「この曲を聴いたら泣いてしまう」という曲が、何曲かある。パブロフの犬が鐘の音を聞いたらヨダレを垂らすように、その旋律が耳に入ると、胸が締め付けられるようになって、必ずと言っていいほど、涙がこぼれてしまう。
そのひとつが『ゼルダの伝説』のメインテーマだ。
2018年11月22日、東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで、約2年ぶりとなる『ゼルダの伝説』シリーズのオーケストラコンサート“ゼルダの伝説コンサート 2018”が開催された。本稿ではその模様をリポートする。
チケットは全席完売! 会場の熱気も最高潮
チケットは前売り時点で完売。会場には熱心な『ゼルダ』ファンが詰めかけ、開演前には、グッズ物販の列がなんと1階から3階まで形成されるほどに!
コンサートの幕開けとなる1曲目は、 “ブレス オブ ザ ワイルド より「メインテーマ」”。回生の祠から目覚めてあの広大な台地を目にする瞬間がモニターに映し出され、プレイ時に味わったあの感動を思い出す。
続いて“ブレス オブ ザ ワイルド メドレー -ハイラルの大地-”では、この日のために編集された『ブレス オブ ザ ワイルド』のゲーム映像が流され、作中の印象的なシーンが立て続けに映し出される。
3曲目の“ゼルダ姫のテーマ”では、やさしい旋律とともに『ゼルダの伝説 時のオカリナ』や『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』、『ゼルダの伝説 風のタクト』など、ゼルダ姫にまつわるシリーズ作品の映像が流れる。
取材に行った記者は、「仕事なのだし、どんな曲を聴いても泣くまい(せめてメインテーマまではガマンしよう)」と思いながら演奏を聴いていたのだが、この時点で落涙していた。抗おうとしていたのが愚かだった。ガマンするのは無理でした。
本公演では、特別編成でオカリナ、アコーディオン、ハープというシリーズ作品中でも登場してきた3つの楽器が導入されていた。中でもオカリナは“組曲オカリナメドレー”として、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のゲーム中でリンクが演奏する曲の数々が生演奏で披露されるという趣向に。シンプルだが耳に残るメロディーラインの曲が多く、透き通るようなオカリナの音色となんともマッチする。
「ゲームではコントローラのボタン数の関係で5音(+半音)しか使われていないのですが、じつは日本の童謡や唱歌などにも5音しか使われない曲というのはありまして、そのぶん心に残るメロディーが多いんです」(ホンヤミカコ氏)
と、童謡『夕焼け小焼け』や『さくらさくら』の一節を、オカリナ奏者のホンヤミカコ氏が即興で演奏するという場面も。『時のオカリナ』に登場するオカリナの曲がシンプルながら印象に残るのには、そんな理由もあるのかもしれない。
“ボス戦闘曲メドレー”では、シリーズを彩ったボスたちとの戦いの曲が、実際のプレイ映像とともに演奏された。ああ、こいつと戦ったこと、あるなあ。激しい戦いの記憶が蘇る。
“神々のトライフォース2 & 3銃士メドレー”、そして“ブレス オブ ザ ワイルド 英傑メドレー”と続き、コンサート第一部が終了。
『夢を見る島』メドレー&アコーディオンの生演奏が涙を誘う
20分の休憩後、第二部がスタート。第二幕の幕開けとなった“夢を見る島メドレー”は、ストーリーをなぞりながら演奏が進行するという内容。
不可思議なコホリント島の生物たち、少し寂しげなメロディーを持つ『かぜのさかなのうた』を歌うマリン、タマランチ山頂にある大きな卵……。
印象的なシーンがつぎつぎとあらわれる。
『ゼルダ』史上に残る“泣ける”ストーリーとエンディングが思い出される映像を見つつ、目の前では超ハイクオリティーな生演奏。これはもう、涙がとどまるところを知らない。気づけば涙が滝のように流れ大号泣していた(そこかしこからも、涙をすすり上げる音が聞こえました)。
続いて、アコーディオン奏者の津花幸嗣氏による解説も交えつつ“ブレス オブ ザ ワイルド カッシーワメドレー”、“競馬”と、アコーディオンがフィーチャーされる曲目に。
“ゼルダの伝説 ~ハープの調べ~”では、ハープ奏者の山宮るり子氏が、ハープという楽器の解説を行った後に演奏。
そして、ここでスペシャルゲストとして任天堂の藤林秀麿ディレクターが登場!
本日のために秘蔵資料を持ってきたとのことで、数枚の開発資料をスクリーンに映し出しながら魔獣ガノン戦の開発秘話を語る藤林氏。その後の演奏中には惜しげなくガノンとの最終決戦シーンが映し出される。
最後の曲目は“ゼルダの伝説メインテーマ”。ハープとオカリナ、アコーディオンの哀愁漂う小編成で始まった演奏は、次第に楽器数を増やしながら主旋律を演奏していくという仕掛け。『ゼルダ』と言えば思い浮かぶあの曲が、コンサートのクライマックスにふさわしい圧倒的な迫力で、情感たっぷりに奏で上げられた。
アンコールは2曲! 超レアなシークレットゲストも登場!!
最後の曲の後も拍手が鳴り止まない中、MCの嶋村さんとともに登場したのは、任天堂の近藤浩治氏。
『ゼルダの伝説』や『スーパーマリオブラザーズ』の音楽制作を歴任してきた近藤氏。作曲者みずからがピアノ演奏を披露するという、レアな展開に!
近藤氏によるアンコール演奏が終わっても鳴り止まない拍手の波に、竹本氏とオーケストラが三度ステージ上へ。近藤氏によるアンコール演奏が終わっても鳴り止まない拍手の波に、竹本氏とオーケストラが三度ステージ上へ。
嶋村さんの「私の気持ちとみなさんの気持ちが同じだと嬉しいのですが……」というコメントからの2度目のアンコールでもう1曲、竹本氏とオーケストラによる“あの曲”の演奏を経て公演は幕を閉じた。
本公演のセットリストは以下の通り。
●第一部
- ブレス オブ ザ ワイルドより「メインテーマ」
- ~ブレス オブ ザ ワイルドメドレー -ハイラルの大地-
- ゼルダ姫のテーマ
- 組曲オカリナメロディー2018
- ボス戦闘曲メドレー2018
- 神々のトライフォース2 & 3銃士メドレー
- ブレス オブ ザ ワイルド 英傑メドレー
●第二部
- 夢を見る島メドレー
- ブレス オブ ザ ワイルド カッシーワメドレー
- 競馬
- ゼルダの伝説 ~ハープの調べ~
- ブレス オブ ザ ワイルドメドレー -決戦-
- ゼルダの伝説メインテーマ
- アンコール
以上が、ゼルダの伝説コンサート2018リポートの全容となる。
それにしても感動した。コンサートリポート記事を書くたびにその難しさを痛感させられる。どうすれば音の出ない媒体で、文章でこの感動を伝えることができるだろうか。いくら言葉を費やしても、演奏のすばらしさ、生の感動を伝えきることは難しい。
コンサートが終わったときに包まれたあの感動、“言葉を超えた感動”と言い換えてもいいかもしれない。言語を超えたところにあるものを、どうやって言葉で伝えられるだろう……。
そう考えていると、ひとつのことに思い当たった。
言葉を超えた感動、言い表すことができないような大きな感情の昂り。これこそが『ゼルダ』というものではなかったか。
僕はこの感動をひょっとしたら知っている。ああそうだ、『ゼルダの伝説』をクリアーしたときに感じる、言いようもない、しみじみとしたあの気持ちだ。長い旅を終えて、身震いするようにうれしい。でも少し、寂しい。ゲームを終えたときのあの感動が、ひとかたまりになってぶつかってくる。
今度誰かに「ゼルダのコンサートどうだった?」と聞かれたら、こう答えよう。
『ゼルダ』を全クリしたときと同じくらい、感動したよ!
最後に
ゼルダの伝説コンサート、ここまで書いてきたように、非常にすばらしかった。ただひとつ、言っておきたい不満がある。
それは、公演回数が少なすぎやしないかということだ。
2年ぶりの開催って! そして東京2公演、大阪2公演の全4公演って!! もっと頻繁にやってよ! ねえ! いっそ全国ツアーとかしてくださいよ! せめて回数を半年に1回……いや、1年に1回でもいいので! ねえ! どうですか任天堂さん! そして主催のプロマックスさん! ねえ!
……コホン、少々取り乱してしまった。
ちなみに、最終公演となる2018年12月14日の回は、ニコニコ生放送での配信(有料)もある。本記事ではお伝えしきれなかった部分も存分に楽しめると思うので、興味がある方はチェックしてみてはいかがだろうか。
URL:http://live.nicovideo.jp/gate/lv316759742