知る人ぞ知る『moon』という作品をご存じだろうか。プレイステーション用ソフトとして発売された『moon』は、RPGへの愛とイロニーに満ちた箱庭感のあるアドベンチャーとして、ゲームファンから根強い人気を誇っている作品。現在は希少価値が高く入手困難な、幻のゲーム(?)としても知られている。
2017年10月16日は、この『moon』の発売からちょうど20年目に当たる。奇しくもそんな記念日に、『moon』のスタッフが手掛けた最新作、『Million Onion Hotel』がiOSで配信されることとなった。
『moon』ファンなら、記事の冒頭に掲載した、『Million Onion Hotel』のメインビジュアルをひと目見ただけで、20年前に味わった独特なゲーム体験を期待してしまうのではないだろうか? 本作は、『moon』を始め、『チュウリップ』や『王様物語』など、数々の味わい深い独自の世界をプレイヤーに感じさせるゲームを手掛けてきたゲームデザイナーの木村祥朗氏のゲームスタジオ、Onion Gamesの設立当初から企画・開発されてきた作品でもある。その開発には長い年月を要し、不思議な縁なのか……木村氏が手掛けた『moon』の発売から20周年を迎えた日に、配信されることとなったのだから(生きていると不思議なこともあるものだ)。
その証拠に、『Million Onion Hotel』に登場する、ある種最重要キャラクターとも言える(?)印象的なタマネギは、オニオンゲームスのロゴにも描かれている。
思わず、不思議な縁……と言ってしまったが、じつは『Million Onion Hotel』には、『moon』にも登場していた「あいつ」ではないか!? と思われるキャラクターが登場するのだ。『moon』ファンで、本作をすでにダウンロードしてプレイした方ならば、きっとそろそろその存在が気になり始めているころではないだろうか? いったい、『moon』の世界と関係があるの? と。
筆者も、ご他聞に漏れず『moon』ファンなものだから、本作をプレイしていく中で、「おいおい、これはカクンテ人やトットテルリ、ヨシダでは!?」と思うようなキャラクターを目にして、いまもまだドキドキしているところである。
ドキドキしているだけではしかたがないので、ここはオニオンゲームスの木村氏を直撃すべく、2017年10月16日となる本日、急きょ氏にコンタクトを取ることに。だってほら、きっと『moon』20周年という特別な日だし、もしかしたら『Million Onion Hotel』と『moon』の関係……いや、秘密をポロリと教えてくれるかもしれない! というわけで、どうなんですか木村さん!
木村氏がこっそり教える『Million Onion Hotel』と『moon』のヒミツの関係!
――と、いきなり答えにくい質問ですいません。まずは、配信おめでとうございます! そして、『moon』20周年もおめでとうございます!
木村 いきなり来たね(笑)。でも、ありがとうございます。
――まさかOnion Games立ち上げの頃から開発してきた『Million Onion Hotel』が、『moon』20周年のタイミングで配信されるなんて驚きました。
木村 8月中旬頃にいけそうな気がして、16日に配信できたら気分いいだろうな……と、想像し始めていました。なので、そこから気合をいれて10月中旬で締め切りを決めて進行していました。でも先週にバグが見つかってしまって、「もう無理」と、落ち込んでもいたのですが、奇跡的にバグが直って、駆け足で申請して……『moon』20周年の前日に間に合った(笑)。不思議な偶然ですよね。
――ところで、いきなりついでで恐縮なのですが……こんな奇妙な縁で結ばれた『Million Onion Hotel』には、『moon』に登場していたヨシダやカクンテ人、トットテルリにそっくりなキャラクターが出てきますが、ずばり本作と『moon』は、関係があるのでしょうか?
木村 やっぱり『moon』を気に入ってくれている人は、そこは気になっちゃいますよね……でも、いきなり言っちゃうと、いわゆる続編的な関係とかではないんです。それに、『moon』は箱庭を隅々まで歩き回って物語を体感するアドベンチャーゲームだけれど、今回の『Million Onion Hotel』は、アクション性の高いパズルゲームをプレイしながら物語を味わってもらおうというゲーム。作品の手触りもかなり違うでしょう?
――そうですね。でも、『moon』ファンとしては、本作をプレイしていると、アクションパズルにのめり込みながらも、やはりどこか懐かしい『moon』の世界に似た世界観を感じてしまって。きっと、違うテイストのゲームだと知りつつも、そこに何かヒミツがあるのではないかと勘繰ってしまいたくなる、何かがあるのではないでしょうか。
木村 うーん。その辺りは、やっぱりヒミツのままがいいかな。
――え! ということは、やはり何か『moon』と関係があるんでしょうか? 20周年だし教えてください!
木村 まあ、20周年だしちょっとだけ話すとね、『moon』に登場していた“トットテルリ”の原型が、今回『Million Onion Hotel』の後半のボスとして登場する“テルリテルリ”なんです。
――トットテルリの原型がテルリテルリ!?
木村 じつは『moon』とかの世界が存在するよりも、ずっと前から僕が作っていた世界観があって。それはパラレルワールドの日本を舞台にした世界だったんですが、テルリテルリは、そこにいたキャラクターなんですよね。たぶん、イラストはたまに見せたりしていたので、もしかしたらどこかで見たことある人がいるはず。
――パラレルワールドの日本と言えば、『Million Onion Hotel』にも、そんな日本なのでは? と思えるような世界がありますが……。ところで、ほかにも『moon』で印象深いしゃべる鳥のヨシダに似たボスで、“ヤスダさん”が登場しますよね。何もかもそっくりです。
木村 僕はよく与太話で「動物と話した経験がたまにあるんだよ」って語るんだけれど、『moon』の開発当時に、よく夢の中で見たんです。第一勧銀(現みずほ銀行)の通帳に鳥の絵が描かれていたんだけれど、その鳥が喋りかけてきたり、踊り出したりする夢(笑)。その通帳の絵の鳥が暴れまわっていた動きを思い出して、『Million Onion Hotel』のボスとして、ヤスダさんを作りました。ああ、そうだ。思い出した。ヤスダを最初に登場させようとしたのは、『チュウリップ』に登場する“亀の湯”の煙突の上ですかね。あそこにはいま鶴が住んでますが、あれ、最初はヤスダが住むはずでした(笑)。モデリング間に合わないからと……鶴にしちゃった。
――なるほど(笑)。『moon』の開発より前から、木村さんの中にあった世界や体験などから生み出されているキャラクターだからこそ、同じ気配がするのかもしれません。最後に、カクンテ人そっくりなキャラクター(ネギタマ人?)についてはどうですか?
木村 カクンテ人については、語ると頭がおかしいと思われるだろうから、あんまり話せないな~(笑)。
――そんな(笑)。では、この勢いで『Million Onion Hotel』についても聞かせてください。どうしてこういうパズルで物語を語るゲームにしようと思ったのですか?
木村 このゲームは“ポエム”というか、世界観の塊なんですね。やはり、物語を誰かに聞いてもらいたいんだと思うんです。今回、パズルで物語を語ろうと考えたのも、短い話ならば、プレイヤーにもクリアーするまで止まらずに、走り抜けてもらえるかもしれない。気持ちよく遊んでいるうちに、「ああ、おもしろい話だったなあ」って思ってもらえるんじゃないかって。
――短編小節のような魅力ですね。
木村 四行詩とか、2ページくらいの詩もあるんだから、短くても心に残るゲームもあるはずだと考えた。大きさは関係なくて、どんなにコンパクトでも触れることで想像力が働くものが好きなのかもしれない。童話とか小説とか、星新一のショートショートとかね。『Million Onion Hotel』は、自分がこれまで作ってきたゲームのなかではいちばん小さいけれど、ちゃんと世界があります。新作として、何も欠けていないと思う。真面目に作りましたから。
――『Million Onion Hotel』は、Onion Gamesで『moon』のころからの仲間といっしょに制作した最新作ですよね。
木村 『moon』のころと同じで、イラストレーターの倉島(一幸)さんがドット絵を描いていて、音楽も『moon』の谷口(博史)さんが担当しています。ほかにも、そういった仲間たちと作っています。『Million Onion Hotel』では、パズルでフィーバー状態に突入すると、背景が銀河になって……牛が出てくるようにしたんです。
――たしかに何故か宇宙なのに出てきますね、牛(笑)。
木村 ね、意味わからないでしょう。でも、『moon』のころからいっしょだからなのか、Onion Gamesの皆のすごいところはね、“何故、牛が出てくるのか”について説明しなくていいところなんです。
――説明しなくていい、ですか。
木村 何故なら、誰も質問しないから(笑)。受け入れてくれる。この「なんで牛なの?」と聞かれないうれしさ。本当に欠けがえのない仲間です。説明する必要がないまま、「はい牛ね」って牛を作ってくれる仲間がいてくれて、ありがたいです。
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