任天堂から2016年11月10日に発売され大ヒットとなった“ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ”(以下、ミニファミコン)と、2017年10月5日に発売され、こちらも好評を博している“ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン”(以下、ミニスーファミ)。これを記念して、両ハードの開発スタッフインタビューを、前篇(2017年10月4日掲載)、中篇、後篇(2017年10月18日掲載予定)の3回にわたってお届けする。なお、本インタビューは、2017年10月5日発売の“スーパーファミコン通信”にも掲載されているので、こちらも要チェック!

ミニスーファミ発売記念インタビュー(前篇)

ミニスーファミ発売記念インタビュー(中篇) 『MOTHER2』が海外版のみに収録された理由は?_07

スーパーファミコン通信 ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン発売記念スペシャル号

発売日:2017年10月5日
価格:925円+税

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ミニスーファミ発売記念インタビュー(中篇) 『MOTHER2』が海外版のみに収録された理由は?_02
2017年10月5日発売の“ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン”。定価7980円[税抜](8618円[税込])。
ミニスーファミ発売記念インタビュー(中篇) 『MOTHER2』が海外版のみに収録された理由は?_01
ミニスーファミ発売記念インタビュー(中篇) 『MOTHER2』が海外版のみに収録された理由は?_03
ミニスーファミ発売記念インタビュー(中篇) 『MOTHER2』が海外版のみに収録された理由は?_05
任天堂 ハードウェア開発部
丸山和宏氏(文中は丸山)
任天堂 企画制作部
清水隆雄氏(文中は清水)
任天堂 業務部
西 和良氏(文中は西)

失敗してもやり直しができる“リプレイ機能”誕生のきっかけ

――機能面についてもう少しおうかいしたいのですが、ミニファミコンやミニスーファミでとくにこだわっているのはどのような部分でしょうか?

清水 まずメニュー画面なんですが、最初は3DSのように数段アイコンが並ぶ形式だったんですよ。でも、これだと上下左右の入力が必要で、選ぶのがちょっとたいへんですし、ソフトの数によっては端のほうにアイコン数が中途半端なところが出てきますよね。

丸山 開発中はタイトル数も明確にはわかりませんでしたからね。

清水 そういう点も考慮すると、現在の十字ボタンの左右で横にスクロールしていく形がベストであると。パッケージの下に並んでいる小さいアイコンが一画面に収まることでタイトル数も感覚的に把握できますしね。それに上ボタンでオプションに、下ボタンで中断ポイントにアクセスできるというのも私が目標としていた仕組みなんですよ。

――そもそも、ミニファミコンの中断ポイントはどのように生まれたのでしょうか?

清水 最初にメニューをサンプルで作っていた方のイメージでは、スマホアプリなどのように、“中断した後に再開したら、中断した場所から始まるようにしたい”というイメージだったんですね。リセットしたタイミングで自動的に中断ポイントができるような仕組みです。ただ、その実現にはユーザーアカウントを作る必要があると言われたんですよ。

――アカウントを作るとなると、ユーザーとしてはちょっと手間ですね。

清水 そうなんです。やはりサクッと始めてサクッと終わりたいというところがあったので、アカウント制にはしたくなったんですね。そこで解決案として、中断ポイントを4つ作れるようにしたんです。お父さんは1番、お母さんは2番、3番はお兄ちゃん、4番はお姉ちゃんという風に分けて使えますよ、と。それが当初のイメージだったんです。

丸山 ここは調整に苦労をされたところだったようで(笑)。

清水 そういう経緯で中断ポイントは4つになったのですが、お客様の声を聞いてみると、一部のゲームでは難所ごとに中断ポイントを作るという方が多かったんですよね。アカウントがなくてもみんなで使えるように用意したものなんですけど、ひとりで使ってしまって、けっきょく「どれを使っていいの?」という問題が残ったんです。これをミニスーファミのときになんとか解決できないかと思っていたんですよ。

――なかなか難しい問題ですね。

清水 そこで、ミニスーファミに搭載したリプレイ機能につながるんですけど、じつはミニファミコンでも店頭デモのためにオートプレイデモ機能は用意していたんですよ。 いろいろな機械やおもちゃで店頭の試遊台がありますけど、ミニファミコンだと試遊台は作ってもらえないと思ったので。

――だったら、いっそデモ機能を搭載してしまえ、と。

清水 そうしたら店頭でデモが流れて、気になったお子さんもすぐに遊べて、遊び終わったらまたデモが流せるじゃないですか。あとはゲーム屋さんの天井近くにある14インチぐらいのテレビにファミコンがつながれていたような、そんな昔のイメージで置いてもらったり。

――その光景が再現されたらすごくいいですね。

清水 バグの修正確認の手段として、コントローラーのボタン操作を記録しておき、再現する仕組みがあったんです。バグを直した後にボタン操作通りの動きが出ていれば修正されていることがわかるという感じですね。その仕組みを利用して、オートプレイデモのデータを作ったんです。その仕組みをさらにうまいこと使えないかなということで生まれたのが、ミニスーファミのマイプレイデモやリプレイ機能なんですよ。

――そんな経緯があったんですね。

清水 セーブした瞬間だけでなく、その少し前の状況までまとめてセーブできるので、アクションであれば40秒から50秒、RPGやシミュレーションなら4分から5分、プレイの巻き戻しができるようになったんですよ。そうすると「しまった!」っていう瞬間をやり直すこともできますし、「中断したときって何をしていたんだっけ?」という部分も思い出せる。私自身、最近は「何やってたっけ? もういいか」と中断したゲームの続きをやめてしまうことも多かったので、これがあればそういう理由でゲームをやめることも減るかな、と。

――これは本当に画期的ですよね。『超魔界村』とかを改めて遊んでみると、正直難しすぎてぜんぜんダメで(笑)。プレイが巻き戻せてしまうっていうのは、すごい時代ですよね。

清水 自分としても、「何度もくり返し遊ぶことで上達するのがゲームだ」なんて思っていたのですが、いまの時代にこの難易度は、正直ないなぁ、と思いまして(笑)。

丸山 丸くなったということですね(笑)。

清水 それに、「そんなにやり込んでいる時間がない」という理由で遊ばないのももったいないんですよ。『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』を作ったとき、「本当にみんな最後までゲームをクリアーしているのか?」という疑問があって、そのときは見たい人は見られるヒントを最後まで用意したんですね。今回のリプレイ機能も、そういう風に使ってもらえたらいいんじゃないかと思います。『スーパーマリオブラザーズ』なんかでも、1-1は何度も遊んでいても8-4はほとんど遊べなかったという人もいるかもしれません。

――確かにそうですね。

清水 そういう意味でも、一度遊んだソフトをまた気軽に遊び直せることにもつながるんじゃないかな、と。自分としても、いい塩梅にできたと思っています。最初に出たアカウントシステムがなくても機能するように、そしてプレイ状況を思い出してプレイを再開するきっかけを与える。そういうことが全部収まっているんですね。

――ものすごく売りになるシステムですよね。

清水 ありがとうございます。ミニファミコンからミニスーファミまで時間があったことと、NERDの開発スタッフの努力があったおかげで実現できたものだと思います。

とことんこだわった3つの画面モード

――ミニファミコンもミニスーファミも、画面にもすごくこだわっていますよね。アナログテレビモードだとミニファミコンが1980年代、ミニスーファミが1990年代のテレビを再現しているという。

清水 ミニファミコンとミニスーファミのアナログテレビモードの違いは、言ってしまえばRFケーブルかAVケーブルかの違いなんですよ。ホワイトノイズが入ったりするのがミニファミコン。あれもじつは、プログラムでわざわざ再現していたりするんですけど(笑)。

――いい意味で、ムダに力が入っていますよね(笑)。

清水 ミニスーファミについては『スーパードンキーコング』なんかを見ていただければわかるんですけど、隣り合ったピクセルの色のにじみをうまく使って色を表現している作品があるんですよ。これをきちんと再現できないと、多分嫌われるなと思ったんですね。でもノイズは欲しくない。そこで、走査線がある感じを出しつつ、かつ、にじみを表現するために、バイリニアフィルタというフィルタをかけているんですよ。

――フィルタで再現しているんですか。

清水 ミニファミコンとはまた違ったアプローチで再現しているんです。当時の感じになっているとは思うのですが、別の表示モードからアナログテレビモードに切り替えると「こんなに汚かったっけ!?」みたいな(笑)。

――4:3モードとピクセルパーフェクトモードがあるというのもすごいですよね。

清水 ミニファミコンのときには、“各ピクセルを正方形、正方形、ちょっと横長の四角”と並べて4:3を再現していたのですが、ミニスーファミの場合はより4:3のピクセルに近い形で表現しています。

――プログラム自体にはピクセルパーフェクトのデータが入っているのでしょうか?

清水 そうです。それをモードによって4:3にしたり、そのまま真四角のピクセルにしたりといった感じです。無理やりではあるかもしれませんが、しっかり当時の画作りに近づけて表現しています。先ほど話したミニファミコンのノイズなんかは、プログラム的には高度なことをやっているんですよね(笑)。

――すごいこだわりですね。

丸山 でも、やっぱり同じアナログテレビモードでもミニスーファミのほうがスッキリして見えますよね。

清水 ミニファミコンのほうはノイズも載せて、本当に古臭い感じを出したいっていうのがありました。それはそれでこだわりとしてありじゃないか、みたいな話もして。ブラウン管が丸いか平面か、みたいな話もありましたけど、さすがにそこまでは手を出しませんでした(笑)。そういった時代の違いみたいな部分も楽しんでもらえればと思います。