『Solid Vision』は物件選びのニューウェーブになる!?

 近年、建築・住宅業界では、バーチャルモデルルームがつぎつぎに制作され、それらを用いた体験型のアプローチが主流になりつつある。そうした中、ゲームデべロッパーのヒストリアが、バーチャルモデルルームソフト『Solid Vision』を開発。多方面から注目を集めている。ゲームと建築、それぞれの技術が活かされているという『Solid Vision』の強みや、リリースにいたるまでの経緯、今後の展望などを開発陣にうかがった。

佐々木瞬(ささきしゅん)

株式会社ヒストリア 代表取締役 プロデューサー/ディレクター

伊藤祐太(いとうゆうた)

株式会社ヒストリア プロデューサー

真茅健一(まかやけんいち)

株式会社ヒストリア 建築ビジュアライズアーティスト/UE4アーティスト

『Solid Vision』とは?

ゲーム業界で培われた技術により、美麗なグラフィックと快適な操作性を実現したバーチャルモデルルーム。VRとモニター表示の変更はもちろん、ワンタッチで俯瞰視点や、建物の外から見た視点にもすぐに切り換えられる。日照状況も自由に調整でき、時間帯によって部屋の雰囲気がどう変わるのか、ひと目でわかるのもうれしい。机やイス、本棚といった家具の寸法は忠実に再現されていて、設置する向きや場所、個数も思いのままにアレンジが可能。窓から見える景色も変更できるなど、今後も続々と新機能が実装予定。

ゲーム業界と建築業界のノウハウが融合! バーチャルモデルルーム『Solid Vision』の強みや今後の展望などを聞いてみた_01
家具はもちろん、床や壁紙を木目調で統一することもできる。
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日中と夜で室内の雰囲気は随分と変わる。照明を増やしたり、配置を変更することも可能だ。
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外観の種類は、エレガント、ヨーロピアン、ノルディックと複数のパターンが用意されている。アレンジした内装を窓越しに見て、確認したいときにも便利だ。

もともとは研修用の課題だった? 開発の意外なきっかけが明らかに

 ハイエンドCGを得意とするゲームエンジン“Unreal Engine 4”を用いて、多彩なゲームを手掛けてきたヒストリア。じつはゲーム以外にも、建築、自動車、教育など、さまざまな分野のビジュアライズに取り組んでおり、モデルルームの制作は新人プログラマーの研修用の課題だったという。だが、そこで作られたプログラムの出来栄えが想像以上によく、「これなら商品化できる!」と即決。本格的に新規事業として開発に取り組み、『Solid Vision』のリリースにこぎつけたと佐々木氏は振り返る。

 とは言え、昨今では同種のモデルルーム体験ソフトが多数存在し、競争は避けられない。そのような中で、『Solid Vision』はどこが強みであり、ユーザーから支持されているのだろうか? 伊藤氏によると「一戸建てはもちろん、マンションやオフィスと、複数のパターンを展開することで、幅広い層のご要望に応えられるようになっています。ゲームメーカーとしてのこだわりで、ユーザーフレンドリーなインターフェースの設計にも気を配りました」とのこと。

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一軒家やマンションのほか、オフィスの間取りも登録されている。デスクは複数の配置パターンが用意されており、パーテーションを置けば、打ち合わせ用のスペースも作成できる。

 また、「信用できるミドルウェアを採用して、各種作業の最適化も図っています。そのおかげで、より綺麗なビジュアルが描けるようになり、動的な光の再現など、Unreal Engine 4では難しい表現も可能になって。『Solid Vision』ならではの特徴として、うまく機能しています」とも話してくれた。ほかにも、画面をタッチすることでレイアウトを変更できるなど、直感的でわかりやすい操作方法を導入している点も、PCに不慣れな層からは好評を得ているそうだ。

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ダイニングルームだけでも、複数のサンプルが用意されている。アイコンをクリックするだけで切り換わり、ゲームのコントローラーでも操作できるという。

 ちなみに、同種の体験ソフトはVR専用のものが多いが、『Solid Vision』の場合、VR表示と通常のモニター表示を自由に切り換えることができる。また、いつでもスクリーンショットやムービーを撮影できるほか、家具や壁紙なども自由にカスタマイズが可能なので、VRで実際に室内にいるような臨場感を体験したい人、自分好みにアレンジした室内を撮影し、家族全員でそれを見ながら購入を検討したい人など、ユーザーのさまざまなニーズに応えられるところも、『Solid Vision』ならではの強みと言える。

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実際に『Solid Vision』を操作しつつ、カスタマイズの手軽さを説明してもらった。マウス操作で360度全方位を見渡せるだけでなく、視点の高さも地上30センチから225センチまで、自由に調整できる。

 ふたつの視点を切り換えられる要素は、ユーザーにとってはありがたい機能だが、そのぶん、開発にかかる労力も倍増したはず。そうまでして、こちらの機能を実装したことには、どのような思いが込められているのだろうか?

 こちらの問いに対し、佐々木氏は「前々から“見取り図だけを頼りに、何千万円も支払って家を購入する”という流れに疑問を抱いていたんです。これくらいの広さだろうと予測して物件を購入したものの、実際の部屋は想像していたよりも狭かった……といった事例もよく耳にしますから。お客さんには、きちんと納得したうえで物件を購入していただきたかったので、“より正確に情報を伝える”という1点に注力し、開発に取り組みました」と回答。ユーザーに対する真摯な思いも聞かせてもらえた。

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事前に正確な情報を把握できることは最大のメリットであると考える佐々木氏。「壁紙や床材も、後から変えるとなるとたいへんですからね。あらかじめ、どのような見えかたになるか分かるというのは、価値のある提案だと思います」とコメント。

細部まで作り込む部分と省く部分。建築業界ならではのこだわりを再現

 ゲーム開発に基づく知識や技術に加え、建築業界のノウハウが随所で見て取れるのも、『Solid Vision』の特色のひとつ。建築業界出身の社員である真茅氏によると「家の建築、購入をご検討中のお客様は、ビジュアルの美しさ以上に、部屋や家具の寸法といったシミュレーションの部分を非常に気にされます。そうしたご要望を意識して、実際の素材になるべく近くなるように心掛けています」とのこと。さらに、トレンドなども反映し、家具のライブラリーは増やしていくことも検討しているという。

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ソファーだけでもさまざまな種類が用意されている。素材の質感も忠実に再現され、こだわりが光る。

 ちなみに真茅氏によると、いまでこそ、社内でのやり取りはスムーズに行えているが、創立当初はゲーム業界のスタッフと建築業界のスタッフ、お互いの意見がなかなか合わず、すり合わせにたいへん苦労したという。当時を思い出しながら、「建築業界でもCGは使うので、いくつか共通する用語もあるのですが、それぞれの業界の専門用語が多すぎて、なかなか考えが伝わらない……ということがよくありました。たとえば、建築業界ではよく使う“幅木”や“化粧板”という言葉も、いきなり出てくると、何を指しているのか分かりませんよね? そうした言葉をお互いに勉強して、完璧に理解できるようになるまで、1年くらいはかかったと思います」と話してくれた。

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真茅氏によると、「おなじデベロッパーという言葉でも、ゲーム業界では“実際に開発に取り組むポジション”であるのに対し、建築業界では“プロジェクト全体を統括し、指揮するポジション”を意味しています。そうした違いを把握するのも、慣れないうちは苦労しました」とのこと。

 これを受けて、伊藤氏も「木目のテクスチャーを使ってテーブルを作ろうとしたら、この大きさのものを一枚板で作るのは実際には無理なので、真ん中に切れ目を入れたデザインにしてほしいと言われました。ディテールにもこだわりがあるのだなと思っていたのですが、住宅のパースを制作する際には、雨どいは描かなくて大丈夫ですと言われて……。家具の大きさや高さはミリ単位でこだわるのに、省くところも意外とあり、そのあたりの感覚はゲーム側にはなかったので、非常に新鮮でした」と、開発時に感銘を受けたエピソードを語ってくれた。

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家具や壁紙は、わずかな色味の違いでも大問題になりかねない。見かけの美しさだけでなく、忠実に再現することにも注力しているという。

動的なアクションの追加も検討! 『SolidVision』の目指す未来とは?

 伊藤氏のお話にもあったように、『Solid Vision』内で閲覧できる家具の造形は細かく、日光や電灯に照らされた際の光の表現も、非常にリアルなものとなっている。そうした絵的な表現に加え、今後はどのような機能が追加されていくのだろうか?

 佐々木氏にお聞きしたところ、「ご要望が多くなれば、直接アクションを起こせるような機能を追加することもできます。たとえば、窓に近づいたらカーテンの開け閉めができたり、机の引き出しを開けて、中に何が入っているのか確認できたり。いまの時点でも、庭の木々を風で揺らしたり、浴室に入ると湯気が立っていたりといった、ちょっとした動的な要素は取り入れています」とのこと。

 こうした機能は、クライアントからも好評を博しているようで、伊藤氏は「ゲーム業界では、これらの表現はたいして珍しくもないのですが、建築業界だと、ほんの少し動的な要素が入るだけで、ものすごくリッチに感じていただけるんです。そのあたりに手を加えられるのも、長年、ゲーム開発に取り組んできた利点ですね」と、自社の強みを分析する。また、「実際に人がいる状態でも間取りを見てみたいというご要望もいただいておりますので、好きな場所に人型のモデルを設置できる機能の導入も検討しています。犬や猫といった動物のモデルも、将来的には導入するかもしれません」といった、検討中のアイデアも教えてもらえた。

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VR視点に切り換えると、リビングでイスに座った状態からスタートする。伊藤氏によると「玄関から順に見ていくより、もっとも日常的な視点からスタートしたほうが、VR空間に没入しやすいんです。そのほうが細かい部分まで目が届くので、より正確に、家具の配置や色味をチェックしていただけるんです」とのこと。

 このようにゲームと建築、双方のこだわりを詰め込み、順当にシェアを広めつつある『SolidVision』。最近では、実際のモデルルームでキッチンの横にPCを設置し、目隠しとなる壁をつけたときと外したとき、それぞれでどう見えるかを、ソフトを使ってユーザーに体験してもらうといった、オプション販売のツールとしても重宝されている。今後の展望としては、商業施設やオフィスビルの一棟ビジュアライズなども検討しているそうで、需要はさらに増えることになりそうだ。最後に、佐々木氏に目標をうかがうと、「いまはまだ、見取り図や写真のみで判断して、家の購入を検討するスタイルが主流ですが、いずれはそれを“バーチャルモデルルームで家を探すのが当たり前”と思っていただけるようにしたいですね」と意気込みを語ってくれた。バーチャル化が進む建築・住宅業界。近い将来、「『Solid Vision』で紹介されてこそ、一流物件の証!」と言われる日が来るかもしれない。

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『Solid Vision』が普及すれば、ひとつの会場で複数のパターンのモデルルームを内覧できるようになる。地方にいながら、東京にしかないモデルルームを確認できたりもするので、購買欲の向上にもつながるはずと佐々木氏たちは語る。