先日、アドビ システムズが新フォント“源ノ明朝”が発表された。4つの言語をサポートする、オープンソースのフォントの可能性に迫る。

●“源ノ明朝”制作の秘話が語られる

 先日、アドビ システムズが新フォント“源ノ明朝(Source Han Serif)”(読みかたは、げんのみんちょう)を発表した。“源ノ明朝”というとご存じの方も多いかと思われるが、アドビ システムズがグーグルと共同で開発した新しい書体。4つの言語(簡体中国語、繁体中国語、日本語、韓国語)をサポートしており、オープンソースで提供されるということもあり、大きな注目を集めている。

 フォントというと、ある意味で空気のような存在で、筆者のようなライターを生業とする人間にとっても当たり前のように受け止めているが、“文字を表現する”という点において極めて大切な存在で、ファミ通.comの記事ひとつとっても、フォントがなければ成り立たない(ちなみに筆者のパソコンでは、ファミ通.comの記事はヒラギノ角ゴシック体で表示されております。PCの環境によって違いはあるかと思いますが)。フォントが対応していなければ、文字化けしてしまって表示されないという事態にもなりかねないわけで……。

 今回発表された“源ノ明朝”が期待を集めているポイントのひとつがそこ。先述の通り、“源ノ明朝”は東アジアに住む15億人を対象に、4つの言語に対応している。これは、たとえばの話になるが、東アジアに向けて共通の広告展開をする場合、統一のフォントで統一のブランドイメージを持って行う……といったことが可能になるのだ。さらにいえば、これは筆者が語るには、いささか手に余る議論になってしまいそうだが、4つの言語をサポートするフォントは今後の東アジア圏の発展という見地から考えても、極めて有意義なことだと思われる。

 ちなみに、今回の記事に際して勉強した知識を少しひけらかしてしまうと、アドビ システムズが4つの言語をサポートしたフォントを開発したのはこれが初めてというわけではなくて、2014年に“源ノ角ゴシック”を提供している。“源ノ明朝”はそれについでとなる。ゴシック体と明朝体は、フォント界のツートップのようでありますから、使い勝手がさらに広がるということは言えるだろう。

▲“源ノ明朝”。上から簡体中国語、繁体中国語、日本語、韓国語。しみじみと美しさと品格を感じるフォントだ(写真は公式サイトからのキャプチャーです)。

 と、“源ノ明朝”をきっかけにして、フォントのことをつらつら考えていたところに、アドビ システムズから取材の案内がきた。2017年4月10日に“源ノ明朝”の発表会を行い、その日を“フォントの日”と制定。合わせて、関係者を招いてのトークセッションなどを行うというのだ。これは、せっかくの機会! ということで、筆者は発表会が行われた東京都港区 TRUNKに足を運んでみた次第。本稿では、同発表会をもとに、“源ノ明朝”の詳細を紐解いてみたい。

▲アドビ システムズ 日本語タイポグラフィ シニアマネージャーの山本太郎氏。

 発表会では、まずはアドビ システムズ 日本語タイポグラフィ シニアマネージャー 山本太郎氏が、“源ノ明朝”が制作された背景について説明してくれた。山本氏によると、CJK(中国語、日本語、韓国語の総称)語圏の人口は世界の4分の1を占めており、これらの言語で利用される文字数は数万にも及ぶらしい。となると、CJK対応のフォント開発には非常に時間がかかるのも無理からぬところだが、一方で、CJKの言語は共通する部分も多い。山本氏はその点に着目して、「できるだけコンパクトで、しかも複数の地域や言語に対応しながらも一貫性のあるフォントが作れないだろうか」と考えたという。

 ただし、共通する部分が多いとはいえ、かなりの文字数になってしまうことに変わりはない。そのため、グーグルに協力を仰ぎ、“源ノ明朝”の完成にこぎつけたのだとか。開発にあたっては、グーグルのみならず、イワタ(日本)やSandoll Communications(韓国)、Changzhou SionType(中国)などのパートナー企業の支援があってこそ実現し得たようだ。

 さらに山本氏によると、“源ノ明朝”は、2014年にリリースされた“Source Han Sans(源ノ角ゴシック)”と対になるデザインで使えるため、見出しだけ“源ノ角ゴシック”を使い、本文は“源ノ明朝“を使用するといったデザインも可能となるとのこと。

 なお、“源ノ明朝”の入手方法については、北米と日本からは、Typekitの無償フォントとして、デスクトップ同期またはWeb上での利用が可能となっている。GitHubからも入手できるとのことだ。

▲アドビ システムズ 日本語タイポグラフィ チーフタイプデザイナー 西塚涼子氏。

 続いては、“源ノ明朝”をデザインしたアドビ システムズ 日本語タイポグラフィ チーフタイプデザイナー 西塚涼子氏が制作にあたってのこだわりを語ってくれた。

 まずは“源ノ明朝”のデザインコンセプトについて。西塚氏によると、“源ノ明朝”はデジタルデバイスでの利用を念頭に置いてデザインされているとのこと。とはいえ、あくまでも“明朝”なので、“光る画面においてはどう映るのか”や“従来のフォントでは何か問題があるのか”といった点も踏まえて、研究されていったそうだ。そういった部分をベースに、韓国や中国のユーザーも自然に使えるフォントを目指して制作が進められたという。

 デザインの特徴については、“源ノ明朝”はタブレットやノートPCといったモバイルデバイスでも読みやすい明朝を目指しているため、抑揚を抑えめにしたデザインになっていると西塚氏は言う。
 縦画は直線になり、横画は“小塚明朝”よりも横線が太くなっている。さらに、光る画面でも文字が飛ばないような配慮になっているとのことだ。今後はスマホで小説などの長文を読む機会が多くなってくることが想定されるため、“小塚明朝”比較で98パーセントほど環境を縮小して、空間がきちんと生まれるような調整が成されているという。

 おつぎは、“源ノ明朝”のデザインにおけるCJKのプロセスについて。こちらに関しては、西塚氏は、漢字の構成エレメントをスライドに写して説明を行った。このエレメントはHaraiひとつのみで構成されているらしいのだが、お互いのパーツを保管し合うことによって、動くエレメントになるという。さらに、これらエレメントを使うことによって、中国のパートナーと共有して同じ漢字をデザインすることができる。つまり、パーツを共有することによって、データ量を減らせるというメリットが生まれるのだ。

 つぎ説明されたのは“源ノ明朝”という名称がどのようにして決定したのか。ネットなどでは武将の源頼朝に字面が似ていると話題になったが、西塚氏は「ネーミングに親しみを覚えてくれるとは思わなかった」と笑いながらコメント。本人いわく、狙って決めたわけではないらしいため、まさかの反応にビックリしたそうだ。
 なお、“源ノ明朝”の“源”は、Sourceが由来となっており、日本でそのまま使ったらいいのではという話もあったらしいのだが、焼きそばのソースだと思われる可能性もあったため、NGになったようだ。いろいろな意見がありつつも、結果、一年以上かかって“源”という漢字を使うということで落ち着いたという。ちなみに、字面を中国とわけるため、日本的な表現として、カタカタの“ノ”を入れることになったということも明かしてくれた。

 ちなみに、西塚氏は“源ノ明朝”をどのように使ってほしいかという質問について、アプリ、Webフォント、ゲームなどで使ってほしいのはもちろんだが、同フォントを使って新しい開発にチャレンジしてくれたらうれしいとも語っていた。

[2017年4月13日午前3時]一部お名前の表記につき誤りがありましたので、修正させていただきました。お詫びして訂正します。

●フォントの日制定記念スペシャルトークセッション

 “源ノ明朝”の紹介に続いては、フォントの日制定を記念した、スペシャルトークセッションが行われた。パネラーとして参加したのは、DELTROの坂本政則氏、博報堂のアートディレクター小杉幸一氏、ナイアンティック アジア統括本部長の川島優志氏、そして引き続きの登場となるアドビ システムズ 西塚氏の4名だ。ここでは、とくに気になったトピックをセレクトしてご紹介していこう。ナイアンティックの川島氏が“源ノ明朝”のトークセッションに参加しているのは、ワールドワイドで展開している『ポケモンGO』においても、フォントは大きなウェイトを占めるということだろうか。ちなみに、DELTROはアートディレクターの坂本政則氏とテクニカルディレクターの村山健氏により2009年に設立されたデザイン会社だ。

▲左から、DELTROの坂本政則氏、西塚涼子氏、博報堂のアートディレクター小杉幸一氏、ナイアンティック アジア統括本部長の川島優志氏。

 まずは、“源ノ明朝について一言”という直球なお題。坂本氏は「源ノ明朝は、世界の人々に対する贈り物になるくらい、スタンダードなもの」と同フォントの価値を表現。初見では思わず感動してしまったと、笑顔で話す。
 一方の小杉氏は、先月韓国に行ってきたらしいのだが、現地のホテルや美術館などで使われているフォントデザインにあまり満足できなかったそうだ。「“源ノ明朝”が登場したことは、建築関係者やインテリアデザイナーには凄くうれしいことなのでは」と、今後への期待も込めて話していた。西塚氏もこの発言には共感しており、「フォントによってサービスの質を下げてしまったら、それはもったいないこと」だとコメントしている。

 続いては、“源ノ明朝を使ってみたい場所”というトピックへ。小杉氏は、自身も手掛けている化粧品の広告などに使用してみたいとのこと。いわく、化粧品は非常にデリケートな商品であり、“源ノ明朝”の繊細さと化粧品のイメージはリンクしている部分があるそうだ。
 川島氏は“源ノ明朝”を使うことによって、日本語、中国語、韓国語の三言語すべてにおいて同じクオリティーが期待できると語る。ナイアンティックが手掛けた『ポケモンGO』は、各自治体が工夫してマップのデザインガイドラインを作っているそうだが、テキストには“源ノ明朝”や“源ノ角ゴシック”を推奨しているほど、同フォントは優れているそうだ。「将来的にはオリンピックでもぜひ使ってほしい」(川島氏)と期待を寄せていた。

 というわけで、将来的にはゲームなどにも用途が広がりそうな“源ノ明朝”。コンテツにとってフォントは大切だということを再認識した“フォントの日”でした。