2K期待のオープンワールドクライムアクション『マフィア III』。本シリーズは、初代『Mafia: The City of Lost Heaven』では1930年代、『Mafia II』では1940-50年代のアメリカを舞台にマフィアの成り上がる様を描く、シリアスなトーンのゲームであることが挙げられる。どちらもテイクツー・インタラクティブ傘下のタイトルなのだが、『マフィア』シリーズの渋さを好む人も多い。
 なお前作は、2K Czech(前Illusion Softworks)が開発を担当していたが、『マフィア III』はカリフォルニア州マリン郡ノバト(サンフランシスコの北にある)の2K Games本部に昨年新設されたスタジオHangar 13が担当。これまでの、イタリアンマフィアの成り上がりを描く過去のシリーズ作品から一転し、公民権運動といった人種差別問題が溢れ、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの弟である“ロバート・ケネディ暗殺事件”など、混乱・分裂・変革を迎える1968年のアメリカ南部の都市“ニューボルドー”を舞台とし、ベトナム帰還兵である主人公リンカーン・クレイの復讐を描いているのだ。新たなテーマを掲げたことに加えて、新スタジオHangar 13の初作になる『マフィア III』の仕上がりが気になる人も多いだろう。

 ファミ通.comではこれまで幾度も本作の紹介記事を掲載しているので周知のことだとは思うが、本作はストーリーに注力している。極力ネタバレはしない方向でこのゲームの魅力を紹介していきたいと思うので、ぜひ購入の参考にしていただけたら幸いだ。

ストーリーについて

 本作は、1968年のアメリカ架空の都市、ニューボルドーを舞台にした、オープンワールドのクライムアクション。主人公のリンカーン・クレイは、黒人の混血児。孤児として生まれた背景から“家族(ファミリー)”に憧れを持つリンカーンは、のちに黒人組織に入り、組織のボス・サミーや弟分のエリスが、かけがえのない家族同然の存在だった。

 そして幾年かたち、ベトナム戦争従軍後、悪事から手を洗うべく、カリフォルニアで人生のやり直しを模索していたリンカーン。しかし、戦争から戻ってきたリンカーンを待ちうけているのは、ニューボルドーを牛耳るマルカーノファミリーとの軋轢を抱えたサミーたちだった。
 「家族が困っているのに、見捨ててサンフランシスコには行けない」と思うリンカーンは、この問題を解決すべくサル・マルカーノから課せられた危険な銀行強盗任務に向かうことに。しかしこれがきっかけでサル・マルカーノの裏切りに遭い、サミーとエリスらが無残な死を遂げることになる。義理堅く優しさを持つ男が、やっと手に入れることができた“家族(ファミリー)”を殺されたことがきっかけで、復讐の鬼となる……というのが、『マフィア III』の大きなストーリーラインだ。

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派手な銃撃戦でもステルスでもよし! 部下の助けを借りて敵を消していく

 本作の基本的な操作は、銃を武器に三人称視点で敵と撃ち合いをくり広げる、いわゆるTPS(サードパーソンシューティング)。デスクや壁、カウンターなどの物陰に移動して隠れながら、敵の攻撃を防ぎつつ隙を狙ってこちらの銃撃を当てに行く、カバーシューターが主体となる。これだけを聞くと、新鮮さがないと思われるかもしれないが、そういう訳でもない。
 オープンワールドとなるマップでは、敵アジトへの侵入経路はさまざまで、どのドアからはいってもいい。真正面から正々堂々銃を構えて突入する、いわゆる“ランボープレイ”もできるし、裏口から敵の目をかいくぐって侵入し、後ろからナイフで邪魔者を暗殺する“ステルスプレイ”も可能だ。

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▲十字キー←を押すと口笛を鳴らすことができ、音に反応して接近してきた敵を○ボタンでナイフキルすることができる。比較的簡単かつ安全な攻略方法だろう。またオプションでは、敵を殺さないノーキル設定も可能だ。

 もちろん、ステルスプレイ中にドジを踏んで敵に目撃され、しまいには増援を呼ばれることもある。ひとりで多勢を迎え撃つのには少々苦しい展開だが、ここで、本作の特徴となる部下からの“サービス”を使うことで、窮地を脱することができる。やりかたはボタンひとつで、無線から応援を要請すると配下のギャング3人が血気盛んに乗り込んで制圧してくれるというものだ。
 さらに、通常のゲームプレイでにおいても、さまざまな手助けをしてくれる3人の腹心の部下。部下のひとり・アイリッシュ系ギャングのリーダー バークは、ひろいオープンワールドの移動に欠かせないクルマを手配してくれたり、警察に賄賂を渡すことで犯罪を犯しても見逃してくれる。カサンドラは、ガンディーラーを派遣し、さまざまな武器を購入できる。ヴィトは、強襲部隊そして闇医者を紹介してくれてライフバーを増加させられる。バークに関しては、配車と警察がリンカーンの犯罪を無視するようになるサービスを提供してくれるのだ。
 そして、3人の腹心の部下とは別に、参謀役・情報収集役としてジョン・ドノヴァンが登場する。ブラックジョークを発言したり捉えどころのない言動を行う反面、頭の切れるキャラクターでもある。彼もまた本作には欠かせない、重要人物だ。

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▲ヴィト・スカレッタ
エンパイアベイから来たイタリアンマフィアであるが、サル・マルカーノとの軋轢から、命を狙われる。
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▲カサンドラ
ハイチ系ギャングのリーダー。シリーズ初の女性犯罪者で、自身の“ブードゥーの女王”と名乗る。
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▲トーマス・バーク
アイリッシュギャングのリーダー。サル・マルカーノに強い恨みを持っている。
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▲ジョン・ドノヴァン
リンカーンとベトナム戦争で戦場をともにした、元CIA工作員。リンカーンの相棒的ポジションで、参謀役として敵の情報などを提供してくれる。

 腹心の3人の部下、ジョン・ドノヴァンとリンカーンの出会いは、本作のプロローグで語られる。彼らがどういった理由からリンカーンに協力するのかは、ネタバレになるので語らないが、人種も組織も違う、普通であれば敵対関係にある3人が、黒人のリンカーンに統御されるという点は、面白いだろう。

 そして、リンカーンはタフで軍隊の特殊部隊上がりだが、こういったシステムから「ひとりで巨大なマフィア組織に立ち向かうなんて、無理だよなぁ……」なんて現実を見せられる。ただ敵を殺すのではなく、同じ復讐心を持つ部下の協力を得て、マルカーノファミリーのビジネスを壊し我が物にしていくという流れは、相手を苦しめるのにとても有効で、かつ説得力のあるものに感じられるのだ。

マフィアから地区を奪い、部下の誰かに報酬として渡す。 この選択がストーリーに変化生む

 復讐をテーマにした本作のストーリーは、正直かなり重く、腹心それぞれの心理状況やさまざまな権謀術数が渦巻くストーリーは圧巻である。
 加えて、1968年当時実際に流行していた楽曲が収録されており、クルマのラジオやお店のBGMなので流れ、気分を盛り上げてくれる(ちなみに筆者のお気に入りは、The Animalsの『House of the Rising Sun』です)。ちなみに、重要なカットシーンでもそのシーンにあった楽曲が流れ、その演出はまるで映画かドラマのようだ。難しいミッションをクリアーして、敵の幹部を追い詰めた後、そのご褒美として見せてもらえるような、ハイクオリティなカットシーンが、プレイするための動機付けをしてくれるようにも思えた。

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 リアリティあるキャラクターたちが織り成すドラマは、フィルム・ノワール を彷彿とさせてくれ非常にドキドキさせられるが、それだけで終わらせないのも本作の特徴。
 リンカーンがマルカーノファミリーのビジネスを潰し、果ては彼らが取り仕切っていた地区を手に入れることができるが、その際、腹心の部下の誰かに報酬として地区の支配権を与えることになる、“シットダウン”という選択によって、ストーリーが変化するようになっている。
 ニューボルドーにある10の地区を、3人それぞれ均等に分け与えることもできるが、だれかをひいきにして優先的に地区を与えることもできる。そのさじ加減によっては、部下が不満を爆発させ裏切り、リンカーンと敵対することに。シットダウンの選択によってストーリーにも変化が生まれ、エンディングに関しても裏切らずに残っている部下によってさまざまなパターンが用意されていた。
 また、地区を与えると、報酬をもらった部下からサービスのアップグレードが提供されるようになっており、最高レベルまでアップグレードするには、優先して与え続けないといけないようになっている。アップグレードされるごとにサービスもかなり強力なものになるので、平等に分け与えてそこそこ便利なサービスでゲームをこなしていくか、多少の犠牲を払ってでも強力な能力を手にしてゲームを進めていくかは、プレイヤー次第となるのだ。

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▲腹心の部下たちは、リンカーンにそれぞれ協力しているだけで、互いにいがみ合っている。彼らはそれぞれ支配地区を欲しており、リンカーンにどれだけ対価に見合った働きをしているかアピールしてくる。

 ちなみに筆者は初プレイ時、3人に均等に地区を与えてみた。これでどういったエンディングになるのかワクワクしていると、最後にさらに究極の決断を課せられ、最後はまさかの人物によって……という、一旦終結したかに見えたストーリーを大きく覆す、いい意味で予想を大きく裏切られたエンディングだった。

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 最後に、少し気になったところを上げると、シットダウンが中盤以降に発生することだ。これはストーリーの展開上しかたがないかもしれないが、もっと早くリンカーンと腹心の部下たちが一堂に会するシーンや、彼らが自分をアピールしたり、いがみ合っているシーンをたくさん見たかったと思う。それによって誰に報いていくかも少しは、考えに変化が生まれたかもしれない。個人的見解かもしれないが、普通にプレイしていて、部下の誰かに対して「この人をひいきしていこう!」なんて気持ちにはなれなかった。

 また、ゲーム部分を“復讐”にフォーカスしているからか、少々“ニューボルドー”を活かしたアクティビティに欠けているように思える。先日発表されたDLCにてカーレースや衣装の追加、クルマのカスタマイズが発表されたので、次はヴィトを操作できたりといった新たな追加DLCに期待したいところ。
 とにかく、ストーリーの素晴らしさはピカイチなので、復讐という重いテーマを題材とした渋い物語を楽しみたい人は、手にとって損はないだろう。