので、そのまま手術ができるんです」(杉本氏)。
ほかに紹介された事例は、アバターによる訪問診療、VRを使った講習会、妊婦のデータスキャンによる胎児確認など。いずれも実際の現場で実用されている事例になる。
「いままで見られなかったものが、医療や生活に入り込むことで、社会が医療を担えるようになるのではないでしょうか」(杉本氏)。
アバターが能力に影響する事例も
セミナーパート2のテーマは、“自在な心を生み出すインフラとしてのアバター”。パネリストは、東京大学情報理工学科系研究科講師・鳴海拓志氏だ。鳴海氏がまず語ってくれたのは、表情の変化が感情に及ぼす影響について。鏡に映る顔の表情を画像処理することで判断や行動に影響が出たり、表情の違いによりブレインストーミングの回答数が変化することなどを、わかりやすい事例として紹介した。
続いて語ったのは、“ゴーストエンジニアリング”という研究課題。これはVRでのアバタ―など、身体拡張がどんな影響をもたらすかという研究だ。たとえば“変身”をテーマとしたある実験結果では、アインシュタインのアバターを使うと成績がアップしたり、スーツ姿よりミュージシャンっぽいアバターのほうが楽器が上達したなどの例があるという。
「アインシュタインならどう考えるか? と思うことで、自分の体を通じてふだんとは違う思考を誘発し、それによって能力が引き出されていくと考えられています」(鳴海氏)。
“分身”の例では、“分身による同調圧力低減”が挙げられた。これはどういうことかというと、3名で議論した場合、意見が2対1になると、少数派は多数派に同調しやすい。その際にVRで少数派のひとりをふたりに分身させると、2対2となって冷静な議論を交わせるという考えかただ。VR上のシステムとしては、ひとりのコメントの話の切れ目を検出して、2体のアバターに割り当てる形となる。
「最終的に意見がまとまったときに、VRとはいえ2対2にしてあげると、全員の納得度が上がるわけですね」(鳴海氏)。
「目的に応じてアバターを使う時代は、もうすぐ来るかもしれません」と語る鳴海氏。そのために必要なのは、必要なときに必要なアバターが入手できる世界だという。
「用途や目的に応じたアバターが作れて流通する状況が必要だと思いますし、それが“バーチャルマーケット”の役割だと思っています。アバターは男性が女性に扮したりなど、自分と違う体を使うことで、他者の理解を進めることもできますし、それによりもっとよい社会が来るのではと考えています」(鳴海氏)。
ラストは豊富なテーマのディスカッション
イベントの最後を飾るのは、“VRがもたらす社会への恩恵”をテーマとしたパネルディスカッション。前半は、ここまでの登壇者により、“VR関連技術によってもたらされる未来の生活”が議論された。
ここでおもに語られたのは、VRがいま社会にどこまで浸透してきていて、それがどう未来につながるかということ。「いま紹介された事例がどれだけ実現されているのか」、「教育現場でのVRの現状は」、「各分野とのコラボ活用例」など、多彩なトークテーマが飛び交い、熱いディスカッションが展開された。
そして後半は、“パラリアルなライフスタイルの市場的可能性”をテーマに、新たにパネリストが登壇。パネリストは、SHOWROOM代表取締役社長・前田裕二氏、KDDI経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長・中馬和彦氏、AT PARTNERS代表取締役・土佐林淳氏の3名だ。
後半は、よりビジネス面に寄った、VR市場の可能性を考察する内容に。“5GがもたらすVRへの影響”、“人格数(アカウント)の増加による付加価値”、“投資対象としてのVR市場”などコアなトークテーマで、各パネリストが自分の専門分野からの見解を語った。ディスカッションは前・後半ともに、長時間および専門的な用語も飛び交う内容だったので詳細なリポートは割愛するが、各パネリストともに、VRのポテンシャルの高さをアピールするコメントがほとんどだったことを記しておく。
イベントのラストには、舟越氏により、“バーチャルマーケット3”の開催概要とともに、今後の展開が発表された。“バーチャルマーケット3”は、2019年9月21日~25日に、15会場・600ブースで開催。公式サイト公開とともに、協賛メーカー募集もスタートとなる。また、VRと実際の東京都がリンクする“東京都VR化計画”の始動や、第2回パネルディスカッションの開催予定も明らかとなった。詳細は、HPなどのURLでチェックしてほしい。最後に、舟越氏の閉会のあいさつを紹介して、リポートを終えよう。
「海外の大きなプラットフォームの偉い人に、こう言われたことがあります。“日本でこんな素晴らしいプロジェクトが生まれるとは思わなかった”、と。僕は、“日本だからこそこんなものが生まれたんだぞ!”と思ったんですけどね。それくらい日本のクリエイターはすばらしいし可能性を持っていますし、そういった人たちとパラリアルな世界をさらに広げていきたいので、ぜひみなさんの協力をお願いします」(舟越氏)。