サンフランシスコで開幕したゲーム開発者向けの国際会議“GDC”(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。その会場近くで、ゲームエンジンUnityを提供するユニティ・テクノロジーズの基調講演が行われた。

 1時間半以上にわたって行われた講演では、モバイル向けから未来を見据えたハイエンドのその先まで、多岐にわたる内容が発表に。海外の新作ゲームに関する発表もあったので、ゲーム開発にあまり興味がない人もしばしお付き合い頂きたい。

今春のUnity 2019.1リリースに向けて新デモが公開

 今回の基調講演では、今春に正式リリース予定のUnity 2019.1に向けた内容がメインになっており、ラストではその集大成的なデモ映像“The Heretic”が公開された。

 複雑なライティングや、どアップにしても生々しく映えるリアルな人間の3Dモデルが印象的なこの作品、Unity 2019.1を使って制作されており、現行のハイエンドゲーミングPCで1440P解像度で秒間30フレームのリアルタイム動作するという。

 ここで使われているのが、現在はプレビュー版として提供されているHDRP(HDレンダーパイプライン)という、ハイエンド向けのビジュアルを実現するための仕組み。

 その先のさらなる実験として、グラフィックチップメーカーのNVIDIAとのコラボレーションで作られた、レイトレーシング(※)を使ってBMWの実車を描画するデモ映像も披露された。(※光源からカメラまで光がどういう反射を経て到達するのか逆に追跡していくことで、物体の色の見え方や反射具合をシミュレートし描画する手法)

 これはそのCM風の映像を実際に見てみてほしいのだが、半分のシーンは実車、もう半分のシーンはUnity上のCGで描画されている。「半分はCG」と言われないと気付かない人がほとんどじゃないだろうか。

 CGのクルマはNVIDIAのRTX 2080Tiを使って4K解像度で描画したものだそうで、ステージ上で行われたデモ(設定を変えてちゃんと見た目が変化するのを見せるもの)はゲーミングノートPCで動作していた。

 なお、このHDRPのレイトレーシング機能は2019年4月4日よりExperimental(実験)版がGitHubを通じて提供される予定で、フルのプレビュー版は2019年秋に提供予定とのこと。

 一方Unity 2019.1では、ハイエンド向けのHDRPと対をなすモバイル向けを意図したLWRP(ライトウェイトレンダーパイプライン)がプレビュー版を抜けて、実際の製品向けの開発に使用可能になる。

 『Megalith』というPlayStation VR向けのゲームを5週間でモバイル向けに移植してみたというケースでは、ツルっとした材質の床がその上を通る赤いビームや太陽をちゃんと反射するような、モバイルながら高度な描写が見られた。このシーンは、LWRPなどの恩恵によってiPhone 8で動作するそう。

あの伝説の作品の新作にも採用決定!

 さまざまなスタジオからのゲストが登場した中で会場が一際盛り上がったのが、超大御所ゲームデザイナー/プロデューサーのウォーレン・スペクター氏が登壇した場面だ。

 『システムショック』、『シーフ』、オリジナル版『デウスエクス』といった、いまだ無数のフォロワーを生み続ける一人称視点のアクションゲーム開発に関わってきた同氏は、GDCに来るような開発者やプレスにとっても憧れのレジェンドなのだ。

これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_06
人(またはアンドロイド?)の身体がパックされて並んでいる場面。イッちゃってます。

 ではスペクター氏がなぜ出てきたのかといえば、同氏が手掛ける最新作『System Shock 3』がUnityを使っているから。披露されたティザー動画はダークな雰囲気たっぷりで、期待が高まる。

 開発では前述のHDRPをはじめとした機能を駆使して、敵がいない時ですらどこか恐ろしく不安になる『システムショック』特有のホラーな雰囲気を生み出すのに注力しているようだ。

これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_07
後ろに光源を当ててみると、サブサーフェイススキャッタリング(皮膚の薄い部分などで起こる表面下散乱)でうっすら赤く透けて見えたり。手のひらを太陽に透かしてみるとなるアレのシミュレーションです。
これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_08
触手みたいなウニョウニョの動きは実際にポリゴンを変形させているのではなく、去年入った機能であるシェーダーグラフを使ってやっているそう。

 そしてもう一本、洋ゲーマニアなら見聞きしたことぐらいはあるかもしれない『Oddworld』シリーズの最新作『Oddworld: Soulstorm』の新たなシネマティックシーンも公開に。

 本作は初代プレイステーションなどで1998年にリリースされた『Oddworld: Abe's Exoddus』のフルリメイク作品。オリジナルが洋ゲーの中でも特にバタ臭い絵柄だったのに対し、主人公エイブたちのキモカワイイデザインはそのままに、今どきの迫力ある絵面になっている。

 一方モバイル向けに話を戻すと、Activisionの人気FPSの中国テンセントによるモバイル版『Call of Duty: Mobile』が採用作品として紹介され、さらに北米ほかの地域へのサービス拡大を目指して事前登録を開始したことが発表された。

 『Call of Duty: Mobile』はiOS/Android対応の基本プレイ無料タイトルで、Nuketownなどの過去作の人気マップも登場。基本的にはマルチプレイ対戦モードをメインにしているようだが、トレイラーのラストにはバトルロイヤルモードのBlackoutらしきシーンも。

これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_01
これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_02
これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_03
これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_04
これもあれもUnity? 実車と区別つかないレイトレBMW、『システムショック3』、モバイル版『CoD』など、最新映像を中心にUnity基調講演をリポート_05

公式の日本語まとめ記事も後日公開予定

 そのほかにも、ARアプリを開発する際にARKit(iOS向けのARプラットフォーム)とARCore(GoogleによるARプラットフォーム)の違いを吸収して対応をやりやすくしたり、技術的課題を解決する手助けをしてくれるフレームワーク“AR Foundation”や、Havokとのパートナーシップによる2種類の物理演算システムの提供など、盛りだくさんの内容だった今回の基調講演。すでに公式ブログの英語記事が上がっており、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンによる日本語記事も近日公開予定とのこと。