三重県亀山市の無人駅。名古屋から関西本線で約1時間というこんなへんぴな場所(失礼)に、コジマプロダクションのスマホケースや名刺入れを手掛けるメーカー“ギルドデザイン”がある。グッズひとつにも並々ならぬこだわりを見せるコジマプロダクションが、なぜギルドデザインと組むのか? 気になったので、実際に行ってみた。

コジマプロダクションとコラボレーションする三重の会社“ギルドデザイン”って何者?【動画あり】_01
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電車は1時間にだいたい1本。日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の終焉の地とも言われ、駅前に像がある。
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工場外観。隣に事務所がある。近々、新工場が立つのだとか。景気がいい!

無垢材から削り出したスマートフォンケース

 まずは商品紹介。ギルドデザインのスマートフォンケースは、航空機や自動車部品に使用される高強度ジュラルミンの無垢材から削り出しており、文字や図版は半永久的に消えないレーザー刻印を使用。製品のラインアップも豊富で、ゲームメーカーやアニメなどともコラボしている。

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Kojima Productions Logo Ver. for iPhone X 価格:12000円[税抜]

松葉真一氏(まつばしんいち)

有限会社ギルドデザイン 取締役 モバイルプロダクト事業部 部長。ギルドデザインの特徴的なスマホケースの発案者。

オートバイが売れなくなって新しいことを始めようと思った

 ギルドデザインの母体は、レース用バイクのパーツを設計、製作する会社。なかでもホンダ・モンキーといったミニ系に向けては“Gcraft”のブランドでカスタムパーツを数多く展開している。そんなギルドデザインが、なぜスマートフォンケースを作るようになったのか? その理由を聞くと、

松葉オートバイが売れていた1980年代と比べて、2010年以降の販売台数はおよそ10分の1まで減少しています。いまの(とくに都心の)高校生は、バイクの免許を取らないんです。そうした背景もあって、何か新しいことを始める必要があると思っていました。私たちは“軽くて強い”商品が作れるので、この技術をほかの分野に転用できないかと、iPod shuffleのケースを自作してみたのが始まりですね。そのときは実験のようなものでしたが、仲間内からはなかなか評判がよかったんです。そうしているうちにiPhoneが発売され、「落としたらフロントパネルが割れた」という声をよく聞くようになって。これは商売になる、と。

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タイヤとサスペンション、燃料タンク以外はすべてギルドデザインでカスタムメイドされたモンキー。カスタムというより、バイクそのものを作ることができるのだ。
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ギルドデザインで加工されたバイクのパーツ。

 こうして始まったスマートフォンケースビジネスだが、あの美しいデザインはどのようにして生まれたのだろうか?

松葉ウチにはデザイナーはいません。設計士しかいないんです。四角い材料を、必要な部分を残して削る。それだけです。毎回同じ形なので、デザインが代わり映えしないと言われることもあるのですが、スマートフォンが落下する際、だいたい四隅のいずれかに衝撃が入ることがわかっているので、そこの強度を考慮すると、必然と形は同じになります。ちなみに、私たちのケースは、ひとつ作るのに1000万〜2000万円する工作機械で40分かかります。夜勤しても1台で日産15個ほどです。早く作れないこともないのですが、持ったときに痛くならないように丸みを作るのに時間がかかるのです。このビジネスを始めたころは、知り合いの工場などにも協力してもらって、月産500個〜1000個でなんとかまかなっていましたが、いまはさすがに追いつかないので、新潟にある日本電産コパルを始めとした、超一流企業が使う工場ラインで品質を保ちつつ大量生産しています。

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ジュラルミンからケースを削り出しているところ。
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ほとんどが削りカスになる(もちろん再利用される)。なんと、ケース自体の重さは14グラムしかない。

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マシニングセンタと呼ばれるコンピュータ制御の工作機械。
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ギルドデザインのスマートフォンケースはふたつのパーツで構成されているが、これはひとつのパーツの片面を削ったもの。片面削るのに10分、両面削ることでひとつのパーツになり、それがふたつなので40分かかるわけだ。
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こちらのマシニングセンタは、工場内でもっとも高額のもの。5000万円也。

 こだわっているのは加工だけではない。材料や工具、パッケージにいたるまで、すべて日本で作られているというのだから、驚きだ。

松葉まず、ケースの材質はUACJ(旧古河スカイ製)の“A2017”と呼ばれるジュラルミン無垢材を使っています。ケースの四隅に入れるクッション(緩衝材)も、信越シリコーンという日本一のメーカーのもの、ネジは埼玉県・草加にある浅井製作所というネジのプロフェッショナルにお願いしています。レンチ(工具)は大手メーカーのTONE(トネ)、パッケージの箱に入っているスポンジは伊賀で作られています。箱は途中までは機械で作るのですが、パッケージの紙は機械では貼れず、1枚1枚手で貼っているんですよ。どの工程もすべて日本国内で行っていて、完全な“メイドインジャパン”です。

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日本製ジュラルミンの無垢材。材料や工具、パッケージまで日本製にこだわっている。
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 しかし、スマートフォンケースを作るメーカーなどごまんといる中で、どのようにしてコジマプロダクションとのコラボレーションが決まったのだろうか。

松葉当時、私たちは後発でかつ無名ですし、広告予算もありません。そこで、レッドブルやナイキなど、私が個人的に好きなブランドに、このケースと英語の手紙を添えて、アメリカの本社に送ったんです。すると、なんと10社中4社から「これはいい!」とお返事をいただいて。日本の大手メーカーは無名な会社とあまり取引をしたがらないのですが、アメリカのメーカーはどんなに無名でも品質がよければ認めてくれます。そこから口づてに広がっていった感じですね。そうした矢先、今泉さん(今泉健一郎氏。現コジマプロダクション・プロデューサー)が噂を聞きつけて声を掛けてくれたんです。

 当時はコンペだったそうだが、見事勝ち抜き、その付き合いはいまも続いている。

松葉ゲームとのコラボは、『メタルギア ソリッド』が最初です。それをきっかけに、他社様からもいろいろとお話をいただくようになりました。コラボものはケースにロゴやビジュアルが描かれていますが、私たちのケースは印刷はいっさい使っていません。レーザーマーカーという機械で100分の1ミリほど表面を彫って、文字や図版を描いているんです。このあたりも、小島監督に評価いただいている点ですね。新しいiPhoneが発売されると、いつも小島監督にケースを催促されるので、いい意味でプレッシャーになっています(笑)。いま、東京ゲームショウでの発売に向けて、『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のコラボケースを作っています。ぜひご期待ください。

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レーザーマーカーのマシン。コンピュータ制御の刻印がそれはそれは美しく、魅入ってしまう。