「VR/ARは必ず来る未来」、「波が来たときに沖にいない奴は負ける」
2017年10月11日(水)から10月13日(金)まで、東京ビッグサイトにて、グリーと一般社団法人VRコンソーシアムが主催、日経BP社が共催するJapan VR Summit 3が開催。2日目の12日(木)には、有識者によるプレミアムセッション“グローバルVR/AR 12兆円市場へのロードマップ”が行われた。タイトルにある“12兆円市場”とは、VR/AR機器市場が2021年、または2025年に約12兆円に達する可能性があるとした、複数の投資機関の予測に基づいたものだ。
セッションに先立ち、主催者であるグリー 代表取締役会長兼社長田中良和氏が挨拶。VR/ARは、グーグルやアップルといった世界的な企業も力を入れている産業で、必ず来る未来であるとし、「波が来たときに沖にいない奴は負ける」とそのビジネスチャンスをサーフィンにたとえた。
SIE、マイクロソフト、HTCのVR担当者が登壇
本セッションのパネリストは3名。ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 担当課長の高橋泰生氏、日本マイクロソフト Windows&デバイスビジネス本部 業務執行役員 本部長の三上智子氏、HTCコーポレーション VRニューテクノロジー担当 バイスプレジデントのレイモンド・パオ氏だ。また、モデレータを務めるのは、一般社団法人VRコンソーシアムの代表理事で、ハコスコ 代表取締役の藤井直敬氏。セッションは、各パネリストの自己紹介からスタートした。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの高橋氏は、プレイステーション VR(PS VR)が“Project Morpheus(プロジェクト・モーフィアス)”と呼ばれていた初期段階より参画し、商品化に向けて中心的な役割を担った人物。高橋氏は2016年10月13日に発売されたPS VRについて、2017年6月の時点で全世界での累計販売が100万台以上を記録していること、日本では2017年10月14日よりユーザビリティを向上させた最新モデルを導入することを紹介した。また、コンテンツの開発をサポートする“VRコンサルテーションサービス”を行なっていることや、PS VRにユーザーが触れるため体験会などの環境づくりをしていることなど、同社のVRに対する取り組みについての説明もあった。
日本マイクロソフトの三上氏は、WindowsおよびSurfaceやMicrosoft HoloLensを含むデバイスの製品マーケティング部門を統括する人物。三上氏によると、マイクロソフトはVRやARを超えたMR(Mixed Reality:複合現実)を、つぎに必ず来る中核ビジネスと捉えているという。そして、今年から日本でも発売開始されたHoloLens(ワイヤレスなヘッドセット型ホログラフィックコンピュータ)が、すでにさまざまな国内企業で導入、活用されていることや、来週のFall Creators UpdateでWindowsにネイティブにVR/ARの機能が搭載され、Windows MRヘッドセットの接続でコンテンツが楽しめるようになることなどを解説した。
HTCのパオ氏は、世界初のAndroidスマートフォンをグーグルAndroidチームど共同開発した経歴を持つ人物。現在は、アジア太平洋地域におけるVRテクノロジーや関連ビジネスなどの責任者を務める。パオ氏は、HTCが展開する4つのVive関連ビジネスを紹介。VRシステムであるVive、VRコンテンツストアであるViveport、VRコンテンツ専門のディベロッパーでありパブリッシャーであるVive Studios、そして開発チームを資金面で支援するアクセラレーターVive Xだ。そして、Viveportで世界初のVRコンテンツ定額利用サービスをスタートしたことや、『Fallout 4 VR』『DOOM VFR』といったビッグタイトルがViveにつぎつぎと登場すること、Viveがスティーブン・スピルバーグ監督によるVRをテーマとした映画『Ready Player One』のオフィシャルパートナーとなったことなどについてもアピールした。
普及により社会の仕組みも変わる!? VR/ARが人類の文明に与えるインパクト
ここからはテーマ別にディスカッションが行われた。まず、モデレータの藤井氏から「VR市場がスローであることに悲観的であるか」を問われると、全員が「NO」と即答。三上氏は「2~3年後にはVR市場という区切りかたがなくなっているかもしれない」として、マイクロソフトがWindowsへVR/AR機能を組み込むことで“3D for everyone”を目指していることを紹介。「いままで世界はテレビ、スマホ、PCと、2Dのスクリーンに捉われていた。これからは空間がキャンバスになる」と、VRによって世界が変わっていく可能性を示唆した。
つぎに、「お互いのプラットフォームをほめあってください」というお題に対して、高橋氏が「Windows MRヘッドセットの、PCにつなげば使えるという気軽さは、VRを使ってみたいというユーザーに対して、垣根をズンと下げてくれた」、三上氏が「ViveがVR市場のキーイノベーター。VRの世界観を一般に広げたのはVive。VR市場を牽引していただいている」、パオ氏が「PS VR用の新作がアナウンスされると、業界全体が興奮を覚える。多くの開発者たちのクリエイティビティを活用したコンテンツが出てくるプラットフォーム」と、それぞれの長所を挙げた。続いて、各社のライバルとなるであろう「気になるアップルの動向について」。パオ氏はアップルのARkit発表を踏まえ、「より多くの開発者がARを活用して3Dコンテンツを作ることができる。また、ユーザーが3Dのインターフェイスへと移行していく手助けとなるのでは」と述べた。ほか、セッション当日に発表されたOculusのVRヘッドセットOculus GOについても、199USドルという気軽な価格で多くのユーザーがVRを試せるいいニュースであると、全員が歓迎ムードであった。
PS VRもViveもまだまだ大きいということで、「VRが日常に溶け込むためには何が必要か」というクエスチョンも用意された。これに対し、高橋氏は「日常に溶け込むのではなく、どれだけすごい非日常的体験に持っていけるか、という方向性もある」と意見。また、パオ氏は医療や教育などを含め、VRが商業的に活用されていることに触れ「企業やショールームで体験できる」機会が増えていくことで、日常に溶け込んでいくという見かたを示した。これを受けて三上氏も「建築業や製造業などにMRが導入され、すでに業務変革が実現されている。たとえば、野村不動産ではHoloLensにより建築予定地でマンションの完成イメージを見せるということを実際にやっている」と実例を挙げ、このような利用がどんどん増えていくだろうとコメントした。
最後に藤井氏は、「今日、久しぶりに満員電車に乗ったが、みんな不機嫌そうだった(笑)。リモートで働くことができるようになれば、満員電車には乗らずに済む」と前置きし、「VR/AR/MRが融合したXRな世界が未来の社会をどのように変えていくだろうか?」とパネリストに問いかけた。高橋氏は「現実でない世界にも行ける」点を重視。エンターテインメント企業ということで、想像の世界のおもしろさに着目していた。三上氏は、「コミュニケーションのやりかたを根本的に変える」と予測。地球の裏側のスタッフとすぐそばで打ち合わせをすることが、すでに技術的に可能であると説明し、それが一般的になっていくというビジョンを提示した。そしてパオ氏は「現実の制約から解き放たれ、いつでもどこでも誰にでも会いに行けることがゴールとなる」と発言。藤井氏は「重力がなくなると上下の概念もなくなるように、時間と空間の制約がなくなったら世界の認知の仕方が変わるのでは。社会の仕組みやものの考え方も変わり、今までになかったようなインパクトを人間の文明に与える可能性がある」と、VR/ARの可能性についてまとめた。