年初の特別企画! 年男クリエイターの新川洋司氏、直良有祐氏、岸田メル氏による鼎談をお届けします。

魔法の指を持つトップアーティストたちがクロストーク!

 年初の特別企画として、平成最後にして新元号元年の年男となる、亥年生まれの3人のトップクリエイターによる鼎談をお届けしよう。

 今回参加してくれたのは、1971年生まれを代表して『メタルギア ソリッド』シリーズなどを手掛けた新川洋司氏、『FF』シリーズのアートディレクターを歴任した直良有祐氏、そしてそのひと回り下となる1983年生まれで、『ロロナのアトリエ ~アーランドの錬金術士~』やテレビアニメ『花咲くいろは』のキャラクターデザインなどを手掛ける岸田メル氏。

 その魔法の指から生み出すアートによって、ゲームに命を吹き込み、世界を魅力的に輝かせるトップクリエイターたち。彼らが語る、ゲームに関係するアートなお話とは? じつは3人で会うのは初めてだという夢の組み合わせだからこそ聞けたレアなお話ももりだくさんとなっているので、ぜひ最後までご覧いただきたい。

直良有祐氏(なおら ゆうすけ)

1971年生まれ。島根県出身。専門学校卒業後、1993年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に。『ファイナルファンタジー』シリーズのアートディレクターを歴任。2016年に同社を退職すると、地元出雲市でIZM designworksを設立。『Fate/Grand Order』の開発会社ディライトワークスのデザインを統括するクリエイティブオフィサーにも就任。

新川洋司氏(しんかわ ようじ)

1971年生まれ。広島県出身。京都精華大学美術学部卒業後、KONAMIに入社。『メタルギア ソリッド』シリーズのアートディレクターとして、キャラクターや背景、メカニカルデザインなどを統括する。2015年に同社を退社し、小島秀夫氏が設立したコジマプロダクションへ。小島監督の最新作『デス・ストランディング』のアートディレクションを務める。

岸田メル氏(きしだ める)

1983年生まれ。愛知県出身。名古屋芸術大学中退後、2004年に雑誌『季刊エス』で商業デビュー。『ロロナのアトリエ ~アーランドの錬金術士~』などでキャラクターデザインを務め、『BLUE REFLECTION(ブルー リフレクション) 幻に舞う少女の剣』では原案、監修も担当。小説やアニメのキャラクター原案、テレビ出演など、マルチに活躍するイラストレーター。

ゲーム業界に入った意外すぎる“理由”

――亥年を代表してお三方に来ていただきましたが、皆さんは絵を描く仕事がたくさんある中、なぜゲーム業界を選ばれたのですか?
新川僕は、絵に自信がないから、ゲーム業界に入ったんです。

直良それは、ちょっとわかる気がしますね。
――ええっ!? どういうことでしょうか?
新川イラストレーターやマンガ家にも憧れましたが、自分には無理だと思ったので、じゃあ絵で食べるとすると……あとはゲームぐらいかなと。ゲームが好きでしたし。当時のゲーム業界って、絵を描くのは好きだけど、少し“夢破れた人”たちが多くいて、好き勝手やっていたところがあったんです。

直良同じですね。フリーでイラストレーターを目指す方法もわからないし、そこまでの実力も自信もない。でも、ゲームが好きなのと絵を合わせたらいけるかな、と。

新川だから、岸田さんが絵1本でやられているのは、すごいなぁって。

岸田いやいやいや。自分も具体的なビジョンなんて何もなかったです。しかも、学生生活ではまわりから褒められることがなく、いまで言う“陰キャラ”みたいな存在でした。そんな自分でも、インターネットに絵をアップすると、絵を見た人がすごく褒めてくれるんですよ(笑)。もう、褒めてもらいたい一心で描き続けていたら……、ライトノベルやソーシャルゲーム、カードゲームなどがどんどん出てきて、イラストが必要される機会が増えた“波”に乗っかれただけです。
 それこそ僕も、マンガ家に対する憧れはありました。でもマンガ家の生活ってストイックじゃないですか。僕には無理だなって(苦笑)。美大も中退していますし、落ちこぼれ感はあります。

直良岸田さんの経歴を見せていただいたのですが、舞台俳優の経験があったり、テレビにも出演したりと、アウトプットがとても多彩で、すごく器用な方だなぁ、と思ったんですけど……。

岸田いえ、僕といっしょに仕事をした人はみんな知っていますが、めちゃめちゃ不器用です。まず、スケジュール管理ができないですから! ただ、「こういうことをやりませんか?」と仕事の依頼が来たときに、おもしろいと思ったことはあまり断らないようにしているので、結果として器用に見えるのかな、と。

新川ちなみに、いままででいちばん無茶な仕事ってどんなものでした?

岸田長野の奥地に行って、バスタオル1枚で湖に飛び込まされたWebCMの仕事ですね(笑)。しかも僕、泳げないんですよ。

新川全然イラスト関係ない!(笑)。じつは、さっきアシスタントから、「岸田さんってどういう方ですか?」と聞かれたので、「ネットで検索してごらん」と言ったんですよ。そうしたら、両手に剣を持った“あの写真”(※)が出てきて、「この人、知ってます!」って(笑)。

岸田“あの写真”を撮ったのが8年前なんですけど、まさか8年間もいろんな人に見続けられるとは……(苦笑)。

※あの写真……2011年、岸田氏が『メルルのアトリエ ~アーランドの錬金術士3~』発売に際して「メルルのアトリエ、発売おめでとうございます!!発売記念イラスト描きました!!」とのコメントとともにアップした画像。メルルのかわいい描き下ろしイラストを期待してクリックしてみると……。どんな画像だったかは、“岸田メル 剣”などで検索してみるとすぐにわかる。

直良珍しいですよね。絵はもちろん、本人の顔だけでも認知度があるイラストレーターって(笑)。

岸田当初は作風的に性別がわからない方ほういいかなと思って、顔を出さずに、一人称も“私”とかにしてボカシて、ネット上でミステリアスな感じにしていたはずなんですけど(笑)。

同じ亥年でも違う、アーティストのSNS事情

直良世代なのか、個人の資質なのかわかりませんが、岸田さんは、自分から発信することにすごく慣れている感じがします。

岸田僕は、高校時代にドリームキャストをインターネットにつないで、某大手掲示板を見ていたので、まさにインターネット直撃世代なんです。ですので自分たちは、ネット上で作品を発表したり、個人情報を出したりすることに抵抗がない最初の世代なのかな、と。直良さんや新川さんは、この業界に入る前にご自身で描かれた絵を発表したり、投稿したりしたことはありましたか?

新川ホビージャパン』などの模型系の雑誌に投稿したことがありました。ただ、結局絵も模型も、作品を完成させて自分が満足できれば、僕的にはそれで完結してしまう趣味のひとつなんです。完成品を机の上に置いて、ひとりでニンマリしながら見るだけみたいな(笑)。

直良自分は、ゲーム業界への就職を意識したときに、腕試し的な意味で『ゲーメスト』に絵を投稿したことはあります。ただ、当時はドットの時代だったので、「自分の絵を描きたい!」よりは、「ゲームのビジュアル表現に携わりたい」という気持ちの方が強かったですね。ですので、技術の進化でゲーム機の表現力が上がっていき、新川さんなどの本当に絵が上手な人たちがつぎつぎと頭角を現してきたときは、相当慌てたことを覚えています(笑)。

――皆さんは、自分が関わった作品に対するユーザーの感想などを、SNSなどでチェックしていますか?
直良意識しないと言ったら嘘になりますね。たまに検索はしますけど、そんなに細かくは見ないです。どちらかというと、いっしょに仕事をしたスタッフや身内の反応のほうを気にするタイプですね。ただ、まわりはそういうわけにもいかないらしくて、親戚のおじさんが、インターネットの投稿を見て「有祐、大丈夫か? お前ネットで散々言われてるぞ」と、心配して連絡くれたこともあったり……。

新川岸田 (笑)。

新川自分もSNSは、あまり見ないですね。気にしないほうがいいのかな、と。

岸田あれ、僕だけですか? 趣味で午前、午後と毎日見ていますよ(笑)。

直良それ、完全に日課じゃないですか!(笑)

岸田僕はTwitterが大好きなんです。エゴサーチをして、僕のことでおもしろいこと呟いている人を見つけたら、“いいね!”やRetweetもしちゃいますよ。それに、僕の絵が好きになってくれる人が、ほかにどんなものが好きなのか、マーケティング的な手段としても活用したりもしています。まぁ、「下手くそ」とか書かれると、「この野郎」と思うこともありますが……、「下手だからもっとがんばろう!」と気持ちを切り替えます。

直良SNSを前向きに受容できているのは、すごいと思います。

岸田SNSの登場で、いちクリエイターの作品を一般の人に見てもらう機会がものすごく増えたので、どうすれば自分の絵に興味を持ってもらえるのか、つねに意識して考えるようにしています。まず「コイツおもしろいな」と思ってもらって、そこから自分の絵を見てもらう、というのもありかなと。その結果、池に飛び込むことになったりしているんですが(笑)。

直良絵を見てもらうために、あえてやっているという面もあるんですね。一見、器用に見える部分も、外側で見るのと、中身を聞くのとでは、全然違うんだなぁ。

新川そういう直良さんも、ゲーム以外の仕事もされたりもしているそうですね。

直良いま、出雲の商店街の人たちと、地元の名産品の開発のアイデア出しなどのチャレンジをしています。やってみてわかったのですが、ゲーム開発も商品デザインも、お客さんに“絵”を使って、体験、ストーリーを提供していく部分で、意外と近いんだなと。うまくいったら紹介したいです。

『ラスト レムナント リマスタード』のキーアート。本作のオリジナル版では直良氏がアートプロデューサーを務めた。プレイステーション4向けに2018年12月6日より配信中。

(C) 2008, 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

“コンプレックス”がクリエィティブの原動力に

岸田イラストレーターはひとりで仕事をするのが好きなイメージがありますが、おふたりは、アートディレクターとして大勢の人をまとめるお仕事もされていますよね。

新川イラストとして完成させる必要がある絵を描くのが、そんなに好きじゃないんですよ。

岸田ええっ!!

新川落書きなら大好きなんですけど、完成させて、評価されないといけなくなると、途端に嫌いになっちゃうんです。ゲームを作ることのほうが好きですね。

直良小島監督といっしょに、新川さんの絵筆を通して世界を表現している……というイメージが強いです。

岸田新川さんが、作家として決定的に認知されたのは、『メタルギア ソリッド』をリリースしたときだったと思いますが、そのときはどういう意識でしたか?

新川作家というより、スタッフのひとりとして、純粋に自分たちが作りたい、ハードボイルドな世界観のゲームを作ったという感覚でした。ただ、自分をゲームクリエイターと言うと、それはそれでおこがましいので、“ゲーム制作の一員”くらいな意識です。

直良僕も作品を作るとき、コンセプトアートやデザイン画、パブリシティなど、いろいろ関わらせてもらったのですが、それぞれのスペシャリストかと言われると、ピンでイラストレーターをやっている方に引け目を感じることが、正直あります。いままで絵を描くときは、バナー広告やポスターになったときの見栄え、ロゴとのバランスなど、アートディレクターとしてアウトプットの部分に脳みその大部分を使っていたので。独立後の仕事で「好きにイラストを描いてください」と言われたとき、逆に困ってしまって(苦笑)。最近やっと、イラストの描きかたが分かってきたところです。

岸田僕らの世代からすると、おふたりは「どうすればこんな絵が描けるんだろう」という追いつけない存在なので……意外です。

直良「絵描きどうしは仕事の奪い合いになるから仲よくなれない」と言われたりしますが、僕はわりとほかの絵描きと会話できるタイプです。それは、「自分ひとりだとダメだ」という前提があるからなのかなと。僕が好きなアフリカの諺で、「早く行きたければひとりで行け。遠くに行きたければみんなで行け」という言葉があるのですが、ひとつの作品として世に出すからこそ、みんなの力で遠くに到達したい、ほかにはないモノを作りたい、という思いが強くて。だから、アートディレクターとして、何でもしてきた感じですね。

若い世代のアーティストたちへ

――第一線で活躍するお三方ですが、下の世代やイラストレーターを目指す若い人についてはどう思いますか?
直良自分が子どもだったころ、イラストレーターのなりかたや、具体的な仕事内容などの情報がなかったので、若い人が少しでもそういった情報に触れられればと思い、じつは、たまに地元の島根の高校で講師をしているんです。でも、いまの若い子たちは、いい意味で昔と違いますね。無駄な努力はしないけど、“何回コレをくり返すと手に入る”といった証拠や根拠を示すと、ものすごくがんばれる。

岸田コストの掛けかたが、まさにゲーム的ですよね。みんな論理的に「どうすればコミケやラノベで売れるのか?」って考えていて。僕の世代は何も考えていなかったので、聞かれても「わからん」としか言えないです(笑)。

直良作品を発信するとき、「pixivでこの作品のものを描けば、この会社から声が掛かるだろう」ということまで考えて描いている人も多いですからね。
――新川さんは、コジマプロダクションの若い方たちの面倒をみたりされますか?
新川ほぼないです。うちは若い人も採ってはいますが、歳を重ねてきた人が多くて……。

直良熟練の兵士に(笑)。

新川ただ、出身大学で講演をしたことはあります。そのときは、けっきょく銃の構えかたを教えただけで終わりました(笑)。

岸田その講義、めちゃめちゃいいですね!

直良むしろ僕らが聞きたいです。

新川そのときは、僕が学生のころと比べると、真面目で少しおとなしい学生が多かったので、「大丈夫かな?」と思いましたね。いまの若い人は、うまい人はものすごくうまいんです。でも、なんとなく画一された絵で、「とんでもないな、コイツ!」みたいな、岸田さんのようなおもしろい人が少ないんですよ。

岸田僕も、専門学校で生徒たちの前で話をさせてもらう機会があるのですが、そのときは、「どんなにうまかろうが、下手くそだろうが、好きになってもらわないとお金を払ってもらえないんだ」とは言っています。

新川なるほど、確かに。 

岸田デッサン力があるに越したことはないんですが、あえて極論で、「デッサンなんか狂っても顔がよければいいから!」とも。

直良岸田さんの絵って、いい意味で隙があるじゃないですか。あれは意識して作っているんですか?

岸田両方ですね。意識して描いているんですけど、いい力の抜き加減を経験で覚えてしまっている部分もあります。僕に求められている絵って、ガッチリした感じじゃないんです。ガチガチに描き込んで見せたら、「うーん、微妙」と言われることがよくあります(笑)。