「自分は視覚障害者だけど、『Madden NFL』の過去作品をプレイすることができた。でもキックメーターの仕様が変わって遊ぶのが難しくなってしまったんだ。なんとかならないか?」
 「私は視覚障害者で『ニード・フォー・スピード』を遊んでる。でも時々マップから飛び出てどこにいるかわからなくなっちゃうんだよね」

 世界的パブリッシャーのエレクトロニック・アーツには、こういった問い合わせがしばしば寄せられるという。画面がまったく見えなかったり、ほとんどボヤけていてもゲームをやりたいという人に、ゲームメーカーは何ができるか?

キーとなるのは音と振動。視覚障害ゲーマーもサポートするためのエレクトロニック・アーツの挑戦【GDC 2018】_01

 EA SPORTSに所属するカレン・スティーブンス氏の専門のひとつが、こうした障害のあるゲーマーに少しでも遊びやすくなってもらうためのアクセシビリティ機能を考えたり、ゲーム内外のサポート施策を講じること。昨年のGDCでは、アメフトゲーム『Madden NFL』における、大画面の中の小さなUIが見辛い人や、色覚障害者へのアクセシビリティ改善をテーマに講演している。

 今年のテーマは視覚障害者に対するアクセシビリティ。では実際、画面に頼らずにどうやってビデオゲームがプレイされているのか?

 まず頼りになるのが音だ。3Dサウンドから状況を判断したり、効果音でオプションの選択位置を推定するといったことが行われているという。もうひとつキーになるのが振動で、これもまたアクションの結果や状況の手掛かりとなりうる。

 またテキスト部分などは、読み上げ機能を持つツールやデバイスを利用することで理解することが可能だ。

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 とはいえ、実際はゲームによって状況理解にたどり着くまでの方法は異なる。例えばスポーツ系のタイトルでは、実況解説が入っていることが大きな助けになる。本来は“スポーツ中継のような”リアリズムを出す演出のひとつではあるが、「あと何ヤードです!」とか「これは素晴らしいテイクダウンだ!」といったセリフがそのまま、画面上で起こっていることの説明になるわけだ。

 そのほかにも、これはEA SPORTSのスポーツタイトルなどがもともと超大作として幅広い人にプレイしてもらうことを念頭に置いて開発されているからだと思うが、カメラオプションが豊富に用意されていて、常にカメラの向きを一定方向に固定できるといった事もある(カメラをぐるぐる回転できる3Dアクションなんかだとこうはいかない)。プレイの面ではビギナー向けのアシスト機能の存在も有用だ。

 『ニード・フォー・スピード』はスポーツ系タイトルではないが、プレイしている人は音でアクセルの具合や敵車との位置関係、そして音と振動の双方で接触の有無や路面状態などを判断できるという。

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デフォルトカメラなら奥側が常にゴール。言われてみると、これだけで方向が定まってくる。

 それでも、視覚障害ゲーマーがそれぞれのゲームでの対処法を編み出すのは簡単なことではない。総合格闘技ゲーム『UFC』シリーズのあるプレイヤーはチャンピオンになるまでプレイできるようになったそうなのだが、特定の音と振動を頼りに状況を推測できることを習得するに至るまで1ヶ月を要したそうだ。これはもう達人の領域だ。

 いずれにしても、はっきりとしたフィードバックは手掛かりとなる。これをもっと強化したり、さらなるサポートを追加するにはどうすればいいか? EA SPORTSのタイトルはちょうどいいことに、多くのタイトルが定期的(ものによっては毎年)リリースされる定番シリーズであり、継続的な改善が行いやすい。

 実際に『Madden NFL 18』と『UFC 3』では、新たなサポート機能が盛り込まれているという。例えば『Madden NFL 18』では、新たなアクセシビリティオプションを有効にすると、どんなプレイを選択しているかや、メーターの具合などを追加の振動で伝えるようになっているそう。

 「なんで音より振動を選んだかと言うと……私は聴覚障害者だから」とスティーブンス氏は語る。新機能のテストを行うにあたって、モニターを消してプレイしてみたそうなのだが、これは彼女にとっては振動だけで判断するしかない状況だ。そして、見事にタッチダウンできたというのだから敬服するしかない。

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Maddenの新機能では視覚障害ゲーマー用の振動を追加するオプションが登場。

 またストーリーモードでは、クイックタイムイベントなどが存在し、クリアーしないと進めなくなるポイントがあったのを、失敗は失敗として進めるように変更。さらにスティーブンス氏による視覚障害ゲーマー用のガイドには、全クイックタイムイベントの正解が記されていて、それに従ってプレイすることでも進めるようになっている。

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実際のマニュアル。仕様について解説したのち、エンディングのひとつにたどり着きたい人のために全イベントの正解が書いてある。

 『EA UFC 3』では、同じく新たな振動オプションがついていて、相手選手の攻撃に反応。右が振動したらハイ攻撃、左が振動したらロー攻撃を出したということがわかり、また振動の強さで相手の距離もわかるという仕組みになっている。

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 すでに視覚障害ゲーマー用のガイドがあることに触れたが、エレクトロニック・アーツではこれらのガイドや視覚障害ゲーマー用のマニュアル(混乱しないようにテーブル機能を使わずにすべて改行で記述)、そしてフィードバック用のフォーラムなどをまとめた“アクセシビリティポータル”を公開しており、今後徐々にコンテンツを拡充予定。「あらゆるアクセシビリティ機能に言えることですが、何かが更新された時、退行はありえません。改善のみです」という不退転の決意が語られた。

 もちろん、対応にはコストがかかる。あらゆるメーカーが行えるわけではないだろう。それでも、よりゲームを楽しめる人を増やすために、大手として率先して取り組もうという気概のようなものが感じられた。ちなみに「どこがキツいのかわからなければ、あなたのゲームのプレイヤーの皆さんに聞いてみてください。きっと答えてくれますから」とのこと。

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