『Detroit: Become Human』ディレクター兼シナリオライターを務めるデヴィッド・ケイジ氏へのインタビューと、質疑応答の模様をお届け。

 2018年5月25日に発売を控えるプレイステーション4用ソフト『Detroit: Become Human』のメディア向けプレゼンテーションが、4月23日、東京・品川のソニーシティにて行われた。ファミ通編集部では、会場にて、同作のディレクター兼シナリオライターを務めるデヴィッド・ケイジ氏のインタビューを実施。4年以上の歳月を費やして完成させたばかりの作品への思いや、“人間存在”を問う重厚な世界観やキャラクターの設定に込めたものをじっくりとうかがった。

Quantic Dream
デヴィッド・ケイジ氏

『Detroit: Become Human』とは何か。それはプレイヤーとともに作り上げる物語

――まずは完成おめでとうございます。作業を終えられて、いかがですか?
デヴィッドありがとうございます。これまでQuantic Dreamが手掛けてきた作品の中でも、いちばん分岐の多い作品なので、脚本の執筆や、撮影の作業が膨大な量になってしまい、すべてがたいへんでしたが、いまは完成してようやく一息ホッとつけています(笑)。
――膨大な分岐が用意されているだけあって、実際にプレイしてみると、判断を下す場面では、キャラクターの運命を選んでいるように感じました。

デヴィッドプレイヤーがキャラクターになって、その運命を選んでいくように感じてほしかったんです。だから、ゲーム内では選択が本当に重要で、ゲームを始めて数分で行った選択が後々影響を与えることもあります。

――プレイ開始後数分の決断が、後々に影響を与えるのですか!? 序盤を試遊させていただきましたが、そのようなことは考える暇もないほどに没入していました。

デヴィッドそれはうれしいですね。それだけに、発売されたらプレイヤーの皆さんがどのような感想を抱くか、楽しみです。

――今回の試遊で、3体の主人公の1体であるマーカスを初めて操作できました。彼はアンドロイドの変異体を率いるキャラクターという情報が公開されていたので、少し暴力的なイメージがあったのですが、今回、実際にゲームをプレイしてみて、マーカスのことがとても人間的に感じられたのが印象深かったです。

デヴィッドそうでしたか。このゲームの真価は、ゲームを実際にプレイしてその流れを理解することで味わえると思います。ですから、キャラクターに関してはとくに、ストーリーの一貫性を保つということと、結末に辿り着いたときに“プレイヤーが自分の決断によってその物語を歩んだ”と感じてもらえるように、脚本を書くときに注意しました。

――主人公の一体である女性アンドロイドのカーラを操作するチャプターで、彼女のオーナーであるトッドのことも、プレイしてみると、彼の発言や、部屋の様子などを目にしているうち、ただの悪人としてではなく、どこかに背負った人生を感じてしまって。かわいそうに感じました。

デヴィッド生来、邪悪だから悪いことをする、といったキャラクターは作りたくなかったのです。何か正しくないことをする人には、その原因、理由があると思っています。だから、トッドの脚本を書くときも、彼の人生や、発言の背景を感じさせるような内容にしました。

――トッドは幼い娘と暮らしていながら愛に飢えていたり、マーカスのチャプターに登場するカールは、息子のレオとうまく関係を築けないでいたりと、アンドロイドの視点から見ると、人間が悲しく見えた点も印象的でした。

デヴィッド確かに、『Detroit: Become Human』での人間観は非常に暗めになっていますね。この時代が憂鬱な気持ちにさせられることが起こるのが影響しているかもしれません。トッドは悲しいキャラクターで、人間に絶望しているのですが、カールもまた、人間に対して悲観的になっています。ふたりはまったく印象の違うキャラクターですが、そうした人間への嫌悪というのはふたりの共通点と言えますね。

――それぞれ印象深い登場人物との関わりが、3体のアンドロイドの物語が連続していく中でテンポよく続くのもすばらしかったです。物語の雰囲気が暗くなりすぎる前に、つぎのキャラクターに物語が移って、プレイヤーとしてはリフレッシュできました。

デヴィッドそうした効果こそ、私が複数のキャラクターを主人公にするうえで好きなポイントですね。物語が重苦しくなる前に、別のキャラクターのチャプターに移すことができる。私は“感情のジェットコースター”と呼んでいるのですが、プレイヤーにいろいろな感情を味わってもらえるからです。

――感情と言えば、今回序盤を通して遊んだだけでも、各チャプターで展開する物語に没入してしまい、思わず声が漏れてしまう場面も多かったです。登場人物の生死にかかわる選択もあり、真剣に悩み、焦りました。

デヴィッドこのゲームで目指したのは、遊ぶことで、そうしたプレイヤーだけの心を震わせる物語が“生み出されていく”というものでした。インタラクティブなストーリーのすばらしいところは、会ったことのない何百万人の人といっしょに物語を作れるということです。『Detroit: Become Human』は、プレイヤーが脚本家であり、監督であり、俳優でもあるようなゲームなのだと思っています。

――今回体験して、「発売後に、遊んだ人と話をしてみたい」とすでに思ってしまっているほど、楽しみです。ところで、作品の舞台となる2038年は、ゲーム中でさまざまなもののデジタル化が進み、電子化された雑誌が数多く登場して実際に手に取って読めたのも印象深かったです。ファミ通もその時代には、雑誌ではなく、作中に登場する電子書籍のようなものになっているかもしれません(笑)。デヴィッドさんはどのように思いますか?

デヴィッドゲーム中では、電子雑誌を集める楽しみを入れましたが、たとえば本についても、タブレットで読んだ方がいいという人もいれば、紙の匂いや、手触りが好きだという人もいます。私は後者なので、アナログのほうが好きな人間です。個人的には、人がある方向に行き過ぎると、別の方向も必要とされるのではないかと思っています。自分は電子音楽が好きですが、ギターの演奏も楽しみますし、2000年前のギリシャの硬貨を集めたりもしています。なので、2038年にも、紙の雑誌を読みたい人もいるはずだと思いますよ(笑)。

メディア陣による質疑応答では、デヴィッド・ケイジ氏のアンドロイド観も明らかに

 メディア向けプレゼンテーションの中では、取材に参加したメディア陣による、作品に関するQ&Aセッションも行われた。ここからは、そこで行われた質疑応答の内容をお伝えしていく。

Q ひとつのチャプターを終えると、ストーリーの分岐点などが詳細にわかるフローチャートを見ることができますが、フローチャートを見られるようにしている理由について教えてください。

A 『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』や『BEYOND: Two Souls』といったこれまでの作品では表示していなかったので、フローチャートの表示は重大な決断でした。今回表示するようにした理由は、“これまで表示していなかったことが間違いだったのではないか”と考えるようになったからです。たとえば、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』のあるシーンで失敗して、全体の20%しかシーンを見ていない人でも、クリアー後にすべてのシーンを見たと思い込んでしまうことがあったんです。通常のゲームでは分岐を多く見せるために、フローチャートなどを隠してしまうことが多いのですが、『Detroit: Become Human』は、選択に応じて物語が細かく分岐していくので、表示してもいいのではないかと思いました。ですので、プレイヤーの皆さんに、選択していないものを見たいという意欲をかき立てていただくために、全体のプレイヤーの10%しか見ないようなところも用意しています。友だちとプレイの感想を共有したときに「このシーンよかったよね」、「え? そんなシーンなかったんだけど」といった会話が生まれることを理想としています。

Q 作品の完成を迎え、いまのお気持ちはいかがですか?

A いま、胸中には安堵と不安があります。安堵しているというのは、脚本執筆中など、このゲームを作っているときに、“ゲームを作りきれないんじゃないか”と思ったことがあったからです。そして、4年の歳月をかけて作り上げたものが世に出るので、皆さんに好きになってほしいのですが、特殊なゲームでもありますから、皆さんにどんな風に受け取っていただけるのかは不安です。この作品は重い主題を扱っていて、これまでのゲームでは扱われてこなかったような話題もあります。そういった主題をゲームで扱ってもいいのかどうかという質問をゲームのコミュニティーに投げかけているんです。

Q メインメニューに登場するアンドロイドについて教えてください。

A 彼女はクロエというアンドロイドで、ストーリーの中である重要な役割を果たすことになりますが……ネタバレになるのでこれ以上はお教えできません(笑)。ですが、彼女に関してはちょっとした遊びも用意していて、プレイヤーがゲーム内で難しい選択をしたときに慰めてくれたり、プレイヤーの皆さんが「生きているんじゃないの?」と思ってしまうようなギミックも盛り込んでいます。

Q フローチャートで表示されるポイントは何に使えるのでしょうか?

A ストーリーで異なった分岐を解除していくたびにもらえるポイントですね。サウンドトラックやムービーなど、ボーナスコンテンツを買うときに消費します。

Q 今回プレイさせていただいた10チャプターは、全体のどのくらいの分量ですか?

A だいたい2時間くらいでプレイできる内容だったと思いますが、全体を通してプレイすると早くても10時間かかります。さらにすべての要素を網羅しようとすると、30時間はかかると思います。ゲーム中はフローチャートから、好きなようにゲームをリスタートできますが、プレイヤーの皆さんへのお願いとしては、最初の1回だけは、自分の心に従った選択でプレイしてほしいです。

Q デヴィッドさんは日本のファンにどのようなイメージを持っていますか?

A ユニークな体験や、感情を揺さぶるようなゲームに対して貪欲なイメージがあります。AIやロボットなどの技術は、日本の文化で重要な位置を占めていると思うので、本作がどんな受け取られかたをするのか気になりますね。

Q 今回、『Detroit: Become Human』ではAIやアンドロイドのかなり深いところまで描かれていますが、開発を通じてAIに対する見かたは変わったのでしょうか? また、実際にアンドロイドを作り上げてみたいという感情はありますか?

A 『Detroit: Become Human』の開発が、AIへの見かたに対して影響を及ぼしたというのは間違いないですね。いったい、どこから知性と呼べるようになるのか、非常に考えさせられました。いま現在、すでにAIは特定の分野において、人間よりも優れています。でも、どこから生物になるのでしょうか。それはとてもおもしろい疑問でしたね。『Detroit: Become Human』は、機械が生物のようになったときに、人間がどのように振る舞うかを描いています。現在、我々はテクノロジーを享受しながら生活していますが、技術に依存しすぎるネガティブな面もあります。ふたりでいるときにスマホを見ている時間のほうが長いということもあるわけです。じつは、ゲームの中でも、機械といっしょに暮らす中で、人間と暮らすことを拒否する人間も出てきているんです。アンドロイドは自分が望むことだけをやってくれますから。その結果、人間と人間のカップルが生まれなくなって、人間と機械のカップルしか生まれないことは怖いですよね。そういうことは、アンドロイドが誕生したときに実際に起こりうることなので、アンドロイドを作り上げてみたいかと聞かれると、難しいです(笑)。