Nintendo Switch版『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』のコレクターズ・パッケージの特典となっているサウンドトラックCDの制作にまつわるエピソードを、『ドラゴンズドグマ』メインコンポーザー・牧野忠義氏と、 シンガーソングライター・小林未郁氏、そして開発ディレクター・木下研人氏、開発プロデューサー・松川美苗氏に聞く。

 2019年4月25日に発売予定のNintendo Switch版『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』。同日には、特典としてサウンドトラックCDが同梱された“コレクターズ・パッケージ”も発売される。そのサウンドトラックの制作にまつわるエピソードや収録の裏話などについて、『ドラゴンズドグマ』メインコンポーザー・牧野忠義氏と、テーマソングを歌うシンガーソングライター・小林未郁氏、そして開発ディレクター・木下研人氏、開発プロデューサー・松川美苗氏に話をうかがった。

牧野忠義(まきのただよし)

『ドラゴンズドグマ』メインコンポーザー

小林未郁(こばやしみか)

シンガーソングライター

松川美苗(まつかわみなえ)

開発プロデューサー

木下研人(きのしたけんと)

開発ディレクター

■サウンドトラックCD同梱版 コレクターズ・パッケージ
4990円+税
・Nintendo Switchソフト『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』(パッケージ版)
・サウンドトラックCD「ドラゴンズドグマ:ダークアリズン Re:Compose Mini SoundTrack」(5曲収録)

1.「Signs ~Cassardis/Gransys~」
  Compose & Arrange:牧野忠義
2.「Blaze ~Dragon~」
  Guitar:中村天佑 Compose & Arrange:牧野忠義
3.「Darkness ~Bitterblack isle~」
  Violin:赤星友子 Compose & Arrange:牧野忠義
4.「Sickle ~Death~」
  Compose & Arrange:牧野忠義
5.「Relief ~Coils of Light~」
  Vocal:小林未郁
  Lyrics:Brian Gray,村田治生
  Compose & Arrange:牧野忠義

サウンドトラックCD制作と牧野氏起用の経緯

――今回のサントラCD制作にあたり、牧野氏を起用した経緯を教えてください。

木下コレクターズ・パッケージの特典について会議をした際に、ぜひともこの作品の魅力を伝えられる特典をつけたい、という話が出ました。本作の魅力である“ハイファンタジー”の世界をゲーム以外で伝えるなら音楽だと考え、サウンドトラックを特典にすることにしました。

松川その際「牧野さんに曲のアレンジを依頼してみるのはどうでしょう?」という案が出ました。『ドラゴンズドグマ』と『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』の楽曲を担当した牧野さんは今、独立して音楽制作をされているのですが、もう一度チームを組んで一緒に「ドラゴンズドグマ」の仕事ができればと思い、お願いすることにしました。さっそくメールを送ったら、ふたつ返事で「オーケー」とのことでした!

――最初は、楽曲のアレンジという話だったのですね。

牧野そうです。でも、過去に自分が作った楽曲をアレンジすることは、僕にとってはリスキーなんです。原曲として完成されているものに手を加えて崩してしまうと、ファンを裏切ることになります。とはいえ、アレンジと定義する以上はどこかしらを崩す必要がある。変えなくてもいいところも変えることになるので、それなら僕がやらなくてもいいじゃないかと思いました。

――なるほど。だからアレンジではなく“再作曲”という形にした、と。

牧野はい。原曲の本質を知っているので、再作曲という形にすれば無理に変えなくても済みますし、新しい解釈を取り入れて違和感のないものを作れます。それに、アレンジだと原曲のイメージを変えざるを得ない場合があって、『ドラゴンズドグマ』の世界観とまったく違うものに仕上がってしまうこともあります。大事なのは、『ドラゴンズドグマ』の楽曲として成立し、ユーザーが聴いても違和感ないものを作ることかなと。

――実際の作業はたいへんだったのでしょうか?

牧野ゲームのBGMとして使用するものではないので尺間やループといったゲーム的な制約がありませんし、「いまの自分がもし『ドラゴンズドグマ』を作ったときに戻ったら……」という、これまでとは違った挑戦ができたので、すごく楽しかったですね。

木下牧野さんから送られてきた楽曲を聴いたときに「制約がないことでここまで変わるんだ」と驚かされました。原曲が自由に壮大に広がっていく感じ。その中には懐かしさもあって、ゲームを遊んだことがある方にこそ、リコンポーズされた新たな広がりを楽しんで頂きたいです。

――新鮮と言えば、Nintendo Switch版のメインビジュアルは明るくて、いままでとは違ったイメージを感じました。

木下Nintendo Switchは、プレイステーション4やXbox Oneとはまた違ったユーザーが多い気がしたので、そういった方たちに遊んでもらうために、これまで見せてこなかった光の部分をメインにしたビジュアルを作成しました。

選曲の理由と再作曲ならではの試み

――サウンドトラックには、5曲が収録されていますよね。当初から曲目は決まっていたのでしょうか?

木下僕からは「『ダークアリズン』の象徴とも言える “Sickle ~Death~”だけは入れてください」とお願いしました。それ以外の4曲は、牧野さんが再作曲したいものを選んで欲しかったので、牧野さんにお任せしました。

牧野『ダークアリズン』のキーボスである“デス”はやっぱり外せないだろうと思い、物語の始点からキーボスまでをセットにして、“『ドラゴンズドグマ』での冒険を追体験してもらう”というコンセプトを考えました。そのため、1曲目でカサディス・グランシスのフィールド、2曲目でドラゴン戦、3曲目で黒呪島のフィールド、4曲目でデス戦、5曲目でテーマソング“Coils of Light”という構成にしました。またフィールドの曲は、メドレー形式にしていくつかの曲を盛り込み、フィールドが移り変わっていく様子も感じられるようにしています。

松川ほかにもゲーム中に使用しているSE(効果音)を織り交ぜて、そのシーンがより想起できるような演出も盛り込まれています。1曲目から聴いていくと、モンスターと戦う高揚感や、敵に倒されたときの悔しさなど、ゲームの中で体験した思い出が甦ってくると思います! 

――ゲームクリアー後にサントラを聴くと、また違った感じで楽しめそうですね。どういった効果音が入っているのでしょうか?

牧野波や風といった環境音や、街から聞こえる鐘の音、敵が放つ攻撃音など、多彩な効果音を取り入れています。

松川“Sickle ~Death~”では、デスの鎌で倒されたときの「サクッ」という音も入っていて、デスに苦戦していたときの記憶が思わず甦りました(笑)。再作曲だからこそできる、おもしろい内容だと思います。

――早くフルで聴いてみたいです! 今回の5曲以外に収録したかった曲はありましたか?

牧野あれもこれもとなると、フルボリュームのサウンドトラックになってしまうので(笑)、物語の始点とキーボスを軸として、そのほかの要素をシンプルに削ぎ落とした結果が、この5曲なんです。でもほかに入れようと考えていたのは……強いて言えば、ダイモーン戦ですかね。

――ダイモーン戦は自分も好きです! メドレー形式や効果音など、かなり力を入れていますが、制作期間とボリュームはどれくらいなのでしょうか?

松川だいたい2ヵ月半ほどで仕上げてもらいました。CDのボリュームは約25~30分程度になる予定です。

――ハイファンタジーの世界観を持つ『ドラゴンズドグマ』では、それに合わせた楽器選びなども重要になると思います。本作ならではの手法のようなものはあるのでしょうか?

牧野ドラゴンズドグマ オンライン』からなのですが、“ブズーキ”という楽器を使っています。白竜神殿のBGMで聞こえる楽器で、今回サントラに収録した“Relief ~Coils of Light~”にも取り入れています。この音色があると『ドラゴンズドグマ』の曲の中に一本筋が通る、そんな魅力がありますね。クラシックギターなどとはまた違った楽器で、すごくエスニックで哀愁のある音が出て、それが『ドラゴンズドグマ』の世界観にすごく合うと思います。

小林氏が歌う“Relief ~Coils of Light~”に込められた想いとは

――本作テーマソングである“Coils of Light”が、新たに“Relief ~Coils of Light~”として収録されています。なぜ、“Relief”という単語を追加したのでしょうか?

牧野“Coils of Light”は、アッシュ、グレーテ、オルガが闇に引きずり込まれ、恨みを溜め込んで黒呪島を作ったというストーリーを表現した、懺悔と後悔の歌です。それを再作曲するとしたら、懺悔や後悔といった彼らの想いを“救ってあげたい”と思ったんです。

――だから救済という意味の“Relief”がつけられているのですね。

牧野そうです。「何年か経って、楽曲が救われる」という立ち位置にしたくて。もしもアッシュたちが幸せに終わっていたらこういう曲になっていたのかも……という新しい解釈を持たせています。じつは、当初は“Coils of Light”もほかの曲同様、(ボーカルの入っていない)インストで作ろうと思っていました。しかし、救済という新たな道を示すなら歌は必要だと感じました。

――なるほど。今回の“Relief ~Coils of Light~”に小林さんを起用した理由は何だったのでしょうか?

牧野力強くかつ暖かい歌声が欲しくて、そこでパッと思い浮かんだのが、以前いっしょに仕事をしたことがあった小林さんだったんです。

――小林さんは、“Relief ~Coils of Light~”の楽曲を聴いた際にどのように感じましたか?

小林とにかく壮大で美しくて……すごく直感的ですけど「私にとって何かの“きっかけ”になる曲だな」と思ったんです。それに、救済というテーマを歌えるというよろこびもありました。

――と言いますと?

小林いままでわたしが歌ってきた楽曲には、戦いや憤り、情念といったものが多く、“救い”というテーマは初めてだったんです。表現者としていずれはそれを歌う時が来るとは思っていましたが、それが今回なんだなって、感慨深くもありました。

――初めてのテーマということで苦労されたこともあったのでは?

小林そうですね。救いというテーマで想像を膨らませて、いつもと違った表現が必要なのかなと。でも誤魔化さずに、いままでの自分も出さないといけない。そういった難しさがありました。また“Relief ~Coils of Light~”は、メロディーがとてもシンプルで、一音一音の重みがしっかりある楽曲です。レコーディングでは、その一音ずつをすべて大事にして歌うように心がけました。それ以外ですと、歌詞の発音にも苦労しましたね。

牧野じつは“~Coils of Light~”の歌詞は、現代では使われていない古い英語を使っています。“Relief ~Coils of Light~”でも違和感なく聴いてもらうために、原曲の歌詞をそのまま使いました。

――古い英語となると、発音を調べるのもたいへんそうですね。

牧野書いてある単語と発音が一致しないような、それぐらい古い英語なんですよ。原曲を録ったときにも苦労したのを覚えています。それを調べ直して、発音をまとめた資料を小林さんにお渡ししました。

小林読んだことがない英語ばかりだったので、私のほうでも調べたり、発音を聞いたりしました。でも古い言葉なので、資料の読み方と私が調べた読みかたが違うこともあって、そういう場合は牧野さんの調べた発音で歌うようにしました。たいへんでしたけど、言葉としてはとてもおもしろかったです。

――レコーディング時に牧野さんから小林さんに何か要望を出したのでしょうか?

牧野最初にこの仕事を依頼したときに、「激しい歌いかたの中にも暖かさを感じられるような声が欲しい」というオーダーをした以外は、追加の要望は出していません。そもそも“Relief ~Coils of Light~”は、「小林さんが歌ったこうなるだろうな」というイメージを膨らませながら再作曲したので、レコーディングのファーストテイクから求めていたものを歌っていただけました。

小林レコーディングでは「1回目から録ろう」と牧野さんが言って、びっくりしました(笑)

――ふつうは、本番前にいろいろと準備するものですよね?

牧野そうですね。声出しや、表現の方向性を固めるのに時間がかかったりします。でも今回は、2時間で終わりました。本当は、もう少し収録時間を取る予定でしたが(笑)

松川「2時間で録れちゃうものなんだ!」と驚きました。

牧野小林さんじゃなかったら、もっと録ってますね(笑)

――いきなり録ると言われてどうでしたか?

小林私としては、すぐに収録に臨めてよかったと思っています。人にもよりますが、ボーカリストって歌えば歌うほどよくなるタイプと、歌えば歌うほどダメになるタイプがいると思っていて、私はダメになるタイプなんですよ。

――考えすぎてしまうということでしょうか?

小林そうですね。テイクを重ねるほど、考え過ぎて何が正しいかわからなくなってしまうので、いつもレコーディングでは、3テイク以内に終わらせられるようにしています。でも今回は、未体験のテーマでしたし、もしかしたら新しいオーダーが出て長くなるかも……と覚悟していましたが、ファーストテイクを録ったときに大丈夫そうな雰囲気があったので「いつも通りにいけるぞ!」と思いました。

――ご自身の楽曲を収録するときも、そういったスタイルなのでしょうか?

小林そうです。私自身がライブを大切にしているので、レコーディングでもなるべくやり直しのきかないライブに近い形で録りたいと思っています。今回もそれができてよかったです。

――緊張はしなかったのでしょうか?

小林スタジオに行く前は、けっこう緊張してました。ゲームの楽曲収録の現場は、男性が多くてちょっと硬いイメージがあったんです。でも今回は、素敵な女性の方たちがいらっしゃったので、無条件に安心しました。

松川私はスタジオで初めて小林さんとお会いしたときにビックリしたんですよ。小林さんの歌声って力強いイメージだったので、ドアを開けて入ってきたときに「あれ!? こんな小柄で可愛らしい女性から、どうやったらあそこまで力強い声が出るんだろう」と。

――小林さんとしては、いい意味でイメージが崩れて緊張がほぐれたと。

小林そうだと思います。もし硬いイメージのままだったら、1回目で力を出し切れなかったかもしれません。今回は、そういう出来事があったので、恐らくファーストテイクから自分が思っていることを表現できたんだと思います。

松川本当にすばらしい歌声で、レコーディングの終盤には泣きそうになりました。小林さんの歌を聴いていると私自身としては、この作品に対する想いや、2019年のタイミングで“~Coils of Light~”が甦るよろこび、Nintendo Switch版への期待など、さまざまな想いを感じて、その瞬間に「私は救済されたな」と思いました。

木下うまいこと言ったね(笑)

小林そう言ってもらえてよかったです! もともと別のハードで発売されていて、すでにファンが大勢いるゲームの楽曲だったので「私の歌がダメだったらどうしよう……」という不安もあったんです。開発者の方やユーザーの皆さん、さまざまな方のエネルギーが絡み合っているからこそ感じるプレッシャーもありました。でもいま、松川さんの言葉を聴いて、ようやくホッとしました。

――小林さんの歌と牧野さんの再作曲によって、作品が新たな広がりを見せるのは、ファンにとっても開発チームにとってもうれしいですよね。

木下そうですね。『ドラゴンズドグマ』の世界観を深める楽曲を作った牧野さんと、救済という新たな解釈を歌で表現した小林さん、このふたりによって生まれた“Relief ~Coils of Light~”は、『ドラゴンズドグマ』の世界をより多くの人に知ってもらういいきっかけになると思います。

――こうやってお話を聞いていると、早くサウンドトラックが欲しくなります。ちなみに、サントラ単体で販売する予定はないのですよね?

松川ありません! でも、もったいないですよね。皆さんからの反響が大きければ、今回のサウンドトラックのようなコンセプトで、新たなアルバム作る企画などやってみたいなと思っていました。SNSなどを使って反応をいただけたらうれしいです。

牧野オーケストラコンサートもやりたいですよね。

木下原曲も今回の楽曲も、どちらもオーケストラ映えするように作られているので、オーケストラで聴きたいですね。

牧野それでは、僕は『ドラゴンズドグマ』のオーケストラコンサートをやるまで作曲家を続けます(笑)

松川そういうプレッシャーの掛けかたしますか!?(笑)。

牧野ファンの皆さんが期待している部分でもありますし、僕らもこのタイトルには強い想い入れがあるので、いつか実現できればいいなと思います。

――期待しています! 最後に読者にメッセージをお願いします。

松川冒険を始める前と後で印象が大きく変わるサウンドトラックになっています。コレクターズ・パッケージを購入した方は、ぜひ冒険を始める前と、黒呪島をクリアーした後に聴き比べてみてください。これまでとは違った視点の『ドラゴンズドグマ』を楽しめると思います。また『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』を遊んだことがない方は、Nintendo Switch版を機に、ぜひグランシス半島での冒険を体験してみてください!

木下コレクターズ・パッケージは、広大なオープンワールドを舞台にハイファンタジーな冒険を楽しめる『ドラゴンズドグマ』と、生死をかけて地下深く潜り死闘をくり広げるDLC『ダークアリズン』がひとつになったお得な作品です。特典のサウンドトラックも非常に価値がある内容に仕上がっているので、ぜひお手にとっていただきたいです。

小林全力で“Relief ~Coils of Light~”を歌わせていただきました。実際のゲームのエンディングとはまた違う、キャラクターたちの救済を感じてもらえる一曲になっていますので、ぜひゲームを最後まで遊んで聴いていただけたらと思います!

牧野今回のお話をいただいたときに、これは開発スタッフとユーザーの皆さんへの恩返しだと思いました。いままで応援してくださった皆さんへの感謝の気持ちに応えるために、“もしもう一度『ドラゴンズドグマ』の楽曲を作るなら”……そういったコンセプトのもと、1曲1曲を丁寧に仕上げていますので、手に取っていただけたらうれしいです。