アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで、現地10月6日から8日にかけて行われたインディーゲームイベント“IndieCade”。その最終日に行われるアワードで、Funomenaの高橋慶太氏が“Trailblaer Award”を受賞した。

 高橋氏は、かつてバンダイナムコゲームスで『塊魂』シリーズや『のびのびBOY』などを手掛け、その後海外進出。アメリカのインディーゲームシーンとも親交を深め、『Tenya Wanya Teens』、『ALPHABET』などに関わっているほか、現在はサンフランシスコのFunomenaで『Wattam』を開発している。

 賞の名前になっている“Trailblazer”(トレイルブレイザー)とは、日本語では“先駆者”といった意味。
 IndieCadeでこの賞はおもに、キャリアを通じて創造的な作品を送り出したり、多くの人を魅了し影響を与えた人物に贈られる。しばしば“独創的”と評される、同氏のユニークな感性を活かした活動が評価された形だ。

 なお受賞式は招待者のみで一般公開されていなかったのだが、高橋氏の受賞スピーチ原稿が、同氏のTwitterアカウントで公開されている。困難な時代にあってなお、よりよい社会を目指すためにビデオゲームが貢献できると信じると述べた上で、IndieCadeに集まる若いインディーゲーム開発者に対して「90歳になってあなた達が作ったゲームを遊ぶのが楽しみです」と期待する内容となっている。

「彼(高橋氏)は日常の世界を人と違う見方で見る」

 また同イベントの最終日には、高橋氏とビデオゲーム文化を扱ったブランド“Video Game Romantics”などを共同展開するVenus Patrol主催のBrandon Boyer氏による司会で、受賞記念を兼ねたパネルディスカッションも行われた。

 さてその内容は、10周年を迎えたイベントの全スケジュールのラストということもあって、スライド代わりにお互いのiPhoneの画面を大スクリーンに出しつつ、両氏ともに日本酒をちびちびやりながら進行という、リラックス&フリーダムなもの。

『塊魂』、『のびのびBOY』などで知られる高橋慶太氏が、海外インディーイベントで“先駆者賞”を受賞【IndieCade 2017】_01

 幼少時の話から始まり、「おお、これは現在までキャリアを全部追っていくのだな」と思いきや、話が高校まで行くことなく「……これ、皆さんが本当に聞きたい話なんですかね?(※)」と早々に中断されて、質問コーナーに突入。(※ちなみにほぼ全編英語で行われたので、高橋氏の発言は記者が訳したもの。文にするとぶっきら棒に見えるかもしれないが、身も蓋もないツッコミを自分に向けてカマした高橋氏に会場はバカ受けしていた)

 そして質問コーナーでは、真面目な質問から、「塊魂ではどの曲が好きですか」といったシンプルな質問(答えはエンディングソングの松崎しげる「愛のカタマリー」)、「どんな食べ物が好きですか」なんてあまり広がりようのない質問(答えはオクラ)までいろいろ出た。

 その中で個人的に興味深かったのが、「ゲームとゲーム以外からどういった影響を受けているか?」という質問に対しての回答。
 いわく「普通の生活からアイデアを得ることが多い」ということで、『塊魂』のオリジナルのアイデアそのものは駅に向かっている最中に潜在意識から湧いて出てきたそうなのだが、それでも運動会の大玉転がしに繋がっているなど、日常の世界を視点を変えて見ることで、新たな発見をすることがあるという。

『塊魂』、『のびのびBOY』などで知られる高橋慶太氏が、海外インディーイベントで“先駆者賞”を受賞【IndieCade 2017】_02

 また、大学で学んだ造形とビデオゲームの関係(または違い)について、造形は触れることのできる3次元のアートであるのに対し、ビデオゲームではプレイヤーが干渉できるインタラクションの存在が大きいと説明。例えば現実でも玉を転がせるが、それに『塊魂』のように物がくっついていくということはなく、ゲームだからこそ“玉を転がす”、“それに物がくっついていく”ということが両立できる、と語った。

 Boyer氏は、「彼(高橋氏)は日常の世界を人と違った見方で見る」と述べて、例としてTwitterや高橋氏の個人事務所“uvula”のtumblrなどへの投稿などを挙げた。
 確かにそれらの投稿では、現在働き生活するサンフランシスコの日常の風景からキャラクターなどを見出すさまが投稿されていて、大半の人が「何もない」と感じて見過ごす日常も、ひとたび視点を変えれば豊かで不思議な何かが潜んでいることがうかがえる。

 もうひとつ、自身のキャリアのターニングポイントになった出来事として披露された、美大在籍時のエピソードも面白かったので紹介しておきたい。

 当時について高橋氏は、「自分はフラフラした芯のない人間だった」と振り返る。それが変わる発端となったのが、学んでいた彫刻が(芸術的評価以外では)根本的には生活に不要なもので、また周囲の学生たちが作品を作っては(置く場所の問題もあり)それを捨てていたのに疑問を感じたこと。

 そこで高橋氏は“石膏でヤギを作る”という課題の際に、実用品として植木鉢にしてしまい、乳の部分から水を排出するというギミックもつける。案の定と言うべきか教授からの反応は悪かったものの、結果として周囲の学生に受けたことで「これだ」という手応えを得たのだとという。

 ここに、“人に求められる作品”への模索や、プレイヤーからの干渉を含むことで初めて成立するビデオゲームという存在、ユーモアを盛り込む手法といった、後の作品にも通じるものを見て取ることができるだろう。
 最新作となる『Wattam』は、新興インディーパブリッシャーのAnnapurna Interactiveから、“家庭用ゲーム機とPC”で2018年にリリース予定となっている。