2018年5月12日・13日に京都勧業館 みやこめっせで開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit Volume 6”。同イベントの2日目となる5月13日、メインステージにて『クロノトリガー』や『ギフトピア』、『ちびロボ!』などの制作に携わったゲームクリエイター、西 健一氏(Route24)と、ゲーミフィケーションサービスの提供を推し進めるライブアライフ代表の山田秀人氏によるトークセッション“遊びの遺伝子”が行われた。

時代の寵児、故・飯野賢治氏より受け継がれた、いまなお生き続ける“遊びの遺伝子”とは【BitSummit Volume 6】_01
写真左:西 健一氏、写真右:山田秀人氏

 今回のセッションテーマとなっている“遊びの遺伝子”について、西氏は「これまでさまざまなクリエイターの作品を遊んだり、実際に制作現場でいっしょに開発をする中で、いろいろな刺激を受けています。そんな中で、僕らの共通の知人であるところで飯野賢治さんという方がいらっしゃいました」と、『Dの食卓』や『エネミーゼロ』、『リアルサウンド〜風のリグレット〜』など、さまざまな野心作を世に送り出しつつも、2013年に急逝したゲームクリエイター、飯野氏を紹介。西氏は、飯野氏とは仕事仲間というよりは、友人としての関係が強かったそうだが、山田氏もインターネット黎明期に飯野氏といっしょに仕事をしていたことから、3名でゲーミングネットワークの未来の在り方についての話をしていたことが語られた。
 とはいえ、まだインターネットも出たての頃で右も左もわからない時代、「せっかく僕らはゲームに携わっているのだから、ゲームの遺伝子をインターネットに入れていこう」という考えのもとに、いろいろな議論が交わされたそうだが、当時はPCのスペックも回線速度も現在と比べると遥かに見劣りする環境だったため、リミテーション(制限)の中でいかに魅力的な、かつ暖かみのあるサービスが行えるのか。そこで提案されたのが、(ネットワーク上に)宇宙船を用意し、その中に5〜10人のユーザーを招待して、自由に楽しんでもらえるといったもの。当時は、オープンフィールドで何百人も同時にコミュニケーションを取らせるのは技術的に不可能だったので、宇宙船という縛りを設け、その中で何でも好きなことができるようにするというわけである。「テクノロジーが出てきたばかりの頃って、いろいろな制約がありますが、その制約の中で何をするか考えるのがおもしろかったですね」と西氏。
 結果的に、この宇宙船のアイデアはプロトタイプで終わってしまったそうだが、まだソーシャルネットワークサービスもない時代に、いち早く人と人が繋がり、楽しめるコミュニケーションサービスを考えていたというのは、時代を先取る寵児として名を馳せた飯野氏ならではといったところだろう。

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 このように、お互いにエンターテインメントの未来を話し合いながら時代が進んでいったなかで、2007年にAppleよりiPhoneが登場(日本では2008年よりiPhone 3Gが発売開始)。山田氏によると、「iPhoneの登場がある意味で、インディペンデントなゲーム作りがスタートしたと思います」とのこと。

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 さっそく飯野氏と西氏は、iPhoneで楽しめるコンテンツの開発に取りかかったそうだが、それまでのボタン操作主体のスタイルから、タップ&スワイプ操作という制限に、どのように向かうべきなのか。そこで導き出されたのが、「スワイプするだけで感じられる気持ちよさ」を前提にしたコンテンツということで、2008年に『newtonica』をリリース。本作は、まだスマートフォン向けアプリが有象無象の時代に、シンプルながら幾何学的なグラフィックと飯野氏が作り上げるサウンド、爽快なプレイ感など、そのクールさが話題となりスマッシュヒットを記録している。

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 ここからは、飯野氏がこだわりを見せていた“コミュニケーション”を話題に、トークが展開。
 「飯野さんって、新しいメディアが登場するとすぐに乗ってしまう、サーファーみたいなところがありましたね。その頃、ゲーム業界ではWiiが爆発的にヒットしていましたが、3年ほどかけて『きみとぼくと立体』を作りました。この作品も、ゲームではなくコミュニケーションをテーマに何かを作ろうとして生み出されたものです」(山田氏)。
 「飯野さんはコミュニケーションにこだわっているところがありましたね。コミュニケーションって、その場にいる人どうしが取るものもあれば、ネットワークを介して行うものなど、いろいろなものがありますよね。また、子どもが昼間遊んでいたゲームを、夜に父親がそのセーブデータで遊ぶといった変な遊び方も、コミュニケーションのひとつですよね」(西氏)。
 両名ともに、飯野氏とともに過ごしてきた中で、コミュニケーションへの考え方も知らず知らずの間に染みついてきたと語り、山田氏は「ちょうどその頃、飯野さんと僕に子どもができたタイミングだったんですが、それからしばらくのあいだ、飯野さんといっしょに子ども向けのゲームを考えていたことがあったんです」と親と子のコミュニケーションをテーマにした作品作りに着手していたことが明かされた。この計画は、最終的にお蔵入りとなってしまったそうだが、このときの考え=遺伝子をもとにしたコンテンツ『おやすみルーニー』が紹介された。

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 本作は、山田氏、西氏と、インディペンデント系のタイトルを多数手掛けるピグミースタジオとの協力により制作されているタイトル山田氏によると、絵本の世界で子どもが森の中を探索していくところをフィーチャーした作品で、子どもの寝かしつけをサポートすることを目的にしているため、ゲーム的な要素は極力排除しているとのこと。主人公のルーニーは、昼間は起きているのでいっしょに森で遊ぶことができるが、夜になると寝てしまうので、結果的に遊べなくなってしまうといった仕掛けも用意されている。さらに、寝る前にルーニーへのボイスメッセージが入れられるようになっているそうだが、じつはこのメッセージは登録している両親へと送られるとのことで、西氏は「僕が夜、外で飲んでいるときに、子どもから“おやすみ”ってメッセージが届くと、早く帰らなければとという気持ちになりますね」と、親子間でのコミュニケーションにも同作を活用して欲しいとアピール。
 また、このアプリは子どもが布団に入ったあと、きちんと寝ているかどうかをスマートフォンが検出し、森の音を流すなどして、子どもを眠りに誘うような機能も入っているそうである。

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 今回のセッションでは、山田氏と共通の知人である故・飯野賢治氏から、ふたりが引き継いだエンターテインメントへの考えや、その影響を受け継ぎつつ進めているプロジェクトなどが語られていったが、その遺伝子を引き継いだ作品『おやすみルーニー』は、2018年6月7日に配信予定となっている。親の立場からすると、子どもにはなかなかゲームを与えたくなさそうなところだが、この『おやすみルーニー』であれば、親子間のコミュニケーションツールとしてオススメできそうである。寝かしつけが大変なお子さんがいる方は、本作に注目してみてはどうだろうか。