巧舟氏が『逆転裁判』と『大逆転裁判』のシナリオやトリックの作りかたを解説【GCC’18】

2018年3月30日、大阪・大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)にて、関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス“GAME CREATORS CONFERENCE’18(GCC’18)”が開催された。本記事では、その中で行われた“逆転裁判/大逆転裁判 シナリオについて”の模様をお届けする。

 2018年3月30日、大阪・大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)にて、関西圏のゲームクリエイターを対象としたカンファレンス“GAME CREATORS CONFERENCE’18(GCC’18)”が開催された。本記事では、その中で行われた“逆転裁判/大逆転裁判 シナリオについて”の模様をお届けする。

 本セッションには、『逆転裁判』シリーズ初期成歩堂三部作や『大逆転裁判』シリーズを手掛ける巧舟氏が登壇し、これらのタイトルのシナリオやトリックの作りかたを解説した。

 まず、巧舟氏は『逆転裁判』シリーズの一貫したテーマとなっている、“本格ミステリ”について説明。巧氏によると、ミステリー=謎には、サスペンスと本格ミステリの2種類が存在するのだという。このふたつには明確な違いがあり、サスペンスは、謎に対する興味が推進力となって読者をひっぱる物語のこと。一方、本格ミステリは、謎が論理的に解明される過程が主眼となる物語のことを指し、『逆転裁判』や『大逆転裁判』はこちらに該当する。

 また、“論理的”という部分について、「作者と読者のあいだにルールがありさえすれば、どんな世界でも成立するのが本格ミステリです」と巧氏は語る。実際に『逆転裁判』シリーズには、綾里真宵という霊媒師のキャラクターが登場することから、「霊媒とかが出てくるのは、謎とき(ミステリー)としてはフェアじゃない」という意見があったそう。しかし、巧氏はその信念を貫いて『逆転裁判2』からは、あえて霊媒を使った本格ミステリを目指したとのこと。

 とにかく“ルールにのっとっていることが大切”だということで、巧氏は『レイトン教授VS逆転裁判』を例に補足。同作の舞台となるのは、魔法が使える世界。魔法が使えるということはなんでもできてしまうが、魔法を使う際には、“魔法の杖を持っていけない”、“呪文を発しないといけない”、“杖の種類によって使える魔法の種類が決まっている”といったルールを設定した。その上で矛盾を作っていくことで、魔法が使える世界でも、本格ミステリとして成立する作品を制作することができたというエピソードを披露した。

 続いて、巧氏は、ミステリーの核となっているのは、物語を最後まで読み進めていったときの意外な真相への“オドロキ”と、作中に散りばめられた伏線がひとつになったときの“ナルホド”だと語る。なお、『逆転裁判』の主人公の名前が成歩堂龍一と王泥喜法介となっており、ふたつの要素が含まれているが、これは意識したわけではなく偶然とのこと。また、ミステリーには、真相を解き明かす“名探偵”と、真相を聞いて驚く“読者”のふたつの立場が存在することに触れ、そのふたつの立場を楽しめるゲームを作りたいという想いから『逆転裁判』の制作が始まったことが明かされた。

 そして、ここからは具体的なシナリオの構造について解説。上述の通り、『逆転』シリーズは、解く楽しみと驚く喜びの両方を同時に味わえる特殊な構造。そのふたつを両立するために、巧氏が導き出したシナリオの構造は以下の通り。

それぞれの項目は、大謎=事件そのもの、小謎=事件の容疑者が容疑を否認しているような場面、謎解き=証拠品を突き付けてムジュンを解決していく場面(ゲームプレイ)、展開=新たな証言などが登場する場面、大逆転=犯人が豹変して追及していく場面、解決=依頼人の無罪を勝ち取る場面というようなイメージ。

 この中で、小謎→謎解き→展開→小謎→謎解き→展開→小謎……というループの部分が『逆転』シリーズのシナリオのキモになっており、これにより“自分の力で謎を解いて、事件を解決している”という実感を得ることができるのだとか。また、ムジュンを突き付ける際には、プレイヤーと主人公のシンクロ率を高めるために、プレイヤーの気持ちをそのまま代弁するようなセリフを意識しているとのこと。そのほか、事件の真相を隠すときには、作り手がそのまま隠してしまうと、プレイヤーに気付かれてしまうことがあるらしく、『逆転』シリーズでは、事件の真相を隠す役割を検事が担っている。その理由として、検事であれば法廷戦術として情報を隠すのは自然な行為であるため適任だったからと説明。さらに、そうした事情から、『逆転裁判』の主人公が弁護士になったという開発秘話も披露された。

 続いて、『逆転裁判』の世界観について。巧氏は、同シリーズの世間のイメージを“コミカルでテキトー”と分析。それにまつわるエピソードとして、『逆転裁判4』を検事の方にプレイしてもらった際に「我々はこんなずさんな捜査はしません」と言われたことを明かすと、会場は笑いに包まれた。しかし、“テキトー”に作っているわけではなく、ルールが決まっていると巧氏は語る。そのルールとは以下の3つ。

  • リアリティの排除
  • 普遍性・全年齢
  • コミカルなノリ

 “リアリティの排除”は、ゲームを遊んで楽しい気持ちになってほしいという想いから、保険金殺人といった生々しい動機や、実際の事件を想起させるようものは、取り扱わないようにしているとのこと。

 ふたつめの“普遍性・全年齢”は、『逆転』シリーズは、10年経過しても遊べるような古くならないゲームを目指して制作しているということで、時事ネタや流行り言葉、パロディーは使わないようにしているそう。ただし、テクノロジーの進化だけは、どうしようもないようで、第1作が発売された2001年の携帯電話は、いわゆる“ガラケー”が当たり前だったが、現在ではスマートフォンが主流となっている。2016年のアニメ化の際に、ゲームで主人公の成歩堂龍一が使用しているのは、ガラケーだが、「スマートフォンに変更したほうがいいのでは?」という意見が会議で出たという苦労話が語られた。

 そして、最後はシリーズの特徴のひとつと言っても過言では“コミカルなノリ”。『逆転裁判』の調査パートでは、さまざまな場所にカーソルを合わせて調べながら証拠品を集めていくというゲームの性質上、すべての調査ポイントが正解というわけではなく、ハズレのポイントも存在する。そのハズレのポイントを調べた際に、「何もない……」、「綺麗な花だ」といった素っ気ないメッセージが表示されるとやる気がなくなってしまうそう。しかし、ハズレのポイントを調べてしまったとしても、小粋な会話が展開されることで、「ほかのポイントも調べてみよう!」とモチベーションにつながるのだという。「ハズレのメッセージも、アドベンチャーゲームでかなり重要な要素だと思っています」と巧氏は力説していた。また、キャラクターたちの特徴的な名前について、登場人物が多いと全員の名前を覚えるのがたいへんなため、1回聞いただけで覚えられるようなインパクトのある名前にしているという意図も語られた。

 『逆転』シリーズのシナリオは、(1)ミステリ部分、(2)ドラマ部分、(3)登場人物の順番で考えているという巧氏。まず、“どんな事件が起きるのか”、“どんなトリックがあるのか”などの話の掴みとなる部分を決め、そこからどんどん内容を詰めていき、ドラマ部分が完成するあたりで、登場人物も見えてくるのだとか。しかし、登場人物を決めていく際には、“どういった個性があって”、“なぜそういう発言をするのか”などという細かいところまでしっかりと考えて、“その世界で生きているように(キャラクターのセリフや設定を)書く”ことが重要となるそう。そうして、出来上がったシナリオは、チームメンバーに読んでもらいブラッシュアップを行う。さらに、その後、プログラマーに渡してゲームの形にしてもらい、実際にプレイしながら、セリフのスピード、アクションのタイミング、音楽などさまざまな調整をして完成度を高めていくのだという。

 では、具体的にどうやってトリックを考えていくのか。巧氏は3つの方法を紹介した。ひとつめは、インパクトのある事件からトリックを考えるパターン。『逆転裁判2』の第3話“逆転サーカス”がこのパターンにあたるそうで、雪で覆われたサーカス小屋で殺人事件が起き、「犯人は足跡も残さず空中に消えていった」と目撃証言があったため、浮遊が得意なマジシャンが犯人に疑われてしまうという内容だ。これらの条件を満たしつつ、おもしろいトリックはどのようなものなのかと考えていったとのこと。

 ふたつめの“既存のトリックの組合わせ”は、“停電中にテレビが映るはずがない”、“時計の時間が間違っていたのは海外旅行に行っていたから”という、ひとつひとつのネタはみんなが知っているようなものだが、それを組み合わせることでオリジナルティを出していくという手法。『逆転裁判』の第1話“はじめての逆転”は、この方法で考えられたのだという。

 3つめの“ムリヤリふくませる”では、ドアのカンヌキに氷を挟み、氷が溶けたら密室が完成するという、有名なトリックをアレンジしていく過程を紹介(※以下の例には、密室で殺された被害者(以下、被害者)、犯人に間違われている依頼人(以下、依頼人)、真犯人(以下、真犯人)が登場する)。

(1)もし、氷の中に“何か”が入っていたら(※真犯人が想定していなかったであろう要素を入れてみる)→氷が溶けたときに中に入っていた“何か”が床に落ちて、密室内から発見され謎になる。

(2)その“何か”が、数時間前に氷を作る際に製氷皿に落ちたものだったとしたら→その“何か”の持ち主が氷を使った可能性が高いので犯人だと疑われる。

(3)その“何か”が、被害者と依頼者がケンカしていたときに落ちたものだったとしたら→依頼者は犯行の動機になると思われるので本当のことを話せない。

(4)依頼者と真犯人が婚約者どうしだったとしたら→真犯人も知らなかった事実が明かされ驚く。また、第三者の視点から見ると、真犯人がわかったとしても婚約者を陥れようとする理由が理解できず、新たな謎やミスリードが生まれる。

(5)この3人が三角関係だったとしたら→ケンカや殺害する自然な理由が生まれる。

 このようにして、物語やトリックが作り上げていくそうだ。なお、ここまでくると、舞台となる場所、登場人物の性別や性格などもイメージできるようになってくるとのこと。

 続いて、『逆転裁判』とは違う、もうひとつの“逆転”として制作された『大逆転裁判』について。同作のコンセプトは、本シリーズとの差別化ということで、民事裁判にしようという案もあったそうだが、判決後の結末が伝わり辛かったり、事件の内容が生々しくなったりするなどの理由から紆余曲折あったようだ。そんな中で、ミステリーが誕生した時代&ゲームであまり取り上げられていないことに加えて、「この設定なら『逆転裁判』とは違った新たな“逆転”を描けるのではないか」ということで、19世紀末が舞台のクラシックミステリーが選ばれたとのこと。ただ、それだけではインパクトが弱いため、“成歩堂の先祖の物語”と“シャーロック・ホームズ”のふたつの要素を取り入れることになったそう。

 そんな『大逆転裁判』のシナリオのポイントは4つ。ひとつめは“大日本帝国と大英帝国”。成歩堂の先祖とホームズが出会う物語ということは、コンセプトの段階で決まっていたので、そこからふたつの国をまたいだ大きな出来事を作ることにしたそう。その後、事件の具体的なネタを考え始めたときにテーマにしたのが“19世紀のリアル”。巧氏は、“19世紀の倫敦(ロンドン)でしか成立しない事件”を描きたかったそうで、当時の文化や裁判について調べたのだとか。その際に、当時の裁判は賄賂といったようなことも当たり前のようにあったことを知り、そこから“絶対に負けない検事とはどういうものだろう?”と考えたところで、“死神検事”というアイデアが生まれたとのこと。

 “シャーロック・ホームズ”は、世界でもっとも愛されたキャラクターのひとり。作品ごとに隅々まで研究されているということで、巧氏もマニアのひとりとして、“まだらの紐”を物語に入れてみたのだとか。また、夏目漱石についても、ホームズの住居の近くに下宿していたという実話があり、その内容も取り入れているとのこと。そのように、世間の人は知らないけれども、マニアは知っているという知識を持っていると、シナリオを書くときに重宝すると巧氏は語る。

 最後に『大逆転裁判』シリーズは、トリックと事件の連鎖を究極まで突き詰めて、これまで語られたノウハウを詰め込んだ内容になっているとのことで、「まだ遊んでいない人は、いまからでも遊んでもらえるとうれしいです」と講演を締めくくった。

 その後には、質疑応答の時間が設けられたので、その内容を紹介しよう。

Q.セリフのタイミングや演出などの細かい調整は、どの程度行っているのでしょうか?
A.大逆転裁判2』のときは、7ヵ月~8ヵ月ぐらいかけて調整しました。『逆転裁判』、『逆転裁判2』、『逆転裁判3』のころは、できることが限られていたのですが、いまの時代はやろうと思えば何でもできてしまいます。『大逆転裁判』では、ホームズさんが依頼者などをひと目見ただけで推理するというネタがあります。それで目線まで動かすことにしたのですが、立つ位置によって目線が変わるので、とてもたいへんでした。でも、やればやるほど完成度が上がるので、作り手にとってはいちばん幸せな時期といいますか、完成している感覚を感じられるので楽しい作業ではありますね。そういった細かいところまで調整を行うので、すごく時間が掛かります。

Q.物語は第1章から順番に作るのでしょうか?
A.ゲームの制作は最初から順番に行いますが、お話に関しては物によります。とくに『大逆転裁判』は、先ほどもお話しました通り、大枠を作ってから、中に何が入るかというように作っていきましたが、『逆転裁判』、『逆転裁判2』、『逆転裁判3』のころは、最初から順番に考えていましたね。よく「『逆転裁判3』ですべての伏線が回収されている」と言っていただくのですが、じつはリアルタイムに考えながら作っていました。

Q.大逆転裁判』には、シャーロックホームズや夏目漱石など、他の著作物や実在の人物が登場しますが、権利や許可はどのようにされていたのでしょうか?
A.ホームズについては、僕もおっかなびっくりで企画書を書いていたのですが、社内の法務に確認をお願いして“問題ない”という回答をいただきました。夏目漱石さんについても、子孫の方に問い合わせをして、“好きにしてください”とご快諾いただいたと僕は聞いています。

Q.最初のシナリオが完成するまでにどのくらいの期間が掛かるのでしょうか。
A.大逆転裁判』は、考え始めたのが2013年からで、発売されたのが2015年なので、最初の1年は準備期間だったような気がします。
Q.シナリオを考えられているあいだもプログラマーの方はプログラムをしているのですか?
A.さすがに最初は僕だけで、徐々に人が増えていくという感じですね。
Q.ということは、最初はシナリオだけを考える期間が続くという感じでしょうか。
A.そうですね。ただ、『逆転裁判』は全部で10ヵ月だったので、考えながら書いていましたね。