2017年10月12日〜13日、シンガポールで開催された開発者向けカンファレンス‶SEA SUMMIT”。開催2日目となる10月13日には、『NieR: Automata』ディレクター、ヨコオタロウ氏が登壇。ゲームのキャラクターの作りかたと、シナリオの書きかたについてのkeynoteが行われた。

 本稿ではその模様をお届けする。なお、keynote中は撮影NGだったため、スライドなどの写真が掲載されていないことは理解いただきたい。

ヨコオタロウ氏(以下、ヨコオ) 皆さんこんにちは、ヨコオタロウです。日本でビデオゲームを作っています。僕は朝早く起きるのは嫌いなんですけど、今日は皆さん早起きしていらしていただいたので、多少なりとも役に立つ話をして帰りたいと思います。(かぶっているエミールマスクで)会場の様子がちゃんと見えないんですけど、30歳以下の方はどれくらいいるんですか?

〜7割くらいの方が手を挙げる〜

ヨコオ 僕は47歳で年寄りなんですけど、30歳以上のおっさんはそれまで生きてきた人生を肯定しようとして適当なことをしゃべるのであまり信用しないでください。

〜会場から笑い声〜

ヨコオ 20歳以下の方は経験がないので、そういう方の話も聞く必要はないです。

〜会場から再び笑い声〜

ヨコオ 僕の結論としては人の話を聞かなくても生きていける。というわけで、今日はよろしくお願いします。撮影はNGとなっているのでマスクを取ろうと思ったんですが、今回のイベントを共同主催されているSOZOさんがわざわざヨコオタロウボックスを作ってくれたので、そこに入ってしゃべりたいと思います。

 「メチャクチャにしてしまえ」ヨコオタロウ氏シンガポールkeynoteリポート_01
昭和の報道番組で見たことあるような、曇りガラスで囲われた”ヨコオタロウボックス”

ヨコオ じゃあ、始めたいと思います。よろしくお願いいたします。どうですか、見えますか? 今日のために、一生懸命パワーポイントでまとめてきました。キャラクターデザインの作りかたとシナリオの書きかたを話したいと思います。

〜表示されるkeynoteタイトル〜
「ゲームのキャラクターの作り方と、シナリオの書き方」

〜その後、ヨコオ氏の自己紹介文が表示される〜

ヨコオ 自己紹介文は、別に読まなくてもいいです。今回、keynoteを行わせていただくにあたり、主催からふたつの質問をいただいていたんですね。最初の質問ですが、英語で読んでもらえますか?

「ヨコオタロウ様は、ユニークなキャラクター設定をされることで知られています。とくにそのキャラクターの背景にはダークで陰鬱な世界が〜」

ヨコオ 質問が長い。

〜会場から笑い声〜

ヨコオ ですので僕のほうで質問を短くしました。

「どうやってキャラクターを作るのか?」

 こういうことかなと。まず考えるのは‶バジェット”です。夢がないように感じるかもしれませんが、何事もお金が重要で、お金がないと物事が始まらないのでバジェットが最初。
 そのあとが‶期間”です。地味な話が続いて申し訳ないですけど、お金と期間があれば、だいたいの物事は解決すると思っています。まずはこのふたつですね。
 そのつぎが‶市場”。マーケットですね。市場でどういうジャンルが求めらているのか、スマホなのか、コンソールなのか、RPGなのかバトルなのか、そういうことを決めます。
 つぎに決めるのは‶バランス”です。キャラクターが複数登場するときの性別や人数のバランスですね。キャラクターが100人登場するゲームを作るのは難しいので、3人〜5人がいいかなとか、男女の比率などを考えます。
 そしてつぎに考えるのは‶ファン”のこと。過去作から期待されていること、過去のキャラクターが出てほしいなど、ここで初めて考慮します。ただ、ファンのことを聞いていればいいわけではなく、期待を裏切ることも求められるので、ここでそれをデザインします。
 つぎは‶ゲーム”。ようやくゲームの内容に入ります。ここで考えるのは、バトルゲームのときに手が4本あるとモーションのコストが高いとか、ゲームデザインとキャラクターデザインがどうリンクするかですね。たとえば、FPSを作るときに弾を撃てないとまずいので、銃を撃てる世界観に縛られるわけです。

 最後にようやく‶ドラマ”。ここで物語やキャラクターの性格などが初めて決められます。結論としては、

「必要な要件を満たした後自由な発想が出来る」

 ということですね。作ったことがない方にはわからないと思うんですけど、最初にドラマを考えてしまうと、予算でゲームが作れないという状況が発生します。たとえば、6人兄弟がいてひとりずつ物語を描きたいと思っているとします。でも、予算の都合上、ステージが4ステージしか作れない。そうすると、ステージを6で割って薄くするか、6人のうち4人しか登場しないというソリューションを取らなければならない必要があります。よく学生さんなんかがキャラクターの設定を考えるときに、まず、こういう名前で、こういう髪型で、こういう人数で、とか考えると思うんですけど、実際のところ、そういうことをやったあとに予算によってめちゃくちゃになって、キャラクター性が壊れるというのはよくある話なんですね。大事な部分は、キャラクターを考える前に必要な要件を満たすということ。さて、時間が押しているので、ここからはなるべく早くしゃべりますね。つぎはこの質問に答えたいと思います。

「どうしてヨコオは暗い話ばかり作るのか?」

ヨコオ 僕としては意識していないんですけど、自分なりに答えを用意したのがこちらになります。

「現実世界が暗いから」

 説明の前に、ビデオゲームの特徴をふたつ紹介したいと思います。

「ビデオゲームは現実世界を模倣する」

 どういうことかというと、画面に白い点と黒い点しかない場合、そこに宇宙人がせめて来る画を作るとします。

〜『インベーダー』のような画面が表示される〜

ヨコオ 黒い部分はただのモニターの色なんですけど、そういうものに人間は宇宙とか夜をイメージする力があるんですね。昔からビデオゲームはこのように現実を模倣してきました。では現実世界はどうか。実際は紛争がおきたり、人が死んだり、よくないことが世界でたくさん起こっています。戦争ばかりかというとそういうことでもなくて、オリンピックのように楽しそうに運動しているときもある。ただ、金メダルはすばらしいことのように語られているんですが、金メダルを獲るということは、けっきょく誰かを踏みつけて、誰かを敗者にして、負ける人間を作っているという状態なんですね。人間は欲望にまみれていて、競争や憎しみから逃れられない。だから現実世界を模倣するビデオゲームもそうなる。それを証明するかのようにつぎの特徴がでてきます。

「殺すゲームが求められる」

 皆さん、いろいろなゲームを想像すると思うんですけど、多くのゲームは何かを倒したり、何かを殺したり、自分が優位になるという仕組みのゲームになっています。ビデオゲームが現実世界を模倣するということを逆に考えると、ゲームが殺すものであればどういう物語があるべきか、敵を殺すゲームが希望に満ちた明るい世界であるはずがないわけです。そういうふうに僕はいつも思って作っています。たとえば、敵の兵隊を100人殺したあとにヒロインと会ってキスをするというものは、僕の想像からするとそっちのほうがよっぽど狂っているって感じるんですね。だから、なるべく、世界を正しく描きたいと思って描いた結果、暗いと言われるのかなと思っています。えーと、会場の空気が暗くなってきたので主催からのつぎの質問に行きたいと思います。

「『NieR:Automata』』に限らずゲームを最初から考えていくうえで、どういう試行錯誤を繰り返している〜」

ヨコオ はい、質問が長い。短く要約すると、

「何故、『NieR:Automata』が作られたか?」

 こう質問されていると考えました。で、答えを短く言いますと、プラチナゲームズがすべての発端です。では、ステップを追って、どうやって『NieR:Automata』が作られてきたのか説明します。まず、

・プラチナゲームズのプロデューサーがスクエニに接触。

しました。つぎに

・スクウェア・エニックスが『NieR』制作を打診。

しました。

 最初は「『NieR』じゃない、オリジナルのタイトルを作りませんか?」とプラチナゲームズさんは言ってきたのですが、『NieR:Automata』のプロデューサー、スクウェア・エニックスの齊藤陽介さんが「『NieR』を作りませんか?」と、逆に提案しました。で、そのつぎが

・スクウェア・エニックスがヨコオに声をかける。

 『NieR』はスクウェア・エニックスさんのIPですが、僕は社外でシナリオとかを書いていたので、ありがたいことにお情けで声がかかりました。お情けという部分が翻訳できないと思うのではっきりいいますと、金持ちが●●●●●(※編集部判断により伏せ字)にお金をくれるような感覚で仕事をもらいました。

〜会場は大爆笑〜

ヨコオ つぎに

・ヨコオがプラチナゲームズを想像する。

 です。どんなゲームを作ろうかと考え、プラチナゲームズのことを想像したんですね。プラチナゲームズさんは非常に優秀なデベロッパーで、世界観をしっかりと持っていらっしゃると感じました。『ベヨネッタ』ですとか、『メタルギアソリッド ライジング』であるとか。そういうことを考えると

・SF、バトル・アクションというテーマになる。

 となりました。どちらかというと、こだわっているデベロッパーだから、ファンタジーは作ってくれないんじゃないかなと。ところが現場にいってみると

・プラチナゲームズの開発現場が前作をリスペクトする。

 アクションゲームばかり作っている兵士、ソルジャーばかりかと思っていたら、みんな優しくてびっくりしました。プラチナゲームズには『ベヨネッタ』を作った神谷英樹さんという超有名なゲームデザイナーがいるんですけど、僕が想像していたプラチナゲームズは神谷さんを中心とした映画の『マッドマックス』みたいなところだと思っていました。ひとりのすごいクレイターさんをまわりがあがめている、という現場を想像していました。ただ、実際のところはそうじゃなくて、神谷さんを含めて、若い人の意見も吸い上げるという会社でした。プラチナゲームズの若い方たちはアクションゲームも好きだけど、たまには違うゲームを作りたいと思っていたんですね。ということで

・RPG要素が復活する。

 『NieR』はもともとファンタジーRPGっぽいゲームだったんですけど、僕がプラチナゲームズさんに気を使ってSFのバトルアクションに変えて、そのあと現場の熱意によってRPG要素がゲームに入った。こんなプロセス『NieR:Automata』というゲームは完成しました。我々としては実際はどんなゲームができるのか、どんなゲームを作ろうか、というビジョンを最初は持っていませんでした。その場その場のいろいろな事情に合わせて、企画が変更されていっったんですけど、結果から言えば『NieR:Automata』は風変わりな、とても『NieR』らしいゲームになったと思っています。はい、じゃあ、つぎのテーマに行きたいと思うんですが、ちょっと早く話しすぎたので、ここからはなるべくゆっくり話したいと思います。

・ゲームを考える時にどういう試行錯誤をするか?

 学生さんとかにも話しているんですけど、いちばん大切なことがひとつある。それは

「想像する」

 ということです。想像するという本質をわかっていない方が多いので少し説明をしたいと思います。世界の仕組みを説明します。世界の中心には「私」がいます。皆さんもそうだと思います。じゃあ、世界というものが何でできているかというと「他人」でできています。皆さんが世界と呼んでいるものは他人の集合体なんですね。たとえば、表現をするという行為は他人の心を操作するという意味合いになります。イメージしてもらうとわかると思うんですけど、誰かの心の中に石を投げ入れて(水に投げた石が波紋を生み出すように)その波紋を作るのがデザインをするとか、モノ作りのデザインだと思います。で、他人の心の中にどういう波をデザインするか、どういう波が起こるのかを想像するのがとても大事だと思います。サンプルなんですけど、ネットで検索してセクシーな画像を用意しました。

〜表示される水着を着た金髪美女の写真〜

ヨコオ この写真をみて、いま皆さんがどう感じているのか? いろんなことを思っているでしょう。「セクシー」とか、「付き合いたい」とか。いま皆さんがこれを見て思っていることは、皆さんの主観です。たとえば、「肌の露出が多くてけしからん」と思う人もいる。「泳ぐはずの水着なのにアクセサリをつけてるのはおかしい」と思う人もいる。誰かの心に石を投げ込んだときに起こる波の形はいろいろと違うんですね。男性は「これを見た女性がどう思うのか」、女性は「男性がどう思うか」、自分ではない人のことを考えるのが想像なんですね。この写真を見て「セクシーだ、すばらしいな」と思ったとします。でも、世界のすべての人が同じことを思うだろうと思い込むのは想像ではなく、妄想です。言い方を変えると、相手のことを想像するのではなく、都合のいいイマジネーションを押し付けているだけ。ですから、物語はファンタジーを作るときも自分に都合のいいものを考えるのではなく、相手がどう受け止めるのかを考えるのが重要です。そして、そうした相手の心にある気持ちの波というのは、デザインすることはできます。たとえばこの写真。

〜子猫の写真が表示される〜

ヨコオ これを見てどう思うかな、と想像してみます。「かわいい」とか、「猫アレルギーだから触れない」とか、いろいろな人がいろいろなことを想像するわけですね。ここに、このような文字、キャプションをつけます。

「虐待され、捨てられてた子猫」

 さきほどまで見ていた気持ちと、この文字がついているものを見て思う気持ちは違うと思うんですね。こう書くと、大勢の人は「ひどい」、「かわいそう」と思う。その気持ちを何が引き起こしているのかということを自分の中で分析することが大事だと思うんですね。
写真がマッチョな男性軍人だと想像してください。そうすると、「虐待され、捨てられた」と書いてあっても、そんなにかわいそうと思わない。そうやって分析をしていくと、かわいそうだと思う気持ちは、弱いと思うものが理不尽な状況にあることから生まれていくことがわかります。ただ、かわいそうな表現ができたと思っても、それを疑う必要があります。さきほど話したように、世界の人が同じことを考えているわけではないので、違うことを考えている人もいるわけです。ということで、自分がおもしろいと思っても、その感性を疑う。そして、違うことを考えた人を、自分が面白いと思うことに誘導する。ただ、世界のすべての人が同意するわけではないとさきほども言いました。たとえば、ここにふたりの人がいます。ひとりは「アニメはクール」だと考えている。もうひとりは「アニメはダサい」と考えているとします。実際は、どちらの感性も正解です。白が好きな人もいれば、黒が好きな人もいる。いくらいろいろな感性があるといっても、ひとつの物語ですべての感性をコントロールすることはできません。ですので、

・すべての人を対象にできない。サービスすべきはお客様が誰かを知る。

 サービスすべきお客様は、マスをターゲットにしているのか、マイノリティをターゲットにしているのか。なんでこんなことを言っているのかというとつぎになるのですが、

・ユニークさを求めるならスタンダードが何かを理解しなければいけない。

 自分がやりたいことや感性はいったん捨て、世界の人が何を思っているのか素直に分析するのがクリエイションには重要。おおざっぱに言うと、市場分析と呼ばれるものをここまでにも話させていただきましたが、けっきょくクリエイターの皆さんというのは自分がやりたいことをやりたいと思っている。市場分析をするというのは、どこに石を投げ込むのか、戦場を知るということになります。戦場である市場を理解したのであったら、

・あとはメチャクチャにしてしまえ。

 皆さんが作りたいものを作りたいように暴れるのが、最後に必要となります。3分オーバーしちゃいましたが、今日はここで終りたいと思います。せっかく「ヨコオボックス」を作ってもらったんですけど、Q&Aはステージに出て答えたいと思います。

〜以下Q&A〜

Q:ヨコオさんはゲームをもとに映画を作ることを考えたことはありますか?

ヨコオ 考えたことはあるんですけど、お金が必要ですので、お金を出す人をまずは探したいと思います。

Q:『ドラッグオンドラグーン』の次作は?

ヨコオ これもそのへんにスクウェア・エニックスさんのプロデューサーがいると思うんですけど、プロデューサーが金を出すと言えばいつでも作ります。

Q:『NieR』の次回作を作るとしたら?

ヨコオ 皆さんが思う『NieR: Automata』の続編を想像して、そうではないものを作りたいと思っています。ムチャクチャにしてやる、と思っています。

Q:ヨコオさんはいままでゲーム、ノベル、舞台に関わってきたと思いますが、今後作っていきたいメディアはどんなものがありますか?

ヨコオ ドン引きすると思うんですけど、アダルトビデオを作りたいですね。人生の中で1回くらいは作りたいと思っている。

Q:市場調査が大事とおっしゃっていましたが、いろいろな国の調査をしたのでしょうか?

ヨコオ 前作の話になるんですが、海外、とくにアメリカで「マッチョが受ける」と言われてマッチョな男性を作ったんですね。でもゲームがぜんぜん売れなくて。ファンの人からは、「マッチョは好きだけど、スクウェア・エニックスのゲームにマッチョは求めていない」と言われました。前作は日本でそこそこ売れたんですけど、『NieR: Automata』はせめて日本では売ろう、というコンセプトで作られました。だから正直、海外の調査はほぼまったくしていません。結果的にはヒットしたんですけど、なぜ売れたのか我々はわかっていません。今日聞いたもらった話がムダということなんですけどね。

〜会場から笑い声〜

Q:遊ばれたゲームの中で印象に残っているタイトルは?

ヨコオ 印象に残っているゲームはふたつあります。ひとつは『ICO』。あの美しいゲームは、引き算の演出、デザインを初めてしたゲームです。それまでのビデオゲームは足し算で豪華にするデザインだったんですけど、『ICO』に関しては要素を引くことでデザインしています。もうひとつは『斑鳩』。ドリームキャストで発売されたゲームなんですけど、非常に映像と音楽がマッチングされたゲーム。ビデオゲームって、バトルに入り、最後に爆発して終わる、というのが多いんですけど、『斑鳩』は音楽の展開に合わせて場面が変わるという演出、デザインを入れている。ゲームは音楽の扱いがそれまでは雑だったんですけど、『斑鳩』を見て、初めて映画のような音楽の使いかたがゲームでもできるんだと感じました。非常に『NieR: Automata』に影響を及ぼした作品です。

Q:『NieR: Automata』では物語が展開されますが、『マインクラフト』のようにプレイヤーが自分で物語を作っていくゲームをどう思いますか?

ヨコオ 自由に遊べるというのはゲームの到達点としては夢だと思うんですね。一方、物語を見て、泣きたい、怒りたい、というのもひとつの夢だと思っています。個人的にはそういったゲームのアクション性は大事だと思っていますが、それと物語の感情のデザインを、なかなかいっしょにはデザインしにくい。「『マインクラフト』で泣いたことがあるのか?」。そういう話になる。そうするとそこには物語がない。『マインクラフト』に物語があればいいのかというとそうではなくて、物語を入れるとゲームの自由度が下がってしまう。ヒロインが殺されて、殺したボスを倒しにいって、ボスと向かい合ってると想像してください。その場面から『マインクラフト』のように地面を耕しにいけてしまうと、感情が……。ビデオゲームのユーザーが自由に遊べるデザインと、物語で感情に訴えるデザインがうまくリンクしたケースはないと思います。僕らの時代は終わりつつあるので、若い世代がリンクしたゲームを生み出してくれることを期待しています。

Q:プレイヤーにどう思ってほしいですか?

ヨコオ とくにデザインは意識していないです。ビデオゲームなので映画などとは違って、いろいろな人がいろいろなことを多彩に感じてもらえるのがいいなと思っています。だから僕らにできるのは世界を描くところまでで、世界をどう理解するかというのはユーザーさんに委ねたい。それが多彩であるほどいいなと僕は思っています。

Q:ゲーム制作にあたって、ゲームプレイと物語のどちらに重きを置いていますか?

ヨコオ ゲームプレイと物語を分けたりするのが好きではなくて、ユーザーさんの心にどれだけ波が起こるかを考えています。たとえば、ゲーム性や物語はひとつのゲームの要素ですけど、CMを観たり、パッケージを手にとって感じることなど、すべてがゲームの体験だと思っていて、それがより印象深いものになればいいなと思っています。ゲームを勉強していくと、ビジュアルとかモーションとかゲーム性とかに分解していけるんですけど、けっきょく自分が遊んだ立場に立ち返って考えてみると、もやもやもやっとした不思議な心の動きがあって、それが大事なんじゃないかなと。わかりやすく言うと、皆さん誰かのことを好きなったことがあると思うんですね。そのときに、優しいとか、きれいとか、いい匂いとか、好きになったいろいろな理由があると思うんですけど、そういう要素を集めたからといって、誰かを好きになった気持ちが再現されるかというと、そうではない。だからいちばん大事なのは、そのときの好きだという感情。それがどういう形で、どう生み出せばいいのか。エレメントに分解したものではなくて、ゴールをいつも意識して、フォーカスしていることが大事だと思います。

Q:要素や状況に縛られないとしたら、どんなものを望みますか?

ヨコオ 何も制約がないところで何をしたいか、という質問だと思うんですけど、制約が何もない世界というのは、真っ暗な世界に自分ひとりがいるようなものだと思うんですね。僕らがこうやっていろいろなことを作って反応をいただいているというのは、そもそも他人という制約があって、それに対して何をするのかに意味がある。ですので、僕には意味がないかと。制約がどういう状況で、そこにどう立ち向かっていくかは、僕のモノ作りのテーマだと思っています。

Q:『NieR: Automata』を作るうえで、現代のカルチャーからインスプレーションを受けたことはありますか?

ヨコオ 流行っているものだとバレるので、あまり流行っていないものからインスピレーションを受けることはあります。そういう意味ではつまらないものからもどうやったらおもしろくできるのだろうとか、いろいろなことからさまざまな要素を学べると思っています。道端に病気の子猫がいたとして、かわいそうだなと思う自分の気持ちが生まれたとして、そういうことも創作の原点になっていると思うんです。ただ、そういうことを自己分析し過ぎると、たとえば自分の恋人が病気になったり、家族が死んだときの心の感情までも創作に活かそうと僕はしてしまうので、それが人として正しいのかどうかはわからないですよね。それは「モノを作る呪い」だと思っていて。人間からちょっとずれたところにいないとモノが作れないというのは闇があると思います。

Q:『NieR』というタイトルに呪いがあると聞いたのですが?

ヨコオ 昔は「エコー」というタイトル名を考えていたのですが、商標が取れずに別の造語を考える必要があって生まれたのが『NieR』です。実際のところ思いつかなくて、思いついたのが●●●●●●●●●の●●●と●●●を足した言葉(ヨコオ氏のお願いを受けて伏せ字)。むちゃくちゃな発想で、そのことを言えないというのがタイトルの呪いです。これ、ほかのイベントとかで一切言っていないので、皆さんできればSNSでも秘密にしておいてください。

Q:物語を考えるうえで、どういう思考の過程をたどるのですか?

ヨコオ だいたい酒を呑みながら考えるので覚えていないんですね。ただ、酔っ払って書いたシナリオのほうが評判がいいんです。狼の話やロボットの話など、評判のよかったシナリオはベロベロに酔っているときに書いたものでした。酒を呑んでバカになるくらいがちょうどいいのかな、と最近は思っています。