だびぽんからにげきるとおもったらオオマチガイだよ……

 現実が浸食される──こういった表現には、それまで信じていた常識が土台から揺らいでいく不安とともに、新しい常識に塗り替わっていくことに対する、一抹の期待と高揚感が含まれているように思います。本作をプレイしたときは、登場キャラクターがフルボイス、二転転していくボリューム感あるストーリー、要所やオープニング、エンディングで再生される効果的なムービーなど、「フリーのアドベンチャーゲームはだいたいこんなものだろう」という想定の枠を軽く飛び越えた内容に驚き、同時に、入れ子状の世界が徐々にその境界を曖昧にしていくスリリングな物語展開に興奮しました。シーンごとの一人称キャラクターの移り変わりが激しかったりと、決して読み進めやすいタイプの作品ではありませんが、トゥルーエンドの先に待つ“最大の謎”にたどり着いたとき、私が本作を誌面で紹介したかった本当の理由がおわかりいただけるはずです。

『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_02
▲電話やネット回線を介して人々を監視し、突如モニターに姿を現わすだびぽん。その行いは、単なる愉快犯の駒の役割を超えている。
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_08
▲現代人の必須アイテムであるデジタル機器を媒介にして、恐怖はつぎからつぎへと伝染する。
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_07
▲物語の展開と結末は選択肢のチョイスによって変化。とあるルートでは心強い味方が別ルートでは……なんてことも。
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_03
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_04
▲イベントCGの総枚数は、差分なしで36。中編同人作品では破格のボリュームだ。
▲ヒロキと、彼の幼なじみの橘三鷹は、凛太郎
が開発中のネットゲームのテストプレイに参加。

【物語】

 禎尾市の大学に通う継見ヒロキは、親友のひとりであり、禎尾市を舞台にしたネットゲーム『SADABI怪談オンライン』の開発者である茅野凛太郎の失踪を機に、不可思議な事件に巻き込まれていく。抗えない力に導かれるように、最凶心霊スポット“禎尾森放送局跡”へと足を踏み入れるヒロキ。そこで彼が出会ったのは……?

『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_05
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_06
▲ほかのテストプレイヤーから、凛太郎失踪につながる情報を聞き出そう。
▲ポイントクリック制の探索モードで、密室から脱出するためのヒントを探すシーンも。探索を邪魔するトラップも用意されている。
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_01

▼呪われし“ゆるキャラ”だびぽんとは?

15年前、開局直前で廃業となった、禎尾市のローカル放送局のマスコットキャラクター。愛らしい声と仕草で、都市伝説に関わろうとする人々を恐怖に陥れる。

■最善のルートを目指せ!

 本作は、バッドエンドをよけながらシナリオを読み進め、そのルートの最善のエンディングに到達するごとに、新たなルートが解放される構造になっている。直接的な描写こそ控えめながら、全体的に血ナマ臭いシーンが多く、えも言われぬ閉塞感を味わうことになるが、進行データのセーブ、ロードを駆使して乗り切ろう。

『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_09
『フリーホラーADV -だびぽん-』理不尽な試練と惨劇を乗り越えた末に待つのは……!?【とっておきインディーVol.102】_10
▲複数の人物の断片的な証言から“真実”を導き出す、論理パズル的なミニゲームパートが、ストーリー後半の緊迫感を高める。

アコックソフト モモサキモヤ氏に聞く

 『フリーホラーADV -だびぽん-』にて、企画・脚本を担当するアコックソフトのモモサキモヤ氏を直撃!

――本作を制作することになったきっかけは?

モモサキ 私のメインの活動は声の演技で、以前からフルボイスゲームに参加したいと思っていました。ただ、そういった作品は競争率が高く、役をいただく機会が少なかったので、「だったら自分でゲームを作ったほうが早いかもしれない」と思い、企画しました(※モモサキ氏はオカルトマニアの大学院生”遠坂すい羅”のCVを担当)。

――本作のスタッフ構成や、制作時のエピソードについて教えてください。

モモサキ メインスタッフは私を含めてふたりです。私は企画進行、脚本、ノベルパートのスクリプトを、もうひとりは絵、動画、一部BGMの作曲と、ノベルパート以外のスクリプトを担当しました。あとは仲のいい友人数人に声をかけて、制作補助をしていただきました。私以外のほとんどのCVはネット上で募集し、名乗りを上げてくださった方の中からお願いしました。制作期間は1年と3ヵ月くらいです。期間中は、モチベーション維持のために定期的に進捗や動画をネット上にアップしたり、体験版ROMやサントラ&キャラクターブックを同人イベントで頒布したりしていました。 イベント前の3日間、身近なスタッフといっしょにネットカフェに籠もって、体験版のテストプレイやCD-ROM焼きを手伝ってもらったのが、いちばんの思い出です(笑) 。

――開発環境に『ティラノビルダー』(※個人開発のノベルゲーム制作ツール。公式サイトで配布されている無料版と、Steamで販売されている有料版あり)を選んだ理由は?

モモサキ 製作陣のメインの作業用PCがMacだったので、単純に、それに対応しているツールを選んだのですが、操作が簡単なわりに自由度が高く、初心者から上級者までおすすめできる、よいツールだと思います。今年6月にアップデートがあったおかげで、本作にもいろいろ便利な機能を搭載することができました。 『ティラノビルダー』の開発が進んで、今後どのような進化をするのか、個人的にも楽しみにしています。

――本作のコンセプトは?
モモサキ “狂気をはらんだかわいいキャラクター”を前面に出し、プレイヤーに複雑な気分で恐怖に陥ってもらいたい……というのが、最初のコンセプトだったかと思います。ネットで音源をやり取りする声の役者さんは各自の環境で収録しているため、音質のバラつきがどうしても出てしまいます。そこで、音質を違和感なく合わせられるキャラクターを多く出せるシチューションとして、ネットの通話ソフトを用いた場面をまず想定しました。その延長線上から“ラジオ局のマスコットキャラクター(だびぽん)”が生まれ、細かい設定を肉づけしていきました。

――多くのスタッフが参加する凝った作りの作品にもかかわらず、フリーゲームとしてリリースできた理由を教えてください。

モモサキ “自分の演技を聴いてほしい”が目的だったので、当初よりフリー公開前提で進めていました。セリフ数の多いキャストの方には薄謝をお渡ししましたが、予定通りフリーで公開できたのは、もともと友人の中核スタッフの皆さんが、「協力してもらったぶんの対価は何かしらでお返ししたい」という私の気持ちを理解した上で付き合ってくださったことに尽きます。何かあったときに相談できる仲のよい方々がスタッフにいたことが、完成するまで続けられた大きな要因のひとつだと思います。


フリーホラーADV -だびぽん-
メーカー アコックソフト
対応機種 PCWindows
発売日 2016年10月31日配信
価格 無料
ジャンル アドベンチャー
備考 PC用フリーゲームダウンロードサイト“ふりーむ”にて配信中。ダウンロード容量は約480MB。