スクウェア・エニックスがサービスを提供するMMO(多人数同時参加型オンライン)RPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)は、次期大型アップデートのパッチ4.5を2019年1月8日にリリースする。これに先立ち、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターにインタビューを実施。注目の新ジョブの青魔道士を中心に、パッチ4.5全体の魅力をお聞きした。
次期拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』発売前最後の大型アップデートとなるパッチ4.5の新要素は、パート1とパート2の大きく2回に分けてリリースされる。これらのあいだにも小規模パッチで新たな魅力がお目見えするため、『漆黒のヴィランズ』の開幕まで、間断なく更新が行われていくのだ。本インタビューでは、そうした一連のアップデート群を4.5Xシリーズと表記しているので、それを踏まえたうえでお読みいただきたい。
吉田直樹(よしだなおき)
スクウェア・エニックス 取締役 第5ビジネス・ディビジョン ディビジョンエグゼクティブ。『ドラゴンクエスト』初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエストモンスターバトルロード』シリーズのゲームデザインとディレクションを担当。2010年12月に『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。
ファンフェスの発表もメインシナリオのようなもの
──前回の“狂乱の前奏曲”は、新たな物語の幕開けを予感させるタイトルでした。一方で今回の“英雄への鎮魂歌”という題名は、まるで何かの終わりを暗示するかのような印象です。まずは、パッチ4.5のタイトルを決めた経緯からお聞かせください。
吉田パッチ4.4と4.5は、曲にまつわるタイトルの組み合わせにすることが以前から決まっていました。いくつか候補があって、たとえばノクターン(夜想曲)みたいな単語も挙がっていたんですが、最終的に「レクイエムがしっくり来るね」という話になりました。“狂乱の前奏曲”の“狂乱”は、前回と今回で終わったわけではなく、これからも続いていきます。どちらかといえば、パッチ4.1の“英雄の帰還”とセットになっているイメージのほうが近いかもしれません。
──鎮魂歌というキーワードに、あまり引きずられないほうがいいと。
吉田パッチ4.1の“英雄の帰還”でスタートしたリターン・トゥ・イヴァリースが、今回完結を迎えます。かつてのイヴァリース王国の英雄たちに向けた鎮魂歌という意味合いもありますし、メインシナリオで英雄と呼ばれている光の戦士の身にも、何かが起こるのかもしれません。そうした部分も含めて、“英雄への鎮魂歌”というタイトルにはいろんな意味が込められているのではないのかなと。
──前回のメインシナリオで、暁の血盟の面々が“魂と呼べる命の輝きがない”状態になりました。彼らがそうなってしまった理由みたいなところが、今回の物語で明かされるのでしょうか?
吉田それがすべて明らかになるのは、パッチ4.5のパート2です。
──『漆黒のヴィランズ』のシナリオをアレコレ妄想するのが楽しい時期に、いよいよ突入したかと思います。あくまで予想なのですが、“魂と呼べる命の輝きがない”というキーワードは、そうした想像を膨らませるエネルギー源になりうるのではないのかなと思っています。今後の展開を考えるにあたって、この方向性は合っていますか?
吉田パッチ4.5のパート1のほうでも、彼らが倒れた理由やその原因を究明する動きが見られます。その一方で、ドマを中心とする東方諸国を組み入れた連合軍が、帝国の動きに対してどう対処するのか……物語は、これらふたつの軸で進んでいきます。パート1ではクルルが合流して、倒れた賢人たちはいったいどうなったんだ、みたいな部分にとくにフォーカスがあたります。ただし、すべての答え合わせはパート2のほうで行われるので、パート1の時点では、予想は捗るけれど答えがわからないのではないかなと。
──“魂と呼べる命の輝きがない”の答えは、『漆黒のヴィランズ』ではなく、パッチ4.5のパート2で提示されるのですか?
吉田半々です。光の戦士がなぜ闇の戦士になるのかという部分の取っ掛かりや、賢人たちが倒れた理由。さらに、彼らが昏倒する直前に聞いた謎の声の正体……これらのすべての核心に至れるかどうかは、提示されるキーワードをどのように解釈するかによります。パート1の側でも重要なシーンが登場するにせよ、これらの要素が明かされるのは基本的にパート2のほうです。
──シナリオ好きのプレイヤーにはたまらない展開です。
吉田今後のスケジュールとしては、来年の1月8日にパート1がリリースされた後、ファンフェスティバル2019 in パリが開幕。そこで最新のティザートレーラーを発表するのですが、前回にはなかったシーンがかなり多く追加されています。僕にとっては、その情報公開もストーリーのようなものという位置づけです。とはいえ、それを観たらまたわからなくなるかもしれませんが……(苦笑)。
──そうなんですか(笑)。
吉田その後、日本でファンフェスティバル 2019 in 東京が催されるわけですが、そこでも同様の展開をお見せしたうえで、直後にパート2を公開する予定です。パッチ4.5のパート1、ファンフェスティバル 2019 in パリ、ファンフェスティバル 2019 in 東京、パッチ4.5のパート2。『漆黒のヴィランズ』への橋渡しは、とくに現行プレイヤーのみなさんにとっては、この4つで行われると思っていただければと。
──パート2でひと通り謎は解明されるものの、そこでまたプレイヤーの想像力を掻き立てる新たな要素が登場する形ですか?
吉田そうですね。その状態のまま、発売までお待ちいただくことにはなりますが……(苦笑)。
──2年に一度訪れる、妄想が最高に捗る時期がいよいよ訪れます。
吉田シナリオを考察される方々は、みんなそうかもしれませんね。
──前回のシナリオから察すると、アルフィノや暁の面々を助けたいというアリゼーの“硬くてもろい”想いが、つぎのメインシナリオを引っ張っていくように思えます。吉田さんは以前「帝国の側の人が活躍する」と話しておられましたが、それと同じくらい彼女も活躍するのではないのでしょうか?
吉田さてどうでしょう。暁の血盟は、もはや全員倒れても不思議ではない状況にありますしね……。
青魔道士の公開はパッチ4.5から1週間後を予定
──さて、話題を変えまして。青魔道士は、パッチ4.5をリリースした直後からプレイできますか?
吉田パッチ4.5のパート1の公開から1週間後に公開予定です。
──その狙いとは……?
吉田今回のメインシナリオをじっくり楽しんでいただきたいのと、リターン・トゥ・イヴァリース:楽欲の僧院 オーボンヌ(以下、楽欲の僧院 オーボンヌ)の超絶ボリュームを心行くまで味わっていただきたいからです。パート1が公開されて、これらのコンテンツでワイワイ盛り上がっているさなかに、青魔道士の育成まで白熱してくると、”置いて行かれた”と感じる方がすごく増えると考えています。とくに「どのモンスターから何がラーニングできるよ!」だったり、「ラーニングの確率はこれくらいだろう」みたいな話を聞いているその脇で、別のコンテンツをプレイしていると、“流行に乗れていない感”がどうしても湧き出てくるはず。これがすごくもったいないので、1週間だけ間を置くよう指示しました。実装が間に合わないとかではなく、順番に遊んでもらうために、意図的にそうしています。
──“流行に乗れていない感”は、すごくわかります。
吉田通常、パッチとパッチのあいだは2週間ほど間隔を空ける必要があるのですが、今回はシーズナルイベントのフラグを利用しています。パート1の公開から1週間後に、ボタンをひとつ押すだけでオープンできる態勢になっています。メンテナンスは不要ではありますが、あとはHotFix(緊急性の高い修正のこと)などがなければ……。たいていの方は、パッチ公開当日から週末にかけて、メインシナリオと楽欲の僧院 オーボンヌをプレイされるかと思います。僕としては、それらに登場するカットシーンを飛ばしてほしくないこともあり、今回は計画的にコンテンツを開けようとしています。
──楽欲の僧院 オーボンヌに初めて挑んでいるときに、リンクシェルなどから「こんな青魔法を覚えた!」みたいな声が聞こえてくると、どうしても気を揉んでしまいそうです。
吉田そうすると、ラーニングに行きたくなってしまいますよね。これを避けるために、青魔道士のリリース時期をパッチ公開から1週間後にするのか、あるいは2週間後にするのかを議論しました。
──なるほど。
吉田パッチ4.55や4.56などの公開スケジュールも細かく決まっているため、仮に2週間空けた場合、今度はそちらの側へのスケジュールリスクが大きい。たとえば、マスクカーニバルで軽微なバグの修正やバランスの再調整が必要となってしまうと、それらの問題に対処するためのパッチを別途用意しなければならない可能性が生じます。となれば、そこでまた後続のアップデートのスケジュールに支障を来すわけです。そうした事情もあって、「2週間空けると、後続のパッチに影響が大きいため、青魔道士は1週間で公開」という結論になりました。『漆黒のヴィランズ』が開幕するまでのスケジュールはガチガチに組まれているためです。
青魔道士実装の経緯を吉田氏に直撃
──そもそも青魔道士は、どのような経緯で実装が決まったのでしょうか?
吉田拡張パッケージをリリースするにあたり、追加するジョブについて議論は行われます。最終的にはいくつかの案と、バトルシステム班からの意見をベースに僕が決定を下します。しかし、青魔道士は毎回議論には上がるものの、『FFXIV』に絶対実装できないジョブの筆頭になっていたのです。
──それはどうしてですか?
吉田青魔道士はもともと、ジョブそのものの能力を駆使して戦う魅力よりも、ラーニングという遊びを楽しむ意味合いのほうが強いジョブだからです。(過去の『FF』作品では)ほぼゲームをクリアーした時点で、しゃかりきになって過去に戦ったモンスターの技をラーニングしに行く方も多かった……シナリオなんてそっちのけです(笑)。しかもそのラーニングした技が、バランス崩壊を容認する形で作られているものが多かったりもします。
──確かに。
吉田新ジョブの候補として議論を重ねた末に、そもそもほかのジョブとは遊びの質が異なることもあって、“ラーニングをしてこその青魔道士”という前提が僕や開発チームの総意です。そうなると、ほかのジョブには、“レベルが上がると技を覚える”という共通点がありますが、青魔道士にはそれが基本的になくなります。ほかのジョブであれば『FFXIV』ならではのメカニクスやアイデアでカバーも可能なのですが、ラーニングするという、ある意味“ひとり遊び”に近いおもしろさは、ソロ用のコンテンツにしない限り、どうしても達成が困難だったのです。
──そういう理由があったのですね。
吉田青魔道士をパーティプレイ前提のジョブにした場合、ラーニングを他者から強要される可能性が大きい。かといってラーニングのない青魔道士は、青魔道士とは呼べない……これまで実装を見送ってきた理由がこれです。ただ『紅蓮のリベレータ―』を発売して、『FFXIV』の勢いが落ちずにまだまだ拡大していくという現実を見たときに、MMORPGというよりも、オンラインゲームとして、「もっといろんなものがあってもいいのではないか」と考えるようになりました。ポジティブにおもしろく作ったほうが、いろいろなタイプのお客様に楽しんでもらえる。だからこそ、永久に実装できないよりは、“遊び”を中心に考えて挑戦してみようと決めました。その代わりに、僕たちがもともと懸念材料として抱えていた部分は考えなくていいように、“遊んで楽しい”をコンセプトにして狙いを絞って作ることにしました。
──スタッフの方々の反応は?
吉田開発側は「それなら思い切ってやれます」とのことだったので、「よし、じゃあ思い切ってやろうか!」と。かつて僕も、過去作ではシナリオそっちのけでラーニングに熱中しました。それこそが、青魔道士本来の楽しみかたではないのかなと。とはいえ当時は、青魔法をすべて修得した後、それで満足してあまり使わなかったりもしたのですが(苦笑)。
──過程が大事と(笑)。
吉田通常ジョブとして青魔道士を実装したとしても、「(すべての技を)ラーニングするまでレイドに行けない」ですとか、「範囲系の技をラーニングしていないからインスタンスダンジョン(以下、ID)に参加しづらい」みたいな話になってしまうのが目に見えています。最初はそれでもいいと感じるかもしれませんが、レベルキャップが開放されるたびにそれをしなければならない。けっきょく最終的には面倒くさいジョブになってしまいます。こうなると、ワールドファーストを目指すチームは青魔道士を使わないでしょう。だからといって、極端に強いシナジー系の青魔法を持たせてしまうと、今度は青魔道士が必須になってしまいます。そうした状況に陥ると、通常ジョブでは青魔道士ならではの楽しみかたはできないだろうなと。
──そう思います。
吉田たとえば、黒魔道士のファイラはレベル18で修得できますが、似たような範囲攻撃性能を持つ青魔法は、レベルが上がっても覚えられず、ラーニングしなければ修得できません。範囲攻撃用の青魔法をラーニングしたとしても、それがファイラのダメージと大差なければ「ただ面倒くさいだけだ!」という話になってしまいますよね……。
──「もうファイラでいいじゃん!」と(笑)。
吉田はい。僕たちは、そうした感覚に陥らないよう、どうしてもみなさんの反応や、行き着く結果を先回りして仕様を考えます。「ジョブクエストでラーニングしたように見せかけて覚える形でもいい」という意見があることも承知していますが、そうなるともはや青魔道士でなくてもよくなってしまうなと……。
──ラーニングではないですよね(笑)。
吉田多方向に配慮して作ったとしても、けっきょく「こんなのは青魔道士じゃない!」という声はたくさん出てしまうと思うのです。
──「ラーニングを都合よく解釈しないで!」みたいに言われてしまいそうです。
吉田こうした点も、青魔道士を実装できなかった理由です。であれば、先ほどお話した“ひとり遊び”が楽しめる形にしたほうがいいのではないかなと。むしろそうしたほうが、『FFXIV』のジョブとしての遊びの幅がグンと広がるので、思い切ったほうがいいだろう、というのが今回の結論です。
──ということはリミテットジョブという概念は、まず青魔道士の開発が先にあって、その後で生まれたものなんですか?
吉田開発の最終盤で「これは何と呼ぼうか」という話になり、わかりやすいリミテッドジョブという名称が世界設定班から提示され、そのまま確定に至りました。
青魔道士の詳細に迫る
──そもそもの話になりますが、青魔道士のメイン武器は何ですか?
吉田ステッキです。正式名称は青魔器です。一応、オートアタックはしますが、メインはやはり青魔法です(笑)。
──(笑)。つまり、敵からラーニングした青魔法を使って戦うのが基本になると。
吉田そうなります。
──コンテンツに参加して新しい武器を集める必要は……?
吉田ムリにそれをしなくてもいいデザインになっています。青魔器には、ほかのジョブと違ってステータスが付与されていません。それを入れてしまうと、青魔器のために何度もIDに参加することになってしまうからです。青魔道士はマッチングに制限があるため、武器を集めることがストレスになりかねません。ほかのキャスター装備と共通化し、防具とアクセサリのみでパラメーターが強化されるようになっており、ほかのジョブに比べて“INT”を上げたときの成長幅が大きくなっています。ほかのキャスター装備を使い回すだけで、装備集めも楽になりますし、できるだけラーニングに集中できるように設計されています。もちろん、ジョブ専用装備は用意してありますので、そちらはジョブクエストで取得可能です。
──青魔法の組み合わせは、いくつかプリセットしておいたものを持てるのですか?
吉田レベル50の時点でラーニングできる青魔法の総数は49個です。ここから24個の青魔法を“アクティブ化”してホットバーへ登録して戦うことになります。「どの青魔法をアクティブにするか」を”アクティブセット”として保存できるようになっています。現状、アクティブセットは5個まで保存可能ですので、5タイプのアクティブセットが作れます。
──ホットバーを編集する感覚に近いですか?
吉田まずは青魔法のアクティブセットを作り、それをホットバーに登録することになります。マスクカーニバルやラーニングで特定コンテンツへ行くときに、アクティブセットはワンタッチで切り換えられるようになっています。
──青魔道士がレベル50に到達するまでの時間は、どれくらいを想定していますか?
吉田レベリングだけをしても、青魔道士は強くなりませんので、ある意味運にも左右されますし、難しいご質問ですね(苦笑)。
──空っぽの青魔道士が出来上がるだけになってしまいますよね。ということは、レベリングとラーニングを同時に行うイメージですか?
吉田そうですね。むしろ、ラーニングに成功しないせいで、結果としてレベルが先に上がっていくこともあるかと思います。
──気になるラーニングの成功率は……?
吉田低レベルのモンスターからラーニングできる技は、それに見合った確率です。一方、上のほうにいる敵は……(苦笑)。
──低確率かもしれないと……。