志倉千代丸氏インタビュー 『シュタインズ・ゲート エリート』は“ゲーム以上でいて、アニメ以上”

大規模なメディアミックス展開で、ゲームファンのみならず、さまざまな層から多大な指示を受けたアドベンチャーゲーム『シュタインズ・ゲート』。同作を、全編アニメーション素材によって構成した『シュタインズ・ゲート エリート』が2018年春にプレイステーション Vita、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)、プレイステーション4で発売されることとなった。

 大規模なメディアミックス展開で、ゲームファンのみならず、さまざまな層から多大な指示を受けたアドベンチャーゲーム『シュタインズ・ゲート』。同作を、全編アニメーション素材によって構成した『シュタインズ・ゲート エリート』が2018年春にプレイステーション Vita、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)、プレイステーション4で発売されることとなった。キャラクターの立ち絵やイベントCGで構成された従来のアドベンチャーゲームのスタイルを一新し、プレイヤーがボタンを押すたびにアニメ画面が動き出すという仕様で生まれ変わった『シュタインズ・ゲート』。その詳細について、週刊ファミ通2017年10月5日号(2017年9月21日発売)では、MAGES.会長の志倉千代丸氏にインタビューを敢行。誌面に掲載しきれなかった内容も含めた完全版のインタビューを、ファミ通.comで特別に掲載する。

志倉千代丸氏(文中は志倉)
ドワンゴ取締役にして、MAGES.代表取締役会長。チヨマルスタジオ社長を兼任し、多数のタイトルを手掛ける。

『シュタインズ・ゲート エリート』TGSver.プレイ動画(90秒)

──本作開発のきっかけから教えてください。

志倉 ゲーム業界でもっとも進化していないテキストアドベンチャーというジャンルを進化させる方法はないか、以前からずっと模索していたんです。その過程で、かつて発売された『やるドラ』(※)のようなアニメーションを大々的に取り入れる案が何度か出まして。僕らはやはり『やるドラ』にはちょっとした憧れがあるんですよね。ただ、いまのテキストアドベンチャーはテキストボリュームも多く、それに合わせてアニメ素材を作るとなると、製作費や開発期間的に実現には至らず。ですが2014年に、テレビアニメからふんだんに素材を流用させてもらう形で、『ロボティクス・ノーツ エリート』を作り、これをさらに進化させることができるんじゃないか? ということで、今回の『シュタインズ・ゲート』では、テレビアニメの素材をさらに有効活用するという発想から、本企画がスタートしました。

──たしかに『シュタインズ・ゲート』なら、アニメーションの素材は豊富にありますしね。

志倉 じつは『アノニマス・コード』では“背景+立ち絵”というテキストアドベンチャーの作法を一切使わず、すべてのシーンを1枚絵のイベントシーンで構成し、さらに特別なシーンに突入するとフルアニメーションで展開するという仕様でチャレンジしようと構想していたんです。ただ、やはりそこにも物量の壁があって。通常のアドベンチャーゲームのイベントシーン(いわゆる1枚絵)は、多くても100枚くらいになるのですが、いま言ったようなものをやろうとすると、全シーンがイベント絵なので最低でも3000枚~4000枚くらい描き下ろす必要が出てきます。そこにさらに長時間のアニメーション素材もプラスすることになると、やっぱりどうしても時間も予算も足りなくて、なかなかこのジャンルでは現実的ではなかったんです。ほかにもいくつか理由があったのですが、そんなこともあり『アノニマス・コード』は別の手法で進めることになりました。ただ、そこで夢見た仕様を別の何かの作品で作れないか? となって、すでに膨大なアニメーション素材を有する、『シュタインズ・ゲート』ならできるのではないかと。テレビアニメ2クール相当の大量の映像素材があるうえ、止め絵のカットごとに見ても1枚絵として成立するクオリティー。「これはいける!」と確信しました。どこにも立ち絵が存在しないアドベンチャーゲームというのは、耳で聴くとそうでもないのですが、遊んでもらうと意外と画期的なんですよ。アニメファンにとっても、ゲームファンにとっても「おぉ、なるほど!」みたいな説得力を感じてもらえると思います。

――正直、いまだに信じられないんですよ。『シュタインズ・ゲート』のボリュームで全編アニメって無理なんじゃないか、と。

志倉 オリジナルでイチから作るということだったら無理なんです。でも、『シュタインズ・ゲート』には資産がある。それを使えばできるという、奇跡の裏技ですね。とはいえ、テレビアニメで使われていた7000カット以上の素材を、一旦バラバラに分解したうえで、ゲーム用に改めて演出を組み立て、それをプログラムで実行していくというのは、意外とたいへんなんですよ。全シーンがユーザーからのボタン入力待ちになるので、何もかも再構築が必要で。単純にアニメの再生と一時停止をくり返すなら簡単だったかもしれないんですが、それだとゲームにする意味がないので。今回の『シュタインズ・ゲート エリート』で完成させた、アニメ素材をフル活用、フルリメイクしてゲームに落とし込んでいくエンジンのことを“フルアニメーションアドベンチャー”というシリーズ名で社内では呼称しています。略して“フルアニADV”ですかね。

――インタビューの前に少しだけプレイさせていただきましたが、原作をプレイしていても、アニメを見ていても新しい体験として感じられました。ゲームではキャラクターの心情の部分なども描かれていたりするので、ここでこういうことを考えていたから、あのときの行動はこうなるんだ、とか、物語の冒頭からすごくたくさんの伏線が張られていることを改めて感じられたんですよね。そこがすごくおもしろくて。

志倉 ある意味で、これまでのテキストアドベンチャーゲーム以上でいて、アニメ以上でもあるんですよね。ありがたいことに、『シュタインズ・ゲート』は「記憶を消してもう一度遊びたい」などと表現してくださる方もいらっしゃいますが、むしろ記憶を持ち越して遊んでいただいたほうが楽しいのが“フルアニADV”です。早計ですが、自社グループのアニメーション資産はもちろんですが、なんなら個人的な妄想としては他社さんのレジェンド級作品を“フルアニADV化”できないか? なんてことまで考え始めています。こうなったら勝手な夢はますます広がりますよね。タイトルは知っているけど、じつはまだ観たことがないレジェンド級のアニメってけっこうあったりするじゃないですか。さらにちょっとした分岐エピソードなども用意できたら事件ですよね。アニメで観たことがある人も、ない人も、もう一度新しい気分で作品の中に没入することができると思っています。

──ちなみに、ゲームにはテレビアニメでは描かれていないルートもありますが、それらのルートはどのように表現されるのですか?

志倉 いい質問ありがとうございます!(笑)。そこは新規でアニメーションを描き起こします。制作はテレビアニメと同様、WHITE FOXさんにお願いしています。「全シーンやれます!」と現場が言ってくれたので、その言葉を信じて、まさにいまも制作真っ最中です。

――ゲームをやっている人的には、いろいろなシーンがアニメの絵で楽しめるわけですね。

志倉 そうなります。すべてのシーンがイベント絵とアニメーションで成立するという、『シュタインズ・ゲート』のゲームシリーズの中では最上位な位置づけという意味で“エリート”を冠しています。ちょっとややこしいのですが、本作は“エリートシリーズ”ではなくて、あくまでも“フルアニADVシリーズ”の第1弾です。

──開発を進める中で、苦労した点は?

志倉 先ほども少し触れましたがアニメでは、複数のキャラクターが同時に動いて会話をするシーンが多数ありますが、アドベンチャーゲームの場合、ボタンが押されるのを待ってキャラクターがしゃべるので、そのまま再現できないんです。だから、アニメの素材をすべて分解して、キャラクターひとりひとりの動きを切り分けて使わせていただいています。アニメそのままではなく、フルアニADV用に最適化されているわけですね。

──すべてのシーンで、そうした調整を施すのはたいへんそうですね。

志倉 たいへんな作業ではありますが、ふだんなら100枚くらいまでの一枚絵をやりくりしながら、なんとかイベントシーンを演出していくのに対し、本作では7200枚以上のカットが使い放題ですからね。セリフに合わせて微妙に表情が違うカットと切り換えるなど、贅沢な使いかたができたのは、とても楽しくて刺激的な作業ですね。

──本作で、いちばんこだわった部分は?

志倉 とにかく、キャラクターの動きを止めないこと。フルアニADVのコンセプトは“アニメで遊ぶ”です。つねにアニメーションで遊んでいる感覚に浸れることを最優先に考えました。それと、いまはUI(ユーザーインターフェース)についても、細かく調整しているところです。なるべくシンプルにはしたいのですが、簡略化しすぎるとゲームの画面には見えなくなってしまって。アニメーションを楽しみながら、ゲームで遊んでいる気持ちにもなれるようにバランスを調整中です。たとえば、携帯電話を取り出して、メールや電話を送受信するシーンの場合、従来と同じ表現で見せると、アニメーションになじまず、ものすごく違和感があって。そこで、フォーントリガー使用時は、オカリン(主人公の岡部倫太郎)が携帯電話を取り出すアニメーションを追加して、UI自体もアニメ素材として制作し自然に映像に溶け込むようにしてあります。

――プレイステーション Vita版、プレイステーション4版のほかに、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)版も発表されましたが、それぞれのハードで違いはあるのですか?

志倉 違いはないですね。機種ごとに違う要素を入れる予定もありません。

――“東京ゲームショウ2017”への出展も発表されていますが、どんな内容になっているのでしょうか?

志倉 東京ゲームショウだと体験できる時間をあまり長くできないじゃないですか。アドベンチャーゲームの魅力を伝えるには、ああいうイベントはあまり向いていないと思っていて。長時間遊んでもらって、初めて感情移入やキャラクターの愛情が湧いてきますからね。ただ、せっかくプレイアブルなので、10分くらいでルートが分岐するようなものを用意しました。『シュタインズ・ゲート』のことを知っている方だとわかってしまいますが、とある襲撃シーンになっています。そこがいちばん動きがあって、緊迫感もあり、選択も迫られるシーンなんですよね。さらに、原作にはなかった小さな分岐をいくつか用意していまして、最終的にどの世界線に到達したかで絵柄違いのステッカーをプレゼントする、というような企画があります。きっと東京ゲームショウでプレイしてもらうだけでも、十分に“フルアニADV”の楽しさをお伝えできると思います。物語は初代『シュタインズ・ゲート』ではあるけど、プチエピソードが追加されていたり、アニメの映像で遊ぶアドベンチャーゲーム体験は、きっと皆さんの目にも新しいものとして映ると思います。

――フォーントリガー以外の選択肢があるということですか?

志倉 基本的にはフォーントリガーですが、やっていることを簡単に言うと『カオス』シリーズの妄想トリガーのポジティブ、ネガティブの選択に近いかもしれません。“こういう行動をとってみたけど、とある理由があって結果はダメだった……本来のストーリーに物語が収束する”みたいな。

――なるほど。今後5pb.のアドベンチャーゲームは、今回のようなアニメで構成されたものになっていくのでしょうか?

志倉 なっていくかもしれません。『オカルティック・ナイン』も、もうすぐ発売されますが、ただこれをフルアニADVフォーマットにしようと思うと、権利の問題などもあってだいぶ未来になってしまうと思います。ですので、くれぐれも買い控える必要はないですからね?(笑)。やはりつぎに期待してもらうとしたら、他社さんのアニメ作品のフルアニADV化じゃないですかね。ゲーム1本分の価格の中にテレビシリーズ+αのアニメが丸ごと入っていて、高速スキップ、セーブやロード、Tipsにプチ分岐など、もし実現したらかなりお得だと思うんですよ。もちろん自動的にボタンが押されていく“オートモード”も搭載しているので鑑賞モードみたいなことも可能です。

――アニメと言えばテレビアニメ『シュタインズ・ゲート ゼロ』の進捗はいかがでしょうか?

志倉 毎週打ち合わせをしています。これを言うのは、悔しいんですが、当たり前のようにアニメーションしているぶん、ゲームの『シュタインズ・ゲート ゼロ』より確実におもしろくなっています。あと、ゲームではルートも大きく分かれていて、それぞれでキャラクターの立ち位置がバラバラなんですが、アニメでは1本に再構成されています。また、オカリンが前半はダウナーな印象が強いと思いますが、わりと復活した状態になっているので見やすくなっているかと。原作ゲームを遊んでもらった方も完全新作のような雰囲気で楽しんでもらえると思いますので、まだゲームを遊んでないという人は、先に遊んでもらうのも楽しみかたのひとつかと!

――楽しみにしています!

志倉 最近は人工知能があらゆる分野で話題なので、『シュタインズ・ゲート ゼロ』の物語もなかなかリアルに感じられる時代になってきたと思います。自然言語を認識し、会話の出来る人工知能の最先端。かといって物理的なアンドロイドに支配されるような過度なSFではないところが現代のギリギリの“リアル”だと思っています。

──それでは最後に、ファンに向けてひと言お願いします。

志倉 『シュタインズ・ゲート エリート』は、従来のテキストアドベンチャーの作法を使わず、アニメーションを最大限に活かすことを目標とした“フルアニメーション・アドベンチャーゲーム”です。テレビアニメを見ている感覚とは違うし、アドベンチャーゲームをプレイしている感覚とも違う。どちらで体験した人にとっても新感覚で遊べる、アニメ以上、ゲーム以上の作品になりました。間違いなく、同ジャンルの未来につながるゲーム体験をしていただけると自負しています。続報にもご注目ください!

シュタインズ・ゲート エリート
機種:プレイステーション Vita、ニンテンドースイッチ、プレイステーション4
メーカー:5pb.
発売日:2018年春発売予定
価格:価格未定
ジャンル:アドベンチャー
CERO:審査予定
備考:企画・原作:志倉千代丸、プロデューサー:松原達也



(C)MAGES./5pb./Chiyo St. Inc. (C)2009 MAGES./5pb./Nitroplus 協力 未来ガジェット研究所
※画面はプレイステーション4版の開発中のものです。