テックメディア“VentureBeat”のリード・ジャーナリストが基調講演

 2016年11月29日、東京・在日カナダ大使館にて、“日本・カナダ ゲームサミット”が開催された。このゲームサミットは、日本とカナダのゲーム関連企業が有益なパートナーシップを構築することを目的に、2013年度から在日カナダ大使館が実施している事業で、今回で4回目を迎えている。今年は、カナダにゲームスタジオを構える日本のゲームメーカーの代表たちが集い、さまざまな講演が行われた。その模様をリポートしよう。

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▲普段はなかなか入る機会のない、在日カナダ大使館内でサミットを実施。

 まずはサミットの開会にあたり、在日カナダ大使館の首席公使 マルシアル・パジェ氏による挨拶が行われた。バジェ氏は、「今日は年に一度の日本・カナダゲームサミットです。カナダのデジタルメディア協会に対するご関心、そしてカナダへの協力に対して、感謝を申し上げます」と、本サミットのために集まった参加者と来場者たちに感謝の意を述べ、「クリエイティブなプロジェクトと革新的な技術が、我々ゲーム業界の成長には必須です。カナダは、強力な政策としてオープン・イノベーションを掲げており、クリエイティブ企業に対して研究開発のサポートを行っております。今後もカナダでのビジネスや研究開発が、世界の中で重要なイノベーションを果たしていくことになるでしょう。在日カナダ大使館としては、今後も引き続きカナダと日本の両国において、デジタルメディアセクターの発展を支持していくことをお約束します」と語り、両国の強いパートナーシップと、今後の展望について語っていた。

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▲在日カナダ大使館 首席公使 マルシアル・パジェ氏

 続けて、今年度にカナダのモントリオールに新しくスタジオをオープンしたサイバーコネクトツーの松山洋氏に、在日カナダ大使館から恒例のプレゼント授与が行われることに。ここでステージ上に松山氏が登壇。バジェ氏の手より、“Bienvenue au Canada”(カナダへようこそ)と書かれたTシャツが手渡された。

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▲突然のプレゼントに、松山氏も満面の笑みを浮かべながらTシャツを受け取っていた。

 次に、米テックメディア“VentureBeat”でリード・ジャーナリストを務め、海外でのゲーム業界の動向にも造詣の深いディーン・タカハシ氏が登壇。基調講演“The gaming world is flat”が行われた。

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▲海外メディアでジャーナリスト活動をしているディーン・タカハシ氏。自身はカリフォルニア在住の日系アメリカ人三世とのこと。

 ディーン氏は、VentureBeatでゲームビジネス、技術を主に紹介する“GamesBeat”を担当しており、さまざまなチャンネルで情報を発信しているジャーナリストのひとり。いまでは世界中を飛び回り、各地でゲームに関する講演や活動をしているディーン氏だが、15年ほど前はどこへも行くことなく、PCに向かってコンソールゲーム業界の記事を書いていたとのこと。その後、ゲーム業界や世の中が大きく変化する中で外に出て活動するようになったが、今回日本には24年ぶりにやってきたと語っていた。そんなディーン氏が基調講演のテーマとして掲げるのは、フラット化するゲームの世界について。この“フラット化する世界”とは、作家のトーマス・フリードマンがグローバル化の動向を分析した書籍のタイトル。この本によると、21世紀初頭にはインターネットの発展によって世界中のどこでも作業(ビジネス)が可能となり、そのことにより世界の経済は一体化。世界中が同等の条件で競争を行う時代がやってくるといった現代のグローバル化の動向が予見されており、発刊された当時はニューヨークタイムズのベストセラーにもなっていた。
 これと同じようなことが、いまのゲーム業界にも当てはまるとディーン氏は指摘。昨今のゲームはエンターテインメント性が高く、映画と同等かそれ以上の素晴らしい体験をもたらせてくれるようになったが、インターネットの普及とグローバル化によって、いまでは世界のどこでもゲームを作ることができ、そのことによって競合相手も世界に広がっているなど、ゲーム産業が拡大しながらフラット化している現状を、“フラット化する世界”に準えて説明。
 ディーン氏は、シベリアに住んでいたふたりの兄弟の話を例として取り上げていた。この兄弟は、シベリアのヤクーツクという非常に寒い地方に住んでいたため、室内でできるビジネスとしてゲーム開発に着手。15本のゲームを手掛け、自分たちでパブリッシングを行ったところ、3000万ダウンロードを達成したとのこと。このように、ゲーム業界もフラット化したことによって、世界中のどこであっても、ゲームビジネスに参加することができると語っていた。

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▲ゲーム製作で成功を手に入れた兄弟は、いまは暖かいところに移り住んでいるのではないかと、ディーン氏は語っていた。

 ただし、インドのような新興国ではまだゲーム産業が発展しきっていないが、これについては、ゲームの歴史が関係しているとディーン氏は語る。日本には非常に豊かなゲーム文化があり、アメリカでもシリコンバレーなどがあり、そこから生まれたATARIの文化などが存在している。また、北欧にもハッカークラブのようなものが古くから存在し、それらがやがてゲームを作り始めるなど、元々の歴史があり、それがいまの発展と成功に繋がっているとのこと。反対に新興国では、人々がゲームを楽しむということが根付いておらず、そのために産業としての発展が遅れていると指摘。
 中国もコンソールゲーム機の歴史は浅く、同じような状況のように見えるが、こちらは現在VR(バーチャルリアリティー:仮想現実)のエンターテインメントを強く推しており、3億人からなる巨大なマーケットなどもあり、政府の支援もあって急激に大きな市場になりつつあると、ディーン氏は急速な成長ぶりをあげていた。

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▲中国のゲーム関連市場は、VRやモバイル、PC分野で急激に力を付けてきているとディーン氏は語っていた。
▲こちらはサンプルとして公開した、世界のゲーム開発企業などが拠点を置いて活動しているであろう場所を示した地図。ただ、こちらは主要な企業などを元にしたものとなっており、シベリアの兄弟のようにフラット化の環境でゲーム作りをしているグループや団体を入れたら、もっと違うものになるだろうとディーン氏。

 ゲーム業界はフラット化しているため、比較的容易に参入できるようになっているが、次に考えるべきはグローバル化であるとの考えを展開。さらなる発展を目指すためには、幅広い才能や優秀な人材を揃える必要があり、また世界各地の文化的な知識も必要になってくる。そうすることで、多様化が生まれ、世界中のどの地域でも強みを発揮できる企業になることができるとのこと。また、そのためには政府からの補助も必要になってくる。こういった取り組みが、ゲーム産業をこれからも発展させていくためのポイントであるとまとめ、基調講演は終了した。

ゲーム産業におけるカナダの取り組み

 基調講演に続いては、カナダ大使館商務部二等書記官のアキコ オノヅカ氏によるカナダのゲーム産業への取り組みに関するプレゼンが行われた。カナダでは、産業、官僚、学校の、いわゆる産官学がコラボレーションした取り組みによって、優秀な人材育成、快適な事業環境などが行われている。カナダ政府も、税制面や支給金といったサポートを行うだけでなく、いい人材を作るにはどんなプログラムが必要なのか、優れたゲーム企業になるためには、どんなエンジニアリングが必要なのかなど、学校や企業といっしょになって取り組んでいる。世界中で、ゲーム事業をするのにカナダは非常にいい環境と認められているのは、こうした実績があってこそと、オノヅカ氏は語っていた。

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▲カナダに存在するゲーム産業のハブは、西側のバンクーバーと、東側のモントリオール、トロントの3ヵ所がメインになっているとのこと。
▲カナダで取り組んでいる産官学を表すスライド。それぞれが密接に連携することで、大きなイノベーションが生み出されることに。

カナダにスタジオを構えるゲーム会社の代表によるディスカッション

 サミットの最後は、カナダに開発スタジオを構える日本のゲーム会社の代表者らが集い、それぞれの海外での取り組みやグローバル化についての考えなどが語られた。参加者はセガゲームス・常務取締役 コンシューマ・オンラインカンパニーCOO 松原健二氏、バンダイナムコスタジオ・代表取締役社長 中谷始氏、サイバーコネクトツー・代表取締役 松山洋氏の3名。進行は基調講演を行ったディーン氏が担当した。

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 まずはサイバーコネクトツーの松山氏による、会社説明が行われた。サイバーコネクトツーは1996年に福岡で誕生した会社で、そのときの社員はわずか10名足らず。2016年、設立20周年を迎えたいまでは、福岡本社に約200名、東京スタジオに約30名の開発スタッフを揃え、つい先日に3つめの拠点となるモントリオールスタジオをオープンさせるなど、年を追う毎に事業を拡大。
 モントリオールスタジオは、50人規模のスタジオにする予定で、1年で20〜30人、2年で40〜50人ほどの人材を現地で採用していく計画とのこと。独自の開発ラインを走らせるのではなく、日本のスタジオと連携して、同じプロジェクトに取り組んでいくと、松山氏は語っていた。

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▲サイバーコネクトツー 松山氏(写真中央)

 次は、中谷氏によるバンダイナムコスタジオの紹介。バンダイナムコスタジオは、2005年にバンダイとナムコが統合してできたバンダイナムコグループにおいて、現バンダイナムコエンターテインメントを主管会社とする、ネットワークエンターテインメントSBU(strategic business unit)に属しており、コンシューマー向けソフト、業務用筐体、モバイル製品などを手掛けている部隊。
 グローバル展開については、グループミッションである“夢・遊び・感動”を届けるには、その地域のユーザーや文化を理解したコンテンツを制作する必要があり、そのために現地の人といっしょに開発できる場所を用意。バンクーバースタジオは、ワールドワイドに通用するモバイルアプリを作るために、2013年に設立。同年末から本稼働を開始し、今後、更に戦力を増強して戦略タイトルを送り出していきたいとのこと。

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▲バンダイナムコスタジオ 中谷氏

 最後は、セガゲームスの松原氏によって、同社の海外スタジオの取り組みについてが語られた。セガゲームスは、国内のコンシューマ・オンライン事業の従業員数が約890名。セガ・ヨーロッパには約160名が、セガ・アメリカには約40名が在籍しているが、それぞれのグループ化にあるスタジオの人数をあわせると、総勢1110名と、日本よりも欧米のほうが人材が多いとのこと。実際、売上と利益の半分は欧米からのものであるため、事業全体をグローバルに展開している。
 海外スタジオに対しては、ゼロから起ち上げるのではなく、しっかりとしたIPを持っているスタジオを買収する形で、グループ傘下に取り組む方法が採用されている。現地の自主性を尊重する一方、スケジュールや予算管理などのマネージメントをしっかりとセガゲームスがコントロールすることで、うまくバランスの取れたゲーム作りができていると、松原氏。カナダは非常に魅力的な市場であり、さまざまな開発拠点や優秀な人材が揃っている地域と、その特徴を挙げていた。

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▲セガゲームス 松原氏

 各社のグローバルな取り組みについての説明が終わったところで、海外スタジオやマーケットに対して、どのような考えを持っているのか? ディーン氏から各社の代表に対して質問が投げかけられた。
 松山氏は、日本のゲーム業界が盛り下がってきている理由として、強い意志もなく参入してきた人たちが撤退しているせいでそう見える部分もあるのではないかと持論を展開。いまは本物の作り手だけが残っている状態に近く、言わば下げ止まりの状態になってきたのではと語っていた。おもしろい作品を作りさえすれば、世界にも通用するという実績を持つ松山氏は、「ゲームの世界に国境はないのかなと思っています」と、自身の考えを明かしていた。
 日本と海外のマーケットはそれぞれ異なっているためお互いが干渉せず、それぞれの国の人たちががんばったほうがいいのではないかという考えを示したのは、中谷氏。新しい取り組みは率先して行っていくが、各テリトリーでの活動については、それぞれでおもしろいと考えるものを作っていく方針のため、日本サイドで海外スタジオをコントロールすることはないとのこと。
 自身がマネージメントする立場の人間のため、無理に市場に迎合するのではなく、自分たちが培ってきた経験と知識を活かしたモノ作りをしてほしいとは松原氏の弁。また、日本の企業が無理矢理海外にターゲットをあわせてもうまくいかなかった過去を例にあげ、反対に日本でいい作品を作れば、海外でも楽しんでくれる方は確実にいる。それをキャッチアップするのが、ゲーム製作の基本姿勢だと語っていた。

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 最後に、ディーン氏よりカナダにあるスタジオと、日本側との連携はどうしていくのかについての質問が行われた。
 自社がパブリッシャーではなくデベロッパーであるサイバーコネクトツーは、モノを作ることがメインであるため、何をすべきかは松山氏がはっきりと指示を与えるとのこと。文化は違えど、すべての判断は松山氏によってくだされるスタイルになる。ただし、現地の意見を聞かないというわけではなく、話し合いはつねに行い、改善できるところはしっかりと改善し、よりよい方向に持っていくことをスタンスにしていくとのこと。
 中谷氏は、日本側から細かな指示を出すことはないが、お互いの意志の疎通だけはしっかりと行っていきたいとの考えを展開。国や文化は違っても、話が合う人間はどこにでもいるので、きちんと話をして、お互いをわかり合うことが大切とのこと。反対に、話がいまいち噛み合わないと、何をやっているのかわからない事態にもなってしまうため、その部分だけはしっかりと守っていきたいと語っていた。
 セガゲームスも、すでにできあがっているスタジオを買収するスタイルのため、現地の自主性やクリエイティブを尊重しながら力を発揮させていくと松原氏。ただし、しっかりと力を発揮させるために顔を合わせて話をすることは重要で、自身も年に数度バンクーバーに赴くほか、ロンドンで行われるトップレベルの参加者による会合や、E3(Electronic Entertainment Expo:エレクトロニック エンターテイメント エキスポ)など、できるだけ直接会い、腹を割って話をできるコミュニケーション作りが重要だと、中谷氏の意見と同じ考えを示したところで、“第四回 日本・カナダ ゲームサミット”は終了となった。

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