オッス! オラ亀井ライダー。20歳になったばかりの新人ライターだ!
え!? なぜ女性なのにそんな無茶な出だしからスタートするのかって? だって、担当編集からいきなり仕事を無茶振りされたんですもの。やさぐれて無茶な挨拶から始めたくなるのも人情というもの。何が無茶かって? だって、たまたま編集部にいたら、「これから2時間後にヒットマンが来るから相手をしてよ」と言ってきたのだ。
「ひ、ヒットマンですか!?」
と、軽く私がのけぞったのも無理からぬところ。「何で編集部にヒットマンが?」、「この私の眼の前にいるうだつの上がらない編集者に、ヒットマンを仕向けるキトクな人がこの世界にいるのか?」、「ひっとまん……どおくまんの親戚かしら?」などと、あらぬ妄想が頭を駆け巡った。ところがこの混乱は担当編集の言葉足らずが要因で、実際のところは、「『ヒットマン2』のオフィシャルアンバサダーであるマフィア梶田さんがヒットマンの姿に扮してPRのために編集部に来るから、その対応をしてほしい」ということだったのだ。担当編集者端折り過ぎ!
ちょっとイラっときたが、ここは新人ライターの立場もあるゆえ、軽やかに快諾し、「それにしても急ですねえ」と愛嬌いっぱいに語りかけると、担当編集者は「忘れていたんだ、テヘ」と、悪びれもせずに、アラフィフとも思えない面妖な笑顔で返答。私が、「いっそ、ヒットマンの餌食になってしまえ!」と、心の中で叫んだことは言うまでもない。
さて、今回わざわざ訪問してきてくれた見た目そのままヒットマンのマフィア梶田さんの目的は、ターゲットの暗殺……ではもちろんなくて(そんなことをしたら犯罪になってしまうので)、悩みをターゲットに見立てて、その“悩み”を鮮やかに始末するという、“お悩みヒットマン”という役どころ。
悩みとな……。
それは生きていれば誰でも悩みのひとつやふたつはあるもので、私こと亀井ライダーもその例外ではないが、いかんせん人間関係にも恵まれており(担当編集を除けば)、毎日楽しく生きているので、切実な悩みは一切ない(と、断言!)。真剣に相談する悩みはないなあ……と、困っていたところにふと気づいた。そもそも、記者は新人ライターであり、今後この世界で食べていけるかどうかが、激しく不安なのだった。そしてマフィア梶田さんは、ライターとしては大先輩ではありませんか。というわけで、先輩に新人ライターとしての悩みを聞いてみることに……。社会人らしく、しっかりと名刺交換をしたあとで、おもむろにマフィア梶田さんに悩みを聞いてみた。
ちなみに、念のために説明しておくと『ヒットマン2』とは、ワーナー ブラザース ジャパンより2018年11月15日に発売予定のプレイステーション4、Xbox One用ステルスアクションゲーム。プレイヤーは、伝説の暗殺者である“エージェント47”となり、周囲の状況や自らの武器を使用し、さまざまな暗殺方法でターゲット抹殺のミッションに挑戦していくことになる。暗殺方法の幅の広さがとにかく魅力の1作だ。
ライターとして必要なものは“出会い”
――今日はよろしくお願いします。この業界は生き延びるのが大変だと先輩からよく聞くのですが、仕事を取ってくるにはどうすればいいのでしょうか?
マフィア梶田たしかに、この業界は生き抜くのが大変なのは間違いない。いましている仕事があるのなら、その仕事を受けつつ、取れる仕事は何でも取るという精神が大事だ。仕事を取ってくるにはどうすればいいかは、もう間違いなく一番大事だと言えるのが“出会い”。まず人脈を作るのがとても大切で、この業界の人たちがいっぱいいるところにとりあえず顔を出して、どんどん人の輪を広げていこう。そうすることで、仕事が自然ともらえるようになる。そうやって仕事をこなしていくうちに、どんどんキャリアアップして。自分で稼げるお金を増やしていくんだ。逆に、それができない人は生き残れない。そうならないためには、自分の武器を作って、ゲーム業界で求められるようになること。つまりは、ちょっとくらい高いギャラを払ってもいいと思われるライターになることだ。
――たしかに、47も暗殺術に長けているから、引く手あまたですものね。無理くり『ヒットマン2』に寄せますが……。
同期はライバルではなくて “戦友”
――とても参考になりました。人脈が大事なのですね。ありがとうございます。つぎの質問なのですが、いま、私のほかに同期の子がふたりいて、最終的にライバルのような関係になると、うまくやっていけるのかどうか心配です。
マフィア梶田なるほど。昨日の友が今日の敵になるのが心配だということだね? そこは、俺の実感で言わせてもらうと、あまり気にしなくていいと思う。これは環境によるのかもしれないけれども、この業界は万年人手不足なんだよ(笑)。仕事ができる人はパンクするくらい仕事をもらっているんだ。つまり、お互いが武器を持って、求められるライターになれば、引張だこになってライバル関係にはならない。むしろ、ライターどうしの関係というのは、ライバルというよりは大きな武器になる。
――武器ですか?
マフィア梶田そうだよ。ライターの知り合いがいると、いざというときに頼れるんだ。たとえば、自分の仕事が手一杯のときに、その同僚を紹介できるし、同僚が仕事を回してくれるかもしれない。あるいは、自分が受けた仕事が回せきれないときに、変わりに仕事を引き受けてくれるかもしれない。言ってみれば、持ちつ持たれつの関係だね。だいたいは、ライターの世界はそれで成り立っているところもある。さっき話した“出会いが大事”というのといっしょの話で、だからあんまり心配することはないと思う。もともと仲が悪いとかそういうのでない限りは。もしかして、バチバチにやりあっていたりとか(笑)?
――いえ、ぜんぜんそういうのはないので大丈夫です(笑)。
マフィア梶田それならライバル関係にならないね。むしろ“戦友”として、大切にすべきだ。同期でいっしょに生きてきたという気持ちがあるから、いい関係になれると思うよ。
破られない締切はない!
――ありがとうございます、安心しました。つぎの質問なのですが、先輩のライターさんが編集さんから「なんで締切通りに原稿をよこさないんだ」と怒られていて、私は絶対にそうはなるまいと思っています。なぜ締切は守れないのでしょうか。そして守るコツがあれば教えてください。
マフィア梶田ストレートな悩みだね。原則、締切は守るもの。まだ仕事を始めて1~2年のライターが締切を破るのはあり得ない。それはもう、仕事はいらないと言っているのといっしょだから。締切を絶対に守るのは当たり前のことで、できればライターを続けていくうえで、一生守り続けてほしいことなんだけど……。俺が思うに、締切をずっと守っているライターなんていないと思う……。
――え!? そうなのですか?
マフィア梶田正直な話、ライターをやっている限り、必ず締切を破る瞬間は出てくる。
――や、やけにきっぱりと……。
マフィア梶田ただしだ! そこで、10回中10回破るライターと10回中1回破るライターがいるから、10回中1回破るやつになれ。前者は食べていけないから。で、守るコツというのは……。まあ、コツなんてものが存在すれば締切なんて破らないんだけども(笑)。これに関しては自己管理能力かもしれない。仕事がもらえるようになると、調子に乗って受け過ぎてしまって、とある瞬間に自分の限界が見えてパンクするという経験をするかもしれない。ある意味では、それを経験しないと自分の限界値は見えないんだけれども。
――そんな日が来るのが怖いような気もします。
マフィア梶田でだ、そういう状況に追い込まれたときに、頼れるのはさっき言った仲間、“戦友”だ。パンクしたときに「もう駄目だ」とあきらめるのではなくて、あふれた分の仕事を何とか任せられる人を見つけておく。その分自分の信頼は守られるし、ほかの仕事のクオリティーを落とさずに済む。これは絶対に大事なことだ。間違っても、パンクしたときに何もかも放り出して逃げて、連絡もつかなくなるようなライターになってはいけないよ。
――ああ、そんなこともあるのですね?
マフィア梶田仕事をもらっている責任感がない人間には絶対になってはダメだ。だから、締切を守るコツがほしいというなら、いまのうちに頼れる人間をいっぱい作っておくこと。つまり、日ごろからかわいがられるように、真面目に立ち回っていろいろな先輩や編集者さんとかに「こいつだったら面倒を見てやろう」と思われるような存在になることだ。それが締切を守る近道かもしれない。このへんは全部つながっているね。
言い張るうちにそれが得意分野になる
――なるほど……。精一杯頑張ります。つぎの質問です。先輩から「自分の得意分野を作れ」と言われるのですが、いまひとつ思いつきません。どうしたらいいでしょうか?
マフィア梶田先ほどの “武器”だね。それは、作れと言われて作るものではないと、正直思う。ライターになりたくてこの業界に入ってきたなら、どんな記事が書きたくてこの業界に入ってきたんだろう、という話になるよね。この世界に入りたいということは、自分の書きたいモノがあったはずで、それがキミの得意分野のはず。つまり、「人よりよく知っている」とか、「人よりこれが好きなんだ」というモノがあるなら、それが得意分野なんじゃないかな。得意分野を聞かれて悩むというのは、おそらく自信がないんだと思う。
――う……。それはあるかもしれません。
マフィア梶田そこは、「これが自分の得意分野です!」と言い張ってしまっていい。そんなに得意じゃなくても、言い張ることで周りの人がそう思ってくれるから。そうやって数をこなしていくうちに、本当の得意分野になっていくんだ。書き続けていくと運命の一本みたいなモノに出会って、その瞬間に自分の得意分野が開花する。「あ、俺はこれが得意だったんだ」、「俺の書いたこの記事を喜んでくれる人がいっぱいいるんだったら、きっとこれが俺の得意分野なんだ」というふうに、やっていくうちに見つかっていく。書きたいものを書き続けていくうちに、そういう出会いは絶対にある。得意分野を作れと言われると難しいのかもしれないけど、そもそも作るものじゃないという意識でいれば、楽だと思う。「自分はこれが好きでこの業界に入ったから、これだけはしっかり語れるように、人から聞かれたときにおもしろい話ができるようにしておこう」という気持ちでいれば大丈夫だ。
――まさに、いま私『仮面ライダー』のビデオを見ているところなんですよ! というのも友人に“亀井ライダー”というペンネームを付けてもらったのですが、実際のところ一切見たことがなくて、『仮面ライダー』の話題になったらどうしようかなと思って……。
マフィア梶田そういうノリは大切かもしれない……。ちなみに、歴代ライダーだと何が?
――『仮面ライダー電王』は子どものころに見ました。
この業界、出会いがないのは事実(男性は)
――では、最後の質問となるのですが、担当編集さんの方から「この業界は出会いがない」と脅されているのですが、恋人がほしくもあります。どうすればいいでしょうか?
マフィア梶田なるほど。この業界に出会いがないと脅された? 間違いなく正しい(笑)。ただ、それはキミの場合は当てはまらない。なぜならこの業界は断トツで男社会で、男の数が圧倒的に多いからだ。出会いがないと言っているのはだいたい男なんだよ。女性はむしろ少ないから、選り好みさえしなければ、いくらでもいる。
――たしかに、編集部を見回しても女子率かなり少ないかも……。
マフィア梶田出会いって「こういうタイプと出会いたい」という理想があるから、それが実現できないと、「出会いがない」ということになるかもしれない。もし、自分の理想のタイプに出会いたいのであれば、これも最初の話に戻るけれども、自分からいろいろな業界の人と出会える場をどんどん増やしていくことだね。この世界って、広いようでいてじつはすごく狭いから、出会える相手というのはけっこう幅広いんだよ。ゲーム関係はもちろんのこと、アニメ業界、映画業界、マンガ関係、広告代理店、さらに言えばそこから派生して、IT企業やアパレル関係などなど……。出会おうと思えばいくらでも出会える。で、顔の広い人間も多くて、知り合いの知り合いの知り合いとかでどんどんつながっていけば、出会えない人間はいない。それこそ、いま俺がいろいろな仕事をやっているのも出会いがあってこそだから。いまもこうして『ヒットマン2』のアンバサダーをやってキミと話をしているのも出会いがあればこそ。キミだって、これからどんどん出会いを増やしていけるし、選べる立場にいるんだ。大丈夫。問題ない。
――たしかに! 梶田さんとの出会いも縁ですものね。担当編集者さんの無茶振りがなかったら、こうしてお話することもできなかったです。かといって、担当編集者さんには感謝する気は一切なれませんが!
マフィア梶田(笑)。
――何はともあれ今日はありがとうございました。新人ライターとして、とても参考になりました。これから私は、まず締切を守ることを大前提にがんばりたいです。そして、頼れる人も作っていきます!
マフィア梶田人に頼ることを躊躇してはダメだね。本当にピンチに陥ったときには、逃げるよりも恥をかきなさい。変なプライドにとらわれると、何もかも放り出して逃げてしまうので。
――何かあったら、マフィア梶田さんを頼ります!
これにてお悩み相談は終了。第一印象は極めて怖そうな(ごめんなさい)マフィア梶田さんでしたが、いざ話してみるととても素敵な方で、ライターとしてはもちろん、人としても参考になることばかり。楽しいインタビューを終えて、ライターとしてがんばっていく決意を新たにした、私亀井ライダーなのでした。
……と感慨に耽っている私に、無茶振り担当編集者から最後にまた無茶な司令が。『ヒットマン2』のアンバサダーであるマフィア梶田さんが、劇中に登場する数々の暗殺道具を紹介する映像を公開しているのはご存じの通りだが、編集部訪問にあわせて持ってきたいくつかの暗殺道具を使って、フォトジェニックな写真を撮影しろというのだ。
※『ヒットマン2』公式サイトのアンバサダーぶりがわかるページ
なんたる無茶振りな……と思いつつも、これも振られた仕事ということで、47ばりにプロの仕事に徹する私こと亀井ライダーなのでした。この手の仕事、意外と嫌いじゃないなあ……とは思ったりもしましたが(お仕事絶賛募集中!)。