映画『リズと青い鳥』のヒロインを演じる種崎敦美さんと東山奈央さんに、作品の魅力や独特の難しさがあったという本作の演技をうかがった。

 吹奏楽部に懸ける高校生たちの情熱と、それぞれが抱える想いを描いて人気を博したテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』(以下、『ユーフォニアム』)。その登場人物であった鎧塚みぞれと傘木希美、ふたりが主役となる同原作から独立した完全新作映画が4月21日から全国劇場で公開中。数々の賞を獲得した映画『聲の形』のメインスタッフが手掛ける本作は、少女たちの儚くも美しい一瞬を描き出す。本作のヒロインを演じる種崎敦美さん(※)と、東山奈央さんに、作品の魅力や独特の難しさがあったという本作の演技をうかがった。※種崎敦美さんの“崎”はたつさき。

リズと青い鳥』全国ロードショー公開中。
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』) 監督:山田尚子
アニメーション制作:京都アニメーション

あらすじ

 あの子は青い鳥。
 広い空を自由に飛びまわることがあの子にとっての幸せ。だけど、私はひとり置いていかれるのが怖くて、あの子を鳥籠に閉じ込め、何も気づいていないふりをした。
 吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美。高校3年生、ふたりの最後のコンクール。自由曲に選ばれた『リズと青い鳥』にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。「なんだかこの曲、わたしたちみたい」屈託もなくそう言ってソロをうれしそうに吹く希美と、希美と過ごす日々に幸せを感じつつも終わりが近づくことを恐れるみぞれ。“親友”のはずのふたり。
しかし、オーボエとフルートのソロはうまくかみ合わず、距離を感じさせるものだった。

傘木希美 声:東山奈央

市内の強豪・南中学校吹奏楽部出身のフルート担当。1年生のときに一度退部したものの、2年生の夏に復帰。高い演奏技術と明るい性格で、後輩からも慕われている。

鎧塚みぞれ 声:種崎敦美

希美と同じ南中学校吹奏楽部出身で、トップクラスの演奏技術を持つオーボエ担当。希美の存在が彼女のすべてで、そのほかのことに興味を向けることがない。

東山奈央(とう やま な お)

3月11日生まれ。東京都出身。『ニセコイ』(桐崎千棘役)、『ノブナガ・ザ・フール』(ヒミコ役)、『きんいろモザイク』(九条カレン役)など、代表作多数。

種崎敦美(たね ざき あつ み)

9月27日生まれ。大分県出身。『魔法使いの嫁』(羽鳥チセ役)、『宝石の国』(ネプチュナイト役)、『ブレンド・S』(天野美雨役)など、代表作多数。

――おふたりが演じたみぞれ、希美がどんなキャラクターかをお教えください。

種崎 みぞれは吹奏楽部でオーボエを担当していまして、人と話すこと、関わることが得意ではない、独特の感覚というか、マイワールドを持っているような子です。その自分の世界にいたところに、中学で出会った希美が吹奏楽部に誘ってくれたんですが、みぞれにとってはそのことを「違う世界に連れて行ってくれた」と思っていて。それ以来、すごく希美のことが大切で、特別な存在だと思っているんです。

東山 希美は吹奏楽部でフルートをやっていて、高校1年生のときに先輩といざこざがあって部活を辞めてしまった経緯があるのですが、いまはまた部活に復帰しています。みぞれにとっての希美はマイワールドから連れ出してくれた存在というイメージなんですが、希美としてはあまりそこまで大げさなことをしたつもりはなく、何気なく吹奏楽部に声をかけたら、それが思った以上にみぞれにとって大きな出来事だったと。希美自身は明るく、友だちもいっぱいいて、人から憧れられるような女の子ですね。

――テレビアニメの『ユーフォニアム』2期では、みぞれと希美の衝突などのエピソードを挟みつつも、黄前久美子たちの物語が中心ではありましたが、今回、みぞれと希美のふたりが主人公になると聞いたとき、おふたりはどのような感想を持ちましたか?

種崎 ふたりの話の続きが見られるということが純粋にうれしくて、また、ふたりをピックアップして描いていただけることもうれしくて。今回、みぞれと希美のふたりの日常を切り取ってキレイで美しい作品にしていただいたんですが、みぞれとしては、あまり気持ちは変わっていないんですね。ですので、“主役”という感覚よりは、“ふたりのお話”が見られることがうれしいという気持ちが強いですね。

東山 先ほど、みぞれと希美の衝突というお話がありましたが、じつは衝突らしい衝突ではなくて。衝突しなかったがゆえにこじれた、ちゃんと向き合わなかったからすれ違ったというふたりなんですよね。『リズと青い鳥』でも、その関係性の根本的な部分はまだ続いている、というイメージなんです。『ユーフォニアム』のときに、私は「雨降って地固まるでよかったなー」と思っていたし、そういう印象を持っている方も多いと思うんですが、希美もまっすぐすぎるがゆえに、みぞれみたいな、人と接するのがあまり上手ではない子の気持ちをまだちゃんとわかっていなくて。希美も希美で自分のことでいっぱいになる子なので、そのふたりのすれ違いの続き、成長の物語が描かれるのはうれしいです。また、そのふたりの物語を美しく描いていただいたんですが、それがあまりにキレイすぎて、見ていて涙が出てきちゃう作品になっていますね。

――今回に合わせて演技を変えるといったこともされているのでしょうか?

東山 『リズと青い鳥』は、ひとつの作品としても完成されているものですので、この『リズと青い鳥』が持つ静謐な空気感に合わせて、キャラクターデザインや音楽、我々の演技も新しいものになっていると思います。希美に関してはもともと明るくて、頭ひとつ抜けているように元気だったのが、今回の作風に合わせると、テンションをちょっと抑えるくらいで、やっとちょうどよくなるというか。『リズと青い鳥』は本当に静かな作品です。アフレコの前に、家で初めて台本と映像を照らし合わせて見たときに、絵だけでも伝わってくるものがある、まるで無声映画を見ているような、静かなことが心地いいという印象で。その中で希美が元気に「イェイ!」と言ったりすると、急に違うものが入ってくるという印象になってしまうと思うので、そういった部分を意識して、自然になじむように調整していますね。

種崎 さっき「続きを見られることがうれしい」と言ったものの、それはちょっと違うなと……。一瞬前に言ったことを撤回させていただきたく。続きではあるものの続きではない、『リズと青い鳥』という新しい一本の作品だと。でも、やっぱりみぞれは変わっていなくて……。みぞれの演技に関しては、「みぞれは、希美といっしょにいるときは、つねにクライマックス、最終回の気持ちでいてください」と言われていたんですが、今回の『リズと青い鳥』でも改めて言われたので、そこだけは忘れないようにして、絵柄などに合わせて変えるといった意識はありませんでした。あと、私が山田監督から事前にお話をいただいたときに、ストンと心に落ちてきたのが、“すべてのものが傍観者。壁も木も空もふたりを見守っている”という言葉でした。山田監督は「『リズと青い鳥』はこういうふうに観る作品にしたい」というお話の中で、先ほどの言葉をおっしゃっていて、それからはアフレコで、“つねにクライマックス、最終回”という気持ちとともに、この言葉も忘れないようにしていました。

――なるほど。作品がふたりを見守る傍観者になるというのはわかるのですが、そのふたりは当事者になるわけですから、それを演じるのはとても難しい立ち位置になるように感じます。

種崎 そうですね。先ほどの言葉は、私の中でいちばん腑に落ちた言葉ではありますが、演技とは直接的には関係ない、“この作品はこうしたい”という演者が共通で持つ、作品に向かう心持ちという感じですね。お芝居をするにあたって“こうしよう”と考えなくてもできるように、台本も絵もすべて細かく、人間として思うがままの感情で芝居をすれば合うように作ってくださったので、このシーンはこうして、ここはこの気持ちで、といったことを考えずに臨めました。

東山 私も同じ気持ちで、最初は今回の作品で目指そうとしている全体像がわからなかったんですが、山田監督の“すべてのものが傍観者”というスタンスをお聞きしたときに、私もですがおそらく皆さんも全体像がつかめたと思います。具体的に言うと、『ユーフォニアム』で「みぞれー!」と呼びかけていたのが、『リズと青い鳥』では「みぞれ!」でいいんだなというのが自然とわかる。……わかるんですけど、でも、実際に演じているときは、そういうものを俯瞰している余裕はなく、全身で希美を感じることが手いっぱいでしたね。それは私が役者としてまだいたらない点かもしれませんが、今回の台本も演じるうえではかなり難しいものでした。『リズと青い鳥』の台本は、セリフ部分よりもト書き部分が非常に多くて、1カットの中での情報量はとても多いのに、セリフはひと言になったりするので、たとえばセリフと相反する感情を感じさせる必要があったりと、ひとつのセリフに込めるものが多く、それを呼吸をするかのようにできるようになるには、かなりの集中力が必要になりました。

――おうかがいしていると、物語を作るために演じるといったことではなく、ふたりの自然な姿をドキュメンタリーのようにカメラが撮っている作品といった印象を抱きます。ただ、そうなると、“意識しないようにすることを意識する”といった、とても高度なものを求められているように思いますね。

種崎 (黙ってうなずいて)……確かに今回の作品は、実写のようではあるけれど、でも“リズと青い鳥”という劇中劇といっしょに進めることで、ふたりの気持ちや言葉になっていない裏側の部分などが語られるようになっていて。それは、アニメでしかできないことなのかなと思います。

――今回、改めてみぞれと希美を演じてみて、何か再発見のようなものはありましたか?

東山 私はけっこうありました。希美はこれまで天真爛漫で明るくまっすぐで人に憧れられるような女の子だと思われていました。いろいろなキャラクターが出てきて、尺が限られた『ユーフォニアム』では、希美の陽の部分が描かれることが多かったんです。でも、『リズと青い鳥』では、ちょっとした陰の部分を持つひとりの人間として描かれているなと感じましたね。私もまっすぐという部分だけじゃなく、思った以上に感情のキャパシティが小さい子なんだなと感じました。ちょっと動揺したり、自分が言っていることと思っていることが違ったりすると、目が泳いだり、足もとを遊ばせていたりとか、けっこう感情が仕草で出てきちゃう子なんだなと感じさせるシーンは、テレビアニメではなかったことなのでちょっと驚きました。

種崎 みぞれとしての新たな発見というよりは、希美とこんな会話をするんだというふたりでいるときや、みぞれってジョークを言うんだみたいな発見がありましたね。しかも、みぞれのジョークが独特すぎてふつうの人にはわからないと思うのに、希美は「ジョーク言ってる!」という驚きではなく、自然に「またまたー」と返してくれる。このやり取りが尊すぎて……。

――(笑)。ちなみに、希美のセリフに「物語はハッピーエンドがいい」というものがありますが、おふたりは、ご覧になる作品の展開はハッピーエンドがいいか、そうではないほうがいいか、どちらですか?

種崎 私はハッピーエンドがいいですが、ハッピーエンドじゃなくても、「なんだよ!」というふうにはならず受け入れられます。

東山 うーん、難しい……。アンハッピーエンドもたまに観るにはいいですし……。ただ、すっきり爽やかハッピーエンドよりも、ちょっと感傷的になれるハッピーエンドが好きですね。そういうもののほうが一生心に残っていく感じがします。この人はハッピーエンドになったけど、一方で、ちょっと自分を犠牲にしている人がいて。でも、その人もまったく幸せにならなかったわけではない……みたいな。そういう意味では、この『リズと青い鳥』の終わりかたは、すごく好きですね。

――なるほど。最後の質問に入る前に、ゲームメディアとしての質問もおうかがいしたく。おふたりはゲームは遊ばれますか? 東山さんは、『グランブルーファンタジー』をよく遊ばれているとお聞きしていますが。

東山 そうですね。『グラブル』をたいへん熱心に(笑)。

――もともとゲームはよく遊ばれていたんですか?

東山 いえ、ゲームはてんでわからなくて。家庭がゲーム禁止だったんですよ。でも、私は遊園地やデパートなどの待ち時間にぎゃーぎゃーとうるさい子どもだったので、これで静かにしなさいと、ゲームボーイアドバンスを渡されて『ポケモン』を遊んだりはしていました。それ以外はあまりやってこなかったので、『グラブル』をきっかけにいろいろな用語を知りましたね。バフ、デバフとか。

――バフ! それは相当濃い用語ですよ。種崎さんが「?」を浮かべていますし。

種崎 ……バフ?

――仲間を強化する効果に使う用語ですね。ちなみに、種崎さんはいかがですか? 以前、別件のインタビューでおうかがいした際には、あまりプレイされていないということでしたが。

種崎 私はゲームが好きすぎてやらなくなったんですよ。最近のスマホゲームとかは、機械音痴なもので「わからない!」となってできていないんですが、自分のペースで進めていくゲームは、ハマりすぎて時間を忘れてしまうので、怖いと思って離れていったんです。

――そうだったんですか。ちなみに、昔ハマったゲームというのは?

種崎 いちばんハマったのは『ぼくのなつやすみ』と『ときめきメモリアル2』ですね。

――『ときメモ2』!

種崎 友だちが「これめっちゃおもしろいからやって」と、突然持ってきて、まんまとハマってしまって。遊んだ翌日、起きた瞬間に「あ! デートの場所どこだっけ!?」って焦って、動悸が止まらなくなったりして。そのときに、「ああ、これは続けていてはいけないのかもしれない」と離れていきました(笑)。

――そのハマりかたは危険ですね(笑)。では最後に、本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

東山 この作品はぜひ劇場で観ていただきたい作品ですね。一本で完結していますので、『ユーフォニアム』をご存知ない方がこの作品から見ていただいても、十分楽しんでいただけると思います。アニメらしからぬ表現で、うれしいとか楽しいといった白や黒でパッキリ分けられない、グレーの気持ちをずっと描いていく作品ですので、アニメ観が変わるかもしれない作品になっています。いずれパッケージが出るかもしれませんが、家で観るといろいろな生活音が聴こえてくると思いますし、そういった日常の喧騒から離れた本当に静かな劇場の中で一度観ていただきたいので、劇場に足を運んで見ていただけたらうれしいです。

種崎 先日この作品を見せていただいたときに、監督がおっしゃっていた“すべてのものが傍観者”という言葉通りになっていたと感じまして。映画を観始めたはずなのに、いつの間にか自分がふたりの女の子を見守る傍観者になっていたというくらい、気づいたら作品の中に入り込んでいるという感覚に陥る、強く惹きつける力を持っている作品になっていました。すごく繊細で静かでキレイ。ですが、リアルで生々しくもあって。同じような経験をしたことがある人には痛いくらい伝わりすぎる映画になっているんじゃないかと思いますし、まったく同じ経験ではなくても、この感情は知っているかもしれないという気持ちがたくさん溢れているものになっていると思います。観る人によってまったく違う感想になるかと思いますが、それぞれの感想を持っていただくことがすごく大事だと思いますので、たくさんの人に観ていただきたいです。ぜひふたりを見守る傍観者になりに、映画館に足を運んでください。

「キレイすぎて、見ていて涙が出て来る作品になっています」(東山さん)

「ふたりを見守る傍観者になりに、映画館に足を運んでください」(種崎さん)