スペシャルモードを搭載した『3D パワードリフト』が本日配信開始 “シングルカット”の真相とこだわりを奥成氏と堀井氏に訊く

『3D パワードリフト』が本日配信開始! なぜこのタイミングで配信されたのか、その経緯をセガゲームスの奥成洋輔氏とエムツーの堀井直樹氏に聞く。

●奥成氏と堀井氏に緊急インタビューを敢行

 既報にあるように、本日(2016年11月2日)、“セガ 3D復刻プロジェクト”の『3D パワードリフト』がダウンロード販売される。これまでファミ通ドットコムでもめいっぱい“セガ 3D復刻プロジェクト”を紹介してきたが、熱心なセガファン、レトロゲームファンの中には、「あれ、でも“セガ3D 復刻プロジェクト”って終わったんじゃ……?」と思われた方もいるのではないだろうか。そこで今回は、そんな経緯を含めてシリーズプロデューサーの奥成洋輔氏とエムツー代表の堀井直樹氏に緊急インタビューを敢行。なぜ『セガ 3D復刻アーカイブス 2』からパワードリフトがシングルカットされたのかを、ざっくばらんに語っていただいた。

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――さっそくですが、もともとは『セガ 3D復刻アーカイブス2』の新規タイトルであった『パワードリフト』が、“セガ 3D復刻プロジェクト”のタイトルとして単体販売されることなった経緯をお聞かせください。

奥成 東京ゲームショウ時のインタビューでも少しお話ししましたが、『セガ 3D復刻アーカイブス』は“セガ 3D復刻プロジェクトで発売したタイトルのアーカイブ+新規タイトル”というコンセプトのもと、1作品ごとに実績を積み上げてきました。昨年発売した『2』が販売目標を達成し、『3』の開発に着手していたのですが、下村が「ひとりでも多くのユーザーに我々の作品に触れてもらい、ファンになってもらう方法はないだろうか?」として企画したのが、『2』で制作したタイトルの単体リリースだったんです。

――もとから単体で出そうという予定ありきではなかったんですね。

奥成 そうです。あくまで『2』を作るまでがひとつのプロジェクトでした。それが『セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE』として継続できるとなった際に、いっしょに計画に加えることができたんです。

――そこまで大きなバジェットにならないと踏んだわけですね。

奥成 営業からのウィッシュ(要望)もあって、社内的に通すことができたという感じですね。これも以前のインタビューでお話ししていますが、“セガ 3D復刻プロジェクト”としては、ダウンロード販売の全16本で終了していて、その後に配信版の開発は実現できませんでした。でも、すでにある新規タイトルからのシングルカットであれば予算的に承認してもらえるというわけです。

――と、ここまではセガ社内での事情です。「シングルカットしますよ」というのを聞いて、エムツーさん的にはどんな反応だったのでしょう?

堀井 社内はわりと騒然としました。なにしろもともと予定になかった仕事ですからね(笑)。僕らとしては、移植と立体視化で一度は『パワードリフト』を作り切ったわけですよ。当然関わっていたスタッフも、つぎの仕事にあたっている。それで新たに『3Dパワードリフト』を……となると、これはかなりの難題でした。

――単純に開発リソースが足りない、と。

堀井 そうです。単純にシングルカットするだけといっても、メニュー画面で表示される筐体の3Dモデルや、クレジット画面を作らないといけない。それに、ここまでの流れで言えば、スペシャルモード的なモノもつけなければいけない。「できるのかなー」(困った表情で)というのが、最初の気持ちでした。

奥成 セガのウィッシュとしては、『セガ3D復刻アーカイブス 2』に収録したものをただシングルカットしてほしいというものでした。ただ、エムツーさん的には過去に単体でダウンロード発売したものと同じような形にしないと……。

堀井 そうじゃないとお客さんに受け容れないと思ったんです。

奥成 じつは僕は今回『3D パワードリフト』についてはほとんどノータッチなんですよ。下村と堀井さんのあいだで決まっていて、「出すことになりました、スペシャルモードが付きます」というのを、あとから聞いたんです。

――なんと!

奥成 僕が直接担当をしたタイトルは追加要素、個人的な名前で呼ぶと“グラントノフ”(※)ありきで進めてきました。ですが、『2』以降の、パッケージ版に新規タイトルを作るというのはものすごい労力ですので、しかもそれが数本。期間的、予算的にも1タイトルごとの“グラントノフ”は不可能です。

※グラントノフ……マークIII版『アフターバーナー』で追加されたオリジナルの超巨大飛行戦艦に由来。“セガ3D復刻プロジェクト”中に奥成氏が、オリジナル版にはない(ある種サービス過剰な)追加要素という意味で命名をした。

堀井 タイトル追加自体が“グラントノフ”みたいなもんですね。“グラントノフxグラントノフ”は無理!

奥成 それが単体発売になるのなら、追加要素を入れなくてはというのは、エムツーさん的には当然必要になると判断されてしまったんですね。過去のプロジェクトタイトルでは、僕とエムツーさんとで“グラントノフ”を考えてきたんですが、今回は僕が知らないところで“グラントノフ”が建造されていたわけで、1ユーザーとしてようやく僕が望んだ『3D パワードリフト』を作ってもらえたという気分ですね。

堀井 相当死ぬ思いをしてやったんですけどね! 言わんとすることはすごくわかりますけど(苦笑)。

奥成 いやいや、純粋にうれしいんです(笑)。くり返しになりますが、配信タイトルとして二、三ヵ月に一度くらいのペースでタイトルをリリースしていくのが、僕が手掛けていた“セガ 3D復刻プロジェクト”。対して下村主導となった『セガ3D復刻アーカイブス2』以降は、年に1本のパッケージを出すというものです。

――当然ながら開発のペースや行程は全然違ってくるでしょう。

奥成 ぜんぜん変わってきます。いまでも『3』に新作があんなにいっぱい入っているのが信じられません(笑)。

――話をエムツー側に戻しますが、足りない開発リソースはどうやって絞り出したのですか?

堀井 まず前提として、『ぷよぷよ通』と『パワードリフト』の話がきたときに、『ぷよぷよ通』だけ引き受けて『パワードリフト』は断ろうと思っていたんです。けっきょく、なんやかんやあって押し切られて2本作ることになったから、こうして話ができているんですけどね(苦笑)。

――下村さんのタフネゴシエーターぶりが想像されます(笑)。

堀井 僕も出せるものなら両方だと思っていたのですが、“グラントノフ”に関してはできることがほとんどないというのもかわっていたんですよ。なにしろ『パワードリフト』はニンテンドー3DSの処理性能ギリギリで動いているので。最初はコースの組み換えとかも考えていたんですけど、うまくいかなかったんですよね。

奥成 セガの要望としては、「その分の追加予算は出しますから、単体として切り出してください」だったんです。スペシャルモードは言うまでもなく、クレジットすら求めてはいなかった。

堀井 そうそう、スペシャルモードやクレジット、操作タイプを追加したのは我々で、「やれ」とは言われていないんです。

――操作タイプの追加があるんですか。

堀井 はい。ハンドルのタイプがひとつ増えています。クイックな反応にしたので、実機ではできない走りができてしまう可能性もありますが、開発中に筐体を常に脇に置いているわけではないので、厳密に再現するには限界がある。

奥成 言うと野暮なんですが、実機のアナログ操作をニンテンドー3DSのスライドパッドで再現するにはどうしても齟齬が生まれてしまう。『パワードリフト』なら急ハンドルで切り換えをしたときの、ガツンとした操作感を再現できるのかということです。けっきょくは複数の選択肢を用意しておくしかない。オリジナルでもムービングとアップライトでハンドルの重さは違うでしょうからね。

▲『セガ復刻アーカイブス2』では2種類だった操作タイプが3つに増えている。

堀井 で、話を戻すとこれまでのシリーズを踏まえると、“グラントノフ”をやらないわけにはいかない。やらないんだったら出さない!

――やる以上は徹底してやるというエムツーのプライドというか。

堀井 そうですね。ウチもこれから自分たちでパブリッシャーとしてゲームを出していくにあたって、「ここまではやろうよ」という決意を新たにしています。ぶっちゃけると、隣で作っている『バトルガレッガ Rev.2016』に負けるなよ、と!

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奥成 以前は僕がけしかけていたんですけど、もうなにも言わずともよくなったと!

堀井 ひどいこというなあ(苦笑)。社内ではひと悶着ありましたからね! ちなみに、メニュー画面の3Dモデルは、またしても実機を計測して制作しました。ミカドさんに置かれている筐体です。

●紆余曲折喧々囂々の中から生まれたこだわりのスペシャルモード

――スペシャルモードの内容についてお伺いします。セガのキャラクターが総出演するという形に落ち着くまでにはどんな流れだったんでしょう?

堀井 コースを組み直すアイデアが実現できなかったので、ほかにできることは……ということで考えついたのが、グラフィックや音楽の差し換えだったんです。ですから、ゲーム本体はいじっていません。差し替えだったら軽く……いや、手間はかかるんですけど、実現できるなと。あとは音をキャラクターにちなんだ曲にすれば、格好はつくんじゃないかというところです。

▲5種類のコースどれかをクリアーし、一度でもエンディングを見ると、メニューにスペシャルモードが追加される。

奥成 『3』のスタッフと被らないようにするのも重要だったんじゃないですか?

堀井 これがダダ被りで……(悲しそうな表情で)。『3』だけじゃなくて、『バトルガレッガ Rev.2016』とスタッフの取り合いになっていましたよ。夏前あたりは喧々囂々でした。

――キャラクターのグラフィックは新規に描き下ろしているんですよね? まさか謎技術でオリジナルから引っ張ってきているとか。

堀井 描き起こしです。キャラクター12人分のアニメパターンを全部書きました。いつもクレジットを作成している高橋とドット絵のアニメーションが得意な渡辺の両名が作成しています。これまでの3D復刻ではメニューまわりとかを手伝ってくれていましたが、自分の絵で描くというのは初めてですね。

奥成 そもそも“セガ3D復刻プロジェクト”では新規にドット絵を作るという作業がほとんどなかったですものね。『3D スーパーハングオン』の追加エンディングが最初? 後はクレジット以外だと『3D ファンタジーゾーンII』の“リンクループランド”くらいかな。

――キャラクターの選出はどのように?

堀井 当初はディレクターの松岡がいろいろ考えて、『パワードリフト』で使われているカラーパレット(※)を元に「このキャラクターはこのパレットと色が似ているから(パレットに手を付けず)描ける!」と、姑息に仕事を楽にすることを考えていたんです。でも最終的には、けっきょくパレットを解析して色を書き換えているので、あんまり意味がなかった(笑)。

(※)画面上で使うドットの色をあらかじめ選んでおく仕組み

――初めてPVを見たときは、「いつも以上に好き放題やっているなあ(褒)」という印象でした。堀井さんからリクエストはしなかったのですか?

堀井 ぜんぜん。出来上がったものを見て「ビンズビーン最高!」とか言っていました(笑)。これまでのようにゲームを作り替えず、絵と音が違うだけでゲームの中身は変わってないですからね。

▲堀井氏のお気に入りは『ギャラクシーフォースII』のポスターに登場したギャラクシーレディだとか。

――サウンドも新規に、セガの名作ゲームのメドレーバージョンとなっています。

堀井 これも同様で、僕は「曲をメドレー形式にアレンジしてストリームで流せばいいじゃん?」と思っていたのですが、端的に言うとディレクターの松岡が「やっぱり『パワードリフト』音源セットでセガのメドレーを作るべきなのでは」と譲らなかったんですよ。メドレーの選曲・アレンジは弊社Chibi-techが担当しています。

▲BGMがコースごとに『スペースハリアー』、『アウトラン』、『ファンタジーゾーン』、『サンダーブレード』、『アフターバーナー』のメドレーに変化。音源はパワードリフトのものなので、新鮮な気持ちで聞ける。

奥成 Chibi-techさんには過去に、『セガエイジスオンライン』のメニュー画面の楽曲作成をしてもらったんですけど、そのときも元のゲームの音源に準じている、オリジナル曲だったんです。一聴するだけだと、「このゲームにボツ曲あったっけ?」と思うような、いかにもありそうな新曲。

――版権曲が使いたいけど使えないときの“なんちゃって曲”みたいなもんですね。プロレスゲームのBGMでたまにあるパターン。

堀井 それに近しいものがあります。

奥成 メロディーとか既存の曲に似せているわけではないからもっと凄いですね。Chibi-techさんのつぎの曲の参加は『3D アウトラン』で、オリジナル基板と同じ音源で新曲を作ってもらうことを、並木学さんとやってもらいました。今回は『パワードリフト』の音源でやってもらったということで、これまでの積み重ねが活きた仕事になりましたね。

――どの曲をどう繋いでいくかを考えるだけで、かなりの労力になりそうですね。

堀井 かなり時間がかかっていましたね。Chibi-techも断然「『パワードリフト』音源でやりたい!」派だったので、こだわりたい部分はあったのでしょう。

奥成 開発の最後の最後まで、どの曲にするか決まっていませんでしたよね。

堀井 じつは開発中にコミュニケーションミスがあって、全部のタイトルを入れ込んだ、ながーーーーい一曲のメドレーを作るものだと思って作業が進んでいたんです。途中で気づいたときは、けっこう顔が青くなりましたね。

――そういえば、『2』に収録している『パワードリフト』は、ストリームではなくてFM音源のシミュレートでしたよね。

堀井 そうです。ですので、「オリジナルの音源を使おう!」なんて雅(みやび)なことを言い出したわけなのですが、どう考えてもその作業には専任の担当が必要で、期間も2~3ヵ月かかる。社長としては全力で止めたいけど、プレイヤー堀井としては、それはぜひとも聴きたい。そんな状況になったものですから、けっきょく「なるようになれ!」と放っておいたんです。

――まさかの放任!

堀井 担当スタッフは、どうにか時間をやりくりして作業を進めていました。松岡からは「作業がどんどん遅れています」というリポートが上がってくるのですが、同時に素敵な音が上がってくるので黙っておいたということです。

――社員の自主性に任せたというか(笑)。

堀井 そう言っていいものかどうか……。もはや手のつけようがなかったというか。

――現場の熱意は「やらなくてどうするよ!」といった具合だったのですか?

堀井 10年前なら間違いなくそうなんですけど、我々も年を取ったので「このペースだと潰れるんじゃね?」と思いつつもアクセルを踏んでいます。結果としては、ちゃんと出来たのでハッピーエンドではあるんです。

奥成 結果的には本来のマスターアップから1ヵ月遅れになりましたけどね(笑)。当初は『3D ぷよぷよ通』の前の8月くらいに出す予定だったのですが、それが延びてこの時期となったわけです。

堀井 あーあー、それを言わなければ美しい話だったのに(笑)。

――余談ですが、『3D ぷよぷよ通』は、ぷよぷよチーム扱いでリリースされたものかと思っていました。

奥成 いえ、とくに細山田(※『ぷよぷよ』シリーズプロデューサー)からシングルカットを打診されたわけではありません。あくまで『3』に進むにあたっての実績作りのためです。

――新規作成となったクレジットはどんな感じのものに?

奥成 『3D スーパーハングオン』系の環境映像ですね。

堀井 元のゲームである『パワードリフト』が豪快過ぎて、あれと同じ勢いで作るとニンテンドー3DSでは動かない(笑)。これは裏話ですけど、『3D アフターバーナーII』のときもすごいのを途中まで作っていたんだけど、ニンテンドー3DSに乗せたら動かなかったんですよねー。なので、ニンテンドー3DSっぽく動作する映像を板ポリゴンで新たに作っています。もともと環境映像的なカッコいいクレジットは、『2』の開発中に弊社プログラマーの齋藤彰良が望んでいたものだったんです。

奥成 スペシャルモードの条件はどんな条件でもいいので1回クリアーです。難易度を変更してもステージセレクトを使ってもいいので、とにかくコース5で3位までに入賞すれば解放になります。

――今回はいつも以上にてんやわんやな気がしますが、まとめると、エムツーさん得意の暴走ぶりと大人の知恵とがんばりがバランスよく組み合ったことの産物といったところですね。

堀井 そういうことです。

奥成 僕らの若いころはレコードのアルバムを買って、そこからシングルカットされた曲を聴くとアレンジがぜんぜん違っていて感動したことがありましたが、そういう感じで『パワードリフト』を気に入ってくれた方が、新しい要素でもう一回楽しんでくれたらうれしいです。逆に、「俺は気に入った曲しか買わない」というアルバム否定派さんには、今回の『3D パワードリフト』は待望だったのではないでしょうか。

――最後に先の話になるとは思いますが、『3』からのシングルカットの可能性はあるのでしょうか?

奥成 『2』のときもそうでしたが、現時点でシングルカットの計画はまったくありません。まずは最終作である『3』の成功がいまの目標です。『1』が『2』を上回る実績を上げられたように、『3』が『2』以上の成功を収めた場合に、初めてシリーズの復活について検討に入れるのではないかと思います。でも、そのときにまず先に考えるのは、新たなパッケージ版の実現の可能性でしょうね。と、そんな先のことを考えていても仕方がないので、まずは『3D パワードリフト』を、そして『セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE』を楽しみにお待ちください!