ゲームエンジンの名前はゲーム開発の“哲学”を示すものでもある

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントアメリカが2016年12月3日、4日(現地時間)の2日間、アメリカ・アナハイムにて開催するコミュニティ・イベント“PlayStation Experience 2016”。開催初日に行われた、『DEATH STRANDING』のパネルディスカッションをリポート。

 まず、モデレーターとして登壇したのは、先日The Game Awardsでホストを務めたジェフ・キーリー氏(以下、ジェフ)。彼の呼び込みで小島秀夫監督が登場。挨拶の後、コジマプロダクションの最新作である『DEATH STRANDING』のトレーラーが上映された。

小島監督も登壇した『DEATH STRANDING』パネルリポート 「トレーラーについて討論したり想像するのもゲームの一部」【PSX 2016】_01

 なんとこのトレーラー、The Game Awardsでお披露目されたものとは別のバージョン。映像は同じなのだが、BGMがロウ・ロア(Low Roar)の『EASY WAY OUT』となっている。小島監督は、「歌詞を考えながら観ると、かなり印象が違う」とコメントしていた。

 ディスカッションは、基本的にモデレーターのジェフが小島監督に質問を投げかけ、それに答えるという形式。最初の質問は、トレーラーの『EASY WAY OUT』を歌うロウ・ロアを知ることになったきっかけについて。「ロウ・ロアはアイスランドのアーティストで、2年前にアイスランドに行った時にたまたまCDショップでかかっていた」と小島監督。すぐに気に入り、E3 2016で公開したトレーラーでは『I'll keep coming』を使用している。

 続いては『DEATH STRANDING』のキャスティングについて。最新のトレーラーを観ての通り、『DEATH STRANDING』には俳優のマッツ・ミケルセン氏(以下、マッツ)、映画監督のギレルモ・デル・トロ(以下、デル・トロ監督)が登場する。小島監督はもともとマッツの大ファンで、どうしても会いたくなり、友人の映画監督ニコラス・W・レフン監督に紹介してもらったのだそうだ。一方のデル・トロ監督とは昔から仲がよく、『DEATH STRANDING』の主役を務めるノーマン・リーダス(以下、ノーマン)氏もデル・トロ監督を通じて知り合ったのだという。

 今回の『DEATH STRANDING』でノーマンを起用することが決まった際、デル・トロ監督がどこか寂しげな表情をしたそうで、それを見逃さなかった小島監督。「いっしょに脚本は書くのは難しいが、出演するのはどうですか?」と尋ねたところ、オーケーが出たそうだ。

小島監督も登壇した『DEATH STRANDING』パネルリポート 「トレーラーについて討論したり想像するのもゲームの一部」【PSX 2016】_03

 ジェフから、デル・トロ監督は実際に演技をしているのか聞かれると、デル・トロ監督は3Dスキャンで体格や表情、衣装などをキャプチャーしているが、セリフやアクションを演じているのは別の人と回答。「僕がデル・トロ監督を独占してしまうと彼の新作が遅れてしまうので、映画に専念してもらうということで」と付け加えた。

 ノーマンやマッツについては3Dスキャンはもちろん、セリフ、アクション(パフォーマンスキャプチャー)も含めてすべて本人によるもので、「本物のノーマンとマッツ」と小島監督。ノーマンとマッツの関係性については、「詳しくは言えない」としながらも、ノーマンはいろいろな運命を背負っている主人公、マッツはライバル、敵という大きな位置付けになるとコメント。このふたりがいればもう十分と思うこともあったそうだが、女性も(いっぱい?)登場するという。

 E3トレーラーと今回のトレーラーの関係性については、「いろいろなところにヒントを隠している。ゲームの完成までまだ時間があるので、それまで討論したり、想像して楽しんでほしい。それもひとつの“ゲーム”だと思っている」と語った。

 ここで、話題はゲームエンジンへ。今回公開されたトレーラーのクレジットに“DECIMA(デシマ)”というロゴがあったのに気づいた人はいるだろうか。今回のトレーラーは、プレイステーション4 Proによるリアルタイム4K映像なのだが、それを可能にしているのがこの“DECIMA”エンジンだ。

小島監督も登壇した『DEATH STRANDING』パネルリポート 「トレーラーについて討論したり想像するのもゲームの一部」【PSX 2016】_02

 東京ゲームショウ 2016では「某有名スタジオのエンジンをブラッシュアップして使っている」と明言は避けていたが、このDECIMAエンジンは、『KILLZONE』や『Horizon Zero Dawn』を手掛けるGuerrilla Gamesによるものと今回初めて明かされた。これを受け、パネルのステージにはGuerrilla Gamesのヘルマン・フルスト氏(以下、ヘルマン)、エンジン選定のサポートを行ったプレイステーション4のリードシステムアーキテクトのマーク・サーニー氏(以下、マーク)が登壇。

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▲左からジェフ、小島監督、ヘルマン、マーク。

 まずはヘルマンから、DECIMAエンジンはGuerrilla Gamesで以前から使っているエンジンを進化させたものと説明。過去2年ほど、このプロジェクトのために準備してきたそうだ。小島監督は、パートナーを選ぶ際の絶対条件として、「テクノロジーと人」と語った。いずれか片方だけではダメで、その両方合致しないといいものは作り出せないという。その点で言えば、Guerrilla Gamesは会った瞬間に「ここだ!」という感覚があったようだ。もうひとつ、決め手となった出来事がある。それは、最初にGuerrilla Gamesを訪問した際、挨拶の後に小さな木箱を手渡されたそうなのだが、その中に入っていたのは、ゲームエンジンのソースコード。Guerrilla Gamesの蓄積、財産とも言うべきものを、守秘義務も何も交わすことなく「使ってください」と差し出され、小島監督は胸が熱くなったという。

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 続いては、“DECIMA”というネーミングについて。ヘルマンは、ゲームエンジンのネーミングは単にテクノロジーだけでなく、ゲーム開発の哲学を示すものであり、とても重要と語った。DECIMAは、ギリシャ語で“子どもの誕生”を意味し、クリエイティビティとつながりを感じさせる言葉だ。じつは、DECIMAはもうひとつ別の意味があり、そちらについては小島監督から解説があった。

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 それは出島(でじま)だ。
(※海外の古い文書には、出島をDecimaと表記しているものがある)

 江戸時代、日本が鎖国を行って海外との貿易を禁止したため、長崎に出島と呼ばれる人工島を作り、そこで限定的に貿易を行うことにした。1636年から1639年まではポルトガルとの貿易、1641年から1859年までオランダと貿易を行っていた。この約200年間のオランダとの貿易はいまの日本に大きな影響を与えており、Guerrilla Gamesのエンジンを出島とたとえるのは、非常にいいアイデアだと思ったそうだ。
(※Guerrilla Gamesはオランダにある)

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 DECIMAエンジンは、『DEATH STRANDING』の開発のためにコジマプロダクションとGuerrilla Gamesが共同でブラッシュアップを続けているのだが、小島監督がとくにこだわっているのが物理ベースのライティング。実際に使っているミーティングルームをデジタルで再現し、そこでリフレクションやライティングの不備を発見、調整しているという。

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▲これが“ガラス部屋”と呼ばれているミーティングルームのモデル。ここで物理ベースのライティングが正しいかどうか確認する。
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 なかなか興味深いDECIMAエンジン。今後、テクノロジーまわりを強化するために、Guerrilla Gamesの中にコジマプロダクションのサテライト・スタジオを作る予定とのこと。まさに出島だ。小島監督は“ゲーム作りは宇宙に行くようなもの”とたとえ、「僕たちは月や火星のつもりだったが、Guerrilla Gamesといっしょに土星を目指している」と語った。そこからさらに、深宇宙、外宇宙を目指すべく準備を進めているという。つぎの発表でも、小島監督はきっと驚かせてくれるに違いない。

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おまけ

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▲パネルディスカッションの後、サイン会を実施。国内でも小島監督と交流できる機会はそうそうないので、うらやましい限り!