1996年、初の国産トレーディングカードゲームとして誕生したのが、ポケモンカードゲーム(以下、ポケモンカード)だ。20年以上の歴史を持つポケモンカードだが、いま再び大きなムーブメントが到来している。毎月新弾が発売されたり、大会が開催されたりと、大きな盛り上がりを見せており、プレイヤーの数も大きく増加。長年愛され続けている、人気の秘密はどこにあるのか。開発元のクリーチャーズを取材した。
“ポケモンカードゲーム”とは?
『ポケットモンスター』シリーズにおけるポケモンバトルを再現した、ふたり対戦のカードゲーム。プレイヤーは、好きなカードを組み合わせた60枚のカード(デッキ)を用意。カードを交互に引き、ポケモンのカードをバトル場に出して戦う。ポケモンのワザは、“エネルギー”のカードを付けて育てることで使用可能。ワザのダメージなどで、相手のポケモンのHPを0にして、先に6匹のポケモンを倒したプレイヤーの勝ち。山札をより多く引いて戦略の幅を広げたり、ポケモンを回復したりと、便利な効果を持つ“トレーナーズ”のカードをうまく使って勝利を目指す。
岡本 康太(おかもと こうた)
ポケモンカードゲームの開発全体におけるプロジェクトマネージャーとして企画立案、プロジェクト管理、進行、チームマネージメントなどを担当。
長島 敦(ながしま あつし)
プレイ環境のデザインやゲームロジックの設計を行うなど、ポケモンカードゲームの仕様全般のディレクションを手掛けている。
ポケモンカードゲーム誕生のきっかけは石原氏にあり
――まずは、1996年10月にポケモンカードを発売することになった経緯を教えてください。
長島 当時、私自身はまだポケモンカードに関わっていなかったため、伝え聞いた話なのですが、クリーチャーズの創業者である石原(ポケモン代表取締役社長、クリーチャーズ代表取締役会長・石原恒和氏)が、ボードゲーム全般を研究していたらしく。そのころ『ポケットモンスター 赤・緑』はまだ開発中だったのですが、151種類もの多様なポケモンをコレクションできることや、ターン性のバトルシステムなどがTCG(トレーディングカードゲーム)と相性がいいと考え、「これはカードゲームにもできそうだ」ということから開発を進めることになったと聞いています。
――石原さんの構想からスタートしたのですね。『ポケモン 赤・緑』の開発中からすでに、ビデオゲーム以外の新たな商品展開の可能性を見出されていたと。
岡本 そうなんです。ポケモンのプロデュースの一環として生まれたものなので、ポケモンカードの開発では当初から、“ポケモントレーナーごっこ”という概念を大事にしています。たとえば山札は、ゲーム内でポケモンを預ける“パソコン”の役割を果たしています。ほかにも、ポケモンカードではバトル場に1匹、ベンチに5匹までのポケモンを出せますが、これも手持ちのポケモンは6匹までというゲームのルールに沿ったものです。ポケモンがワザを使ったら自分の番は終わり、というのも同様ですね。
長島 また、なるべくシンプルでわかりやすいゲームデザインになるよう、つねに意識しています。子どもはもちろん、身近な遊び相手になるであろう親御さんにも理解しやすく、気軽に楽しめる商品を目指しています。
――ゲームのルールになるべく沿わせることで、違和感なくアナログゲームを遊んでもらえるというわけですね。
長島 はい。ただ、すべてが同じというわけにはいきません。ゲームと異なる部分としてよく言われるのが、ポケモンのタイプです。現在、『ポケットモンスター』シリーズのゲームでは、『ポケットモンスター X・Y』から新たに追加されたフェアリータイプも含めて、全部で18種類のタイプが存在しています。しかしポケモンカードではいくつかのタイプを統合し、11種類としているんです。アナログのゲームでタイプが多すぎると複雑になりすぎてしまったり、エネルギーのカードを集めるだけでもたいへんだったりといった問題があるので、それを防ぐ意味合いがあります。
岡本 みずタイプとこおりタイプ、いわタイプとじめんタイプのように、イメージの近いタイプどうしを統合することで、なるべく直感的にわかりやすくしています。また、どくタイプは現在、エスパータイプやゴーストタイプなどといっしょに超タイプに統合されていますが、じつは昔、草タイプに統合されていたことがあります。その時代ごとのイメージに合うように、調整を行うこともあります。
――そうした細かな調整がされているとなると、新たなタイプが追加されたときは、さぞ苦労されたのではないですか?
長島 たいへんでした(苦笑)。強弱のバランスもそうですが、じつはタイプごとのエネルギーのカードやアイコンのデザインにも苦労しますね。直感的にそのタイプだとイメージできるかどうか、何十回もトライ&エラーをくり返して、完成まで持っていきます。
岡本 エネルギーという機能的な概念を大事にしているので、ポケモンのイラストなどはあえて入れていません。本当はポケモンを添えたほうがユーザーは喜んでくれるのかもしれませんが……。でもそうすると、ひと目で何のカードなのかがわかりづらくなってしま って、機能性が少なからず失われてしまうんですよ。なので、なるべくシンプルなものになるように意識して、デザインしています。
幅広い層が楽しめるポケモンカードの世界
――親子や女性プレイヤーが多い印象ですが、開発の立場から見てどう思われますか?
岡本 ありがたいことに、性別、年齢、さらには国籍も問わず、本当にさまざまな方々がポケモンカードを遊んでくれています。そもそも、ポケモンのファン層が広いからこそではありますが、この幅広いコミュニティーはほかのTCGにない、ポケモンカード独自の魅力だと思っています。
長島 最近は、子どものころにポケモンカードを遊んでいたという方が、親として子どもを連れて来てくれるんですよ。これがもう、うれしくて、うれしくて(笑)。
――昨年発売されて大きな話題になった構築済みデッキ“GXスタートデッキ”を始め、幅広いポケモンファンをポケモンカードに引き込むための窓口がたくさん用意されているのも、人気の一因ではないかと思います。
岡本 まさにそうした試みは、近年力を入れているところです。そのような商品は初心者向け、エントリー向けで分けるのではなく、具体的な遊びのシチュエーションをイメージして作っています。たとえば“GXスタートデッキ” は、1コインで必要なものが揃えば友だちどうしで気軽に遊んでもらえるだろうと考えて作った商品です。また、2019年3月15日に発売予定の “ファミリーポケモンカードゲーム”は、名前の通り家族で、丁寧にルールを学びながら遊んでもらえるように作っています。
長島 これまでの、いわゆる“スターターセット”は、拡張パックを買ってデッキを強化することを前提にして作られていました。ですが“ファミリーポケモンカードゲーム”は、基本的にはこの商品で完結するように作っています。
――その方針変更は、何かきっかけが?
長島 “GXスタートデッキ”の発売後に、“GXスタートデッキ”限定の大会を開いたところ、多くのユーザーさんに参加いただいて、評判がよかったんです。これは、同程度の力を持ったデッキどうしで戦うことで、手軽かつ本格的に、ポケモンカードの楽しさを体験してもらえた結果だと思っています。この経験から、構築済みデッキを複数用意したセット商品があれば、ポケモンカードに初めて触れる方でも、高い満足度を得やすいと考えたのです。家族で楽しんでもらうほかに、ポケモンカードを遊んだことのない友だちを家に呼んだときにも、いっしょに遊びやすいと思います。
岡本 また、試験的にですが、じつはカードに書かれているテキストのサイズを通常のものより大きくしてあるんですよ。
――確かに、比べるとぜんぜん違いますね。
岡本 カードの種別を示す表記も“トレーナーズ”とカタカナで書かれています。通常は英語で書かれているのですが、これもちょっとした実験です(笑)。
長島 細かい文字だと大人でも疲れることがあるので、お子さんにストレスなく遊んでもらえるように調整しています。ほかにも、コインを通常のものよりかなり大きく作ってあります。ポケモンカードにはコイントスの結果によって効果が異なるカードがありますが、手が小さいお子さんはうまくコイントスができないことがあります。なので、いっそトスするのではなく投げてしまえばいいのではないか、ということで手のひらサイズにしてみました。
ポケモンらしさを守る、絶対に譲れないこだわり
――ポケモンカードには、さまざまな種類のカードが存在していますが、カードの個性やステータスなどはどのように決められているのでしょうか?
長島 プレイヤーの皆さんがポケモンたちに抱いているイメージを最優先しています。たとえば、“ラッキーはHPがとても高い”といったものなどです。一方で、アニメやゲームで描かれなかった意外な一面を、魅力的に表現したいとも思っています。かわいいポケモンも、ただかわいいだけではなく、対戦でしっかりと活躍できるような、強い一面を見せることがあります。現在発売中の拡張パック“ダブルブレイズ”で言うと、“ねこびより”というワザを持ったポケモンが複数いて、これらを集めてデッキを組むと、かなり強力なデッキになるんです。
岡本 “ニャース”や“ニャスパー”、“ニャビー” のように“ニャ”のつくポケモンがたくさん収録されています(笑)。
――かわいらしいコンセプトですね(笑)。かなり人気が出そうです!
長島 そして、特性“ねこのしゅうかい”をもつ“ペルシアン”が場にいると、ワザ“ねこびより”を持つすべてのポケモンが、エネルギーなしですべてのワザを使えるようになります。
――ものすごく強い……! かわいい見た目に惑わされないようにしないといけませんね。
長島 ふだんはあまり注目されないような、進化前のポケモンたちにも、活躍するチャンスが欲しいと思ってデザインしたカードなんです。以前も同じようなコンセプトで、“よるのこうしん”というワザを持ったポケモンたちを複数出したことがあります。あのときは発売時期が秋だったのもあって、“バケッチャ”や “ランプラー”など、ハロウィンを連想させるポケモンたちにフィーチャーしてみたのですが、プレイヤーさんたちはあまり気づいていないかもしれません……(笑)。
――ステキな遊び心です! 発売時期によって収録カードが決まることもあるのですね。
岡本 収録時期は意識していますね。わかりやすいところで言うと、2018年12月に発売した拡張パック“タッグボルト”以降は、カントー地方に登場するポケモンやトレーナーたちが多く収録されています。これは、2018年11月に発売された『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイ』によって、カントー地方の注目度が上がっているだろうと考えたためです。“ポケモン”というコンテンツ全体と歩調を合わせて、その時々のポケモンファンがどんなことに関心を持っているかを考えて、商品開発を行うようにしています。
――ほかに、カード化するポケモンを選ぶ基準はありますか?
長島 基本的にはすべてのポケモンをカード化したいと思っているので、まだカード化できていないポケモンが、まず候補に挙がります。この場合はポケモンを先に決めて、後から性能を調整していきます。一方で、対戦環境の調整などを目的に、カードの性能を先に設定して、それに合うポケモンを後から当てはめることもあります。このケースでは、まだカード化していないポケモンの中から選ぶのは難しくて、どうしても同じポケモンに頼ってしまうことがあります……。具体的な例では、トリッキーな性能を持たせようとすると、ゲンガーに頼ってしまいがちです。同じ役割をヨノワールに任せようとすると、イメージに合わなくなってしまうんですよ。ポケモンが持つ個性は、絶対に無視したくないので、そこはこだわりを持って取り組んでいます。
――とはいえ、同じポケモンでも、当然イラストが異なりますよね。ポケモンカードにはたくさんのイラストレーターさんが関わられていますが、どなたがどのポケモンを描くかはどのように決めているのですか?
岡本 現在、約80人のイラストレーターさんにイラストをお願いしており、全員のタッチや得意分野をしっかりと把握しています。ですので、そのポケモンをいちばん魅力的に描いてくれるであろう方にお願いするのが基本です。ただ、それこそよくカード化されるポケモンは、同じ方が複数枚描いていることもよくあるので、ときには新しい方にお願いすることもあります。大事にしているのは、カードのイラストで初めてそのポケモンを知るユーザーもいることを意識しておくことです。
長島 ポケモンのカードは、それぞれがポケモン図鑑の1ページだと考えています。ですから、なるべくそのポケモンのイメージに沿って描くことを、基本的な方針にしてもらっています。ですが、同じ弾に同じポケモンのカードが2種類収録されることもあり、そういうときは、片方のイラストで少し意外な一面を見せてもらうようにお願いしています。ちなみに、“ねこびより”デッキのポケモンたちは、みんなかわいらしいイラストにしてもらえるようにお願いしました(笑)。
岡本 バランスが難しいところではありますが、イラストは時代によって移り変わりのあるものでもありますし、新しいタッチのイラストレーターさんにも、随時お声を掛けさせていただき、ご参加いただいています。現在、まさに“ポケモンカードゲーム イラストグランプリ”という企画で新たなイラストレーターさんを募っているところですので、興味のある方はぜひご応募ください!
夢のタッグが実現! “TAG TEAM GX”登場
――ただでさえ強力な“ポケモンGX”どうしがタッグを組み、“TAG TEAM GX”という1枚のカードに2匹のポケモンが描かれた、新たなカードが生まれました。開発の際には、どんなことに気を配っていましたか?
長島 強力な新カードを出しても、既存のカードがしっかりと活躍できるように、かなり気をつけて開発しました。実際に対戦環境を見ていると、ただ“TAG TEAM GX”だけを使うのではなく、既存のカードとうまく組み合わせて使ってくれているので、狙った通りの調整ができていると実感しています。
――ちなみに、タッグの組み合わせはどうやって決めているのですか?
岡本 まずは社内で自由にアイデアを出してもらうのですが、もうつぎからつぎへと意見が出てきて止まらないです(笑)。ポケモンファンなら、誰もが夢見たポケモンたちの共闘を実現させたいと思って開発を行っていますが、当然スタッフも全員ポケモンファンなので、思い入れがかなり強いんですよ。
――白熱した会議になりそうですね(笑)。
岡本 かなりヒートアップしています(笑)。このポケモンたちがもし共闘したらどうなるかとか、具体的にどのように戦うかまで、想像を膨らませています。たとえば、リザードンはとにかく強いイメージがあるので、リザードンと同等か、それ以上に強いポケモンでないとタッグを組んでくれないのではないか、逆に、意外と小さいポケモンを守りながら戦うかもしれない……といった感じで、本当にいろいろ語り合いました。
長島 ポケモン自体のイメージもそうですが、イラストに起こしたときのサイズ感や、色合いも考えています。ほのおタイプのポケモンは、赤系の色が多いと思いませんか? タイプが同じポケモンは、配色も似る傾向があるんですよ。しかし、同系色どうしで並べてしまうと、ポケモンどうしの境界がわかりにくくなってしまいます。“ピカチュウ&ゼクロムGX”のときも同じで、でんきタイプのポケモンはピカチュウがそうであるように、黄色が多いんです。そこで、全身真っ黒の伝説のポケモン・ゼクロムとタッグを組むことによって、お互いが映えるように魅せています。
岡本 ちなみに、ピカチュウがパッケージデザインにメインで描かれたのは20年以上の歴史の中で初めてなんですよ。
――え、そうなんですか!? ポケモンの代表的存在なのに。
長島 意外ですよね(笑)。これまでもパッケージの中にいたことはありますけど、メインを張ったのは2018年12月に発売された拡張パック“タッグボルト”が初めてなんです。
岡本 “TAG TEAM GX”は、バックボーンの設定も作り込んでいます。“レシラム&リザードンGX”だと、たくさんの敵に囲まれつつも孤軍奮闘するリザードンの前に、伝説のポケモン・レシラムが現れるんです。さすがにこの状況では敵には勝てない……と思っていたら、リザードンの強さを認めた伝説のポケモン・レシラムが味方になって戦ってくれるという。
――めちゃくちゃいい展開ですね! ぜひともアニメ化を!(笑)
長島 ただ、設定はありますが、僕たちが考えていることが、絶対だとは思っていません。実際にカードを当ててイラストを見た方たちが、それぞれ思いを馳せてもらえたらうれしいです。
本記事限定! “マーシャドー&カイリキーGX”ラフ画&コメントを公開!
ポケモンカードゲームの開発チームより拡張パック“ダブルブレイズ”に収録されている“マーシャドー&カイリキーGX”のラフ画とコメントをとくべつにいただいた! ポケモンカードのデザインができるまでの、貴重な資料&コメントを大公開!
こちらが今回とくべつにいただいた“マーシャドー&カイリキーGX”のラフ画。実際に収録されたイラストとは、少しシチュエーションが異なるが、こちらもなんとも魅力的な1枚だ。ラフ内には、以下のように記してある。
修行する2人
マーシャドー イキっている
カイリキー ほほえましく後ろをついていく
こもれびや、自然を美しく描いてなごむ1枚に
開発チームからのコメント:マーシャドーとカイリキーがTAG TEAMとなったゆえん
いままでのTAG TEAMとは違う、打撃ワザで戦う、プロレスラーのようなまっすぐなTAG TEAMが欲しかったんですよね。過去のポケモン図鑑のカイリキーが“2秒間に1000発のパンチを繰り出せる”という説明が印象に残っていて、1匹はカイリキーがよいかと考えました。
そのカイリキーとのタッグを組むポケモンは、同じようにパンチが得意そうなポケモンで、2匹でパンチを連打しているイラストにしたらおもしろいのではないか、と。そのカイリキーの底抜けに明るいイメージと対比し、皆さんにもシチュエーションを妄想していただこうと“おくびょうで、よわきな”と図鑑にも書いてあるマーシャドーに決めました。
開発チームからのコメント:スケッチのイメージについて
“スペシャルアートSR”を考えるときに、“タッグの関係を掘り下げる会”というものを開催するのですが、マーシャドーとカイリキーが、2匹でトレーニングする場面がたくさん挙がってきたんですね。そのトレーニングの場面の前後で、いっしょに生活もしているように思えてきて。その生活を想像すると“臆病なマーシャドーの背中を押すカイリキー”という関係性が、ドラマチックに思えたんです。そんな関係を描いたイラストが見てみたくて、イラストチームの人にスケッチを自由に描いてもらいました。