『LoL』を活用した学生コミュニティー支援プロジェクト

 「ゲームを広めるにはコミュニティー活動が重要だ」。

 こんなことを声高に叫びつつ、プレイヤー同士がいっしょに遊ぶ場を提供するメーカーが増えている。友だちと遊ぶことで、ゲームはよりおもしろく感じられる。だから友だちを増やしてもらいたい。シンプルな話である。

 GameBankは『League of Legends』(以下、LoL)で世界的に知られるライアットゲームズと共同で“e-Sports×U”というプロジェクトを展開中だ。大学生や専門学校生にスポットを当てており、学生たちがイベントを開催する際のサポートなどを行っている。

 僕は2016年6月に近畿大学のイベントを見学させてもらっていて、これがなかなかいい感じだった。

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▲近畿大学内で行われたイベントの様子。近畿大学は2002年に世界で初めてクロマグロの完全養殖化に成功したことで有名。そのほかにも革新的な研究・活動を多く進めている。

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マグロ養殖のつぎはeスポーツ!? 近畿大学の学生主催『League of Legends』交流イベントに密着

 e-Sports×Uが行うおもなサポートは、イベント内容への助言や機材貸し出しなど。あとはヒアリング。何か行動を起こしたいけど、どうしたらいいかわからない。そんな衝動を抱えてモヤモヤしている学生って多いと思う。彼らの話を聞いて背中を押してあげるのも大人の役割だ。

 直接的な金銭サポートではないが、「企業と協力して企画を遂行する」という事実は、学生たちのやる気を引き出してくれる。単純に、大人が自分たちの話を聞いてくれると、すごく気分が高まると思うのだ。そういう成功(ときには失敗)体験は、若いうちに味わっておいたほうがいい。若いうちの苦労は買ってでもしろ、というやつである。

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▲学生が主体となってオフラインイベントなどを開催している。

 2016年12月現在、e-Sports×Uに登録している学校は全118校。学生たちはe-Sports×Uの取り組みから何を感じているのか。GameBankさんに活動が活発な3校の学生を紹介してもらい、話を訊いた。

(※本稿はGameBankや各校からご提供いただいたイベント写真を使用して構成しています)

e-Sports×Uで活動する3人にインタビュー

 話を聞いたのは、近畿大学の多田くん、慶應義塾大学の益岡くん、日本大学の佐藤くん。3人とも、e-Sports×Uが定めるe-Sports Student Partner(略してESP)として活動している。まずは彼らがしてきたことから整理していこう。

【近畿大学 多田くん】
 某FPSの全国大会で優勝した経験あり。『LoL』で積極的に活動しているサークルと連絡を取ってチームとの合併を果たし、交流のために学内LANパーティーを実施。サークルは全体で80人ほどで、およそ半数が『LoL』好き。
 2016年8月開催のオープンキャンパスでは、サークルの仲間と協力してeスポーツイベントを実施。一校舎をまるまるひとつ使い、このときのオープンキャンパス全体でもっとも多くの人を集めた(3日間の総来場者は2000人オーバー)。

【慶應義塾大学 益岡くん】
 100人以上が所属する(留学生も15人ほど)大規模なeスポーツサークルに所属。ESPに申し込んだのは、行動の幅を広げるためと、他校との接点がほしかったから。関東の大学を対象にした大会“関東LoLリーグ”をはじめ、大型大会のパブリックビューイング、オフラインでの交流イベント、早稲田大学との対戦イベント“慶早戦”など、多くの大会・イベントを運営している。

【日本大学 佐藤くん】
 eスポーツに関する活動を長く続けているふたりとは異なり、まだ1年生。入学時には学内に『LoL』やeスポーツ系のサークルがなく、e-Sports×Uへの参加をきっかけに自分でサークルを設立した。人数は40人ほどで、大半が『LoL』プレイヤー。
 ESPとしてはネットカフェでオフライン学生交流会を開催するなど、サークル外の活動も積極的に行っている。

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▲左から、近畿大学の多田圭汰くん、慶應義塾大学の益岡想くん、日本大学の佐藤大介くん。右端の佐藤くんがあからさまに緊張している。

 取り組みかたは三者三様。サークル内には留学生も多く、『LoL』を国際交流のアイテムとして活用している点は共通である。留学生のサポートは大学側が抱える課題のひとつ。ゲームでコミュニケーションの輪が広がれば、留学生のストレス軽減につながる。ESPたちのがんばりは大学側にとっても悪い話ではないはずだ。

◆達成感を味わうのが気持ちいい
 ESPの活動内容はいろいろあるが、多くはイベント開催に集約される。3人ともイベント終了時の達成感がたまらないそうだ。イベント前は準備に右往左往し、イベント中も気は休まらない。つらいことも多いが、楽しかったと感想を聞くと、またつぎもやろうと気分が前向きになる。

 日大・佐藤くんがいちばん達成感を感じたのは「初回の失敗を反省し、2回目に改善できたこと」だそうだ。おお、成長している。失敗を糧に若者が成長しているぞ。

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▲機材の設置やタイムスケジュール管理など、イベント運営でやるべきことはいろいろある。

◆苦労した点・努力した点
 ESPとして活動するうえで苦労した点は、裏を返せばいちばん気にかけた点とも言える。近大・多田くんは「運営スタッフに楽しんでもらうにはどうすればいいか」と苦心したという。来場者ではなく「スタッフが楽しめるイベント作り」を重視したのだ。

 自分たちの卒業後のことを考慮すると、このやりかたはアリだと思う。後輩たちに「イベント運営は楽しい」と感じてもらえば、来年以降もサークル活動が継続する可能性が高いからだ。それに、スタッフが疲れた顔をしていたら来場者も楽しくないだろう。

近大・多田 いまは8人くらいで回していて、そのうち5人が後輩です。少しずつ仕事を振って地獄を見せてます。自分たちもこんな大変なことやってないけど、なんて思いながら(笑)。いまはつらい時期でしょうけど、達成感を味わってもらって、やってよかったと思ってもらいたいです。

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▲近畿大学のオープンキャンパスは一大イベントだ。全国から多くの高校生が集まる。

 慶應・益岡くんは自分でぐいぐい動く性格のため、サークル全体の目標をまとめるのが難しいとのこと。自分の判断でいろいろな人に会い、話を聞き、イベント会場を借りるために交渉する。こういうタイプだから、イベント開催の件数が圧倒的に多いのか。人に仕事を振るのが苦手という自覚はあるようなので、そこを学べばまだまだ伸びしろがある。

 言語の面を挙げたのは、日大・佐藤くん。一般的なサークルと比べて留学生(とくにアジア圏)が多いのがeスポーツサークルの特徴だ。日本語以外での意思疎通ができないとトラブルが起こりやすいが、これは自分から積極的に対話を重ねることでカバーした。簡単な英語や中国語でのコミュニケーションを心がけたという。高校生の頃まではこんな機会もなかったため、自分の精神的な成長を実感しているようだ。

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▲僕はもうおじさんなので、学生たちが成長しているのがうれしい。

 追加でもうひとつ。近大・多田くんは時間にルーズな性格のため、約束の時間を守れず、何度も企業側からお小言をもらったとのこと。

 うん。それはESPとは関係なくどうにかしてくれ。

活動を通しての目標、野心はあるか

 つぎは、今後何をしたいかを聞いてみたい。ESPとしての活動を通して、eスポーツに対してできること・やりたいことも変わってきたはずだ。

 たとえば、大きなイベントを運営しようとすると、企業やその道のプロの助けが必要になる。e-Sports×Uという後ろ盾があれば、交渉しやすくなると思う。そういう状況に対して彼らは何を思い、何を目指すのだろうか。

 ここからはインタビュー形式でお届けします。

――学生としてイベントを開くにあたり、企業やプロに協力してもらうこともあったと思います。どう感じましたか?

近大・多田 オープンキャンパスでプロゲーマーや有名実況者を呼んだら、やっぱり彼ら目当てのお客さんは多かったですね。集客効果はもちろんですけど、プロとつながりができるのはサークルとしてはうれしいことです。どんどんつながって行ければと思いますよ。プロが僕らと絡んでどういうメリットがあるのか、提示するのはたいへんですけど。

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――みなさんが“学生であること”がすでにメリットであるという考えかたもあると思います。「学生だから協力してやるか」という大人は少なからずいる。だから、いまのうちに交渉の練習をしておくのもいいのでは。

近大・多田 学生補正は感じますね。何であんなにPC貸してくれるんだろう、とか。いっぱいツバつけておきますよ。後輩のためにも。

――今後はどういう活動をしたいですか? 自分の目標でも、サークルとしての目標でも。

近大・多田 大人になったとき「学生のとき何してた?」とか聞かれるじゃないですか。「サッカー8年やってました」って言ったら感心されますけど、「ゲーム8年やってました」だと「えっ!?」となると思うんですよ、いまは。ゲームの地位が低いと思われているので、それを変えたくて。
 僕たちはゲームを使って就職活動に挑んで、成功したんですよ。これで実績があれば成功できる前例はできましたけど、真剣にゲームをやっても分かりやすい実績がある人は少ない。もう一歩進んで、何年か継続してゲームをやったら「まじめにeスポーツに取り組んだんだね」みたいな、スポーツと変わらない評価をされるように認知を広げたい。オープンキャンパスで高校生にeスポーツのことを教えましたのも、このためです。

慶應・益岡 僕はいまやってる『LoL』リーグを関東だけじゃなくて全国に広げたいと思ってます。『LoL』というゲームが本当に大好きなので。関東リーグをベースに、西、北に広めて、試合をやる下地が全国にできて、トップが戦える場を作りたいと思ってます。

――大会を大きくしたいという理由は?

慶應・益岡 「僕が好きだから」としか言えないんですよね。『LoL』も大会の運営も。人に指示を出すのは苦手ですけど。自分が楽しいと思うことは徹底的にやりたいなあと。イベント運営の経験は将来のためにもなるでしょうけど、そういうこととは関係なくて。

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――なるほど。佐藤くんは?

日大・佐藤 『LoL』とかゲームを通して、接点がなかったはずの人とも話し合えたらおもしろいだろうなと思ってます。日本大学って、キャンパスごとに場所がバラバラなんですよ。僕は経済学部で千代田キャンパスに通ってますけど、工学部は福島。ふつうに大学生活を過ごしていたら関わり合いがまったくないですよね。でも、『LoL』きっかけで交流が始まるかもしれない。
 あと、プレイヤーとして大会への出場を目指すうえで、大学が同じというのは心強いかなと。

――『LoL』を学校内の結びつきを強くするツールとして見ているわけですね。ちょっと質問の方向性を変えて、いまの活動に対して野心はありますか? これをきっかけにのし上がってやろうとか、損得勘定もありで。

近大・多田 僕はあります。

――おお。それをびしっと言えるのはいいですね。

近大・多田 (大きな大会を運営している)益岡さんの隣りで言うのもアレですけど、僕は学生の活動の第一人者になりたいんです。以前は大阪の中でしか活動できていませんでしたが、少し前に龍谷大学さん(京都)といっしょに企画を進めるようになりました。いまは西日本全体に広げています。言葉は悪いですけど、e-Sports×Uや『LoL』を利用したい。それくらいの気持ちはあります。eスポーツの学生の運動といえば「あっ、多田君か」みたいになるまでがんばろうかなと思ってます。

――明確な目標があるという意味で、いいね。それ。持つ持たないはいい悪いじゃないですからね。

慶應・益岡 関東をベースに全国に広めたいというのはもちろんありますけど、野心と言うより、自分が楽しいことが前提にあるんです。自分がいまやっていることを楽しめれば、正直何でもいいというのはあります。それが、いまは大会の運営やみんながプレイする場を作ることに寄っている感じです。

――大会の運営が就活につながるとか、卒業した後につながるかもしれないとか、そういうのはありますか?

慶應・益岡 もともと本当にそういうのは考えてなくて、楽しかったからやり始めただけなんです。先々のことを考えるのが苦手で。いまが楽しければ何でもいいんです。いまになって、これまでにやってきたことを思い返すと、野心につながるのかもしれませんけど、いまが楽しいのが僕にとって重要です。

――なるほど。佐藤君は?

日大・佐藤 ふたりと比べると小さいことだと思いますけど、大学のなかでも、たとえば日本大学○学部LoL(eスポーツ)サークルみたいに、学部ごとに独立させて、ガチで戦って、大学全体がeスポーツ一色になれたらなって思ってます。

 佐藤くんがやりたいことは、意外と聞かない話だ。多田くんや益岡くんみたいにどんどん大きなことをしたいのではなく、内側の結び付きを強くしたいのだろう。

 佐藤くんはしきりに「ふたりと比べると小さいことだと思いますけど」と恐縮していたが、ただ方向性が違うだけだ。そのまま突き詰めてほしいと思う。

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卒業した後も後輩たちを助けたい

――卒業後、ゲームやeスポーツに関わりたいという気持ちはありますか?

日大・佐藤 けっこうあります。主体になって動きたいわけではないですけど、やりたい子がいたらOBとして協力したいですね。

慶應・益岡 いまは自分が主体で行動していますけど、今後は後任に任せると思います。後継者探しが悩みですね。サークルに参加している人たちは、ゲームが好きで、新しい友だちを探すためという人が多いので。サークルの運営に興味がない人はどうしたって多いわけですよね。オフラインで実際に会って、人となりを知ったうえで、運営に興味がある後輩を探したいです。ゲーマーと運営の両立は難しいです。

近大・多田 関わっていいなら、e-Sports×Uに残りたいですね。現場でアドバイスできたらな、と。就職先はゲーム業界から離れましたけど、いまになって「ゲームに関わることは続けたい」という気持ちが出てきました。後悔しているわけじゃないんですけどね。ふつうに働いていても、時間なんて作ろうと思えば何とでもなると思います。
 社会人でゲームをやってる人は多いですよね。ゲーマーと運営の両立が難しいなら、ゲームの比重を落として運営側に回ればいい。

――社会人になっても後輩たちを応援したいと?

近大・多田 いまは関西で大会を開いたとしても、どうしても近大寄りの目線になっちゃうんです。それは何度も注意されました。卒業した後だったら、そういう気持ちは適度に薄れるんじゃないかな。そうなったときに僕自身が大会を開いたらどうなるのか、楽しみではあります。

――ふたりには母校を応援したいみたいな仲間意識はありますか? 大会とかで。

慶應・益岡 慶應の学生がんばってほしい気持ちはありますけど、それよりも強いチームが見たいです。
 今度、全国大会を開催します。オフラインでベスト4をやる予定で。いま予想しているトップ4のチームはみんなすごく強いんです。どういう試合になるか、楽しみにしています。

――それこそ慶早戦みたいに、そのスポーツに興味がなくてもとりあえず母校を応援する文化はありますよね。大学のなかでも、とくに慶應と早稲田は仲間意識が強いイメージがありますが。

慶應・益岡 たしかにそういう人は多いです。ただ、僕の場合はそれ以上に『LoL』への興味が強いんだろうなと思います。

日大・佐藤 僕自身、関東LoLリーグに選手として出ているので観戦側に回ることは少ないんですけど、日大を応援する気持ちは強いと思います。
 僕は経済学部の軽音サークルにも入ってるんですけど、友だちにeスポーツサークルもやってるって言ったら、「どんなことやってるの?」って聞かれて。説明したら興味を持ってもらってるみたいです。タイムシフトがあったら見たいんだけど、みたいな。関東LoLリーグのことを説明したら、「日大はどうなの?」とは聞かれましたね。

――大学ってやっぱり人の結び付きが強いところなんでしょうね。

GameBank北山 それを考えると、OBを巻き込んでいきたいですよね。学生より社会人のほうがボリュームは大きいわけですし、その人たちがeスポーツに目を向けてくれるきっかけとして、「母校が活躍している」はなかなかいいと思います。

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▲書き忘れてましたが、e-Sports×Uを運営するGameBank北山氏(右端)もインタビューに同席しています。文中では敬称略。

近大・多田 近大の後輩が大会で優勝したという報告を受けて、(いまの)4回生どうしでお酒を飲むのが夢なんです。「あいつら成長したなー」みたいな。

――それ、おっさんの発想ですよ。

近大・多田 いやいや、こういう気持ちありますって! 社会に出たら、そっちのつながりのほうができますよね。でも、学生時代の友だちと集まることもあると思います。そうなったとき、共通の話題と言ったらそこに尽きるかなと思って。

大きなサークルほど後継者問題が深刻

 e-Sports×Uはまだ1年目。運営のGameBankからしたら、“施策の回数を増やすこと”と“規模を大きくすること”と同じくらい“継続すること”が大切だ。大型イベントを成功させた近大と慶應は、引き継ぎが大きな問題になっているという。

――特定のメンバーが中心になっていると、後継者探しがたいへんだと思うのですが。

慶應・益岡 そうですね。ゲームをプレイすることが好きで集まっている人が多くて、なかなか運営に目を向けてもらえなくて。
 その対策のひとつとして、活動の場を増やしたいと思っています。多くの学校のサークルに協力してもらっている関東LoLリーグもそのひとつ。試合のレベルが高いので、「うちの大学ががんばっている」というところを見せればサークル活動もはかどるんじゃないかな、と。

――活動の場をしっかり作ることによって、興味を引かせるようにしているわけですね。

慶應・益岡 それ以外は講習会を開いたり、オフラインイベントに参加したり。オフラインでみんなで集まるのが重要だと感じています。面識がないと発言しにくいですから。

――近大は前に取材をさせてもらったときからずっと引き継ぎを気にしていましたよね。進展はありました?

近大・多田 (運営を)やってよかったと感じてもらうにはどうすればいいか。そういうことを考えながらやってます。

――日大はどうですか?

日大・佐藤 僕はもともと1年生で代表になったので。上級生が少なかったんですよ。3~4年生でかためると長く続けるのが難しいから、1~2年中心でやって。だから、まだ対策を練るという感じでもないんです。

――大学1年生ですでに中~長期的な視野を持ってるんですか?

日大・佐藤 はい。一応。

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GameBank北山 継続していくことはひとつのテーマなんですよね。野球部やサッカー部には“組織”という明確なヒエラルキーがあって、3、4年生が部長になって部員を引っ張っていく。オフィシャルの大会もあるから、目指すべきゴールもわかりやすい。
 それと違って、eスポーツサークルはできたばかりのところがほとんど。来年以降、どれくらい残ってくれるかが、GameBankにとって本当に大事なことなんですよ。公式サークルになれば安泰だけど、そう簡単にいくものでもない。

――公認サークルにしたいとか、そういう気持ちはありますか?

日大・佐藤 あります。でも、自分の学部のルールを確認したら、「学部の面子が何人以上いて、先生の呼んで」みたいにかっちりやらないとダメ。ほかの学部の人が入る余地がないというのも悩みです。教室を借りたとしても、ノートPCの支給台数が足りなくて、そんなにいい環境は作れないんじゃないかと。教室が使えるのは大きいですけど、ほかの縛りがあるので、進めにくいなと感じています。

慶應・益岡 うちはしたいです。先生もいて、公認化の基準も満たしてますし、書類も準備してるんですけど、1年はかかると言われていて。来年の春あたりにもう一度チャレンジするかたちになるかと。僕はあくまで『LoL』部門の部門長なので、代表に投げてます。

――近大は何か進展はありますか?

近大・多田 諦めました。

――どういう理由があって?

近大・多田 公認サークルにしたい最大の理由が「教室がほしい」だったんですよ。審査が通れば教室も使えてゲーム用のネット回線も空けてもらえるんですけど、電源が足りない。PCだけでも10台分は必要なのに、プレイステーション4も置きたい。うちは『LoL』部門だけではないので、片方しか置かないのは不公平ですよね。
 公認になれば補助金も出ますけど、書類を用意するのがたいへんですし、メリットが薄い。お金が目的ではないですから。
 それだったら、公認サークルにはならずに、どうにかして教室だけ借りられないかなと考えるようになりました。大学側に「僕たちはこれだけの活動をしています。公認にはならずに、教室だけ貸してください」とかけあって、内諾はもらいました。

――おー。すごい。こだわりをひとつ捨てたわけですね。「公認にしなきゃ」という考えに囚われると足かせが増える。公認化は目的じゃなくて、あくまで活動しやすい環境を作るための手段だったわけだから。それでOKを出す学校側もすごいですね。考えかたが柔軟。

近大・多田 ですよね。教室を借りる申請を出して、空いてたら使っていいよって感じです。実績をちゃんと見せられたから、大学も動いてくれたのかなと思います。オープンキャンパスで一校舎を借りるってほかにないですから。

女子率アップはサークルの悲願

――いま抱えてる問題点はありますか?

日大・佐藤 女子率の低さですかね。

近大・多田 あー、ありますね。うちは女子会イベントをがんばろうと企画してます。

 どうやったら女性ユーザーは増えるのか。あらゆる業界が必死で取り組んでいる問題だ。その気持ちはeスポーツサークルにも共通していた。男に真に女子受けするコンテンツを作れるのか。難しい。

近大・多田 アイデアは女子に考えてもらってます。アイデアをもらってから、いっしょに行動するみたいな。

――何かその辺で苦労はありますか?

日大・佐藤 苦労というか、派閥ができちゃうんですよ。ふつうにオープンに話せるタイプの人と、そうじゃない人で分かれるイメージがあります。オープンなほうと話してると大人しいほうはもっと無口になって、逆になると、オープンなほうが閉じこもる感じですね。

慶應・益岡 人間関係の話でもありますよね。男でもそういうこと起きますけど、女子だともっとたいへんだな、と。

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――人間関係のぎくしゃくって活動が大きくなればなるほど出てくるじゃないですか。対策は練ってますか?

近大・多田 うちは恵まれてますね。

――前に取材したとき、近大は安定している気がしました。全体的に熱意が高い感じで。

近大・多田 僕たち4回生が一度サークルの崩壊を経験しているんです。女で。その経験があるので、派閥ができたら即座に打ち解けられるように仕向けてます。みんなで仲良くしようやって。話をしようとかだと警戒されるので、混ぜてくれって潜り込みます。これを続けると、元通りのでっかいひとつのグループに戻りますね。

「女でサークルが崩壊した」。たまに聞く話だが、本当にあるのか。崩壊を乗り越えた多田くんたちは、人間的にひと回り大きくなったに違いない。

eスポーツを根付かせるために必要なもの

――面接みたいな質問を。日本にeスポーツを根付かせるには何が必要だと思いますか?

近大・多田 企業の協力です。

――どういう企業?

近大・多田 ゲーム業界の企業ですね。自分たちの話になりますけど、ゲーム業界の方にとって、自分たちがどう映っているかまったくわからなくて。GameBankさんは近大はけっこうすごいと言ってくれますけど。
 僕らの企画を宣伝したいときに、メディアの方に話を持っていくとして、「しょせんは学生」なのか「いいね、やらせてよ」となるのか、未知数なんですよね。
 いまでこそGameBankさんやロジクールさんがPCやデバイスを貸してくれてますけど、それも特殊なケース。景品としてほしいときに、どれくらい強気に話していいか、いまいち分からない。
 近大や慶應は大きなイベントを開いています。これを企業側がどう思っているかが明確に分かったら、ほかの大学も「これだけやってもらえるんだったら、おれたちでもできるんじゃね?」と思うかもしれない。そうなれば協力体制も作りやすい。関西と関東だけじゃなくて、ほかの地域も参加しやすいかなあ、と。
 だから、企業がどれだけ協力してくれるかを知りたいという気持ちがありますね。

慶應・益岡 僕はゲーマー以外の一般人への認知だと思います。

――では、それを高めるには何が必要だと思いますか?

慶應・益岡 こういうふうにメディアとお話しするのもひとつの方法ですよね。多田くんが言った企業の協力もすごく分かります。それって一般人への認知が増えれば付いてくるかなとも思います。慶早戦みたいに知名度の高い名前を活用するのもいい。うちのOB・OGへの認知を増やすことで、もっと協力したがる企業も増えると思います。ネームバリューを活かせば、いろんなメディアさんも食いついてくれます。
 過去には、タイタンズ(慶應のeスポーツサークル)が日経MJに取り上げられたこともあります。そういう露出を増やせば興味を持ってもらえる可能性が高まります。そういうところからじゃないかなと。

日大・佐藤 メディアの方々の協力が必要だと思います。テレビでもeスポーツが取り上げられることが増えていますけど、回数は多くない。まだ一般の方々への認知が足りないと思います。最近はロジクールGカップ(11月3日に開催された『LoL』大会)に日清さんがとんがらし麺を提供したという話題がありました。そういうのを増やすにはどうすればいいかを考えることが大切です。
 それと、団塊世代が引退して、これから社会で活躍するのは20~40代です。彼らが何を見ているかというと、日経とかのスマホのニュースサイトだと思います。電車で紙の新聞を読む人は減ってると感じます。だから、スマホニュースで取り上げられたらうれしいですね。

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――では、今度は視点を少しずらして、自分なら何ができると考えますか?

近大・多田 仲間を増やします。関西のみならず、全国で。口が増えれば、聞いてくれる人も増えます。仲間を増やして、自分たちはこんなに楽しんでるんだぞと言い続ければ声も大きくなって、ゲーマーじゃなくても「なるほどねー」くらいの認識くらいまではいくんじゃないですかね。

日大・佐藤 原点に戻ると、“口コミ”が必要なんだと思います。ライアットさんも最初から言ってますよね。コンシューマーでゲームしたり、スマホゲーに走ってる人も多いと思いますが、「PCだったらこういうことができるよ」と教えて、引っ張って来たいですね。

GameBank北山 多田くんは「とりあえず目立ちたい」みたいなところがあるよね。おれという人間がやったイベントにいっぱい人が来てくれた。「すげーやろ、おれは!」みたいな。その感情はいいと思う。

――僕もそう思います。丁寧にやれば、自分勝手なのは悪くない。

近大・多田 たしかに「おれを知ってくれ、うちのサークルすごいやろ」に尽きると思います。うちのイベントに来てない人を見ると、「何で来ないんだ?」と思うくらいに。

――せっかくだから、益岡くんも佐藤くんも好きなことを言っておきましょう。

慶應・益岡 自分が楽しくて、それをみんなが楽しんでくれれば、何でもいいです。きれいごとじゃなくて、自分が好きなもの(『LoL』)をみんなが好きになってくれれば。

――『LoL』以外にいいゲームが出てきたらどうします?

慶應・益岡 目はいくかもしれません。単純に、いまの時点で世界最高のゲームが『LoL』だと思ってるだけで。そうじゃなかったら6年間も続けてないでしょうから。

日大・佐藤 自分勝手なことを言うなら、『LoL』のフレンドをマックスまで増やして、サブアカも全部友だちで埋めて。『LoL』やってるやつ、全員おれの友だちになれよって思ってます。

慶應・益岡 全員友だちと言えば、少し前に韓国の学生大会に参加したんですよ。ゲーム好きな人が集まってわいわい騒いでると、言葉が通じなくても何か楽しいんですよね。それも一種のeスポーツなのかなと。

 そういう熱狂もeスポーツ。分かる。分かるぞ!

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 e-Sports×Uを運営するGameBank北山氏は、このプロジェクトが継続していくことが何よりも大切と語る。eスポーツの文化的な価値を高めるようなビジョンを掲げるのはおこがましいにしても、学生はそれに近いことができるポジションだという。

 社会人がビジネスの視点でeスポーツを流行らそうとすると、大会を開いて参加者を募ることに集約される。それも大事だが、それはごく一部のユーザーにしか目を向けていない。

 本当の意味で文化が根付くためには、ボトムアップが大切だ。全国の大学にeスポーツサークルを定着させることが第一歩。eスポーツは特別なものではなく、日常にあってほしいものだから。

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▲e-Sports×Uの活動は絶賛継続中で、2016年12月10日~11日にかけてグループワーク企画“ESP SUMMIT 2016”が実施された。