2018年7月10日で発売25周年を迎えた『天外魔境 風雲カブキ伝』。カセットのゲームが主流だった時代に、CD-ROMに収録された音声や、生音源BGMなどが楽しめたり、画期的な演出などで人気を博した作品。一部楽曲を、作曲家の坂本龍一氏が担当したことでも話題を集めたゲームです。そんな2018年8月12日開催の“ファミ通コンサート”でも演奏される本作の楽曲について、作曲家の田中公平先生にインタビューを敢行! 

 本作のほかに『サクラ大戦』シリーズでもタッグを組んだ広井王子氏との出会いや、いまも色あせない『天外魔境 風雲カブキ伝』楽曲の制作エピソード、さらには音楽制作におけるポリシーなどを存分に語っていただきました。いまも精力的な創作活動を続ける田中氏の、情熱にあふれたお話の数々をぜひお楽しみください!

『ONEPIECE』や『ジョジョ』を手掛ける田中公平氏が25年ぶりに語る『天外魔境 風雲カブキ伝』秘話! 声優・山寺宏一氏などの伝説だらけで震える!【ファミ通コンサート企画1】_02
『ONEPIECE』や『ジョジョ』を手掛ける田中公平氏が25年ぶりに語る『天外魔境 風雲カブキ伝』秘話! 声優・山寺宏一氏などの伝説だらけで震える!【ファミ通コンサート企画1】_05
ドット絵で描く、アニメのようなグラフィックも当時では画期的だった。

田中公平(たなかこうへい)

作曲家・編曲家・歌手。大阪府出身。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業後、ビクター音楽産業に3年間勤務。その後、米国ボストンのバークリー音楽学院に留学。帰国後、本格的に作・編曲活動を始め現在に至る。代表作は『ONE PIECE』(アニメ)、『サクラ大戦』シリーズ、『GRAVITY DAZE』シリーズなど多数。

広井王子氏との出会い

――『天外魔境 風雲カブキ伝』(以下、『カブキ伝』)が今年でちょうど25周年を迎えました。田中先生は音楽監督として本作に携わられていましたが、どのような形で原案の広井王子さんからオファーがあったのでしょうか。

田中 まずは、広井さんと出会う前のお仕事についてお話ししたほうがいいですね。1985年に、『夢の星のボタンノーズ』というアニメの劇伴を私が担当した時、プロデューサーの佐々木さん(佐々木史朗氏)と出会いました。佐々木さんは、いまはフライングドッグというアニメ制作会社の社長なのですが、『夢の星のボタンノーズ』の音楽を聴いて、「自分が作品を担当するようになったら、この子とやりたい」と思ってくれたらしくて。

――そのころから田中先生の音楽は人を引き付けていたのですね。

田中 ありがたいですよね。それで、1989年にガイナックスのアニメ『トップをねらえ!』を佐々木さんが担当することになった際に、私を紹介してくれたのです。その後からアニメの世界で少しずつ名前を知ってもらえるようになった。そんな中で、広井さんが原作のアニメ『魔動王グランゾート』(1989年)の音楽を担当することになったんですよ。

――アニメでのつながりで、広井氏と出会ったのですね。

田中 いえ、じつは当初『グランゾート』に広井さんが関わっているとは知らなかったんです。

――え! そうだったのですか。

田中 広井さんから直接オファーをいただいたお仕事ではなかったので、直接会ったことはなかったんです。でも、このことが縁になったのか、『天外魔境』のOVA版である『天外魔境 自来也おぼろ変』(1990年)というプロジェクトのときに、佐々木さんが「このふたりをくっつけたらおもしろいんじゃないか」ということで、広井さんを紹介してくださったのです。

――そこで広井さんと初めてお会いになったのですね。そのときのことは覚えていらっしゃいますか?

田中 覚えていますよ。1989年くらいかな。広井さんとお会いすることになり、私が並木橋のスタジオAPU(AUDIO PLANNING U)の地下で待っていたんですけどね……なかなか来ない。仕方がないからしばらく待っていたら、アロハで黒眼鏡のおじさんが来てさ。

――(笑)。サングラスは広井王子さんのトレードマークですが、そのときもあの姿で。

田中 うん。「なに、このうさんくさい人?」と。帰ろうかと思った(笑)。

――そんな初印象だったのですね(笑)。でも、その出会いが『天外』シリーズや、後の『サクラ大戦』につながっていくきっかけになるなんて。

田中 ええ。その後2~3度お会いした中で、「今度『天外魔境』のOVAを作るので、音楽をお願いします」という話になっていました。そのころからかな、広井さんとは、「いつかミュージカルみたいなものをやりたいね」という話で盛り上がっていたんですよ。そうした中で、「じつは『カブキ伝』という企画があるので、それでいっしょにタッグを組みましょう」という話になって。広井さんの構想では、『天外魔境』シリーズは『I』、『II』と続けてきたが、次は『III』と見せかけて、『カブキ伝』で行きたかったというんです。あえてナンバリングシリーズではなくて番外編で好きなことを描くんだ、と。その理由が、「PCエンジンでミュージカルをやりたい」ということだったのです。

――おふたりが出会って話していたことをやろうと。

田中 ええ。話していた時は「何を言っているんだ、できるわけないじゃないか」って思ったけれど。でも、ほんとうにやっちゃうんだから広井さんはすごい人ですよ。なにしろ、当時のゲームは容量が少ないから、プログラマーとサウンドは容量の奪い合いでしょっちゅうぶつかっていたほどでしたから。

――音楽の容量をできるだけ多く確保しようと奮闘されていたのですね。

田中 もう本当に大変でしたよ、あの頃は。いまはハードのスペックもあがったので、それこそフルオーケストラの楽曲だろうと歌だろうと、いろいろなことができますが。

――サウンドの容量についてまで、直接ご担当されていたのですか。

田中 ええ。曲をサウンドの担当者に打ち込んでもらったものを圧縮して、プログラマーに「何メガほしいです」って話そうものなら、即座に映像部から「そんなに取られたら困る!」みたいな話がいっぱい来る(笑)。何とか交渉して、あの作品は完成しているんです。

圧倒的にかっこいい『カブキ伝』の楽曲

――それにしても、『カブキ伝』の音楽は名曲揃いで、いまもテレビなどでも頻繁に使われていますよね。

田中 じつはね。『カブキ伝』のBGMは、テレビでどれだけ流れているかわからないよね(笑)。『京を行く!』とか『仮面の貴公子』とか。あとはメインテーマも、『開運!なんでも鑑定団』で流れていますね。

――25年という時間をまったく感じさせない曲です。

田中 私はアニメソングをずっと書いてきていますが、アニメソングを書くときはとにかく「10年後にも残る曲を書こう」と思って書いていて。ゲームのBGMも同じで、『カブキ伝』の作曲の際にも、古さを感じさせないくらい、ずっと残ればいいなって思いながら作っていました。実際に『ONE PIECE』の楽曲である『ウィーアー!』という歌は、もう20年経ちますが、いまも世界中で歌っていただいています。でも『カブキ伝』の楽曲がテレビなどで使われ続けている理由は、和風という点が大きいかもしれないですね。

――和風であることですか。

田中 和風の曲は、意外と新しく挑戦する人が少ないジャンルなんですよ。和風バンドとか、アニメ『バジリスク』のテーマを手掛けた陰陽座とかくらいしかパッと思い浮かばない。きっと新しい和風の音楽を考える作曲者がまだあまり出てないから、25年経っても、それほど古びて聞こえないのかなとも思います。

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レジェンド声優たちが歌うミュージカル

――さきほどPCエンジンでミュージカルを、というお話がありましたが、そもそも『天外魔境』シリーズは、RPGにとって革命的だったと思います。アニメのような映像と声優さんの演技をゲームの文化の中に取り入れた。CDメディアを生かして音楽もピコピコ音ではなく生演奏になりました。

田中 たしかに革命でしたね。だからこそミュージカルだ! という発想になったのだと思います。まあ『カブキ伝』では、ボスに歌を歌わせたりもしましたね……懐かしい(笑)。

――毎回ボスと戦う前に、ミュージカルのように歌って踊るRPGなんて、たしかにあまりみないですよね。しかも、歌われているのは、サザエさんの波平役の故・永井一郎さんや、若き日の山寺宏一さんなど、レジェンド級の声優さんたち。いまでは考えられない豪華さです。

田中 当時も驚きながらも、おもしろいな、と思いましたね。キャスティングがとても豪華なので、ほんとに大丈夫? って心配しました(笑)。神谷明さんに小杉十郎太さんなど、すごい名前が並んでいましたが、広井さんは、ひとりひとりに地道に声をかけていったんでしょうね。

――歌の収録の思い出はありますか。

田中 どの方も印象的……というか、忘れられないですよ。“黄金のカンビエ”役の永井さん(永井一郎氏)も、いまだに覚えていますよ、早稲田あたりのスタジオに来ていただいたんですよね。ブースに入った永井さんが「西ーーの海から……」って歌い出したとたん、「おおー!波平さんだー!」って、スタッフ全員がどよめくくらいによろこんで(笑)。2番の歌詞で「地獄の沙汰も金しだい」という部分を歌いながら、「……これ、シャレだね」って言っていただいて、「そうですー!」って感動しながらよくわからない返事をしたり(笑)。“満月のウンギエ”役の山ちゃん(山寺宏一氏)には、かなり低音で歌わなくてはならない曲を書いたので、「低い声を出し続けると喉が枯れちゃうので、すぐ録ってください」ってお願いされるくらいに気合を入れて臨んでくれて。だから2回くらいで一気に録ったんですが、いい感じに仕上がったといまでも思いますね。山ちゃんは歌がうまいですから。

――七色の声音を持つ山寺さんが、そんなふうに気合を入れて収録されていたとは、当時はまったく知らずに聞き入っていました。

田中 それくらい自然でかっこよく歌ってくれたからすごいよね。そして、わすれられないのが“千年のカルネ” の歌。初めのうちは歌詞を30番くらいまで作ろうって考えていて……ひどいでしょう(笑)。

――えっ! 30番!?

田中 あ、いや100番とかだったかも。不老不死のミイラが歌うのだから、とにかくたくさん歌詞を作ろうと。しかも飛ばせないようにしてね、聞き終わったあとに「もう1回聞くか?」って質問を入れる。でも、選択肢は「はい」しかないという(笑)。

――ひどい(爆笑)

田中 広井さんとも盛り上がって、じっさいに作り始めたんですけど、「先生!容量が足りません!」って(笑)。

――先ほど、容量の奪い合いをしていた、とおっしゃっていましたね(笑)。

田中 「そんなところで容量使ってどうするんだ!」という話に当然なりまして。実際は3番までにした。覚えている人も少ないかもしれないけれど、千年のカルネ戦のミュージカルイベントの後で「もう1回聞くか?」と選択できるのは、その名残りですよ。

――おもしろいですね。歌のイベントを絡めたネタとして。

田中 そうそう。ネタで。いまだったらできますね(笑)。でも実際に実現したら、いまの時代のプレイヤーのみんなはきっと、Twitterとかで「歌が終わらないんだけど(笑)」ってつぶやいたりするんだろうなあ(笑)。ただ、ほんとうに入れるとしても、そもそも歌ってくれた声優の松本くん(松本保典氏)がたいへんすぎますね(笑)。

――聴くためには歌を収録しなくてはいけないわけですからね(笑)。あとは、“永遠のサングエ”役の神谷さん(神谷明氏)の曲は、フラメンコのようでしたね。

田中 神谷さんは本当にいい人で。「公平ちゃんの曲は、いっつもキャッチーなのを書くねぇ」、「難しい、難しいなぁ」って言うんですけど、ちゃんときっちり歌って帰るという。かっこいいんです。歌声に色気もあるしね。それから、最後の小杉さん(小杉十郎太氏)の演じる“魔王ガープ”は、『カルミナ・ブラーナ』という曲のような感じにしてほしいというオーダーで作ったのですが、正直なところ、小杉さんがあんなにいい声を出すとは当時は思っていなかったので、すごく驚いた。低いレンジにしたので、「小杉さん、これ大丈夫かな」と心配したけれど、ものすごく上手で。すばらしかったです。

――ボスが歌って踊るなんて、当時はまさに誰もやっていない企画だったと思うのですが、すべての歌を録り終わった時のご感想はいかがでしたか。

田中 シンプルに「やったー!」って感動しましたよ(笑)。ゲームをプレイしてみても、「ああ、成功したな」と感じたのを思い出します。アニメなどでもいつもそうなのですが、完成したものを目にしたときに、納品した曲を「ああ、こういう風に使ってくれたんだ、いいなぁ」って思う瞬間があるんです。その瞬間こそが、音楽家としていちばん幸せなところですよ。

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作り手としてのポリシー

――『カブキ伝』の楽曲には音楽家の幸せを感じられたほどに、手ごたえを感じられていたのですね。

田中 『カブキ伝』だけではないですが、なによりもまず、“仕事が来た”ということがうれしいんですよね。新人だからということではなく、いまでもそうです。

――仕事が来たことがうれしい、ですか。

田中 私はほとんどコンペで仕事を取らないんです。なぜならコンペというのは、作曲者ではなくて、曲で選びますよね。それは私の仕事じゃないんです。曲ではなく、「私に頼みたい!」という依頼に対して、真剣に応えたい。音楽に対して真面目に考えているのであれば、「この人しかありえない」という曲を書けるようになりたい。

――『ファイナルファンタジー(以下、『FF』)』シリーズなどの音楽を作った植松伸夫さんも、かつてインタビューで近いことをおっしゃっていました。

田中 植松さんは、ちゃんと彼に頼みたい、と思わせる作曲家になっているんでしょうね。

――そういえば、田中先生は『FFX』がお好きだとお聞きしました。あの作品の主題歌である『素敵だね』という曲も、先ほどのお話の通りで。歌い手のRIKKIさんはリリース当時はまだ世間に知られていなかったのですが、植松さんが当時RIKKIさんのCDを聴いて、「この人しかありえない。『FFX』の世界にはこの歌声がいい」ということで推薦されたそうです。

田中 分かります。『素敵だね』はすごくいい曲ですよね、本当に。

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