黒川塾でお馴染みの黒川文雄氏もアドバイザーに就任
2017年1月17日、東京・秋葉原で開催されているIoTスタートアップ企業の情報発信イベント、DMM.make AKIBA Demo Dayにて、VRコンテンツの内容にあわせて匂いが出るVR用デバイス“VAQSO VR”のデモゲーム発表会が実施された。
発表会の会場には、“VAQSO”(バクソー)のCEO、川口健太郎氏が登場。このVAQSOは、今回の匂いが出るVRデバイス用アタッチメントのために設立された会社で、2017年1月に設立。川口氏は、これまでに匂いを取り扱う企業、ZaaZを起業・運営してきていたが、今回新たなデバイスを作るにあたり、シリコンバレーでスタートアップをして、勝負をしかけたいとの思いから、この新会社を設立したとのこと。VAQSOのボードメンバーは、川口CEOのほかに、DMM.make AKIBAの立ち上げにも関わった小薬達也氏がCTOに加わり、“黒川塾”でもお馴染みの黒川文雄氏がスペシャルアドバイザーとして名を連ねている。
プレゼンの開始に伴い、川口氏がポケットから取りだしたのは、“お腹が空いたら”のキャッチコピーでもお馴染みのお菓子、スニッカーズ。その袋を開けて、中から出てきたのはチョコレートバーではなく、今回紹介する“VAQSO VR”が登場。製品のサイズは120mm×35mm×15mmと、スニッカーズをさらに薄くしたようなものとなっており、専用のアタッチメントを介して、VRヘッドセットの下側に取り付ける形となっている。また、ワイヤレス通信(BLE:Bluetooth Low Energy)で制御されるため、VRヘッドセットへの装着も簡単で、取り付け用のクレードルをさまざまなVRデバイスに対応させることによって、どんな機器でも取り付けが可能な点も、本製品の特徴であると川口氏は述べていた。
今回、紹介される“VAQSO VR”はプロトタイプのため、搭載している香りは3種類となっているが、製品版では香りの元はカートリッジ形式で提供され、5〜10種類の香りを搭載できるようになるとのこと。コンテンツに合わせたカートリッジが用意され、イベントや状況に応じて適時香りが噴出されるといった仕組みで、より没入感の高いVR体験をもたらせてくれるものとなる。香りの射出孔は“VAQSO VR”の長辺の側面部分に1mm程度のものが開けられており、内部に仕込まれている極小ファンによって噴出が行われる。なお、カートリッジ内での香りが混じり合わないように、それぞれの香り毎に射出孔が設けられている。
この発表会で用意されているデモゲームは、ビルの屋上にセットされた大砲から飛んでくる桃や木の種を撃っていくという、至極単純なシューティングアクションゲームで、今回の体験会用に作られたものとのこと。このコンテンツで、桃を撃つと“VAQSO VR”から桃の香りが、木の種を撃つと爆発して、火薬の香りが漂ってくる仕掛けとなっている。
今後は、VRのデベロッパーに向けてAPIを公開していきつつ、アンリアルエンジンを始めとする各種ゲームエンジンの拡充に合わせながら、対象物との距離などによって匂いの度合いが変化するような仕組みの開発に取り組んでいくとのこと。ゴールドマン・サックス証券の試算によると、2025年のVR・ARの市場規模は8〜9兆円にも及ぶと見られており、その中の4兆円程度が、“VAQSO”が対象とするマーケットサイズであると川口氏。これから広がっていくであろうVR・AR関連市場の中での、匂い関連デバイスとしてのナンバーワンを狙っていきたいと、熱意を語っていた。
ここで、“VAQSO”のスペシャルアドバイザーに就任した黒川氏が登壇。「川口社長とは、知人を介して知り合いましたが、非常におもしろいビジネスをやろうとしている彼の気持ちに共感して、サポートさせていただくことになりました」と、今回の協力参加の経緯を説明。同氏が2012年から始めている勉強会“黒川塾”でも、昨年はVR元年ということで、VR関連をテーマにしたセッションが多く行い、さまざまなチャレンジや試みを紹介してきたが、ブレイクスルーにはまだ何かが足りておらず、今年はVRを定着させるための模索の年になるのではないかと指摘。“VAQSO VR”は、そんな足りない部分を補うためのひとつのチャレンジであると、黒川氏は語り、今後は大手のゲーム会社、パブリッシャーなどへの営業活動や、世間での認知活動を積極的に行っていくとのこと。最後に、「今日体験していただくVAQSO VRはまだまだ開発途中のプロトタイプで、足りないところがたくさんあると思います。皆さんの厳しいご意見をいただいて、よりよいプロダクツ、デバイスにしていきたいと思います」と、“VAQSO VR”のこれからの普及に向けた意気込みを述べていた。
この後、試遊会に入る形になるのだが、その前に簡単な質疑応答の時間が設けられたので、その内容を以下で紹介していこう。
Q.VAQSOの名前の意味、由来は?
A.爆走という形で、勢いを持って突っ走っていけたらいいかなということで、“VAQSO”と名付けました。
Q.ビジネスモデルとして、端末主導の売上を狙っていくのですか? それともカートリッジの販売を主軸にするのでしょうか?
A.どちらかというと、カートリッジの販売になります。
Q.匂いとエンタメコンテンツの組み合わせは、どれくらいの効果があると考えていますか?
A.より人間の本能に訴えかけるような匂いを演出することで、(VRによる)イマジネーションの広がりにプラスαの要素が加えられ、ゲームにさらなるリアリティを与えられると思っています。
Q.アメリカで法人化した理由はなぜでしょう?
A.日本での法人化も考えていましたが、スタートアップの企業や個人に対して、日本での資金集めは厳しい面が多く、VRトレンドのあるシリコンバレーで勝負をする際、日本法人だとハードルがあがってしまうこともあるため、アメリカで法人化したほうがやりやすいことが理由です。
Q.いま、各メーカーに売り込み中だと思いますが、どういった感触を得ていますか?
A.香りがVR体験に加わることによってリアリティが高まって、いままでにないゲーム体験ができるといった共感をいただける方が多いと感じています。
Q.現状はどのくらいの制御ができるのですか?
A.プロトタイプではタイミングにあわせて香りを出しているだけですが、VR空間のなかにある対象物との距離に応じて、ファンの風量や時間を変えたりといったことは行っていく予定です。
会場には、“VAQSO VR”体験用デモゲームとして、Oculus Riftを使った簡易的なFPSが用意されていた。ヘッドマウントディスプレイのゴーグルの下部には、アタッチメントを介して“VAQSO VR”が取り付けられているが、言われなければデバイスが付いていることに気がつかないくらい、自然なレベル。当然、そのためにヘッドマウントディスプレイが(当然、若干の重量増にはなっているが)重く感じることもなく、自然とVRコンテンツの体験に入っていけるところは○。
さっそくプレイのための順番待ちをしている最中、川口氏より今回のデモプレイで使用する匂いの元となるサンプル(桃の香りと硝煙の香り)の匂いを嗅がせてもらうことに。桃の香りは、ピーチティーのフレーバーのような、まごう事なき桃そのものの香りが鮮烈に飛び込んでくる。硝煙については、ケースに入ったサンプルの匂いを嗅いでいる状態なので、硝煙の香りと言われればそのような焦げ臭さも感じるが、何も言われなければ燻製をいぶしているような香りにも感じられた。ただし、これがVRコンテンツを通じてとなると、間違いなく硝煙の香りになるのだから、人間の感覚の曖昧さがいかにいい加減なのかを思い知らされる次第である。
今回のデモ版は、“VAQSO VR”お披露目用のプロトタイプのものとなっているため、匂いの制御も含めてまだまだ改善しなければならないポイントも散見されているが、視覚と聴覚を完全に遮断するVR空間の中で、プラスα(触覚情報や、今回のように臭覚情報)を加味するだけで、体験のリアリティは格段に跳ね上がるというのは、紛れもない事実である。
2017年中の製品化を目指しているとのことだが、今後どのようなコンテンツに対応して登場するのか。『サマーレッスン』のようなVRコンテンツで、キャラクターの匂いなどが(距離によって)感じられたら、よりリアル感が高まるだろうことは容易に想像できてくる。個人的にはオイルと排気ガス、熱で溶けたゴムの匂いなどが入り交じったVRレースゲームや、狩りで仕留めた獲物をこんがり焼くときの匂いなどを体験できたらおもしろいかも、などといったことを考えてみたが、いずれにせよコンテンツによるところが大きいのは間違いない。どのようなコンテンツが対応し、どのような形で登場するのか。2017年にVRがどのような発展をしていくのかとあわせて、“VAQSO”の今後の展開にも注目していきたいところだ。