2018年11月4日に東京・秋葉原UDXにて開催された同人・インディーゲームの展示&即売会イベント“デジゲー博2018”。同ビル2階“AKIBA SQUARE”および4階“UDXギャラリーNEXT”に270の出展ブースが並ぶ国内最大級の同人・インディーゲームとして、当日は多くのゲームファンが来場し、終日熱気に満ちていた。

 現在アーリーアクセス版がSteamで販売中の2Dアクションゲーム制作ソフト『アクションゲームツクールMV』(発売:KADOKAWA)のブースでは、2018年7月リリースの遺跡探検考古学アクションアドベンチャーゲーム『LA-MULANA2(ラ・ムラーナ2)』(開発:NIGORO)に登場するルームガーター“ラタトスク”とのバトルシーンを同ソフトで再現したバージョンが、プレイアブル展示された。

 また同ブースでは、『アクションゲームツクールMV』との連携が正式発表された“超汎用” 2D アニメーションツール“OPTPiX SpriteStudio(以下、SpriteStudio)”の開発元であるウェブテクノロジとのコラボレーション・トークショウを開催。“アクションゲームツクールMV版・LA-MULANA2”の制作秘話が、赤裸々に語られた。

“目コピ”で再現された『LA-MULANA2』がスゴかった!! デジゲー博のトークショウリポートをもとに『アクションゲームツクールMV』の汎用性の高さを検証する_01

“OPTPiX SpriteStudio”との機能連携あってこその高水準&短期間開発!!

 “アクションゲームツクールMV版・LA-MULANA2”の制作を担当したKADOKAWAのデザイナー・門田洋平氏によれば、『LA-MULANA2』の開発で実際に制作・使用されたSSPJデータ(“SpriteStudio”のプロジェクトデータ)を渡されたのが、イベントの2週間前だったとのこと。

 当初はガーディアン(ボスキャラ)の“ファフニール”とのバトルシーンを再現する予定だったが、スケジュールと工数を考慮した結果、ルームガーター(中ボス)の“ラタトスク”に変更。プレイヤーキャラ“ルミッサ・小杉”の動きの再現を第一に、開発を進めたという。

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KADOKAWAゲーム開発部デザイナーの門田氏。プログラミング経験なしで公式のサンプルゲームを制作してしまうほど『アクションゲームツクールMV』に精通している。今回に関しては「(オリジナル版を)85%くらいは再現できているかな」と自己評価した。

 “SpriteStudio”で作成したアニメーションデータは、『アクションゲームツクールMV』でそのまま読み込めるため、パーツ単位の再現は問題なくできたが、動きに関するデータは一切なし。各キャラの挙動を再現する際には、オリジナル版『LA-MULANA2』を同時に立ち上げて、微妙なタイミングを“目コピ(目で見てコピー)”で調整していったそうだ。

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“アクションゲームツクールMV版・LA-MULANA2”の画面。解像度はオリジナルの半分ながら、グラフィックや各キャラの動きのぱっと見に関しては、何ら遜色ない水準で再現されていた。

 門田氏は、今回の制作にあたって、いくつかの“力業”を用いたことも明かした。その中でも驚きだったのが、背景の再現法。パーツ状の元データを組み合わせたのではなく、オリジナル版のゲーム画面のスクリーンショットに、地形物としての衝突判定を手作業でつけ加えて再現したとのことだ。

 この方法では多重スクロールなどの凝った背景演出は表現できないが、1画面の見た目をひとまずそれっぽく再現するぶんには十分成立することが明らかになった。

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タイトル画面のメラメラとゆらめく表現は、実物の画面を並べて見比べながら、『アクションゲームツクールMV』のパーティクル・システムで似たものを作った……と門田氏。元データを精査し、正確に配置・使用していく時間的余裕がなかったがゆえの代替策ではあるが、逆に『アクションゲームツクールMV』の機能の汎用性の高さが証明された。

 今回のトークショウに特別ゲストとして参加したNIGOROのディレクター・楢村匠氏は、“アクションゲームツクールMV版・LA-MULANA2”の出来ばえに興味津々。とくにルミッサのジャンプの挙動に関しては「ツールを見て“(ジャンプ関連の)設定項目はこれしかないのか”と思っていたので、これだけ再現できているのはすごいですね」と、感心していた。

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自己紹介で「今回は素材を提供しただけです」とぶっちゃけ、会場の笑いを誘った楢村氏。“アクションゲームツクールMV版・LA-MULANA2”をプレイしながら、ラタトスクの残像表現やキャラのダメージ処理について、門田氏に尋ねていた。

 門田氏によれば、垂直方向と斜め方向で異なるオリジナル版のジャンプの仕様を個別で実装し、リアルタイムで条件分岐させることで再現したとのこと。また、ジャンプ中に細かくポーズを変えるアニメーションに関しては、「アニメーション素材さえあればノードを組んで比較的簡単に再現できます」と、実際にオブジェクトのツール画面を開きながら解説した。

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 改めて『アクションゲームツクールMV』の印象について尋ねられた楢村氏は、「僕はプログラミングしない人間なので……」と前置きした上で、「これから先あといくつゲームを作れるかわかりませんが、1本くらい自分ひとり作りたいと思い、そういうツールをずっと探していました。『アクションゲームツクールMV』は仕様さえ理解してしまえば、標準機能でできないことも工夫で対応できそうですね」とコメント。2Dグラフィックのアクションゲーム制作に特化したツールとして好意的な印象を持ったことを明かした。

 続けて楢村氏は「『アクションゲームツクールMV』で『LA-MULANA2』をここまで再現できるということは、裏を返せば、ツールなんて何でもいいと思います」と、いちインディゲーム開発者としての持論を展開。「ツールは大事だけど、どこまでいっても“道具”なんです。自分が作りたいものがあって、その理想に合うツールかどうかを各自で触って判断してもらいたいですね。僕の場合『アクションゲームツクールMV』は、アニメーション作成ツールの構造がほかのツールの標準的なスタイルと異なる点が気になったのですが、そこは(『LA-MULANA2』の制作で使い慣れている)“SpriteStudio”で作ったものをインポートすれば解決できる問題なので、魅力的なチョイスのひとつです」と、両メーカーが胸をなでおろす落としどころでまとめた。

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「ゲームの専門学校にいくと皆ツールの使いかたの話ばかりしているけど、“どうやったらおもしろくなるか”の方が重要。どんなツールでもいいので“こういう出力ができた”ということで話し合ってほしいですね」と、楢村氏。

 イベントの最後で、『アクションゲームツクールMV』プロデューサー・最上昇氏が同作の現状について説明。「必要な機能をどんどん追加していくのがアーリーアクセス期間だと思っています。これからも多くの方に触っていただけるよう展開してまいりますので、ソフトへの要望をどんどん寄せてください!」と同製品をアピールした。

 そこですかさず楢村氏が「データベース機能はほしいですよね」と、フラグ管理が膨大になるゲームを作る際に必要な機能の実装をリクエスト。競合するソフトにもデータベース機能を標準で備えているものがないこともあり、最上氏は「ご指摘の通り、データベ―ス機能は作らないとまずいかなーと思っています」と含みのある発言を残しつつ、イベントは無事終了となった。

※このイベントの後日、『アクションゲームツクールMV』製品版リリースの延期が正式に発表された。バグフィックスなどに加え、さらなる品質向上が図られるとのことで、今後の仕様追加にも期待が高まる(関連記事は以下のリンクを参照のこと)。

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角川ゲームスの数々のタイトルのプロデューサーを務めてきたきた最上氏。トークの流れの中でリリース時期の話題になった時は「“その質問はなしで”って事前に言っておけばよかったな」と苦笑いしていた。

ウェブテクノロジ・ 浅井維新氏ミニインタビュー

 イベント終了後、今回の司会進行を務めたウェブテクノロジのセールス&コミュニケーション部マネージャーの浅井維新氏に、『アクションゲームツクールMV』と“SpriteStudio”のコラボレーションの経緯、そして今回新たに発表された“SpriteStudio”の新製品(ライセンス)の詳細について尋ねてみた。

──両ソフトの機能連携を持ち掛けたのは?

浅井KADOKAWAさんから「勝手に対応したけど、いいですか?」という連絡がきたのが最初でした。僕たち側から提案しにいこうと思ったので、「いいです」とお返事しました。

──勝手にって……いいんですか?

浅井もともと“SpriteStudio”のSDK(ソフトウェア開発キット)はGitHub上で公開して、「皆さんご自由に使ってください」というスタンスなので、何の問題ありません。

──ウェブテクノロジさん側からアプローチするつもりだった、ということは、『アクションゲームツクールMV』に寄せる期待があったと。

浅井RPGツクール』のシリーズ作で、RPG以外のいろんなジャンルのゲームを無理して作っているケースをずっと見てきたので、アクションパズルゲームとかをライトに作れるツールが出てこないかなと思っていました。昔あった『アクションゲームツクール』(※2009年にエンターブレインから発売された2Dアクションゲーム制作ソフト)みたいなものが……と思っていたら、じつは作っていたと知り、驚きましたね。

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Unity、Unreal Engineなど名だたるゲーム開発環境と機能連携している『SpriteStudio』のさらなる普及のため尽力する浅井氏。イベント当日は、軽妙なトークと洒落っ気(毒気?)たっぷりのオリジナルステッカーを振りまいていた。

──コラボレーション発表に合わせて、“SpriteStudio”の個人向け新製品“OPTPiX SpriteStudio Personal”がアナウンスされました(※リリース予定は2019年初頭)。これは従来の同人サークル・個人クリエイター向けライセンス『OPTPiX SpriteStudio for Indie』の発展形と考えてよいのでしょうか?

浅井そう思っていただいて構いません。月額880円という低価格で、プロ向けのスタンダードライセンス版の機能をほぼそのまま使えるものになる予定です。インディーライセンスを長年使ってくださった皆さんには、優先的にパーソナルライセンスの情報・機能を提供していきたいと思っています。現時点ではすでに最新のβ版も提供しています。

──今回のコラボレーションは、ウェブテクノロジさんが予定していたリリースのタイミングにたまたま合った……ということでしょうか。

浅井パーソナルライセンスを作ろうとは前々から思っていたのですが、僕たち自身、どのタイミングで出せばいいか悩んでいました。そんな時に『アクションゲームツクールMV』が今年の後半に出るよという話があって(※2018年初頭時)、いよいよやらなければならないなという空気が部内に生まれ、やっと本格的に動き出したのが実情です。きっかけは、最初にお話ししたKADOKAWAさんからの電話なんです(笑)。