ユービーアイソフトより2019年2月15日に発売されたPS4/XB One/PC向けソフト、『ファークライ ニュードーン』。『ファークライ5』の17年後を舞台にした本作の“刺激”をレビューしていこう。本作のストーリーを語るうえで『ファークライ5』の結末には触れざるを得ないので、気になる方はご注意を。
核戦争をサバイブした人々が織り成すハードな物語
アメリカのモンタナ州にある静かな田舎町“ホープカウンティ”を、恐怖と暴力で支配したカルト教団“エデンズ・ゲート”。その教父であり、終末思想を教義とするジョセフ・シードが予言した終末は、核戦争という形で現実のものとなった。
それから17年……核戦争を生き残ったホープカウンティの住民たちは力を合わせて文明を取り戻そうとしていた。さまざまなグループが独自のルールで生活を築き上げていくなか、略奪と暴力で世界を支配せんとする集団が現れる。
生まれたときにはすでに世界が崩壊していた双子の姉妹、ミッキーとルー。“新世代”ともいえる彼女たちは、欲しいものは奪えばいいと言わんばかりに、凶悪なグループ“ハイウェイマン”を率いて、各地で略奪行為をくり返しているのだ。そんな脅威を相手に、主人公=プレイヤーは住民たちと協力しながら立ち向かい、ふたたび自由と繁栄を取り戻すべく戦うことになる。
これが本作のストーリーライン。ちなみに「世界が崩壊するような戦争のあとに、なんでこんなに生き残っているの?」と思う方もいるだろうが、ホープカウンティには、いつ何が起きても対処できるように備える“プレッパー”がたくさんいたことは、前作をプレイした方ならご存じだろう。政府を信用せず、自分たちだけでサバイブするための準備は整っていたわけだ。皮肉にもエデンズ・ゲートの思想が役立った部分もあるかもしれない。
すべてが台なしになり、それでも生命を取り戻しつつあるホープカウンティだが、スーパーブルーム現象で花が咲き乱れている大地を見ていると、「自然豊かでいいじゃん!」などと思ってしまうが、そんなノン気な感想はすぐに吹き飛んでしまう。
個性的な世界で始まる刺激的な戦い
17年の時を経て、文明はある程度まで回復していると言ってもいい。武器やビークル(車輛)も、戦前のものを活かして改造が施されてはいるが、立派に敵を倒せるし、大地を疾走できる。でも、資源が乏しい。
お金は意味を成さず、資源がモノを言う世界。当然、資源は争いの火種となり、それらを巡って血で血を洗う諍いは絶えなくなる。なので、プレイヤーは資源を求めてさまよい、集めた資材で自分を強化し、敵を排除して人々を守るために戦い続ける必要がある。
ホープカウンティを走り回っていれば、ハイウェイマンはもちろん、野生動物(なかには異形の動物も)に襲われることもある。戦闘の基本は前作と大きく変わっていないが、銃弾が貴重なので、バンバン撃っていると弾切れになりがち。テイクダウン(ステルスキル)の重要性は前作よりも高い印象だが、そこはプレイヤーの選択次第という自由度は健在だ。
武器の強化やカスタマイズにも資材が必要となるので、探索はかなり重要となっている。とはいえ、廃墟を探してみたり、トレジャーハントに挑戦してみたり、ハイウェイマンのために投下された物資を奪ってみたりと、資材を集める手段は豊富にある。そんなにモノ集めが好きじゃない人も、そこまで苦労せずとも資材は集められるだろう。
そんな本作でもっとも重要かつ新しい要素は、ホームベースとなる“プロスペリティ”だ。ここを拠点に、プレイヤーはホープカウンティを走り回ることになるのだが、プロスペリティには、武器をクラフトできる武器作業台や、ビークルをクラフトするビークル作業台、マップを入手できる地図屋、ガンフォーハイヤーの育成を行う訓練度など、探索や戦闘に必須の設備がある。
これらの設備をアップグレードすることで、強力な武器やビークルの作成、体力を強化など、多彩な恩恵をプレイヤーは得られるようになる。ただし、より強くなるためには、設備やプロスペリティをアップグレードしなければならず、それには“エタノール”という資材が必要だ。そして、エタノールを入手するには、ハイウェイマンに占拠された各地の拠点を解放するなど、それなりの困難に直面することになり、プレイヤーの腕が試されるのだ!
物語を進めるためにミッションを追う。必要な資材を集めるために探索する。それを阻害する敵を排除するために戦う。戦いを有利にするために武器を作ったり、スキルを習得する。これらの要素が密接に関係しているので、やるべきことは多いが、どこにもムダがなく、やりがいはかなりあるし、プレイを重ねる甲斐もきちんとあるのがうれしい。
プレイヤーのスキルとなる“PERK”を開放していくシステムは前作と同様で、ステルスプレイで隠密に徹する派、アクティブにアタックして全員をブチ倒す派、どちらにも対応できる内容が揃っている。プレイしながら自分のスタイルを見つけて突き詰めていく楽しさは変わっていない。
これぞ『ファークライ』流のポストアポカリプス・アクション
映像や画面を観てもらえればわかるように、あちこちが廃墟となっているホープカウンティ。とはいえ、ハイウェイマンによって極彩色にペイントされたクルマがありらこちらにブッ刺さっているのはどうかしているが、花が咲き乱れていたり、緑がうっそうと生い茂る森もあったりと、その表情はじつに豊かだ。
核戦争後の世界を一面の砂漠や人っ子ひとりいない廃墟郡で表現する作品は多いが、目に刺さるような色味を取り入れたことで、単調にならないようにしたのは正解。武器も板きれで補強しているものや、懐中電灯を使用したスコープやドライバーをナイフ代わりにしているなど、細かい部分で資源の少なさを表現しているのは、さすがのディテールだ。
ポストアポカリプスをテーマにしたゲームはたくさんあるが、現実と非現実のバランスをアレンジして、破天荒だけどリアルな世界を構築する『ファークライ』ならではの“世紀末”が、本作にはきちんと体現されている。
17年後という時代設定も絶妙で、前作の登場人物が登場してくれるのはうれしい。ガンフォーハイヤーとしてまた仲間にできるのもたまらないポイントで、どこかであの仲間が待っているのではないかと探したくなる。ニックとキムの娘が出てきたときは、「あのときの子どもか!(キムの出産イベントが前作にある)」と、少し感動してしまったくらいだ。前作をプレイしていなくとも物語は理解できるが、物語の導入も含めて『ファークライ5』を知っておいたほうが楽しめるのは確実。
さらに、エデンズ・ゲートを母体とし、ジョセフ・シードを神格化した集団も出てくるうえに、どうもジョセフ自身が……という展開もありそうなので、そのあたりも前作のファンならずとも注目しておこう。
もうひとつ、新要素の“探検”のユニークさにも注目だ。プロスペリティでアップグレードすれば、高ランクの武器やビークルのクラフトに必要となる貴重な資材を入手するために、ヘリコプターで遠征ができるようになる。これでホープカウンティを飛び出して、アメリカ各所に隠された貴重な物資を入手するミッションに挑戦できるようになるのだが、廃棄された戦艦のような構造が入り組んだ場所、ホープカウンティにはなかった峡谷など、いろいろな戦略が楽しめるステージが用意されている。
貴重な物資があるだけにハイウェイマンの数も装備も強烈で、迎えのヘリコプターが到着するまで敵の波状攻撃に耐える時間は、かなり刺激が強くて楽しい。この“探検”がゲームプレイのリズムを変えてくれるので、ちょっとした気分転換にもなる(ハードだけど)。
このように、本作は『ファークライ5』のスピンオフと言える内容ではあるが、スピンオフと言うにはあまりにも膨大なコンテンツが用意されている。物語、探索、育成、戦闘と、オープンワールドのアクション・アドベンチャーらしい要素をそれぞれブラッシュアップし、そこに『ファークライ』ならではの過激なスパイスを振りかけた本作。値段も控えめなので、ちょっと辛めな刺激が欲しいなら遊んでみる価値はあると断言しよう!