2018年12月13日に発売された『ダイダロス:ジ・アウェイクニング・オブ・ゴールデンジャズ』を記念して、本作を作り上げたスタッフ陣にインタビューを敢行!

 1987年に発売された『新宿中央公園殺人事件』に始まり、今日まで30年以上ものあいだファンに愛され続けてきたハードボイルドアドベンチャーゲーム『探偵 神宮寺三郎』シリーズ。

 その最新作となる、『ダイダロス:ジ・アウェイクニング・オブ・ゴールデンジャズ』(以下、『ダイダロス』)が、2018年12月13日にNintendo Switch、プレイステーション4、Steamで発売された。本作は、“神宮寺三郎:新章”と銘打たれた新機軸の作品だ。大学生時代の若き神宮寺三郎を主人公に、彼の過去が語られるほか、従来のシリーズ作品にはない、斬新なシステムの数々が導入されている。

 本稿では、そんな『ダイダロス』の発売を記念し、本作を作り上げたスタッフ陣にインタビューを敢行。『探偵 神宮寺三郎』シリーズの新たな形と、今後の歩みについて聞いた。

金子宝巨(かねこたかおみ)

アークシステムワークス プロデューサー

湯田高志(ゆだたかし)

ネイロ 開発ディレクター

稲葉洋敬(いなばひろたか)

トナカイワークス シナリオ

神宮寺三郎を描き、本人になれる“神宮寺三郎:新章”

――2018年12月13日に、いよいよ発売を迎えましたが、現在の心境をお聞かせください。

金子 ついにという感じです。じつは『ダイダロス』は、2017年にニンテンドー3DSで発売された『GHOST OF THE DUSK』よりも前から動いていた企画なんですよ。いまからだと……大体3年ほど前になりますね。

――そんなに前だったとは驚きです。

金子 ほぼゼロからのスタートだったこともあり、自分も含めてスタッフ全員が悪戦苦闘する中、何とか形にすることができました。いまはホッとしているのと同時に、どんな評価をいただけるのか、若干の不安がありつつもワクワクしている状態ですね。

湯田 これまではアクションゲームやリズムゲームなどを手掛けることが多く、本作のようなしっかりとしたテキストアドベンチャーゲームを担当するのは、ほぼ初めてです。加えて、本作にはこれまでのシリーズにはない試みも多く、さまざまなチャレンジをさせていただきました。制作自体がとても楽しかったですし、ユーザーの皆さんの反応が楽しみです。

稲葉 とにかく感謝しかないですね。まず、僕自身を信頼していただけると同時に、大きなチャンスをくれたアークシステムワークスさん。そして開発に関して、漢気全開の快諾をしてくださったネイロさん。それがなければ、今回の企画は立ち上がってすらいません。あとは、20年前に『夢の終わりに』をやりきった自分に対しても感謝がありますね。それがあるからこそ、いまにつながっているわけで。感謝の気持ちでいっぱいです。

――ファンも、とても楽しみにしていることと思います。そんな『ダイダロス』を制作するにいたった経緯を聞かせてください。

金子 2012年発売の『復讐の輪舞』から時間が空いていたこともあり、ただ新作を出すのではなく、“インパクトのあるもの”を作ろう、という話を佐藤(※アークシステムワークスの佐藤賢治氏。『GHOST OF THE DUSK』のディレクターを務めた)としていまして。それで、やはり『探偵 神宮寺三郎』と言えばシナリオ、シナリオと言えば『夢の終わりに』であろうと。

――金子さんのほうから、稲葉さんにお話を、ということですね。

金子 はい。ただ、最初に稲葉さんへ話を持ち掛けたときは、「新しいことに挑戦したいです」という返事をもらったんですよ(笑)。

稲葉 言いましたね(笑)。

金子 それで、「稲葉さんならではの『探偵 神宮寺三郎』を作ろう」と。初対面にも関わらず、全力で押させていただきました。

――稲葉さんのシナリオありきの企画だったのですね。

金子 それはもう。そして、稲葉さんのほうでもゲーム面に関する考えやアイデアがあったようで、信頼できるパートナーとやりたいと。そこからネイロさんに制作を依頼する流れになり、制作全体の地盤が固まった形ですね。

湯田 アークシステムワークスさんから正式にご依頼いただく前に、少しですが、稲葉さんとそのへんの話はしていたんですよ。「テキストアドベンチャーではあるけれど、これまでとは少し概念が異なるものを作りたい」と。本格的に制作がスタートしてからは、稲葉さんと相談しながら企画をいくつも出して、少しずつ全体像が決まっていきました。そのあいだ、約3ヵ月くらいでしょうか。ひたすら作ってはやり直しの連続でしたね。

――なるほど。では、そんな『ダイダロス』の制作コンセプト、テーマをお聞かせください。

稲葉 まず、どうしてもやりたかったのが、“天才体験”なんです。僕が『夢の終わりに』を作っていたときに、最初に壁としてぶつかったのが、優秀だ、天才だと言われている神宮寺三郎が、いったいどうすごいのかという点。当時の自分では、理解しきれなかったんですよ。『夢の終わりに』はザッピングシステム(※複数のキャラクターを切り換えながらゲームを進めていくシステム)を採用していたので、ほかのキャラクターの視点から神宮寺のすごさを表現するという手法になったのですが、個人的には消化不良というか。せっかく自分が名探偵である神宮寺三郎になれるのに、“俺カッコイイ感”を表現し切れなかった。そういった意味で、今度こそ神宮寺三郎の天才っぷりをプレイヤーに体験させてあげたいなと。

――神宮寺が名探偵と呼ばれる所以みたいなものが、本作で語られるということですか?

稲葉 そうですね。彼の思考術など、そういった内面の部分を表現していかないと、何がすごいのかがわからないですから。また、“すごい”という事実だけがひとり歩きしていくと、その後のシリーズにおいて、神宮寺の存在感自体が薄まってしまうのではないかというのは、以前から気にしていたところではあったんです。企画のかなり初期段階から、そこを盛り込んでいこうという話で進んでいました。

――過去のニューヨークという時代背景を選ばれたのは、後から付いてきた感じですか? それとも、最初から?

稲葉 シナリオに関しては、セットでした。プレイヤーが、“俺カッコイイ”と感じられる神宮寺を作りたいというところから始まっていたので、エピソードとしてニューヨーク時代の話をするのは自分の中での決定事項でしたね。

――ほかの時代背景にするという選択はなかったのでしょうか?

稲葉 一択、ですね。じつのところ、『夢の終わりに』の制作段階で、過去のニューヨークでのエピソードを入れることは、構想としてあったんですよ。ただ、そのときは僕も新人でしたし、全体をうまくまとめきることができずに断念したという経緯があります。金子さんから話をいただいたときに、「今度こそできるかも」と。金子さんにもひとつ返事で了解いただけまして、心おきなく執筆できました。

――祖父である神宮寺京助を登場させるのも、そのときに決まった形ですか?

稲葉 そうですね。肉親が亡くなるくらい衝撃的な出来事がないと、三郎が変わっていく過程を、説得力を持たせつつ描くことができないのではと考えました。とくに悩んだりとかはなく、かなりスムーズにアイデアとして出てきた部分ですね。

――若い神宮寺像を構築するうえで、とくに苦労された点はありましたか?

稲葉 神宮寺に関しては、ほとんどなかったんですよ。若さゆえに荒々しい感じであったり、精神面で不安定であったり。今回は、神宮寺を含めてキャラクターを作る、描くということがとても楽しかったですね。

――本作は登場キャラクターがとても多いのも特徴ですよね。

稲葉 あまりにも多すぎて、平井さん(※平井武史氏。ネイロ 代表取締役社長)から「数が違い過ぎる」と少し怒られましたから(笑)。

湯田 それで減らすんですけど、稲葉さんが後でこっそり増やすんですよ。それでまた堂々巡りに(笑)。

――(笑)。ちなみに、皆さんのお気に入りのキャラクターは誰ですか?

金子 僕は真木ですね。高倉健さんを思わせるキャラクターで、とてもかっこいいんですよ。腕っぷしが強くて、義理人情に厚いところも好きですね。

稲葉 僕は今回、神宮寺三郎を描きたくて企画に参加しているので、やはり神宮寺三郎本人ですね。あとは、死なせるのがあまりに惜しかった神宮寺京助と、まだ若くてバランスの悪い……はっきり言ってしまうと“ムカつく”洋子。彼女の過去を書けたのはとても楽しかったですし、途中でシナリオに合わせてキャラクターデザインを変えていただいたという経緯もあるので、思い入れがあります。割と急ではあったのですが、湯田さんに無理を言ってキャラクターデザインを変えてもらって……。

湯田 まさかの変更でしたね(笑)。当初、洋子はかわいらしい衣装に身を包んだ、ふつうの女の子というイメージだったのですが、現在は少し影のあるデザインになっています。その中間くらいのデザインと合わせて3種類候補がありましたが、現在のものが最終形になりました。私のお気に入りのキャラクターは、幼少時のベンとアビーですね。キャラクターとしても細かく作り込んであって、あのふたりだけで1本ストーリーが作れるくらい。本編のストーリーでもおもしろい立ち位置でよく動くキャラクターなので、ユーザーさんにも好きになってもらえると思います。

神宮寺三郎
御苑洋子
神宮寺京助
真木
ベン(幼少期)
アビー(幼少期)

――システム面でのコンセプトについてもおうかがいしたいです。

湯田 ストーリーだけがひとり歩きしないように、“天才体験”が、きちんとプレイヤーの体験として伝わるように……というのが、ゲームプレイ、及びシステム部分でのテーマになっています。本作ではプレイヤー=神宮寺なので、プレイヤーが操作していないのに、神宮寺が勝手にしゃべったり、行動したりしてしまうことは極力避けようと考えました。基本的にはテキストアドベンチャーですが、ただ読むだけにならないよう、できるだけプレイヤーみずからがアクションを起こしていくようなプレイ感覚を意識しましたね。

金子 プレイヤー自身が神宮寺三郎になる、というのは僕としても重要視していた部分ですね。あと、ニンテンドーDSあたりの作品から、基本的なシステムをほとんど変えていないというのがありまして。ですから、ここで大幅に見た目やシステムを変更して、ユーザーさんにも刺激を受けてもらいたいなと、さまざまな部分でチャレンジさせていただいています。

――特徴的なシステムが取り入れられていますが、これはやはり本編との明確な違いを出すためなのでしょうか。

湯田 はい。本作の企画自体がそこからスタートしていますから。むしろ影響を受けてはまずいので、既存の探偵ものや推理ものなども一切やらず、参考にもせずに制作に注力しました。過去の『探偵 神宮寺三郎』シリーズも、事実関係の確認以外ではなるべく見ないようにしましたね。

金子 今回は神宮寺の内面や思考を現す、あるいは触れられるようなシステムを取り入れつつ、それらがビジュアル面でもわかる作りになっています。これまでのシリーズでは、神宮寺の行動に対するコマンドが用意されていましたが、本作では思考がコマンド化されている……というイメージですね。

――ゲーム全体の難度についてはいかがでしょうか。

湯田 制作当初は、非常に難しい……と言っていいほどの難度になっていました。“天才体験”がコンセプトであることもあって、事件を解決したときにしっかりとした達成感や喜びを味わえるものにしようと。しかし、開発するにつれて神宮寺の視点や内面の表現を重視するという方向性にシフトしていったんです。すべての要素をプレイヤーが考えるのではなく、神宮寺ならではの考えや発想が見えるものにしつつ、難度も下げてバランスを取りました。神宮寺が持つ“天才の発想”を、どこまでゲーム化するかが悩みどころではありましたね。

『ダイダロス』では、神宮寺の内面や思考を表現するシステムや演出が取り入れられており、大きな特徴となっている。

――これまでの作品からいろいろと変化のある『ダイダロス』ですが、ゲームタイトルも“探偵 神宮寺三郎”の文字が存在しないなど、大きく変わっていますよね。

金子 相当な数の案が出まして、そして相当に悩みましたね。最終的にサブタイトルのない『ダイダロス』というタイトルで進んでいたのですが、さてここに“探偵 神宮寺三郎”の文字を入れるかどうしようかと。でも、せっかく『ダイダロス』という尖ったメインタイトルを付けているのに、神宮寺三郎外伝みたいな文字が入るのは違うだろうという思いもあって。

――イメージがそこで固まってしまう感じがしますね。

金子 単なるシリーズの派生作品になってしまうなと。本作は派生作品とは言えないくらい、従来とは変わっていますし、そもそも神宮寺はまだ探偵ではないですから。とはいえ、弊社内でも「外すのはいかがなものか」という反対意見が出てきて(苦笑)。悩みに悩んだのですが、作品性を活かすなら、やはり取ったほうがいいだろうと。

稲葉 僕個人としては、探偵 神宮寺三郎の文字を取ることは決まっていましたね。さまざまな部分で覚悟を決めて臨んでいる企画ですし、湯田さんのほうで人を惹き付ける、素晴らしいビジュアルを作っていただけたのも大きかった。それを見れば、シリーズを知らなくてもおもしろそうだと思ってもらえる自信がありました。多分、その辺りでの自信による後押しがなければ、探偵 神宮寺三郎の文字が入っていたかもしれません。ただ、周囲の声を聞いていると、ビジュアルから入って興味を持ち、「これが神宮寺だとは知らなかった、まだシリーズが続いていたんだ」という人もいたりして。そういう人がいるなら、従来作から大きく変えた意味があるし、我々の判断は間違っていなかったんだと思えましたね。その一方で、神宮寺のカラーを完全になくしてしまう意図はなかったので、サブタイトルは神宮寺の存在をほのめかす、暗喩的な意味合いで付けています。ゴールデンジャズが将来の神宮寺三郎像で、そこに気付いていく、目覚めていくという意味で“ジ・アウェイクニング・オブ・ゴールデンジャズ”。

これからも歩みを続けていく『探偵 神宮寺三郎』シリーズ

――本作のいちばんの見どころ、ユーザーに見てほしいところはどこでしょうか?

湯田 どれだけ神宮寺視点になれるか、神宮寺になりきれるかに気をつけて作ったので、見どころはやはりそこになりますね。とくに“神宮寺がとる行動の表現”は、ぜひ見ていただきたいと思っています。あとは……やっぱり稲葉さんのシナリオ! ですね(笑)。

稲葉 ありがとうございます(笑)。シナリオは湯田さんやオープンセサミさんにもたくさんご協力いただきましたから。見どころは、キャラクターになりますね。単体でスピンオフが作れるくらい、ひとりひとりのキャラクターを練り込みながら作ったので、ちょっとした言動にいたるまで楽しんでいただけたらと。そして、詳しくは言えないのですが、ラストシーンからのエンドロールは、絶対、絶対に見てほしいですね。“真相”に関してはとくにこだわって書きましたし、ぜひともがんばってゲームをクリアーしていただきたいです。

――“真相”ですか?

湯田 恐らく、ほとんどのプレイヤーが最初にたどり着くであろう結末は、“真相”ではないと思うんですよ。推理力を働かせて、真のラストを見たときの感動をぜひ味わってほしいですね。

――それはとても興味深いですね。金子さんはいかがでしょうか。

金子 今回はビジュアルからシステム、BGMにいたるまで、従来とは大きく変えているので、見どころはすべてと言いたいのですが、強いて言えばBGMですね。こちらにはちょっとした仕掛けがあったりします。

湯田 ゲームの前半はピアノなどがメインのクラシカルなBGMになっているのですが、後半は周囲の人物からの影響を含め、神宮寺の成長を表現する意味で、同じBGMでもジャズ調のバージョンが流れるようになっています。聞き比べてみるとおもしろいかなと。

――なるほど。では、今後のシリーズ展開、展望をお聞かせください。

金子 とりあえずは、今後も『探偵 神宮寺三郎』シリーズは続けていきます、と言っておきたいですね。どのラインなのかどの位置付けなのかは不透明ですが、今回のシステムを使ったタイトルを出したいとも考えています。

――本作のシステムでとなると、タイトルも新しく付け直すことになりますよね。

金子 そうなんですよ。“ダイダロス”という単語が本作の物語のカギになっていますから、『ダイダロス2』とするわけにもいかない。

稲葉 僕を野放しにするからそういうことに……(笑)。

金子 作品性を重視し過ぎた結果、シリーズ化のことをまったく考えていなかったという(笑)。追々詰めていかなければならないところですね。まだまだ膨らませられる登場キャラクターも多くいますし、このままにしてしまうのはもったいかなと。

稲葉 僕はもう、これ1本しか書かないつもりで臨んでいたので、そういった決め打ちのタイトルを付けたのですが、やはり書いているうちに、もっと書きたいことが出てくるもので。僕個人としては、新作をやりたいという気持ちはありますね。

――本作のシステムを使った現代編も見てみたいところですが……。

金子 360度ビューの新宿を歩きながら、というのは確かにいいですね。……稲葉さん?

稲葉 いまは……若い神宮寺三郎の物語を書きたいですね。“探偵になるまでの神宮寺”にすごく興味があるし、書き足りないことが山ほどあるので。チャンスさえいただければ、いつでも(笑)。
――従来の形式の『探偵 神宮寺三郎』シリーズはどうなるのでしょうか?

金子 もちろん並行して出していきたいと考えています。『プリズム・オブ・アイズ』に同梱されていた体験版をプレイしたユーザーさんから、「これまでの『探偵 神宮寺三郎』シリーズをやめちゃうんじゃないか?」という心配の声がありますが、やめません、とここで断言しておきます。

――貴重なお話の数々、ありがとうございました。最後に、ファンへメッセージをお願いします。

湯田 きちんとしたシリーズ作品でありながら、その枠からは外れているという、とても自由にやらせてもらえたタイトルでした。テキストアドベンチャーとしては、非常に変わっている、おもしろい試みを詰め込めたと思いますので、ビジュアルや演出まで、ひとつひとつをじっくりと楽しんでいただけたらと。

稲葉 こんなにも長く続いているIPはなかなかないですし、今後も生まれにくいと思います。本作は『探偵 神宮寺三郎』シリーズの魅力や可能性をさらに広げられるようにという意識で取り組んでいるので、もし少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひ手に取ってみてください。

金子 長く続いたシリーズに変化を加えた以上、ここで終わるわけにはいかないなと。ぜひ新しい『探偵 神宮寺三郎』をプレイして、いい点も悪い点も含めて、忌憚のない意見をいただければと思います。それらを踏まえ、今後生まれるであろう『探偵 神宮寺三郎』シリーズの新作に活かしていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします!