『DEAD OR ALIVE』や『NINJA GAIDEN』、『Devil's Third(デビルズ サード)』などで知られるゲームクリエイター板垣伴信氏。氏へのインタビュー取材を打診したファミ通.com編集部は、予想もしていなかった返事を受けて困惑する。「株式会社ソフトギアの“メタル顧問”に就任したので、その話を聞いてほしい」。メタル顧問? ソフトギアの思惑とは? さまざまな疑問を胸に、2017年11月某日、板垣氏とソフトギア代表取締役社長 青木健悟氏にインタビューを敢行。

 『DEAD OR ALIVE』や『NINJA GAIDEN』、『Devil's Third(デビルズ サード)』などで知られるゲームクリエイター板垣伴信氏。氏へのインタビュー取材を打診したファミ通.com編集部は、予想もしていなかった返事を受けて困惑する。「株式会社ソフトギアの“メタル顧問”に就任したので、その話を聞いてほしい」。メタル顧問? ソフトギアの思惑とは? さまざまな疑問を胸に、2017年11月某日、板垣氏とソフトギア代表取締役社長 青木健悟氏にインタビューを敢行。ソフトギアが描く未来、そして板垣氏がメタル顧問に就任することでもたらされる影響について話をうかがった。

ソフトギア代表取締役社長 青木健悟氏(写真左)と、ソフトギア メタル顧問に就任した板垣伴信氏(写真右)。

――2017年8月24日、板垣さんはヴァルハラゲームスタジオの代表取締役と最高技術責任者を退任し、最高顧問として就任することを発表されました。「自分や自分の会社のためだけではなく、私と仕事をしたいと言ってくれる、世界各国の若い開発者やスタジオの方々に、私なりのゲーム作り、遊び作りについての知見を伝え、ゲーム業界にこれまで以上に広く、深く貢献していこうと考えております」というコメントも出されておりましたが、今回のソフトギアへのメタル顧問就任は、どのような経緯があったのでしょうか。

※ヴァルハラゲームスタジオ代表取締役退任のお知らせ

板垣伴信氏(以下、板垣)もちろん、ヴァルハラゲームスタジオの最高顧問ではありますが、青木社長から「大いなる計画を持っている」とうかがい、力になれると思ったんです。株主の皆様方にも「ぜひあなたの力で手伝えるところは手伝って、自分の作りたいものは気長に作ったらどうだ」という温かいお言葉をいただき、ちょうど私も50歳になったので、いい節目だと思い「力になれるはずだ」と発案した次第です。

――青木さんと板垣さんとは以前から面識があったのでしょうか?

青木健悟氏(以下、青木)もともと『Devil's Third(デビルズ サード)』のサーバ開発に差し掛かったところでお会いしたのがきっかけです。弊社はこれまでずっとオンラインゲームのサーバを作ってきた会社です。板垣さんからの「ちょっと手伝ってくれよ」という打診をきっかけに、最終的にはサーバのほとんどを弊社で作ることになりました。……じつは、板垣さんとはケンカからスタートしていて(笑)。

――え? ケンカですか?

青木板垣さんと口論するところからスタートしたんです。その中で、システム会社としての位置付けだけじゃなく、コンテンツをいっしょに作ろうと認めていただいて。そこからプロジェクトを進めていく中で、徐々に絆を深めていったという関係ですね。

――差し支えなければお聞きしたいのですが、どのようなことで口論に?

青木 「これはできない」とか「これは矛盾している」という一般的な企画に関しての口論もありつつ、中国に大きな戦略を持って踏み込もうというときには「いっしょに中国に来い」と言われて。「来てください」じゃなくて「来い」と(笑)。板垣さんと1週間くらい中国にいっしょに行かせていただいたのですが、当時は若い自分がいて、足踏みする状況にイライラしていたんですね。お酒を飲んだあとに「部屋で話そうじゃないか?」と板垣さんの部屋に岡本さん(ソレイユ株式会社 代表取締役社長 岡本好古氏)といっしょに行って。岡本さんはトイレでずっと吐いていましたが(笑)。そのとき、今後のことであったり、ビジネスに対する意見交換をしていたんですけど、お互いにだいぶ酔っていたので言い合うような感じで話していたんです。ただ、最後はずっとお互い泣いていましたけどね(笑)。涙を流しながら乾杯して「ありがとうございます」となって。

板垣帰りの飛行機の中でまた飲んでね。

青木途中で空港までクルマで来ていたことを思い出しましたが(笑)。

――板垣さんにそこまで腹を割って話す方は、なかなかいないのでは?

板垣そうでもないですよ。50歳になったからといって人間変わるものでもないですし、私はどちらかというと砕けた人間ですので。大事に思ったとことか、成し遂げなきゃいけないことがあれば、それに向き合って、お互いに言い合うということはとても大事なことですよね。

青木そうですね。

――なるほど。ちなみに、『Devil's Third(デビルズ サード)』のWiiU版、PC版、どちらのサーバーを手掛けられたのですか?

青木サーバーはすべていっしょですね。

板垣いま世に出ているものは、テンプレのサーバーを使ったゲームばっかりじゃないですか。私は残念ながら『Devil's Third(デビルズ サード)』は負けたとは思っていなくて。勝つところまでには届かなかったというのは認めざるを得ないですが、ほかのテンプレサーバーではあれほどのものを作れないわけですよ。青木社長はあのゲーム性を支えるサーバーを作れるとおっしゃったので、「じゃあお願いします」というところから始まったんですよね。

――ソフトギアはオンラインコンテンツ向けの技術開発からオンラインゲーム開発、運営開発までを手掛けられていますが、青木さんはもともとゲーム業界のご出身なのでしょうか?

青木ゲーム業界出身ではなくて、いくつかの会社を経て、マルチタームという会社の立ち上げに関わっていました。マルチタームは昔、バーチャルリアリティーのサーバー部分を作っていたんです。情報処理振興事業協会というのがあって、そこから技術開発の採択を得て作っていたんですね。それをビジネスとして半導体ですとか、クルマ業界に販売を行っていて。そんな中、オンラインゲームと呼ばれるものが『Diablo(ディアブロ)』、『Ultima Online(ウルティマオンライン)』しかないような時代に、「ゲーム業界はこのシステムとの相性がいい」と思ったんです。そのときに家庭用の大手ゲームメーカー様のオンラインゲームを開発したことをきっかけに、ゲーム業界にどっぷりと入っていった、という経緯になります。

――そのあとに板垣さんと出会われたということですね。

青木当時は回線費用も高かったですし、お客さまの回線もチープだったところから発展してきましたが、その中にあっても『Devil's Third(デビルズ サード)』のオンラインはチャレンジブルなコンテンツだったと思います。板垣さんといっしょに開発を進めていく中で、いろいろな知見をいただいて。弊社はシステム会社でライブラリなども作っているので、そちらにもフィードバックし、これからそこをさらに発展させていこうということで、メタル顧問として入っていただきました。

――具体的に板垣さんの知見がほしかった部分というのは?

青木ライブラリに関してですと、開発においてテーマが見つかって。ソフトギアはテクノロジー寄りで、テクノロジーひと筋でライブラリを作っていたのですが、商品力が不足しているのが露呈してきたんです。そこで板垣さんの意見をフィードバックして作ろうと思ったのがきっかけです。「これ実現したいんだよね」というアイデアがすぐそばにあるのがいちばんわかりやすいじゃないですか。「実現するの無理だな」とか「これをやれば簡単にできるな」という知見、アイデアを身近で聞きたいというのがひとつです。もうひとつは、この3年くらい開発メンバーを集めてコンテンツ開発を行っているのですが、どうしても裏方という位置づけを抜け出せなくなっていて。日本でもパブリッシャーではないけどブランド力があって、ブランドができているデベロッパーがある。そのブランド力は、それだけお客さまにも、ゲーム業界にも貢献しているということだと思うんです。弊社のメンバーも揃ってきているので、会社として開発をステップアップさせたいと考えました。コンテンツ作りにおいてのメジャーフェイズに移行したいというタイミングで、板垣さんにコンサルティングやアドバイスを含めてやっていただこうと。

――なるほど。青木社長の打診を受ける形でメタル顧問に就任されたわけですが、常駐されているのですか?

板垣そこはほら、メタルだから。

――その返しはズルイですね(笑)。改めてうかがいますが、ソフトギアで実際に動いてみての印象はいかがですか?

板垣私としてもとても意義深い仕事ですね。ソフトギアは社員がみんな若いんですよ。女性も多いですし。ヴァルハラゲームスタジオは“男組”でしたから(笑)。スタッフに「何してるの?」と聞くと、ニコニコと笑って答えてくれるのがかわいいなと思います。「こうしたほうがいいんじゃないか」と口を出すと、社員どうしで会話が生まれたり、チームの中で共有されていくのは新鮮ですね。

青木いまは若手が増えてきていますし、弊社は外国人が多いんですね。9割くらいはヨーロッパ出身者ですが、開発の30~40%は外国人スタッフです。板垣さんが弊社にいらして、開発の席を回っていると、外国人スタッフが緊張しているんですよね(笑)。日本にゲームを作りたいとやってきたスタッフばかりですので、板垣さんのことをみんな知っているわけです。握手している手が震えていたりとか(笑)。

板垣ウェルカムな雰囲気で非常に入りやすかったですし、悩んでいることを相談してくれたりするんですよね。「なんでも聞いてね」と伝えたら本当になんでも聞いてくれて(笑)。とてもやりがいのある職場ですね。

――板垣さんが会社に来られることで会話のキャッチボールが生まれたり、クリエイティブの活性化が図られることについて、青木さんとしてはいかがですか?

青木予想はしていました。ただ、「これからかな」とも思っています。おかげさまで弊社には新たなプロジェクトがどんどん入ってきている状況ですので、これからスタートするプロジェクトでもっとも活性化すると思いますね。

板垣このタイミングですとタイトルはまだ言えませんが、リーダーを務めるスタッフに電話して、「いまから映画のタイトルを言うから、つぎに私と会うまでに観ておいてね」と伝えたり。ゲーム制作は共通言語を作るところから始まるじゃないですか。

――なるほど。では、板垣さんは新規IPのゲームに対する顧問として動いていらっしゃると。

板垣もっと柔軟な立場でありたいと思っています。経営幹部の皆さんの右腕でありたいし、開発スタッフが若いですからいろいろなことを伝えていきたいですね。たとえば、ただゲームオーパーになるのではなくて、プレイヤーにどう悔しがらせるかとか。忙しい現場ですと「ゲームオーバーになったから終わり」となりがちですけど、そういったところにこそ魂を入れる必要がありますから。

――ひとつのタイトルに対してアドバイザーのような立場で関わるのではなく、会社全体、開発全体に知見を共有していくと。

板垣ひとつひとつ「こうしたほうがいいよ」といったマイクロディレクションはしたくないですね。だから伝えるにしても、会社の経費で買うから「この映画を全部観なさい」と言うわけです(笑)。私が伝えた映画を全部観てもらえればテーマが共有されますから「それがこのプロジェクトの向かうべき答えなんだよ」と、そういう言い方ができるわけです。そのときに、通り一辺倒の答えじゃなくて、いろいろな答えが返ってくるというのが世代の違いでもあり、若者の力でもあるわけじゃないですか。

――ひとりひとりがレベルアップすれば会社全体のレベルが上げるということですね。

板垣私はそのつもりです。だからスタッフみんなに声を掛けています。

青木本当に先生役をやっていただいていますね。

板垣つい最近も私が来たら「いまこれをやっているんです」と声をかけられて。そのとき、そのスタッフは携帯のゲームを作っていたんだけど、大きなモニターで作業をしていて。私からのアドバイスは単純で「作業の画面を実際の携帯のサイズにしてくれないか」と。実際のサイズで見ると、見えていたと思った部分が見えにくいことに気づくんですよね。作っているときに気づきにくいこと、忘れてしまうことを、客観的に教えてあげています。モノ作りはやっぱり現場が大切で、現場にいなければわからないことがたくさんありますから。

――さきほど、デベロッパーとしてのブランドという発言がありましたが、今後はその点に注力されていくのですか?

青木そうですね。これまではどうも下請け気質があったのですが、今後は会社をデベロッパーにすることが重要だと思っています。日本はとくにそうですけども、パブリッシャーは内製で動く傾向が高く、デベロップメントも含めて行っていますが、デベロッパーはデベロッパーとして存在するものであり、パブリッシングの役割はパブリッシャーにあると思うんです。ですので、デベロッパーの中でスターダムになれればと……。パブリッシングのチャンスがあればやりたいとは考えていますが、パブリッシャーになることにこだわっているわけではありません。

――コンソール、スマホ、PCなど、プラットフォームはいろいろありますが、柔軟に対応されていくのでしょうか?

青木こだわってはいませんね。家庭用ということにもこだわってはいません。いまは“ゲームはゲーム機で遊ぶもの”ではなくなっていて、いろいろな価値がどんどん生まれてくる状況にあると考えています。広い意味で、ゲームのいろいろなところに参加していこうと思っています。たとえば、いまですとAIスピーカーがおもろしろいですよね。「電気つけて」、「電気消して」と、自分がAIスピーカーを買ったとしたら、何回も言うでしょうね(笑)。スイッチを押すのといっしょなわけですけど、おもしろいから「もうちょっと早口で言ってやろう」とか、そういうことが楽しいと思うんですよね。そのような変化がダイナミックにいま起きていると思っているのですが、そこに参加して勝つためには、ゲームの知見がある人がいないと勝てない。世の中に貢献する息の長いコンテンツを作るという意味ですと、知見が深い人がいたほうがいいと思いますね。

――いまのお話をうかがって、まさに板垣さんがピッタリということがよくわかりました。

青木現時点で詳細は発表できないのですが、いろいろなことを仕込んでいます。弊社は2018年1月末に設立から満10年を迎えますので、2月の10周年記念のタイミングにてさまざまな発表を予定しています。

板垣勝つときはピースが自然と集まってくるからね。

――現在、何ラインが走っているのですか?

青木具体的な本数は言えませんが、複数走っています。これまではサーバーだけですとか、プログラムだけという形で請け負っていたのですが、いまは丸々1本で受けるようにしています。

――では、もうすでにデベロッパー的に動かれているのですね。

青木企画から動いているものもありますので、コンテンツ作りが盛り上がっている手応えはありますね。

――基本的には国内のタイトルを?

青木欧米に関しても少しずつお話がきていますね。

――バンクーバーに支社を構えられたのは、海外での展開も視野に入れていらっしゃるからなんですね。

青木そうですね。いろいろな縁があり、海外の企業とも少しずつコンタクトを取るようになってきています。本当にこれからかな、というところですけども。

――板垣さんがスマホタイトルに携わられるというのは、ファンからすると意外に感じます。ふだんからスマホのゲームは遊ばれているのすか?

板垣遊んでますね。正直に言うと、昔は目が悪かったのでスマホゲームはあまりやらなかったのですが、友人から「タブレットでやったらいいじゃない」と言われて「ああ、そうだな」と(笑)。それ以降、驚かれると思うけど、ちょっとでもフックしたアプリは全部ダウンロードしています。

青木板垣さんは超ヘビー課金ユーザーですよ(笑)。

板垣課金もしますね。課金をしないと肌感とかがわからないですから。全部身銭で、ハードコアゲーマーの1ヵ月分くらいは課金しています。マネタイズのシステムがどうなっているのかですとか、そこまで遊ばないとわからないですし、土俵が違えばおもしろいポイントも変わりますからね。

青木板垣さんのそういった面で言うと、板垣さんが近くにいらっしゃることで発見がすごくたくさんあります。たとえば、板垣さんに「会社に和室があるんだから掛け軸を買ったほうがいい」と言われときも、それまでは掛け軸なんて買ったことはなかったわけです。知識もない状態で骨董屋にドキドキしながら入ったのですが、お店の方が親切にいろいろ教えてくださって、とても勉強になりました。

板垣軸足の畑は違えど、こだわりがあるのが青木社長のすばらしいところです。だからソフトギアは伸びると思いますね。

青木メタル顧問がおっしゃったように、弊社が伸びるということは自分でも言える自信があります。じつはゲーム業界以外の新しい取り組みをしているのですが、さまざまなコンテンツに板垣さんの考えが組み込まれていくと思うんですよね。

板垣海外での展開についても、いろいろと助けられるんじゃないかなと思っています。

青木板垣さんは人を育てるという意味で、ヨーロッパや中国を含め、世界中で活動されていますので、弊社としても日本だけではなく、開発の拠点を世界に広げていこうと考えています。そういう意味でも2年3年という区切りの中では、しっかりとした成果を出せると思っています。ですので、ゲーム作りだけではなく、いろいろなソリューションの中に、アイデアだったり、コンテンツとして作り込んでいるですとか、来年(2018年)以降、ソフトギアのそういったところに期待していただければと思います。