『GET EVEN』の魅力に迫るプロデューサーインタビューを公開

 2017年8月18日より日本での配信が始まった1人称スリラーアドベンチャー『GET EVEN』。本作は、ある少女の誘拐・監禁事件で記憶を失ってしまった主人公のブラックが、過去の記憶を追体験できるヘッドセット“パンドラ・ユニット”を使い、隠された真実を追究するサスペンスアドベンチャー作品となっている。8月18日の日本リリース開始を前に、バンダイナムコエンターテインメント・ヨーロッパ(以下、BNEE)よりプロデューサーを務めるリオネル・ロヴィザ氏が来日。『GET EVEN』はどのようなコンセプトを持っており、どのようにして作り上げられたのか。週刊ファミ通8月24・31日合併号(8月10日発売)での内容も含めた、インタビューの改筆・再編成を加えた完全版をお届け。

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リオネル・ロヴィザ氏(文中はリオネル)
日本のゲーム会社で10年間、家庭用ゲームの開発に携わった後、母国フランスに渡り、個人でモバイルゲームの開発やインディーズゲームのコンサルタント業務に従事。2016年にBNEEへ入社。

謎多き作品、『GET EVEN』のコンセプト・テーマとは

−−まずは本作のコンセプト・テーマについて簡単にお話を聞かせてください。
リオネル この『GET EVEN』は、人の気持ち・感情を動かしてみようというコンセプトのもとに作られた作品です。そのため、プレイヤーをゲーム開始直後から何が起きているのかわからない状況へと放り込んでいます。

−−わけがわからない状態、つまり主人公のブラックと同じ状態に陥るわけですね。
リオネル プレイヤーは、ゲームの始まりからエンディングまでの区間、さまざまな感情の駅に停車する列車に乗っていると思ってください。ゲーム開始直後のテーマは、“混乱”です。「自分の身に何が起こっているんだろう」という“不安”から始まり、続いて“恐怖”を感じてもらいます。そこからさらに進んでいくと、ブラックが戦闘能力に長けている人物であることがわかってきて、少し強くなった気分を味わえます。このようにテーマに沿って物語が進行していきますが、プレイヤーは次の駅に着くまで何が起きるのか予測ができず、感情が揺さぶられるというわけです。

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▲誘拐・監禁されている少女。彼女の救出に失敗したブラックは、すべての記憶を失ってしまう。彼女はいったい誰で、自分は何者なのか。
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▲装着者の記憶を具現化し、追体験できるデバイス、“パンドラ・ユニット”。この装置を使って失われた記憶を探求し、真実を探すことになる。

−−この『GET EVEN』は2014年のE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)が初のお披露目だったと思います。そこから配信開始まで、約3年を要していますが、ここまで時間がかかった要因は何だったのでしょうか。
リオネル もともと『GET EVEN』は、The Farm 51が単独で作り上げようとしていた作品だったのですが、制作するにあたってさまざまな問題に直面していました。そこでいったん、フォトグラメトリーの技術を披露すべく、プロトタイプとして参考出展したのが、2014年のE3になります。その後、いっしょに作品を作ってくれるパブリッシャー探しが始まりました。ただ、これが難航してしまい、それだけで1年ほどかかっています。その後、2015年にバンダイナムコエンターテインメント・ヨーロッパ(BNEE)がパブリッシャーとして協力することになり、本格的に制作がスタートしたわけです。ですので、実質的な制作期間は2年ちょっとといったところですね。

−−BNEEが制作協力に参加した時点での完成度は、どの程度でしたか。
リオネル その時点では単なるテクニカルデモバージョンでしかなく、フォトグラメトリーで再現したステージがひとつだけといったものでした。この状態でパブリッシャーを探しても、見つけるのは難しいですよね(笑)。

−−でも、その状態でBNEEは参加協力を決定したんですね。
リオネル これは『GET EVEN』の企画プレゼンの場での話になりますが、BNEE側からThe Farm 51のディレクター、ヴォイチェック・パズドゥル氏に「あなたはこの作品で何がしたいのですか?」と訪ねました。すると、彼は「最後に人を感動して泣かせたい」と答えたのです。そこで、我々からひと言、「じゃあいっしょに泣かせましょう」と言い、このプロジェクトが決まったわけです。

−−たったそれだけのやり取りでパブリッシングが決定したんですね。
リオネル そのひと言が大切だったんです。私は「この『GET EVEN』を最後に人を感動させて泣かせる作品にしてください」と言われ、急遽制作に参加することになりました。

−−リオネルさんが開発に加わった時点で、ストーリーはどの程度できていたのでしょうか。
リオネル 最初の爆発事件と、おおよそのプロット部分は書かれていましたが、細かな部分はまったくできていませんでした。私は「感動して泣かせる」という命題を掲げられていたので、しっかりとした実績のあるシナリオライターを雇って、細部を詰めていくところから始めました。

−−本作のシナリオでは、ブラックが取った行動の違いで、あるキャラクターのその後の展開が変化することがありますよね。この展開によって、エンディングにも影響が出たりするのでしょうか。
リオネル 基本的にはそうなります。プレイヤーの選択と分岐は、あらゆる場所に仕込んでいます。どういった行動を取っても、ストーリー自体が大きく変わることはありませんが、間違った選択をすると、さらなる混乱を招きやすくなります。たとえば、ある監房に閉じ込められている囚人が助けを求めている場面がありますが、この部屋の近くに、この男に関するレポートが置かれています。これを読むと、このキャラクターがどういった人物かわかるはずです。ただ、彼を自由にしてしまうと、その影響によってゲームの流れが変わってしまい、得られるはずの情報が得られなくなるなど、さらなる混乱を招いてしまいます。いわゆるバタフライ・エフェクト効果というやつですね。とは言え、しっかりと周囲を観察していれば、おのずとどうすればいいのかはわかるようにできていますよ。

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▲精神病院内での探索中に、監房から出してくれとせがんでくる患者、サムソン。ここで彼を助けるか、助けないかによって、その後の展開が異なってくることに。

−−本作は、どのようなユーザー層をターゲットにしているのでしょうか。
リオネル メインで考えているのは、30〜40代の男性がメインターゲットですね。それは、主人公のブラックや、それを裏で操る謎の人物、レッドの心情にいちばんシンクロしやすい世代だからなんです。基本的な部分でいうと、ストーリー性のある映画などが好きな人に受け入れられるような作品を目指しています。単純に売れる作品として考えれば、ゾンビのような敵をたくさん出して、武器をたくさん用意すれば、ターゲット層は広がると思います。ですが、本作はストーリーをしっかりと見せ、「感動して泣かせたい」作品ですので、あえてターゲットを絞りました。

−−実際、『GET EVEN』のPVや紹介を見た人は、この作品をホラーと思っている人もいますし、シューティングと思う人もいるようです。こういった部分はどのようにお考えですか。
リオネル たしかに、本作をホラーだと思ったり、シューティングだと思って買われると、がっかりされるかもしれません。最初は恐い部分もありますが、実際はそれほど恐くはないですからね。シューティングシーンもそれほど多くはありませんし。この『GET EVEN』は心理的なスリラー作品で、人の感情を揺さぶるという部分を伝えていきたいのですが、最初に公開したトレーラーが少し恐すぎたので、ホラーゲームと思われた方が多かったようですね。

−−作品の性質上、事細かに内容を紹介できるものではないので、そのさじ加減は難しそうですね。先行して配信を開始された海外での評判はいかがだったのでしょうか。
リオネル 開発時、マーケティング担当からは「このゲームはいい作品だけど、テーマが難しいので、そのおもしろさを人に伝えるのがたいへんかもしれませんね」と言われました。ですが、発売後には我々のテーマをくみ取って、作品を受け入れてくださっている意見が多々あり、とてもありがたく思っています。私はいい作品とそうでない作品の差は、ユーザーがプレイ後に何かを得ることができたか、そうでないかだと思っています。そのため、この『GET EVEN』は音響面とシナリオにかなりの力を注いでいます。プレイし終えた人に少しでも自分の人生を見つめ直してもらえたら、この作品は成功だと思います。

とくに力を入れたふたつのポイント、シナリオと音響について

−−シナリオ面で力を入れられているということですが、どのような部分に注力されたのでしょうか。
リオネル ゲームを進めていると、ある場面で少女からの問いかけがあったり、ある人物の会話が聞こえてきたりしますが、これは雰囲気を出すために用意しているわけではなく、すべてのセリフや音にしっかりとした意味を持たせています。ゲームを終えてすべてを知った後に聞き直すと、きっとその意味がわかるはずです。じつは序盤でも、かなり核心に迫るセリフが飛びかっていたりするんですよ。

−−そういったお話を聞くと、エンディングを見たあとに、もう一度プレイし直したくなりますよね。
リオネル そうなんです。『GET EVEN』には、真相を知ったうえで再度プレイすると、その意味がわかるといった仕掛けをたくさん用意しています。本作では、すべてのセリフ、出来事、要素に必然性がありますからね。

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−−もうひとつ力を入れているポイントの音響面ですが、『GET EVEN』で導入しているAuro-3Dという技術が活きるのは、ヘッドホン使用時に限られるのでしょうか。
リオネル Auro-3Dというのは、バイノーラル録音(人間が音を感知する状況と同条件で録音し、再生時にもとの音場を再現する技法)で録った音を、再生時に同じ音場で聞こえるようにシミュレートするサラウンドサウンドフォーマットで、およそ13chもの音場を再現しています。通常のステレオやサラウンド再生では、音場は左右や前後方向の広がりとして感じられますが、Auro-3Dでは縦軸方向の音場も再現しているので、無意識のうちに自分がその場にいるかのような感覚が味わえるわけです。この効果は、ヘッドホンでの視聴時に最適化されています。

−−5.1chなどのホームシアター環境を持っている人は、オプションで“ホームシネマ”にしてスピーカーで遊んだほうがいいのでしょうか。それとも、ヘッドホンで“Auro-3D”にしてプレイしたほうがいいのでしょうか。
リオネル それは難しいところですね。5.1chなどのホームシアター環境を構築されている方であれば、すごく綺麗なサウンドが再生されると思います。Auro-3Dの場合、使用するヘッドホンによっても状況が変わってきますが、しっかりとしたスペックのものが用意できるのであれば、縦軸の音場まで再現されるヘッドホンのほうが臨場感あふれる体験ができると思います。

−−『スター・ウォーズ』の生みの親であるジョージ・ルーカスが「映画の半分は音なんだ」と名言を語っていたことがありますが、この『GET EVEN』も画と音が一体となって、この魅力的な世界観が作り出されているわけですね。そんな音を紡がれたオリヴィエ・デリビエールさんはどういった方なんでしょうか。
リオネル 彼はゲームコンポーザーで、『GET EVEN』で奏でられるサウンドは、すべてそのステージ内にあるものから作り出しています。例えば配管であったり、時計や機械といった音をリズムに採り入れることで、臨場感を高めているのです。オリヴィエが本作でやりたかったことは、リアルタイムでの音場合成(サウンドコンポジション)です。通常のゲームであれば、そのシーンに合わせて用意した音楽を流したり、効果音を切り換えたりしますが、『GET EVEN』ではプレイヤーの状況に合わせてメロディーの調子やテンポなどを変化させています。そうすることで、ゲームへの没入感を自然に高める効果が高まってくるわけです。オリヴィエはそこにないオブジェクトの音は絶対に出さないというポリシーを持っているので、目的の音を出すために、後からそのオブジェクトを追加したこともあるほどなんです。

−−オリヴィエさんに音楽を依頼したのは、BNEEが参加してからなんですか。
リオネル そうです。我々が制作に参加した時点の規模から、この『GET EVEN』はAAA(トリプルA)クラスのビッグタイトルと真っ向勝負ができるタイトルではないことはわかっていました。ただ、感情を揺さぶるという根幹の部分でしっかりと勝負ができるようにするため、音響とシナリオ面にはかなりの力を注がせてもらいました。

−−ということは、オリヴィエさんが楽曲を手掛けた期間はそれほど長くはないんですね。
リオネル 1年半くらいですね。その後は、どんな人に演奏してもらうか、どんな楽器を使うかが決まらないとオリヴィエは曲が書けないそうなので、かなり早い段階で楽曲の構成を決める必要がありました。そうして、すべての演奏者、楽団の構成が決まった段階で、それに合わせて曲を書いてもらっています。本作のオーケストラには、オリヴィエのこだわりでブリュッセル・ハーモニー管弦楽団を使っています。この楽団が使えなければ、仕事を引き受けませんと彼は言ってましたからね(笑)。

−−普通のゲーム制作では、そこまでこだわりのある楽曲作りは聞かないですね。僕がゲームをプレイしていて印象的だったのは、時計の時を刻む音です。
リオネル オリヴィエは、単純に画面に合わせて音楽や音を鳴らすだけではなく、その音に意味を持たせています。ゲームをプレイしていると要所でこの時を刻む音が鳴りますが、この音が重要な意味を持っていることも、ゲームをプレイし終えたときにはわかるはずです。

▲『GET EVEN』を構成する重要な要素のひとつ、“音楽”を制作するミュージシャンたちのこだわりを紹介する映像、“The Power of Music”。