『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話

　日本一ソフトウェアから2018年5月31日にNintendo Switch、プレイステーション Vita、プレイステーション4で発売予定の『嘘つき姫と盲目王子』。正体が狼のような化け物である“姫”を操作し、目の見えない“王子”とともにさまざまな危険を乗り越えていく。本稿では、そのプレイインプレッションをお届けする。

切なく美しい物語が心を揺さぶる

　本作は、姫と狼、ふたつの姿を使い分けながら王子をステージのゴールまで導いていく、謎解きメインのアクションゲーム。アクションパートの合間には、声優の近藤玲奈さんによるナレーションとともにストーリーパートが挿入されるのだが、その物語は胸が締め付けられるほど切なく、プレイを進めれば進めるほど、作品に引き込まれていく。あらすじはこんな感じだ。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_01

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_02

　人食いの化け物が巣食う森に、狼によく似た化け物がいた。化け物は美しい歌声を持っており、月夜の晩にはその歌声を誇るように歌っていた。ある日、いつも通り狼が歌声を響かせていると、拍手が聞こえてくる。人間の王子が歌を聴きに来ていたのだ。狼にとって、無防備な王子は格好の獲物であったが、ほんの気まぐれから見逃すことにした。それから毎晩、王子は狼の歌声を聴きに来た。王子からは狼の姿が見えず、ふたりが言葉を交わすこともなかったが、いつしか狼に王子を食べようという気はなくなっていた。
　しかしある晩、狼が歌い終えても拍手が聞こえてこない。不思議に思った狼が確認すると、歌声の主の姿を見ようとしたのか、王子が狼のほうへ向かってきている。狼はとっさにその目を覆おうとしたが、鋭い爪が王子を引き裂いてしまうのだった。後に、その傷が原因で、王子が塔に幽閉されていると知った狼は、王子を救うため、“もっとも大切なもの”と引き換えに願いを叶えてくれる魔女にその歌声を捧げ、姫の姿を手に入れる……。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_03 — 王子は自分を傷つけた化け物のことを恐れており、姫は自分がその化け物であることがばれないように嘘をついている。

　通常、おとぎ話などでは“王子が姫を守る”という構図が定番だが、本作はその逆。そのうえ、姫の正体は化け物だ。プレイを開始してすぐに、ふたりの物語の結末について考えずにはいられなかった。何よりも大事にしていた歌声を捧げて姫になることができたのに、王子を魔女のもとへ連れて行ったら、王子の目を治すために、姫はどんな代償を差し出さなければならないのか……。何度も頭をよぎる暗い考えを拭いながら、夢中でステージをクリアーし、物語を進めた。

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ふたつの姿で王子を守り、導く

　アクションパートでは、使えるアクションの異なる姫の姿と狼の姿を切り換えて、王子を守りながら人食いの化け物や危険な仕掛けが待つステージを進む。姫の姿では、森の化け物に対抗できなくなってしまうものの、王子と手をつないで進んだり、ステージに咲いている花を摘んで王子にプレゼントできる。一方、優れた身体能力を持つ狼の姿では、王子に触れることはできなくなるが、人間では乗り越えられない高い段差を飛び越えたり、化け物を倒したりと、王子を守るためのアクションが可能になる。

　姫と狼のふたつの姿を切り換えながら進んでいくというゲーム性は一見複雑そうだが、それぞれのアクションが非常にシンプルなうえ、ゲームの進行に併せて行えるアクションが増えていくため、自然な流れで覚えられる。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_05 — 花をプレゼントすると、王子の王国に伝わる“魔女のおとぎ話”を聞かせてもらえる。森の魔女と何やら関係がありそうだが……？

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_06 — 森に待っている黄色い花びらを一定数集めると、キャラクターや化け物のイラストなどの設定資料を見られるという収集要素も。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_07 — 森に待っている黄色い花びらを一定数集めると、キャラクターや化け物のイラストなどの設定資料を見られるという収集要素も。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_08 — 大きな体躯の狼の姿でいるときは、森の化け物から攻撃を食らわないほか、高所から飛び降りても無傷で済む。

　森の中の仕掛けや登場する化け物は、ステージによってさまざまで、新たなステージに入るたびに異なるアプローチが必要になる。仕掛けの謎解きはちょうどいい難度にまとまっており、ときおり仕掛けの謎に悩まされながらステージをクリアーしていくのが非常に楽しかった。

プレイヤー自身が物語の紡ぎ手となる

　いくつもの線を重ねて描かれた陰影や、多重スクロールで表現されたステージなど、グラフィックはじつに繊細で、姫と王子を動かすだけでも作品の世界に浸ることができた。なかでも筆者の目を奪ったのが姫の表情。たとえば、王子と手をつないでいるときと、つないでいないときとでは表情が違うのだ。王子の手を引く姫はとてもうれしそうな様子で、微笑んでいる。そうした細かな表情などのグラフィックからストーリーパートでは描かれない物語を感じた。ステージ攻略中には、姫が王子を勇気づけながら進んでいるようにすら見えたのだ。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_09 — ステージではいたるところに危険が潜んでいるため、王子や姫が死んでしまうことも。王子の亡骸のそばで涙を流す姫を見るたび、胸を裂かれるような思いだった。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_10 — ステージではいたるところに危険が潜んでいるため、王子や姫が死んでしまうことも。王子の亡骸のそばで涙を流す姫を見るたび、胸を裂かれるような思いだった。

『嘘つき姫と盲目王子』発売直前プレイインプレッション　ゲームというメディアで描かれるやさしく切ないおとぎ話_11 — 王子のために爪を振るい化け物を倒す狼の姿は、とても頼もしく、愛おしい。

　『人魚姫』や『かえるの王様』、『美女と野獣』など、異なる種族間の交流を題材にしたおとぎ話は古くから語り継がれ、いまなお愛され続けている。それはなぜか。おそらく、種族という壁を超えた、真実の愛が人々の心を動かしてきたからだろう。本作においてもそれは同じで、描かれているのは姫のひたむきな愛情だ。しかし、王子はその愛情とは裏腹に、自分を傷つけた化け物、すなわち姫の本当の姿を恐れている。はたして、物語が結末を迎えるとき、姫の想いは泡と消えてしまうのか、それとも“めでたしめでたし”となるのか。それは実際にプレイしてからのお楽しみ。筆者は本作を最後までプレイしたが、結末を見たときは堪えきれずに涙で頬を濡らしてしまった。ぜひ、自分の目でふたりの行く末を見届けてほしい。