アメリカのカリフォルニア州オークランドで、現地2018年8月18日、レッドブルが主催するゲームイベント“Red Bull Conquest”のサンフランシスコ予選が行われた。興味本位で立ち寄ってみたらいろいろと興味深かったので、その模様をご紹介したい。
レッドブルらしいフォーマットの格闘ゲーム大会
Red Bull Conquestは、全米15箇所(+オンライン1回)の予選を勝ち抜いた各地の代表によるチームが、11月に首都ワシントンDCで行われる決勝大会で激突するというイベント。採用種目には『ストリートファイターV アーケードエディション』、『鉄拳7』、『GUILTY GEAR Xrd REV 2』が選ばれている。
要はアメリカ在住の人限定の「地区代表を選んで、どこが格ゲーで全米一か決めようぜ」という、賞金よりもまず栄誉を重視するレッドブルらしいコンセプトの大会になっており、優勝賞金は総額で4500ドルしかないし、あとは副賞として2019年に日本で行われる大会EVO Japanに行けるぐらい。それでも地域の格闘ゲームコミュニティと連動して、地区を代表する猛者だけでなくプロゲーマーもちらほら参戦していたのは、さすがレッドブルといったところか。
NorCal(北カリフォルニア)代表を決める戦い
というのも、このフォーマットはアメリカ人の地元意識を微妙に刺激するようになっている。例えば今回行われたサンフランシスコ予選は、単にサンフランシスコ市どうこうの話ではなく、その周辺地域を含むサンフランシスコ・ベイエリア一帯を中心にした、北カリフォルニアの格闘ゲームコミュニティを代表するプレイヤーを決めようというものだ(厳密にはゲスト的な選手など一部域外からの参戦もある)。
そしてスポーツをはじめとしたあらゆる文化で、北カリフォルニア(NorCal)はロサンゼルスをはじめとする南カリフォルニア(SoCal)と一種のライバル関係があり、これは格闘ゲームコミュニティも同様。
サンフランシスコ・ベイエリアのさらに北にあるサクラメントで行われる大会NorCal Regionalsなど、むしろ日本でNorCalというくくりを一番耳にしたことがあるのは格闘ゲーマーかもしれない。
ちなみに会場となっていたEsports Arena Oaklandは、各地に常設の競技ゲーム会場を提供しようというEsports Arenaフランチャイズの店舗のひとつ。サンフランシスコから湾の反対側に渡ったオークランドに今年オープンしたばかりだ(多くの選手が来ている南の“サウスベイ”地域からは結構遠いので、イベント終了後には中心都市のサンノゼまで送迎バスが出ていた)。
どこにでもありそうな、しかし大事な光景
さて大会の様子はというと……別に特別なことはない。ゲーマーが集まってゲームをプレイするだけだ。特別なステージがあるわけでもないし、山のようにある対戦スペースで試合が行われ、結果が大会運営サービスのSmash.ggに打ち込まれて進行していく(だから誰かが勝って負けたかの結果だけなら同サイトで見られる)。
強いて言えば、会場に設置されている機材の物量のおかげもあって、敗退後も残って対戦して楽しんでいる選手が多かったのが印象的(まぁ、中にはプレイステーション4にインストールされていた『フォートナイト』を遊んでる人なんかもいたけど)。
そんなわけで傍目にはどこが大会進行中でどこが遊びなのかあんまりわからないぐらいだったのだが、勝ち残ってる有名選手同士の試合が始まると自然に周囲にギャラリーが形成され、終わったら「やばかったな」とか言いながらまた対戦台に戻ったり、屋台形式で提供されていたメシを食いに行ったり、スポンサー提供で飲み放題のレッドブルを取りに行ったり。ほどよく緩くていい感じだ。
恐らく一番近いのはゲーセンのローカルな大会で、ただそれが設備やツールの充実により、フリーダムな部分を維持しつつも洗練されたものとなっている印象だ。
多分レッドブルがRed Bull Conquestを通してやりたいのは、オンライン時代の格闘ゲームが一際グローバルなものとなっていく中で、こうした個人のプレイヤーと“地元のシーン”と“全米一”が、ちゃんと気持ち的に一本の線で繋がったものなんだろう。
3種目中2種目の決勝でリセットに突入する熱戦に
そんな感じで楽しんできたのだが、一応各種目の結果についても触れておこう。まず『GUILTY GEAR Xrd REV 2』で優勝したのは、チップ使いのBjornSonOfBear選手。
スレイヤー使いのdaymendou選手をウィナーズファイナルで下したものの、ルーザーズから戻ってきた同選手に逆転されてリセット(※)に持ち込まれ、決定戦も2-2のタイに持ち込まれたが、最後の試合で見事勝利を収めた。(※ダブルエリミネーション制の大会の決勝で、ウィナーズファイナルを勝った選手がルーザーズファイナルを勝った選手に破れ、優勝決定戦にもつれ込むこと)
2位:daymendou選手(左)
3位:Paracles選手(右)
続く『ストリートファイターV』部門では、レッドブルアスリートのSnake Eyez選手やTempo Storm所属のアレックス・マイヤーズ選手らも参戦するなか、XsK_Samurai選手が優勝。
注目はメナトを操るJot選手。Snake Eyez&アレックス・マイヤーズ両選手を破る快進撃を見せたが、ウィナーズファイナルではXsK_Samurai選手の豪鬼を攻めきれず敗北。ルーザーズファイナルで再度Snake Eyez選手を破って再挑戦となったが、1本取るのが精一杯。地元サンタクララのXsK_Samurai選手が決勝大会に進むことになった。
2位:Jot選手(中央左)
3位:Snake Eyez選手(右端)
4位:アレックス・マイヤーズ選手(左端)
最多の128人参加で行われた『鉄拳7』部門を制したのは、NorCalのシーンを代表するベテランBronson Tran選手。ウィナーズファイナルでブライアン使いのjimmyjtran選手に敗れたものの、ルーザーズからカムバックし、見事リベンジを果たした。
2位:jimmyjtran選手
3位:WayGamble選手
口プレイ最強のローカルヒーロー
実はこのBronson Tran選手、口プレイ(煽り)最強という、イベント主催者や実況や観客的にはありがたく、対戦相手には実にめんどくさく厄介な特徴を持っている。
過去にAtlasBear所属のプロゲーマーPoongKo選手と当たった際なども、ファイティングスティックを繋ぐ前から煽り、試合中も当然のように煽り、ラウンド間に煽り、追い込まれてもキャラ変するか周囲に聞きはじめ、挙げ句に結局コスチューム変更を「新キャラみたいなもんだから」と言い張るという、実にうるさい一部始終がわざわざ海外メディアの記事になったほど(しかも最終的にきっちり勝っている)。
もちろん、試合前から心理戦を全開にしていくスタイルはRed Bull Conquestでも変わらない。ブーイングとともに登場し、時に実況解説のマイクを奪ってまで次から次へと軽口を飛ばしまくるのを聞いている内に、皆がこの男のペースに惹き込まれていく。
それは彼が“口だけの老害”じゃなく、実際とんでもなく粘り強く、そしてドラマチックな選手だからだ。最初は「相手の選手かわいそうだな」と思っていても、気がつけばコンボに合わせてファンがあげる「オイ! オイ! オイオイ! オイ!」の声につい乗ってしまう。
ウィナーズファイナルではギースで挑み、3-0で完敗の上にラストはスタートボタンを押してしまって反則負けで土下座というボコボコな展開。しかしWayGamble選手とのルーザーズファイナルを例の如くギャーギャー騒ぎながら2-2に持ち込み、最後の試合をなんとか勝ち、決勝でjimmyjtran選手と再び相まみえることに。
ここでウィナーズファイナルでの反省か、Bronson Tran選手は使用キャラをカタリーナに変更し、2ラウンドずつ取り合った最終ラウンドをスーパースロー突入の末に勝って0-1とし初リード。キャラ変作戦成功かと思いきや、続けて2試合を落として2-1で逆にリーチをかけられてしまう。
だが「それならば」とキャラをギースに戻し、立て続けに2試合勝って逆にオールリセットに持ち込んじゃうんだから、人間力と言うべきか、ベテランらしい老獪さと言うべきか。もちろん会場は大騒ぎ。
決定戦もすんなりとは行かず、2試合取ったかと思えば逆にきっちり2試合取り返され、結局は最終試合までもつれこむという長期戦。なぜか完全アウェイになっている中で戦わなければいけなかったjimmyjtran選手には同情するしかないが、なぜBronson Tran選手が名物おっさんというか、ローカルヒーローというか、確固たるポジションを築き上げているのかがよくわかる内容だった。
きっと11月の決勝大会でも口撃を炸裂させまくり、「“NorCalの口”ここにあり」を見せつけてくれるのだろう。そしてそれは対戦相手として好ましいかはともかく、ローカルシーンを代表する選手としては正しいことなのだ。