サイゲームス社長・渡邊耕一氏が『M∀RS』を語る! 「いまのサイゲームスがあるのは『ANUBIS』を遊んだおかげ」

『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS』の開発をKONAMIと共同で手掛けるサイゲームスの代表取締役社長・渡邊耕一氏へインタビュー。『ANUBIS』の魅力やゲーム制作についてうかがった。

 ハイスピードロボットアクション『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS』(以下、『M∀RS』が、2018年9月6日にプレイステーション4とPC(Steam)にて発売された。本作は、2003年発売のプレイステーション2用ソフト『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』(以下、『ANUBIS』)のリマスター作品。4K解像度への対応やVRモードの新搭載など、現在の技術がふんだんに盛り込まれているのが特徴だ。

 本記事では発売記念企画として、開発を担当したサイゲームスの代表取締役社長・渡邊耕一氏へのインタビューをお届け。基本的にゲームメディアの取材は受けない渡邊氏だが、今回特別に『ANUBIS』の魅力や『M∀RS』の開発秘話のほか、ヒットメーカーであるサイゲームスがどのような考えかたでゲームを制作しているのかなども聞くことができた。

プロフィール

渡邊耕一氏(わたなべこういち)

サイゲームス代表取締役社長。本作ではエグゼクティブプロデューサーも務めている。

スタッフ愛から生まれた『M∀RS』

――まずは『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS』(以下、『M∀RS』)の開発がスタートした経緯を教えてください。

渡邊それを語るには、最初に私が『ANUBIS』を遊んだときのお話をする必要がありますね。私はサイゲームスを立ち上げる前に、ポリゴンマジックという会社でゲームを作っていました。新卒で入って、その2年目くらいに『ANUBIS』が発売されたんです。当時プレイしたら、グラフィックから操作感、ストーリーや演出などすべてが最高品質のゲームで、とても驚きました。もう、当時新人だった僕からしてみると、自分が作っているゲームとはレベルが違いすぎて、自分の無力さに愕然としてしまって。それくらい『ANUBIS』には惚れ込んでいたのが、開発が始まった理由のひとつです。

でも、直接のきっかけは、当時の同期から突然、サイゲームスへ転職したいと履歴書が届いたことです。そのスタッフは関西に住んでいるのですが、話を聞くと「関西からは動きたくない」と言うもので。ならばと、大阪サイゲームスを立ち上げました。そして彼は、じつは過去『ZONE OF THE ENDERS』シリーズに関わっていた人間でして。そして同期が入社したときに、何をやりたいか聞いたところ「もう一度『ANUBIS』をしたい」と言うので、僕も「分かった。じゃあKONAMIさんにお願いしてみるわ」と、その思いに応えたわけです。

――そもそも渡邊さんが『ANUBIS』にものすごく惚れ込んでいて、かつ元同期の方がシリーズの開発に関わっていたのが、きっかけになったわけですね。

渡邊それと同時にサイゲームスとしても、ちょうどコンシューマー向けのハイエンドタイトルに着手したいところだったんです。また、『ANUBIS』をリマスターするのは、会社の戦略的にもうってつけだと考えていました。『ANUBIS』は、プログラマーからの人気がすごいんです。それは、プレイステーション2の性能を限界まで引き出した、オーパーツ的な存在だからだと思います。それをイチからリマスターできたら、コンシューマータイトルを開発するプログラマーたちへの認知度も上がり、会社としても意味があると考えたわけです。

――KONAMIさんに、「リマスターをしたい」とお願いした際は、どういった反応でしたか?

渡邊最初は「え? いまですか?」という感じでした(笑)。開発させていただくために、「正式にリリースするかどうかは、できたモノを見てから判断してほしい」と言って、とりあえず作り始めたんですよ。そして、いざプロトタイプのものを見せたら、KONAMIさんには非常に驚いてもらえまして。そこから、いよいよ正式にプロジェクトの始動が決定しました。

――プロジェクトが始動してからは、ゲームの内容などについて、KONAMIさんとはやり取りなどあったのでしょうか?

渡邊「こういうのはどうですか?」とアイデアを出しては、作ったモノを見せつつ、いっしょに話し合いながら進めていきました。基本的にNGはいただかず、自由に開発をさせてもらいました。

――今回のリマスターで、とくに注力されたポイントはありますか?

渡邊僕も含めて、開発メンバー全員が『ANUBIS』の大ファンなので、とにかく自分たちが楽しめるものを作りました。僕たちがファンであるからこそ、僕たちが納得するものができれば、ほかのファンの方も納得するだろうと。

――先ほどお話に出ました、大阪支社も開発に関わっているんですよね。

渡邊大阪は描画まわりに強いスタッフが多いので、グラフィック関連の作業は大阪で、東京はほかの細かい点や、ゲームのメイン部分を担当しました。

――では、VRモードを搭載した理由もお聞かせください。

渡邊HD EDITION』で一度リマスターされているわけですし、ただリマスターするだけでは、やはりつまらないと思いました。そこからKONAMIさんと相談し、VRモードをイチから立ち上げたんです。それをスタッフたちに伝えたら「コックピット作りました!」、「VR対応しました!」とか、ものすごい速度で勝手にどんどんでき上がっていって(笑)。

――やはり、スタッフたちの愛がすごいですね(笑)。ただのリマスターではなく、新規要素がすごく多い。

渡邊“HANGAR”モード(ジェフティを格納庫で観覧できる新モード。VRにも対応している)は、まさに愛の結晶です。機体を自由に鑑賞する以外にも楽しめる要素があるので、ぜひいろいろと注目していただければと……。

――しかし、あれだけのハイスピードアクションでもVRで酔いにくいのは、ちょっと驚きなのですが、渡邊さんからは指示を出されたりはしましたか?

渡邊かなり出しましたよ。たとえば、VRモードのブレード攻撃は、通常モードと同じままだと、速すぎて何が起きているのか分かりませんでした。この解決のために、最初は敵に攻撃を当てた瞬間にヒットストップを加える実験をしました。しかし、それでは原作の持つリズムや爽快感が失われてしまうことがわかったので、ブレードの軌跡エフェクトの色や寿命などを細かく調整して、スピード感を維持しつつ斬撃の実感を持たせるようにしました。また、“酔い”の問題があるので、視点や機動性、重力制御については現実の物理を完全に無視するようにしています。未来的な技術か何かが働いていて、ジェフティは“酔わない機体”になっているわけです。

――そして『M∀RS』が完成し、発売を迎えたいまはどんなお気持ちですか?

渡邊いまこの作品を作らせてもらえたのは本当に感慨深いですし、KONAMIさんに感謝しています。これは個人的な願望ですが、『Z.O.E』シリーズ3作目をぜひ作りたいですね。もちろん個人的な欲求なので、ただただ自分が作りたいだけです。
あと、『ANUBIS』関連ではひとつお話ししたいことがありまして。よく「サイゲームスさんって、なぜゲームが必ずヒットするんですか?」とか聞かれるんですよ。僕としては「いいゲームを作りたいならまずは『ANUBIS』をやってみてほしい。」と、とくに若い方にはお伝えしたいです。僕はゲームにおいては、少し触っただけでも「おもしろい」、「気持ちいい」と思えることがすごく大事だと考えているのですが、『ANUBIS』はまさに、そのあたりが非常に丁寧に作られている作品だと思います。『ANUBIS』すら遊んでいない人に、おもしろいゲームは作れません。僕はこのゲームに相当な感銘を受けているからこそ、ゲームを作れているわけです。まぁ、要するに、『M∀RS』をぜひ買ってくださいということなのですが(笑)。

――『ANUBIS』はKONAMIさんと共同で開発を担当されましたが、今後もほかのメーカーの開発を担当することはあるのでしょうか?

渡邊もちろん可能性はありますよ。とはいえ、現在募集していたり、打診しようとしているわけではないですが、いいお話があれば。

――では、渡邊さんが最近ハマっているゲームなどはありますか?

渡邊いろいろなゲームを遊びますが、よくハイエンドゲームを徹夜でやったりしています(笑)。これは単純に好みの問題ですね。ぜんぜん仕事に関係なく遊んでいますが、最新のインターフェースなどを理解するためにも遊んでいます。やはりたくさんゲームを遊ばないと、それを超えるおもしろいゲームは作れないと思っていますから。

サイゲームスの内情を訊く!

――『ANUBIS』がついに発売となったわけですが、今後もハイエンドなコンシューマーゲームを制作していくのでしょうか?

渡邊最近のコンシューマーゲームは、基本的にはハイエンドタイトルと、小さなタイトルに分かれていますよね。僕はどちらもやりたいと思っています。たとえば、横スクロールアクションを作りたい、とかそういう思いもあるんです。あとは、Steamで人気のインディーゲームのように、小規模なゲームを作って販売する、というのも考えています。

――そういったことにも手を広げられるようになったのは、優秀なスタッフが揃ってきたからでしょうか。

渡邊そうですね。現在、サイゲームスには約2200人が在籍していますが、かなりの人数が開発に携わっています。会社も大きくなり、やれることが非常に増えました。ときどきユーザーの方に「サイゲームスはいまこのタイトルに注力しているから、こっちのゲームは手を抜いているんじゃないか」などと言われることがありますが、サイゲームスは全タイトルに力を入れています。何か新しいことをスタートさせる際には、ほかのプロジェクトから人員を引き抜いたりはしません。すべて新しく立ち上げています。

――なるほど。サイゲームスのスタッフといえば、著名なクリエイターが多数在籍していますよね。

渡邊おかげさまで、優秀な人材に恵まれています。こういう言いかたもなんですが、自然と集まってきてくれている感じがしますね。ちなみに、元モバイルゲーム開発の人とかは案外少なくて、不思議と来ないですね。

――それは意外ですね……。ちなみに前に社内を取材させていただいたときにいろいろ拝見しましたが、サイゲームスさんは環境がすごくしっかりしてますよね。ゲーム業界はいろいろルーズな部分があるイメージですが、サイゲームスさんは毎日朝礼などもされているとお聞きしています。

渡邊はい。朝礼もそうですが、そういう当たり前のことを当たり前にやる、ということはとても大切にしています。中には「ゲームクリエイターにはそういうのは不要」みたいな人もいるのですが、僕は許しません。ちなみに社員たちも、部署ごとに目標や標語を掲げていたり、かなり社内活性化に積極的ですね。社員の奥様の誕生日には会社からお花を贈ったり、社内報の企画で社内が盛り上がったり、和気あいあいとしています。

――そういったことが、ゲームのヒットの要因になっているのかもしれませんね。渡邊さんが考えている、ゲームをヒットさせるコツなどはありますか?

渡邊ないです。個人的には、時代に合ったものを出すことぐらいかな、と。ウチにはヒット戦略とか本当になくて……もちろん、「アイデアはいいけど、このタイミングで出すのはないよね」みたいなものは、時期を待ったりはします。企画会議とかをしっかりやられたりするんですか? みたいな質問をいただいたりもしますが、そもそも企画会議とかは時間のムダですから、ウチではやっていないんです。誰かが「作ります」と言えば、作り始めるわけです。

――企画会議をせずに、どうやってゲームを生み出しているんですか……!?

渡邊企画を考えるための時間は設けません。アイデアというのは、ぽんぽん溢れ出るくらいじゃないと話にならないんです。その膨大なアイデアの中から、「これ、いいかも」というものを選んで、作り始めるべきです。よく“アイデアを搾り出す”と言いますけど、それではダメだと思うんですよ。テレビを観る、スポーツをする、映画を観る、何でもいいのですが、そういったことすべてがアイデアのインプットです。何かを見て、「これいいんじゃない!?」と思ったら、そこからさらに自分ならどうするかを考えてみればいいんです。

――なるほど、サイゲームスのゲームの作りかたがなんとなく分かった感じがします……。それでは最後に、読者の方々へメッセージをお願いいたします。

渡邊僕はゲームを作るうえで“手触り”を重視しています。ゲームを作るにあたって、おもしろいのは当たり前です。ゲーム作りのプロなのですから。それに加えて、ゲームを触っているだけでも楽しくないといけないと思っているんです。それを実感して学んだのが『ANUBIS』です。ゲーム業界の方はぜひ『ANUBIS』をプレイしていただければと思いますし、読者の皆さまもぜひ、『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS:M∀RS』を遊んで、我々の想いを感じでいただけるとうれしいです。きっと触るだけで、楽しいゲームになっているはずなので。