Android用スマートフォンゲームを、PCでも快適にプレイできる環境を提供するBlueStacks。同システムは、シリコンバレーに本社を置くBlueStack Systemsが開発したゲームプラットフォームだ。高い技術力を誇るBlueStack Systemsでは、この5月に世界で初めて、Android 7.1.2 Nougatに対応した最新バージョン“BlueStacks 3N”(以下、3N)を正式リリースし、より快適なゲームプレイを実現した。今回、3Nのリリースに際して、日本の責任者である松本千尋氏にインタビューを実施。BlueStacksのサービス内容から今後の展開、メーカーとの関係性にまで聞いてみた。

BlueStack Systems
カントリーマネージャー
松本千尋氏

子どものひと言から生まれたBlueStacksの軌跡

――改めての質問となりますが、まずはBlueStacksについて教えてください。

松本 BlueStacksは、AndroidのアプリをWindows上で動かすことができる技術をコアとしたゲームプラットフォームで、私たちは“Androidアプリプレイヤー”と呼んでいます。

――そもそも、BlueStacksを作ったきっかけとはどういうものだったのでしょうか?

松本 弊社のCTOであるスーマン(スーマン・サラフ氏)が、家族と海外旅行に行ったときに、ふだんゲームをしているお子さんたちが「旅行先だと大画面でゲームができない」と言い出したらしいんです。そこからBlueStacksのもととなるアイディアを発想したそうです。言ってみれば、BlueStacksは子どものちょっとしたひと言から湧いてきたアイディアなんです(笑)。

――それは微笑ましいですね(笑)。そこから実際にBlueStacksを作るにあたって、方針はどのようなものだったのでしょうか?

松本 2011年にBlueStacksが立ち上がった当初は、AndroidアプリをPCの大画面で動かせるというコンセプトからプロジェクトがスタートしていて、ゲームアプリには特化していませんでした。ただ、実際にどのようなアプリが利用されているのか検証していくと、ゲームが圧倒的に多かったんです。そのため、サービス開始から2、3年経ったころにはゲームにフォーカスしたプラットフォームにコンセプトを絞っていきました。

――ゲームに絞ってから、何か転機になったコンテンツなどはあるのですか?

松本 ここ最近でのターニングポイントとして『リネージュ2 レボリューション』があります。韓国のネットマーブルさんが、同作の海外展開の際にスマホ版と同時にPC向けにも訴求したいということで、ご協力させていただきました。先行したアメリカで、事前登録の送客やインフルエンサーを活用したプロモーションなどのお手伝いをさせていただいたところ、その結果がよかったということで、ヨーロッパや中東など、ワールドワイドで展開するお手伝いをさせていただいて、社内でもかなりの好感触を得たビックプロジェクトになりました。ほかにもNCSOFTさんの『リネージュM』の台湾展開の際には、タイトル専用にカスタマイズしたBlueStacksのプレイヤーを新たに開発しました。その結果、このカスタマイズプレイヤーだけでも相当なダウンロード数が上がりましたね。海外のゲーム会社さんはスマホとPCの同時展開に積極的なため、いろいろなお取組みをごいっしょさせていただいています。

台湾で展開された『リネージュM』にカスタマイズしたBlueStacksのプレーヤー

――なるほど。では、そんなBlueStacksを展開するにあたって、どの部分に力を入れているのでしょう?

松本 一言で言うと互換性です。まずはアプリとの互換性で、すべてのアプリがBlueStacks上で動くことを目標に、力を入れています。さらに、PC端末との互換性も必要なので、より多くのデバイスで、より多くのアプリが動作できるようにという2点を重要視しています。動作しないアプリに関しては、見つけ次第アップデートをくり返して、BlueStacks上で動くように対応しています。

――Windowsに対応していればいいというわけではないんですね。

松本 そうですね。何かひとつに対応すればそれで済むというものではないと開発チームからは聞いています。CPUもIntelやAMDなどにそれぞれ対応させないといけませんし、PC端末もどんどん高性能化していくので、その技術に追いついていかなければなりません。ただ、弊社はIntelやAMD、クアルコム、サムスンなど、関連技術に強い会社が株主になってくれているので、そこは大きな強みです。

――そういった大企業が株主になってくれているということは、それだけBlueStacksの技術を有望だと思ったということでしょうか?

松本 はい。弊社のCEOであるローゼン(ローゼン・シャルマ氏)のこれまでの経歴や人脈などが活かされています。彼自身、前職はセキュリティー関連の会社を立ち上げてIntelのCTOを務めた経歴を持つので、非常に技術に強いんです。それに、社内に優秀なエンジニアが揃っているのも大きいと思います。彼らはローゼンが過去に立ち上げてきた会社でいっしょに仕事をしてきたメンバーなので、経験豊富でチームワークもとてもよいんですよ。

――優秀な技術者の積み重ねによって、BlueStacksができているということでしょうか?

松本 スマートフォンアプリをWindows上で動かすには“仮想化”という技術が必要です。Androidアプリが動作するよう、AndroidではないWindowsのOSを“仮想化”させなくてはいけないんです。そのためには高い技術が必要で、とくに今回のようにAndroidのOSバージョンを一気に引き上げるのは技術的に非常に難しいと聞いており、技術者の力によるところは大きいと思います。

Googleやゲームメーカーとの関係性を築いているBlueStacksの強み

――BlueStacksのサービスですが、そもそもメーカーから許諾は得ているのでしょうか?

松本 Androidはオープンソースですので、弊社としてはその範囲内でサービスを提供しています。BlueStacksはGoogle Playと連携していて、ユーザーがBlueStacksのプレイヤーを利用する際は、自身のGoogleアカウントにログインする必要があります。Google Playに出ているアプリは基本的にBlueStacksでもプレイ可能で、アプリのインストール時には、スマートフォンと同じようにGoogle Playのページに飛び、インストールする遷移になっています。ちなみにiOSの場合はクローズドなので、私たちはその中には入れません。

――ローゼン氏はGoogleとの関係が強いとお伺いしたのですが、そういった背景も関係しているのですか?

松本 そうですね。ローゼンはスタンフォード大学でGoogleの創業者と同じ研究室に所属していた過去があったり、本社のGoogle Playのトップとも長年の知り合いです。ローゼンが過去に立ち上げた会社もGoogleに売却していたりと、Googleさんとのつながりが非常に強いので、きちんと関係を築いた上でサービスを展開させていただいています。

――Googleでは、必ずしもBlueStacksのような仮想化の技術を推奨しているわけではないと思うのですが、そのへんはいかがですか?

松本 そもそもAndroidが開発された時点では、AndroidのアプリをWindows上で動かすということは想定されていませんでした。そのような状況下、前述のとおりローゼンの人脈のおかげもあり、弊社の技術やサービス形態をご説明させていただく機会を得て、現在は非常に技術的に高いことを実現しているという評価をいただいているようです。Googleさんとここまで密にコミュニケーションを取った上でサービス展開できているのは、弊社がシリコンバレーの会社であるということが大きく、ほかの類似サービスと大きく異なる点でもあります。

――そこがBlueStacksの強みというわけですね。

松本 はい。もう一点大きく異なる点は、弊社はセキュリティーに対してクリーンなポリシーを掲げているということです。たとえば、ほかのサービスではルート化やマクロを組んだりすることを許容していますが、弊社は健全にアプリを遊んでいただくという方針に基づき、それらを一切禁止しています。さらには、チートと見受けられる不審な行為を行っているユーザーが見つかった場合は、弊社でその内容を確認し、ゲームメーカーさんにフィードバックすることが可能です。このように、弊社はゲームメーカーさんと同じ目線で取組みができるため、信用度は高いと自負しています。

――ゲームメーカーともやり取りをしたりするのですか?

松本 はい。日々、ゲームメーカーさんにBlueStacksの正しいご理解をしていただけるようお話ししています。前述のとおり、BlueStacksではGoogle Playに出ているアプリは基本的にプレイ可能です。PC展開することによってゲームとの接触時間が増え、それが結果的にアドオンでの課金に繋がっていくので、私たちはアプリのマネタイズをお手伝いするというスタンスで、ゲームメーカーさんにご提案させていただいています。

――ゲームメーカーの手助けもしていると。

松本 そうなります。スマートフォンでゲームをプレイすると画面が小さいですし、端末が熱くなったり電池消耗が激しい点からも、長時間のプレイにはあまり向いていません。それに、ストレージにも限界がありますし。それが、BlueStacksを利用してPCで遊べば、スマートフォンアプリを好きなだけプレイできるんです。PCでほかの作業をしながらプレイしたり、マルチインスタンス機能を使えば複数ゲームを同時に遊ぶことも可能です。BlueStacksと相性がよかったタイトルの中には、スマートフォンだけでプレイできていたときと比べて、課金額が5倍に膨れ上がったというケースもあります。

――そんなに売り上げが上がったのですか!?

松本 前述のとおり、BlueStacksはチート対策をしっかり行っているので、ユーザーさんの質がとてもよいです。継続率も、ほとんどの場合はスマホよりもBlueStacksのほうが高いので、LTV(ライフタイムバリュー)を見るとスマホと比べて圧倒的によい結果が出ます。そのため、ゲームメーカーさんからも、BlueStacksはとても使えるプラットフォームとして興味を持っていただいています。

――PCでの展開を望まないメーカーはないのですか?

松本 いらっしゃいます。とくに日本ではエミュレーターの技術に対して受け入れが進んでいないという現状もあります。一部には、PCでの展開を望んでいないということで、BlueStacks上で動作しないように対策がされていたりもしますが、そこはメーカーさんの方針になるので、私たちは無理やりアプリを動かせるようにするつもりはありません。とはいえ、最近のスマートフォンゲームはスペックが向上していますし、そういったハイクオリティーのタイトルを簡単にPCでもプレイできるようになるという点からも、BlueStacksでの展開を望んでくださる場合が非常に多いです。とくに、PC版の提供を視野に入れている場合は、BlueStacksだと追加の開発が一切必要なく、費用も時間も掛けずにスマートフォン版と同時にPC展開できるというメリットがあるので、私たちのほうからもうまくご活用いただけるよう積極的にご提案しています。

クリーン&ユーザーファーストを心掛けるBlueStacks最新のサービス

――最近の展開についてお聞きしたいのですが、『リネージュ2 レボリューション』のように、力を入れているコンテンツなどはありますか?

松本 最近ですとFPS系のタイトルが人気です。BlueStacksには、操作をマウスとキーボードに割り当てる“キーマッピング”という機能があるのですが、最近話題になっている『PUBG MOBILE』は、中国のテンセントさんとお話しさせていただき、キーマッピングの割り当ても監修いただいた上、設定しました。

――『PUBG MOBILE』をパソコン上で操作しやすいようにカスタマイズされていると?

松本 PCで遊びやすいよう、最適な設定をご提案していただきました。本来、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』はPC版でプレイできるのですが、じつはテンセントさんはPC版がけっこう重いという理由で、スマートフォン版をPCでプレイすることも推奨していらっしゃるんです。そのため、テンセントさんも『PUBG MOBILE』用にカスタマイズされたエミュレーターを独自で展開されていますし、今回のカスタマイズのように弊社とも話をしてくれています。

――自身でエミュレーターを立ち上げているのですか!? それは興味深いですね。

松本 日本では考えづらいことだと思うのですが、海外ではこのような事例がけっこうあります。スマートフォンとPCの同時展開プロモーションは当たり前で、PC版が重いからスマートフォン版をエミュレーターで展開していこうとか、そういう柔軟な発想があるんですね。そういう意味では、日本は“エミュレータ―”という言葉自体へのアレルギー反応が強く、なかなか受け入れが進まないので、ゲームメーカーさんにとってもったいないなと思うことはあります。最近の高スペックのゲームは、PCで遊びたいというユーザーさんからの需要も高いので、今後、日本も海外と同じ流れになっていくと思います。

――『PUBG MOBILE』のようなカスタマイズは、ほかのゲームでも行っているのですか?

松本 さすがにすべてには対応できていませんが、人気のタイトルは初期設定されているものもあります。また、“キーマッピング”はユーザーさんのほうでも設定可能となっているので、あらかじめキーが割り当てられているタイトルに関しても、自身で遊びやすいよう割り当てを変えたりできますよ。

『PUBG MOBILE』用にカスタマイズされたキーマッピングの割り当て。

――そうなんですね。ところで、BlueStacksの日本国内での展開はどうなっているんでしょうか?

松本 BlueStacksは世界規模で見ると、昨年末で2.5億ダウンロードを超えました。日本では現在のMAU(マンスリーアクティブユーザー)は数十万前半で、前述のとおり、エミュレータ―の受け入れが遅れていることもあり、ほかの地域と比較するとまだ市場は小さいというのが現状です。やはりエミュレーターというものに対する不信感というのが、いまだにメーカーさんにもユーザーさんにも根強くあるので、弊社としてはまずBlueStacksのクリーンなポリシーや、BlueStacksを活用することのメリットをきちんとお伝えして、ブランディングに努めていきたいと思っています。

――最新バージョンの“3N”についてもお聞きしたいのですが、これにはどういう特徴があるのですか?

松本 3Nは世界で初めてAndroid 7.1.2 Nougatに対応したバージョンになります。“3N”の“N”はNougatのNから取っています。AndroidのバージョンをAndroid 4.4 KitKatから一気に引き上げたことにより、互換性の面では、いままでBlueStacks上で動作しなかったアプリが動くようになりました。たとえば、『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』が動くようになったのですが、高画質のミュージックビデオをPCの大画面で見られるということでもともと需要が高く、反響は本当に大きかったです。「これのために11ヵ月待っていました!」とツイートしてくれているユーザーさんもいるくらいでしたので(笑)。

――ミュージックビデオを大画面で見られるのは、ファンにとってはたまらないですね。

松本 はい。つぎにパフォーマンスなのですが、前のバージョンと比べてRAMで30%、CPUで35%改善されていて、速さと安定性が上がっています。あと、競合サービスとの比較テストも綿密にやっていまして、たとえば『リネージュ2 レボリューション』は複数の競合と比較してもCPU、GPU占有率の数字を下回り、読み込みの速さから見ても30%くらい速くなっていますね。

――競合と比べても、よりいいサービスを提供できるようになったと。

松本 そのとおりです。ほかにも、競合他社の中にはサービスを利用しているユーザーさんのデータを中国のサーバーに送り、アドネットワークの商売に繋げていたりするようなのですが、弊社は今回のバージョンでセキュリティーを強化し、GDPRコンプライアンスの遵守を行っています。個人情報をしっかり守っていくということを今回改めて宣言していますので、この点からもクリーンなポリシーを心掛けていることをお分かりいただけるかと思います。

――クリーンさを心掛けていると、競合他社よりも不利になってくる部分も出てくるのではないのですか?

松本 そうですね。プロモーションに制限が掛かる部分などは正直あります。とはいえ、日本においてクリーンなポリシーは不可欠ですし、そのようなメッセージを掲げられるのは逆にゲームメーカーさんとの関係構築を行う上で有利だと思っています。Googleさん然り、ゲームメーカーさんともきちんと関係を築いて、長期的にユーザーさんに安心して使っていただけるサービスを目指しています。

――おもにBlueStacks 3Nで進化した点としては、互換性とパフォーマンス、そしてセキュリティー面ということですね?

松本 そうですね。あと、これは『PUBG MOBILE』などに限定された機能なのですが、バトルロイヤルゲームに特化した“バトルロイヤルモード”という機能を実装していまして、F1ボタンひとつでシューティングモードに切り替えられるようになっています。スコープを覗くのも右クリックひとつで可能なんです。また、Altボタン長押しでマウス操作にも簡単に切り替えられるので、使い勝手はとてもいいです。

――バトルロイヤルゲームをより快適に遊べるようになっているということですか。できるだけ、ひとつひとつのタイトルにマッチしたサービスを提供しているというのは驚きですね。

松本 対ユーザーさんのサービスですので、いかにユーザーさんに楽しんでいただくかを最も重要視しています。

――ユーザーファーストということですね。

松本 じつは、PCでデスクワークをしながらスマートフォンゲームができるということで、職場でBlueStacksを利用する人も多いようなのですが、そんな方に向けたおもしろい機能も用意しています。“ボスキー”という機能なのですが、ボスキーに設定したキーを押すと一瞬でBlueStacksを画面から非表示にできるんです。なので、もし上司(ボス)が近づいて来てもさっと消すことができるので、お仕事中も楽しめますよというわけなんです(笑)。

――それはユニークですね(笑)。そういう機能面でも、BlueStacksを利用する人は増えそうな気がします。

松本 まさにそうなんです。とくに放置系のゲームは、作業の合間に少し確認するだけでできるので、BlueStacksのランキングでもけっこう上位に上がっていますね。

――そういったおもしろいサービスも、今後追加されていってほしいですね。

松本 BlueStacksのつぎのバージョンもすでにベータ版の開発が終わっています。Androidの対応バージョンは3Nと同じでAndroid 7ですが、より互換性とパフォーマンスを向上させているのと、UIをもっとシンプルなものに衣替えする予定です。正式リリースは夏ごろになると思いますが、ご期待いただけるとうれしいです。

■撮影/和田貴光