ここのところ、さまざまな活用例が広がっているように思われるマイクロソフトのMR(Mixed Reality・複合現実)デバイスのMicrosoft HoloLens。そのさらなる新たな取り組みとして、2018年4月6日に、JRCSと日本マイクロソフトによる“JRCS Digital Innovation LAB”の概要を説明する記者会見が、両社合同で行われた。
JRCSとは、山口県下関市に本社を構える海洋産業の企業。今回発表された“JRCS Digital Innovation LAB”は、“Mixed RealityとAIを活用した人材育成と安全航行のさらなる向上と、船舶の自動航行まで見据えたプロジェクト”だという。何やら興味深いが……。以下、その概要をご紹介しておこう。
ちなみに、記者会見が行われたのは、東京・竹橋客船ターミナルから出発するクルーズ船にて。しばしクルーズを楽しみながら記者会見を行うという粋な趣向で、気合わせた取材陣もプチ遠足みたいで、若干テンション高めな模様。
会見には、まずはJRCSの代表取締役社長 近藤高一郎氏が登壇。近藤氏は、「いま海洋産業は、きびしい職場で若い人から敬遠されているが、業界から変革を起こす必要がある。かつての輝きを取り戻せる取り組みをしたい」と、本プロジェクトを開始するに至った経緯を説明。JALなどでのMicrosoft HoloLensの取り組みに興味を持った近藤氏が、実際にマイクロソフトの本社があるアメリカ・シアトルなどに赴いて、Microsoft HoloLensのプレゼンなどを受け、同デバイスに大きな手応えを抱いたという。帰国後、近藤氏は社内でデジタルトランスフォーメーションを推進するための部署として、“JRCS Digital Innovation LAB”を設立したのだという。ちなみに、デジタルトランスフォーメーションとは、“ITの浸透が、あらゆる面で人々の生活をよりよい方向に変化させる”ことを指すようだ。
“JRCS Digital Innovation LAB”が具体的にMicrosoft HoloLensとAIを活用して予定しているのは、“INFINITY Training(リモートトレーニング)”、“INFINITY Asisist(リモートメンテナンス)”、“INFINITY Command(オートノーマス・自動運航)”の3つだ。
その詳細を具体的に説明してくれたのは“JRCS Digital Innovation LAB”の室長、空篤司氏。JRCSでは、下関に船員向けの専門トレーニングセンターを設けているが、距離的な問題もあり、とくに海外の利用者に参加してもらうのが難しい状況にあったという。その距離の問題を埋めてくれるのが、“リモートトレーニング”で、“いつでも、どこでも”をコンセプトに、2019年3月を目安にサービスインの予定だ。
“リモートメンテナンス”は、遠隔地で船舶のメンテナンスを可能とする仕組み。エンジニアが船舶のメンテナンスを行う際に、Microsoft HoloLensを装着すると、機器の上に作業手順などが表示され、より安全に短期間で作業できるようになる。こちらは2019年内に商品化され、2020年より順次コンテンツの拡大を図っていくとのことだ。将来的にはAIを絡めての展開も考えているという。
オートノーマスは、来るべき船舶の自動運行を見据えてのもので、2030年の導入を目指して研究中。いずれは“デジタルキャプテン”が、陸上から複数の船舶をコントロールする時代が到来することを想定して、JRCSでは日本マイクロソフトと検証を進めていくという。
ちなみに、“INFINITY”とは“無限大”の意味で、高木社長も言及していた通り、JRCSの同プロジェクトに対する意気込みのほどがうかがえる。
日本マイクロソフト 代表取締役 社長、平野拓也氏は会見において、建築・不動産、製造業、医療、教育・文化と、幅広い分野でMicrosoft HoloLensの使用例が増えていることに言及しつつ、同デバイスを“働きかた改革の最先端”であると、力強くアピールした。平野氏は、Microsoft HoloLensはJAL(空)で使用され、三菱ふそう(陸)で活用され、そして今回JRCS(海)とコラボし……と、「これで陸海空が揃いました!」とうれしそうに語って来場者をほんのりとさせたが、まさにMicrosoft HoloLensが幅広い用途で広がっているとの実感だ。
イベントのあとで、Microsoft HoloLensを活用してのデモを体験することができた。その内容はというと、Air Tap(人指指を立てて、まっすぐ下に倒す)などで適宜映像を進めて、Microsoft HoloLensで映像コンテンツを鑑賞するというもの。まあ、体験できたのはあくまでちょっとしたデモではあるが、取材陣はMicrosoft HoloLensの可能性の一端に触れることができた。
■撮影/堀内剛