2019年1月20日、『ゼノブレイド2 黄金の国イーラ オリジナル・サウンドトラック』の発売を記念した、『ゼノブレイド2』の作曲者によるトークイベントが開催された。
美しいサウンドを作り上げた5人のコンポーザーのうち、光田康典氏、CHiCO氏(ACE)、清田愛未氏の3人が登壇。名曲の数々が流れるなかで、制作秘話が語られた。
イベントは、作曲者がそれぞれ思い入れのある曲を選び、試聴とトークをくり返しながら進行していく。
なお会場となったのはソニー・ミュージックスタジオの地下スタジオ。ゲスト陣が普段から収録に使っているリッチな環境で、当の本人たちに囲まれながらハイレゾ音源に耳を傾ける。ファンなら一生の思い出になるくらい豪華な体験だ。
前半となる1曲目から5曲目までは、追加コンテンツ『黄金の国イーラ』の楽曲が披露された。
『黄金の国イーラ』の曲を作るにあたり、高橋哲哉総監督から出されたお題は「アコースティックなサウンドに仕上げてほしい」というものだったという。
“名を冠する者たち”や“Counterattack”といったエレクトリックでかっこいい曲の印象が強い『ゼノブレイド』シリーズだが、イーラ編ではあえて封印。“500年前”という時代設定に合わせるように、伝統的な楽器が多く用いられているというわけだ。
そんな縛りがある中で、CHiCO氏は“ジャズ”をテーマに選択。“四足のアルス/グーラ”のイーラ編アレンジでは、有名ジャズミュージシャンによるアドリブ演奏のパートが採用されている。高橋哲哉総監督からも本録音ではアドリブを更にアクティブにするよう示唆があったようで、ゲームミュージックの収録でアドリブが行われるのはかなり珍しいケースなのだとか。
続いて清田氏がイーラ編から持ち寄ったのは“リサリア原生林”と“王都アウルリウム”。どちらも情緒的な旋律が心に響くフィールド曲である。
“リサリア原生林”には、シェイカー(マラカスのように降って音を出す楽器)の「シャッ、シャッ」という音が一定のリズムで入るのだが、これらは一振り一振りコピペせずに収録されている。自然の息吹が感じられるような、“生きた音”を作り出すこだわりだ。
“王都アウルリウム”の収録では、荒れ果てた街の悲壮感を表現するために、「枯れた感じで演奏してください」という指示を出した清田氏。完成版の“枯れっぷり”は感動するほど見事で、「いい感じに枯れてました?!」と演奏者をねぎらったつもりが、微妙な空気を作り出してしまったという。
光田氏からはエンディング曲“A Moment of Eternity”をチョイス。ボーカルを担当するイギリス人歌手のJen Birdが最高の環境で歌えるようにと、イギリスまで渡って収録したという。
続いてイベントには参加できなかった平松健治氏の曲から“戦闘!! / イーラ”が披露され、『黄金の国イーラ』パートは終了。トークは『ゼノブレイド2』本編の楽曲について語る後半戦へと移っていく。
ジークの登場シーンは“ファミコン風”になる予定だった!? 貴重なデモ音源も披露
ここからは『ゼノブレイド2』本編より5曲が披露された。最高の環境で聴く“Xenoblade II ? Where It All Began-”は、ハリウッド映画顔負けのド迫力。何十時間もフィールドを駆け回った“グーラ領 / 森林”、物語の要所で流れる“Drifting Soul”と続き、涙を浮かべる参加者も現れる。
会場の感動ムードが極まる中、CHiCO氏が思い入れのある一曲として選んだのは、まさかの“雷轟! アルティメット”だった。曲名がアナウンスされた瞬間、一転して笑顔に変わる観客席。
この選曲にはもちろん理由がある。ジークのテーマ曲には仕様変更でボツになってしまった“幻のデモ版”が存在し、そのデモ版を本イベントで初披露しようというのだ。
なんと企画段階では、ジークの登場シーンだけレトロゲーム風のドット絵演出の様な描写がされる案もあったようで、“雷轟! アルティメット”も8bit風に作曲されていた。
しかし諸々の都合によりこの案の使用ではなくなり、ジークのテーマ曲も作り直しに。デモ版のメロディーがそのまま生演奏用にかっこよくアレンジされ、我々のよく知る“雷轟! アルティメット”が完成したというわけだ。
さて、デモ版を実際に聴いてみた印象は「いい意味でチープ」。どこか気の抜けるピコピコ音は“ジーク・極・玄武”というよりも“亀ちゃん”な趣である。ギターのサウンドが雷のように響く完成版も素晴らしいが、デモ版はジークの二枚目半な役回りを見事に表現している。
『ゼノブレイド2 オリジナル・サウンドトラック』mora配信ページ(https://mora.jp/package/43000033/A64663/)
トリを飾った楽曲は、光田氏による本編エンディング“One Last You”。高橋総監督と光田氏のあいだでは、エンディング曲は「悲しいけど希望のある曲にしよう」という暗黙の了解があり、力強い余韻を残すものになっている。
こうしてイベントは大盛況のうちに幕を閉じた。余談になるが、イベントではファンがもっとも気になっているであろう「コンサートはやらないのか?」という質問に対して回答する一幕も。
なかなかスケジュールが合わなかったり、演奏難易度の高い曲が多かったりという問題で開催には至っていないが、高橋総監督と光田氏のあいだで「やりたいね」という声は上がっているという。実現へのハードルは高そうだが、こちらもエンディング曲と同じく「悲しいけど希望はある」……かも?
『ゼノブレイド2』のサウンドを振り返る 光田康典氏インタビュー
――――本日はお疲れ様でした。イベントの中で「『黄金の国イーラ』のサウンドはアコースティックに仕上げた」とおっしゃっていました。逆に本編とイーラ編で一貫するテーマはありましたか?
光田 作曲家たちとはプロジェクト初期段階からイメージのすり合わせをしっかりしてきたので、とくにテーマのようなものは設定していないんです。5人の作曲家がひとつの世界観を共有して、思い思いの『ゼノブレイド2』らしさを表現するという形で。みなさんプロフェッショナルなので、そこは信頼してお任せしています。
――なるほど。『ゼノブレイド』でもそうでしたが、際立った個性の共存こそが“『ゼノブレイド2』らしさ”なのかもしれませんね。ACEや平松さんの最高にクールな曲と、清田さんの切ないメロディーが交互に楽しめる。
光田 そうですね。ともり君と平松君がカッコイイ系で攻めて。清田さんがふわっと綺麗な音で世界を作って。CHiCOちゃんがキャラクターの個性を表現して。僕はオープニングやエンディング、要所の大事な曲を作らせていただいて……。非常にバランスのいいチームで作れたと思います。
――ありがとうございます。『ゼノブレイド2』も『黄金の国イーラ』も、主人公とパートナーの関係性が主軸にあったと思うのですが、物語が音楽に与えた影響はありましたか。
光田 すごくストレートな話じゃないですか。本編はボーイ・ミーツ・ガールですし、イーラのほうはちょっと大人の、人に対する想いだとか、優しさみたいなものが描かれていて。
――はい。
光田 ですからメロディーで語らなければいけないこと、統一感を保たなければならないモチーフはありました。難しくはありましたが、それでも上手くいったのではないかと思います。
――プレイヤーの中には、きっと音楽を聴いただけで感動してしまうという方も多いでしょうね。自分も先ほど最高の音質でDrifting Soulを試聴して、思わず泣きそうになりました。「本当はこんな楽器が使われてたんだ」、「細部はこうなっていたんだ」という新しい発見もあって。
光田 今回のイベントに関して言えば、一般のファンの方が収録スタジオで聴けるという体験はなかなかできないので、非常におもしろいイベントだと思いました。
光田 もちろんゲーム音楽にも作曲者の意図がたくさん詰まっています。僕らがいつも作業している環境で聴いてもらうことで、そんな想いを何か感じ取っていただけたのなら嬉しいです。
――残念ながらイベントに参加できなかった方も、ぜひハイレゾ音源の綺麗な音で聴いてみて欲しいですね(※)。
※『ゼノブレイド2』のオリジナル・サウンドトラックは、CDよりも高音質なハイレゾ音源が同価格で配信されている。
光田 我々としてもファンの皆さんにはぜひハイレゾで聴いていただきたくて、プロジェクトが始まった当初からハイクオリティーな録音システムを使ってきました。そのぶんデータの管理も大変だったんですけど。曲数も多いですし、バックアップを取るだけで何時間もかかるんですよ(笑)
――それはチェックするのも大変ですね! 高橋総監督の反応はいかがでしたか?
光田 今回の『ゼノブレイド2』もそうだったんですが、高橋総監督といっしょに作るときは、なぜか音楽と絵がピッタリ揃うんです。「この尺は2分半ありますよ」とか、具体的な指示は何もないんですよ。僕は僕で曲を書いて、監督は監督でムービーを作っているのに。ゼノサーガの頃からそうでした。そこは本当に奇跡だよねって。