『グランツーリスモSPORT』に登場するコンセプトカー、“Vision Gran Turismo”。独の自動車メーカー・アウディは、ゲーム内に登場する架空車種、“Audi e-tron Vision Gran Turismo”の実車を製作。2018年8月8日、東京・ベルサール秋葉原にて同車両のアンベイルイベントが行われた。

 実写の挙動を忠実にバーチャル空間に再現し、クルマに関するあらゆるおもしろさを追求したリアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』(以下、『GT』)。2013年に発売された『GT6』より登場する“Vision Gran Turismo”は、各自動車メーカーが理想を追求して創り上げた、多くのクルマファンを魅了するコンセプトカーだ。
 シミュレーター上での走行を目的にデザインや性能が練り上げられてきた、現実には存在しない“Vision Gran Turismo”だが、独の自動車メーカー・アウディが、実際のサーキットを走行可能なモデルを製作。ゲーム内の見た目とスペックそのままに現実世界に登場した“Audi e-tron Vision Gran Turismo”は、2018年8月4日・5日には、富士スピードウェイで、エキシビション&デモ走行を披露。そして8月8日、東京・ベルサール秋葉原にて、同車両のアンベイルイベントが開催された。

イベント開始前、ステージ脇でベールに包まれている“Audi e-tron Vision Gran Turismo”。シルエットだけでも、ただならぬ雰囲気を醸し出していることが伺える。

 イベントのオープニングにはアウディジャパン マーケティングディレクター、シルケ・ミクシェ氏がステージに登壇。「今日紹介する“Audi e-tron Vision Gran Turismo”は、『グランツーリスモSPORT』のためだけに開発したバーチャルカーでしたが、アウディは世界で一台だけの電気自動車として実車を造り、電気製品とゲームの聖地である秋葉原に持ってきました」と、会場に詰め掛けたファンたちに挨拶。

シルケ・ミクシェ氏

 続いてステージ上には、『GT』シリーズの生みの親でもあるポリフォニー・デジタルの代表、山内一典氏が登場。「“Vision Gran Turismo”はいまから5年以上前、自動車メーカーの皆さんに声をかけさせていただいたプロジェクトです。これは自動車業界の皆さんに「いまでもクルマ作りを楽しんでいますか?」という、僕らからの問いかけでもありました」と、同プロジェクトが始動した経緯を説明。
 「プロジェクトを始めた当時、これほど多くの自動車メーカーが参加してくださるとは思っていませんでした。でも、いざ初めて見るとアウディを筆頭に、各メーカーの方にこのプロジェクトを楽しんでいただけているようです。僕らからの問いかけの回答が、いい意味で帰ってきたのだと思っています」と、起ち上げ当時の思いから現在の手応えを語っていた。

山内一典氏

いよいよ、バーチャルからリアルへと向かう未来のクルマが登場

 ミクシェ氏、山内氏のあいさつが終わったところで、いよいよ“Audi e-tron Vision Gran Turismo”のアンベイルの瞬間がやってきた。今回の車両は、前述の通り実装可能なマシンとなっているので、アンベイル後には会場の端からステージ前まで、控えめなモーター音とともにスムーズな移動を披露していた。

 “Audi e-tron Vision Gran Turismo”は、PS4用ソフト『GT SPORT』とのコラボレーションにより、アウディがデザインしたバーチャルカー。これまでも“Vision Gran Turismo”のマシンが、1分の1スケールのモックアップモデルとして製作されたことはあったが、アウディはこのクルマを仮想の世界に留めるのではなく、現実世界で走行できるマシンとして開発・製造。こうして世界に一台だけのワンオフカー、“Audi e-tron Vision Gran Turismo”が誕生した。同車両は出力200kWの電気モーターをフロントアクスル(前輪車軸)に1基、リヤアクスル(後輪車軸)に2基搭載し、完全電動によるフルタイム4輪駆動走行を実現。前後重量も50対50と理想的な配分を実現しており、システム総合出力600kW(815hp)のパワーで、0〜100km/h加速は2.5秒以下を達成。1450kgというボディをいともたやすく異次元の領域へと導いてくれる。

世界に一台だけのワンオフ車、“Audi e-tron Vision Gran Turismo”。仮想空間で誕生し、ゲームの中を走っていたクルマが、現実のものとして登場。この、バーチャル空間を走るために生まれてきた車種を、実際にサーキット走行ができるマシンとして再現するのは、さまざまなメーカーが参画している“Vision Gran Turismo”でも、初の試みとのこと。
大迫力のフロントフェイス。電気自動車のために大量の空気を取り込む必要がないせいか、開口部はあまり大きくなく、精悍な顔つきに仕上がっている。
巨大なリヤウィングとディフューザーは、相当なダウンフォースを生み出してくれそう。
ホイールには、ブレーキの冷却にひと役買ってくれそうなフィンを装着。奥に見えるブレーキキャリパーからは、AP Racing DTMの文字が顔を覗かせている。
アンベイル後は、大勢の観客が殺到するほど会場はヒートアップ。世界に一台だけの夢のマシンということで、来場者たちはみな撮影に勤しんでいた。
コックピットでステアリングを握っていたのは、アウディスポーツチームに所属し、ル・マン24時間での優勝経験もある、ブノワ・トレルイエ選手。長らく国内でのレースにも参加していたせいか、会場に訪れていた観客からは歓声もあがっていた。

 “Audi e-tron Vision Gran Turismo”がアンベイルされたところで、アウディ ドライビングエクスペリエンス/モータースポーツマーケティングディレクターを務めるクラウス・デメル氏がステージに登場。山内氏とデメル氏によるトークショーが行われた。

クラウス・デメル氏

 最初は、『GT SPORT』用のスペシャルカー“Vision Gran Turismo”をデザインするというプロジェクトに参加したところ、どうせならみんなが思っていないような、ビックリすることをやってやろうじゃないかと考えたのが、今回の“Vision Gran Turismo”実車化のきっかけだったとデメル氏。「我々には、非常に長い歴史と数々の成功があります。また。アウディの未来はe-Mobility(エレクトロモビリティ:自動車の電動化戦略)にあると考えています。そんな思いも、この車両を通じて皆さまにお知らせしたいと思っています」と、この“Audi e-tron Vision Gran Turismo”は来たるべき自動車の未来のひとつの形であると説明。
 『GT』が提案する“Vision Gran Turismo”のクルマ作りの楽しさと、アウディの熱い思いが結実して、ゲーム用に作った美しいクルマの実車化が実現したというわけだ。

こちらは、『GT SPORT』に登場する“Audi e-tron Vision Gran Turismo”の画像。

 “Audi e-tron Vision Gran Turismo”の走行の様子は、以下の動画でチェックできる。本物と仮想の映像を織り交ぜた疾走シーンは圧巻。エンジン音とは異なるハイパワーモーターサウンドを奏でながらサーキットを駈け抜ける姿は、まさに未来そのものだ。

 山内氏は、“Audi e-tron Vision Gran Turismo”の製作工程で何度かアウディを訪れ、実際にステアリングを握らせてもらったそうで、「(実車の)デザインが出来上がっていく様子も素晴らしいのですが、まさかそのクルマに自分が乗って、レーシングスピードで走るなんて、夢にも思いませんでした」と、制作時の思いを振り返ると、「このクルマを製作するにあたり、山内さんからデザインは(ゲームに登場するものから)変えないでほしいという要望がありました。今回は、形が決まっている中での製作となり、普通のクルマ作りとは逆のプロセスになりましたが、アウディスポーツのエンジニアたちの豊富な経験と、何が何でも実車化を実現したいという強い意志が組み合わさり、このように素晴らしいクルマができました」と、デメル氏も制作時の苦労と思いを吐露。

 バーチャルとリアル、夢のタッグで誕生した“Audi e-tron Vision Gran Turismo”だが、そのパーツの多くはアウディスポーツとして参戦しているDTM(Deutsche Tourenwagen Masters:ドイツツーリングカー選手権)の車両から流用しているとのこと。
 さらに、将来的に発売が予定されている車種(アウディ e-tron)から、モーターなどのパーツを先取りして搭載していることも明かされた。このモーターは800馬力以上の高出力を持っているとのことで、生み出される強大なパワーはアウディおなじみの(フルタイム4輪駆動)クワトロシステムによって路面に伝えられる。まさに、アウディの思想と技術が濃縮された一台と言えるだろう。

レーシングカーだけあって、ドアの開口部は最小限。乗り降りしやすい形状とは言えないが、それはボディ剛性を考慮するレーシングカーならではの構造。シートポジションも重量バランスを配慮してか、DTMマシン同様に後方にオフセットされている。
エアコンなどの快適装備はないため、コックピットの両サイドに、車内にエアーを導入するためのダクトを用意。足もとはスロットルとブレーキの2ペダル方式を採用している。
フロントアクスルやステアリングは、DTM仕様とのこと。装着されていたステアリングには、無線やドリンク、ピット走行用リミッターボタンなど、実際のレースで使用する多彩なスイッチが搭載されていた。

 イベントの最後に、山内氏は「僕自身、レースカーレベルの電動カーに乗るのは初めての経験でしたが、走らせてみると思い通りに動いてくれる、パーフェクトなクルマでした。さらに、普通のレーシングカーと違って静かなので、ドライビングにも集中できます。新しいモータースポーツの世界が始まったということを実感しました」と、今回のプロジェクトの感想を語りつつ、来るべき自動車の電動化に対する期待を込めたコメントを述べていた。

 デメル氏は「今回、山内さんとコラボレーションして、このようなクルマを作り出せたことを誇りに思っています。このクルマを通じて、世の中に対してアウディが考える電気自動車の未来像というものを、お伝えできたと思います。アウディが作る電気自動車ってどうなんだろう? と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、本当に乗って楽しいクルマですので、これからも皆さまに楽しんでいただけると思っています」と、今回のプロジェクトで実現した“Audi e-tron Vision Gran Turismo”に対しての、確かな手応えを話してくれた。

イベントの後半はエキシビションマッチや篠田麻里子さんのトークショーを実施

 山内氏&デメル氏によるトークショーの後は、アウディGTドライバーを務める富田竜一郎選手や、さまざまな『GT』の大会で好成績を収めている選手たちによるエキシビションマッチを実施。また、8月4日・5日に富士スピードウェイで行われた“Audi e-tron Vision Gran Turismo”のデモ走行で同乗体験をした女優の篠田麻里子さんのトークイベントも行われた。

富田選手は本物のプロレーサーながら、『GT SPORT』でもスムーズな走りを披露し、観客を驚かせていた。
エキシビションマッチは、『GT』で名うての名選手たちが集結。激しい争いの末、冨林勇佑選手が優勝を手にした。
冨林選手は、2016年に開催された“FIAオンラインチャンピオンシップ プレシーズンテスト マニュファクチャラーズカップ”優勝の実績を持つプレイヤー。
アウディのイメージカラーである“赤”の衣装で、篠田麻里子さんが登場。富士スピードウェイでの走行体験映像が流れる中、当時の思いを振り返る。
デモ走行でハンドルを握っていたトレルイエ選手もステージに登場し、「見た目がすごくセクシーで、魅力的なマシンですが、ハンドリングもすごくいいですし、速く走れるクルマなので、将来がすごく楽しみです」と、実際にサーキットで“Audi e-tron Vision Gran Turismo”を走らせた感想を語っていた。
免許を取ってまだ2年目という篠田さんは「ゲームの世界のクルマが目の前にあって、それに乗車できるという体験は夢のようでした」と体験走行の感想を述べつつ、「今回はすごくいろいろなことを学べました。将来はこのアウディが似合う女性になりたいと思います」と、トークを締めくくっていた。

 実際のクルマのデータをコンピューター上でシミュレートし、クルマの楽しさを追求してきた『GT』。これまでも、バーチャル空間での走行体験を通じてリアルレースにドライバーを排出する“GTアカデミー”などといった、仮想と現実をつなぐ試みはあったものの、シミュレーター上で製作した架空のマシンを現実世界で製作するという今回のチャレンジは、その思想をさらに一歩推し進めたものと言えるだろう。
 今後も、“Vision Gran Turismo”のコンセプトカーを実車化する試みに追従する他のメーカーが現れることを期待したいところだ。