いきなり本心が出てしまった。40歳の足音が聞こえてくるとき、全おじさんはこういう夢を抱くようになっている。
絶対に、だ。
僕、ミス・ユースケとしては個性的な眼鏡っ娘がいい。力技で夢を叶えるためにオリジナルのメガネを作った。
せっかくなので、ゲームやPC作業に最適なレンズを入れたい。ゲーミング眼鏡っ娘になりたいのだ。
そこで、ゲーミンググラス(ゲーム向けの機能を有したメガネ)“G-SQUARE アイウェア(以下、G-SQUARE)”を作っているニデックにレンズを入れてほしいと相談。冗談は通じるのか。
「いいよ」と返事をもらったので(※)、愛知県蒲郡市のニデック本社に行きました。
(※記事用に特別に対応してもらいました。ふだんからこういうサービスを実施しているわけではないので要注意)
ついでに、ゲーム用・PC用メガネについてずっと抱えていた疑問をぶつけたい。ブルーライトカットとかって意味あるんですか? と。
一瞬、取材現場が凍りついたことを先にお伝えしておきます。
ニデックはただのメガネ屋ではなかった
訪問の目的は、僕オリジナルの蝶型メガネフレームに、G-SQUARE用のレンズを入れてもらうこと。
G-SQUAREは、ニデックがサポートするプロesportsチーム・DetonatioN Gamingと共同開発したものだ。
レンズ部分のおもな特徴
- ブルーライトをカット
- まぶしさを軽減
- コントラストを強調して画面が見やすく
とはいえ、ゲーム用メガネと言われても、効果的かどうかよくわからない人もいるだろう。じつを言うと、僕もである。
それなのに、何だか妙にひかれてしまう。恋か。また、ニデックはもともとゲーム業界の会社ではないということもあり、G-SQUAREを知るまでは名前を聞いたことがなかった。
どんな会社が作っているのか知りたかったので、事業内容についても説明してもらった。
ショールームに入ると、壁の画像に目が釘付けになった。
稀代の画家による絵画並みに有名なこの画像。「あ!」と声を上げた人も多いだろう。
視力のいい人はピンと来ないかもしれないので、念のため説明する。眼科やメガネ店の視力測定器をのぞき込むと、この気球が見えるのだ。
眼鏡っ娘の心のふるさとみたいな画像が、なぜここに。

その装置はうちの製品ですから。

ニデックには医療機器メーカーとしての側面があるんです。眼科分野が中心の。検査機や手術用の機器を作っています。
チャクラがびかびかびかーっと開いた。
ニデックは検査装置を作っている。眼の検査で気球を見る。もともと断片的に知っていた2点の情報がつながった。僕らは知らず知らずのうちにニデックに触れていたのだ。
名探偵だったら関係者を広い部屋に集めているところである。犯人がわかりました。気球を見せているのは……ニデックです。
そして、しれっと登場人物が増えているが、広報課の菊池さんにも同行していただいている。

気球を見る検査装置を作っているメーカーはゲーム用メガネも扱っている。合コンで披露したら眼鏡っ娘にウケそうですね。

ちなみに、気球つながりで熱気球パイロットのサポートもしています。

何そのアグレッシブな理論展開。

ほかの機器も説明しますね。こちらは眼科の診断で使う装置です。表面の角膜から奥の網膜までの長さを測ります。

角膜の細胞の状態を診る装置です。角膜内皮細胞と言いまして、再生しない細胞なんですね。
炎症を起こしたりすると、細胞が減ったり形が悪くなるので、その状態を調べます。

これは光干渉断層計と言います。網膜の断面図を診る装置です。
眼の奥から発症する病気の場合、表面に見えてくる頃にはだいぶ進行してますよね。そうなる前にわかるわけです。

へぇー。全然わからん!

これはわかりやすいと思います。エキシマレーザ角膜手術装置。いわゆるレーシックの手術装置です。

やっと知ってる言葉が出てきた。超ざっくり言うと視力を回復させる手術ですよね。

国内メーカーだと薬事承認を得られているのはニデックだけです(2018年8月現在)。

ドヤ顔の圧がすごいので太字にしておきますね。

難しいと頭を抱えているユースケさんに朗報です。もうちょっとポピュラーな手術の装置もあります。

まだ人生で「やったー! 有名な手術だー!」ってテンション上がったことはないですけど。

白内障です。多くは加齢から来る病気なので、80代くらいになると、大半の人に症状が見られるんですよ。程度の差はありますけど。
レンズの役割をしている水晶体が白く濁るので、濁ったものを取り除いて、きれいにしてから眼内レンズを入れます。

大半の眼科用装置を扱ってますので、眼科を開業する際はご連絡くださいね。万全のサポート体制で待ってますから。

そんな予定ねえよ。

それと、メガネレンズの加工機も作っています。メガネは医療機器の一種ですから。

要はメガネを作る機械って感じですよね。メガネの生みの親の、さらに生みの親。ニデック=メガネにとってのおじいちゃんおばあちゃんだ。

うちのレンズ加工機を使っていただいているメガネ屋さんは多いです。○○○○さんですとか、○○○○さん、○○○○さんも。

うおおおお。全部聞いたことある。
メガネと言えば福井県鯖江市が有名だ。国産メガネフレームのシェア96%を誇り、メガネの一大イベント“めがねフェス”も開催されているほどに。
その鯖江市がメガネの総本山だとしたら、ニデックはお釈迦様だ。すべてのメガネっ子はニデックというお釈迦様の掌で暴れる孫悟空だったのだ。

眼科はともかくメガネ屋さんを開く可能性はあると思うんですよ。連絡待ってますからね。

隙あらば業務用の装置を売ろうとするのやめてもらえません?

事業の柱はもうひとつあって、それがいろいろな素材に付加価値をつけたり染色したりする“コーティング分野”です。
わかりやすいのは反射防止膜。たとえばテレビのディスプレイに光が反射すると見にくいですよね。それを抑制します。
付加する効果はクライアントの要望にあわせて、必要であれば開発もします。傷や汚れがつきにくくしたり。

レンズの表面に反射低減のコーティングをするときは“蒸着”という技術を使います。気化させた材料を素材に付着させるんですね。
“お湯を入れたカップラーメンのふたを開けると水滴がついている”みたいな様子をイメージするとわかりやすいと思います。

ちなみに、染色には少し違う技術を使います。メガネのレンズって染料にどぶ漬けするのがふつうなんですけど、それだと細かく色分けできない。
でも、我々の技術を使うとマルチカラーにできて、すごく薄いレンズにも色づけできる。これがうちの特許です。

ほほう、特許。自慢ですか?

自慢です。

こういった技術を転用して作ったのが、G-SQUAREのレンズ部分。蒸着でハニカム状のコーティングを施しています。これが“レクアメッシュ”。防眩(ぼうげん)コートと言われるものです。

簡単に言うとまぶしさ防止ですよね。サングラスみたいに外でつけてもいいんですか?

うーん、サングラスとまったく同じ効果があるかと言われると、完全に保証できるわけではないですね。
このハニカムコーティングが使われている現場だと、車の塗装の検査ライン。バーッて照明が並んでいるトンネルを車が通るんです。検査員が目視でチェックするんですけど、非常にまぶしくて見づらい。

そうか。色付きサングラスだと色の見えかたが変わるから。

その通りです。だから、ハニカムコートの検査メガネをかけて作業するんです。ギラつきが少なくなるので、傷やへこみがはっきり見えて目が疲れにくいと評価していただいてます。
G-SQUAREレンズも同様ですね。まぶしさを防止して画面を見やすく。

最初は“眼科医療の会社”なのかなと思ったんですけど、“視えかた”に関することを広く扱う会社なんですね。だから、画面を集中して見るゲームと相性がいいんだ。くー、わかってきた!

esports用メガネってうさんくさいなーと思ってたんですけど、もしかしてニデックさんってすごいメーカーなんじゃないですか?

恐縮です。前半の物言いは気になりますけど。

そのうち眼そのものを作っちゃったりして。

眼そのものはさすがに無理ですけど、近いことはやってます。

は?

人工視覚の研究をしているんです。失明した人に電極を付けて、網膜に電気刺激を送るんですね。それが脳を伝わって見えるようになるという感じで。

夢ですよね。まだまだ実用化には至っていないですけど、目の前で手を動かしたら「何か動いてるな」と認知できるところまではきてます。
これは本当に興奮した。研究が進んだら病気やケガで目が見えなくなった人とゲームできるようになるかもしれないのだ。もはや神の領域ではないのか。
ゲーム仲間が増える。単純だけど、僕らにとっていちばんうれしいことだ。想像するだけでわくわくが止まらない。

ところで、この石は何ですか?

根尾谷で採れる“菊花石”という観賞用の貴重な石です。模様が「ニデック」に見えるということで、ここに飾っています。

私が入社したとき、この石をすごくアピールしてました。「何なんだこの会社」って思いましたね。
夢のあるシステムに感動した後はきれいな石である。振れ幅が大きすぎてくらくらする。
何なんだこの会社。