バンダイナムコ上海、この1年の成果を聞く
いま、有望なゲーム市場として世界中のゲームメーカーから注目を集める中国。もちろん、日本国内のゲームメーカーも例外ではなく、多くの企業が中国市場にアプローチをしているのはご存じの通りだ。そんな中、2015年に現地法人バンダイナムコ上海を設立し、中国市場に向けて積極的な取り組みを見せているのがバンダイナムコエンターテインメントだ。ファミ通.comでは、2015年に引き続き、バンダイナムコ上海 総経理 兼 董事(COO)の山田大輔氏にインタビューを実施。この1年のバンダイナムコ上海の、中国市場における成果のほどを聞いた。
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中国展開では、『NARUTO-ナルト-疾風伝』、『ONE PIECE』、『ドラゴンボール』などのゲームが好評
――インタビューは昨年(2015年)以来ですが、状況はいかがでしょうか?
山田 登記は2015年1月に完了しており、同年4月にオフィスを設立しました。いまは順次事業展開を進めています。
――上海の生活は慣れましたか?
山田 はい。もう自宅は上海にあります。日本にいるときはホテル住まいとなりました。
――2016年の状況はいかがでしょうか?
山田 アニメ『NARUTO-ナルト-疾風伝』の正規版PCゲームである『火影忍者ONLINE』については、2014年秋にリリース開始となり、すでに1年半が経過していますが登録者数は2000万人以上です。また『火影忍者MOBILE』も2016年1月にリリースして、中国のAppStoreトップセールスランキングで1位を獲得しました。アニメ『ONE PIECE』の正規版モバイルゲームである『航海王啓航』も2015年1月からリリースしています。こちらは当時バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)が中国のローカル企業と協業でサービスを開始しました。以降、2015年4月に弊社を立ち上げたのに合わせ、このゲームのサービスをバンダイナムコ上海で引き継ぎ、多くのユーザーの支持を得ています。
――2016年に入ってからはいかがですか?
山田 『ドラゴンボール』の正規版モバイルゲームである『ドラゴンボール激闘』を2016年の3月末から正式リリースをしています。サービスインから4ヵ月が経ちましたが、いまだにAppStoreのトップセールスランキングでベスト10に入っています。当然ランキングは上下しますが、先日魔人ブウのイベントを実施したときは5位にまで上昇しました。2016年4月、5月にはトップセールスランキング3位にまで到達しています。このような実績を取得できることは、版権元様のご意見・ご協力が不可欠となりますので、対応していただいている版権元様に心から感謝しています。
――『ドラゴンボール』は中国でも人気なのですね。
山田 はい。また、『ソードアート・オンライン』の正規版モバイルゲームである『黒衣剣士』が2016年5月にリリースされ、こちらもAppStoreのトップセールスランキングで最高5位を獲得し、その後5位から20位を前後するという安定した順位で推移しています。『ソードアート・オンライン』は、中国ではここ2、3年に流行したコンテンツという印象があるので、そういった作品が、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』、並びに『NARUTO-ナルト-疾風伝』のように、10年、20年、30年と愛されてきたキャラクターに負けないくらいにランキング上位にくるのはうれしいです。これはレジェンド的な位置づけであるキャラクターだけではなく、より多くの日本のコンテンツが中国の方々に受入れられているということを実感できたからです。(インタビュー当日のAppStoreトップセールスランキングを見せて)いまでもこのように『ドラゴンボール激闘』が12位、『黒衣剣士』が17位、『火影忍者MOBILE』が18位に入っています。
――日本発のIPが活況を呈していますね。
山田 はい。なお、『銀魂』の正規版モバイルゲームである『銀時之魂』もリリースを開始しました。2016年の5月から配信しています。そのほかにも『機動戦士ガンダム』のゲームをリリースし、また『美少女戦士セーラームーン』、そして『ONE PIECE』ゲームの2本目もリリースの準備を始めています。まだ設立してわずかで、地盤を固めている段階ですが、しっかり足元を固めてからビジネスを展開するとなると、もう市場自体がなくなってしまうという可能性もあるので、社員教育を進めつつつぎつぎに展開しビジネスを進めています。現段階では社員は約40名ですが、その限られたリソースの中で戦略的に最大限の業務を展開しています。版権元様やローカルパートナー様と連携しながらスピーディなビジネスを意識しています。
――プロジェクトを順調に進めるポイントは何ですか?
山田 上海に拠点を構えてから、中国のローカルパートナー様にはコンテンツという視点からいろいろ弊社から提案をし、版権元様には日本のゲームのままでは中国市場では合わないということを丁寧に説明させていただき、ご理解いただいた結果だと思っています。版権元様のご協力があるからこそ、プロジェクトを順調に進められると強く感じております。
――コンテンツの現地対応などはどうでしょうか?
山田 基本はこちらでやっています。そこで一般的には本社とのコミュニケーションが課題となるのですが、バンダイナムコ上海に赴任してからすぐに採用活動を始め、できる限り現地の中国のスタッフを採用しました。ただし、日本語も日本文化もIPも分かる人材を中心的に採用しました。そうして、中国のお客様に受けるゲーム性を分かったうえで、“仕組み”や“遊び”をこちら側で提案書として作って、本社に提案するようにしました。この提案の意義をどれだけ理解しあえるかはコミュニケーションの問題となるのですが、バンダイナムコ上海のメンバーを頻繁に日本の本社に派遣させることで対応しています。上海~日本は近いですので、バンダイナムコエンターテインメントの関係者とコミュニケーションを密にし、お互いの理解度を高めてもらいます。
今年のテーマは“圧倒的な存在感”
――現地法人を設立されて、バンダイナムコ上海としてChinaJoyに初出展されましたが、そちらに関してはいかがでしょうか?
山田 まず今回バンダイナムコ上海が初めて出展したChinaJoyですが、出展コンセプトは“存在感”と決めていました。それはバンダイナムコ上海における2016年のスローガンが“圧倒的な存在感”としているところから来ています。そしてこの“圧倒的な存在感”を打ち出す上でのひとつの手法としてChinaJoyという機会を使い、“日本の正規版のIPゲームが初めて中国で大規模な出展をする”ということを考えて出展しました。これも版権を承諾してくださった版権元様のおかげです。
――存在感を示すためにどのような方法を打ち出したのでしょうか?
山田 他社との差別化、並びに弊社のビジョンの具現化をするためにコンテンツの世界観を押し出すことにしました。版権元様のご協力のもとに、『ONE PIECE』であれば酒場の光景を、『ソードアート・オンライン』であればアインクラッドのイメージ、『ドラゴンボール』なら天下一武道会、などです。『機動戦士ガンダム』であれば、アニメの世界観を再現した制服を着た女性スタッフをブースに配置するなど力を入れていますが、加えて大型のガンダムRX-78-2の立像、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の主役機であるバルバドスの2メートルの大型立像を設置するなど中国のお客様にインパクトを残す展示を実施しています。このような施策はローカルパートナー様ではなく、バンダイナムコ上海でしかできないことなのでこのようなことをやっていきましょうということです。
――登壇したゲストも豪華でしたね。
山田 はい。『機動戦士ガンダム』のアムロ役を演じている古谷徹さん、『ドラゴンボールZ』のベジータ役である堀川りょうさん、『NARUTO-ナルト-疾風伝』のうずまきナルト役である竹内順子さんやはたけカカシ役である井上和彦さんにステージイベントで登壇していただきました。つまり、東京ゲームショウにおける弊社と同じように、バンダイナムコ上海が運営しているゲームコンテンツのステージイベントを実施することで会場での盛り上がりと同時に人の流動性を担保しました。なお、中国では実況中継、生主が近年とても増えた印象があります。中国人ユーザーがニコニコ動画を参考にして作ったサイト、bilibili動画の人気に火がついたことと関係しているようです。ですので、弊社のブースでも『ソードアート・オンライン』のイベントを実施する際、中国の有名な実況主さんに来ていただいて、インタビューをしていただきました。これは、『ソードアート・オンライン』のような二次元コンテンツの場合、招待ゲストとこのIPが好きなお客様の親和性が高いと感じたからです。
――それらは、eスポーツやShow Girls、グッズ配布をするブースが多いChinaJoyの一般的なアプローチとはまったく違いますね!
山田 他社との差別化、並びに弊社のビジョンの具現化をするためにコンテンツの世界観を押し出す、ということを目的にしていましたので、ChinaJoyの一般的なアプローチには準拠しませんでした。一方で、『ドラゴンボール激闘』の扇子や『GCCガンダム決戦』のステッカーなどを配布するなど、理念に合致した施策は積極的に行っています。もちろん関係のあるもののみ配っています(笑)。
――ChinaJoyでの一般的なアプローチを、バンダイナムコ上海さんの理念に合う形で、しっかりと咀嚼したということですね。
山田 このように中国で人気の声優陣、ニーズに合ったブース展示、並んででも手に入れたくなる配布物などを組み合わせることで、より多くのお客様にバンダイナムコ上海のファンになっていただき、ChinaJoyの4日間でバンダイナムコ上海の公式SNSを新規にフォローしていただいたお客様は5万人を超えました。いまもフォロワー数が増えていますが、ChinaJoy出展がきっかけとなって、より多くのお客様にバンダイナムコの提供するコンテンツに興味を持っていただいていると実感しています。
――ChinaJoy以外で、施策として実施してきたことを教えてください
山田 地下鉄駅広告として、『ONE PIECE』、『NARUTO-ナルト-疾風伝』、『ドラゴンボール』、『機動戦士ガンダム』並びに『ソードアート・オンライン』など、弊社が提供しているIPゲームの広告をChinaJoyに合わせて出稿しました。人民広場駅、静安寺駅、中山公園駅、徐家匯駅など乗り換えがある地下鉄駅の主要駅の壁を各IPのキャラクターを使用した公告デザインで囲みました。日本で言えば、新宿、渋谷、六本木のような場所にあたりますね。これも圧倒的な存在感を出すという意味で展開しています。
クロスメディアを積極的に展開し、中国におけるメディアビジネスの先鋭を目指す
――他社で展開されている関連コンテンツの連携などはいかがでしょうか?
山田 中国では、2月に劇場版『BORUTO -NARUTO THE MOVIE -』が上映されたのですが、それに合わせて『火影忍者MOBILE』のファン感謝イベントを企画しました。また、映画上映に際して、ゲームで告知するなどといったクロスメディア展開をしています。
日本だとこういった連動施策はすぐにできるのですが、中国ではまだいまでも“ゲーム”、“映像”、“プラモデル”という形で、点で終わってしまう傾向にあると思います。野球にたとえれば、打線になっていないということです。バッターとして全員が4番のようになってしまうという(笑)。ですが、弊社としては、キャラクターIPを中心としたバリュー・チェーンを作っていくようにしたい。それがユーザーに喜ばれることに繋がるからです。日本では、『機動戦士ガンダム』がおもしろいと思ったユーザーはおそらく大手販売サイトを検索し、ゲームやアプリなどがあることも発見し、「これ無料だからやってみよう」とつぎの消費行動に移ります。こういった、ある行動からつぎの行動へ繋げていく、というのをバンダイナムコ上海が中国でやっていかなければならないことだと思っています。
――日本で培われてきたクロスメディアのノウハウが活かされていると?
山田 日本でこれまで確立してきた方法からすると、まだまだやれることがいっぱいあると考えています。ただ中国ローカルパートナー様といっしょにやるとなると、たとえよいアイデアでも、どう実施するかで意識のズレが出てきてしまいます。電話だと伝わりにくくなるので、パートナー様のところに行って現地で実際にコンセプト図を見せて理解していただくといったことが必要になるのです。バンダイナムコ上海の主要パートナー様の一部は深セン(シンセン)に所在するので、僕らは深センのパートナー様と連携するチームを“深セン組”と呼んで鼓舞しています(笑)。
ユーザー、パートナー、すべてが違う中国で、“イベント発生率”が高くなるのは必至
――これまで中国のユーザーに対してサービスをおこなってきて、日本のユーザーとはどう違うと実感しましたか?
山田 日本のユーザーはどちらかといえばコレクション要素を好む傾向にあります。それに対し、中国はPvPが好きですね。人と戦うというのは日本では避ける傾向にあるのですが、中国の場合はPvPでどれだけ勝ったかが自慢できるモチベーションにつながります。ですので、かなりゲームの内容を作り替えざるを得ないのです。つまりは、ローカライズ、カルチャライズが重要だと思います。
――中国市場では、携帯型VRの人気が高いですが、VRでの映像体験などはいかがでしょうか?
山田 ローエンドのVRハードは現在たくさん出ているし、1年前と比較してもデモサンプルの品質はよくなりつつあります。ただ、まだソフトが足りていないという印象があります。ここで誰が何を出してくるのかは興味深い点です。いずれにせよ、やってみないと分からないことがあるので、何かを打ち出す必要はあると思います。ただ、VRのブレークスルーはまだ誰も見ていません。もしかしたら、バンダイナムコエンターテインメントで行っている“VR ZONE Project i can”などはその可能性があるかもしれません。とはいえ、それを中国で展開するとなると、どうするかは分かりません。中国では、すでに“ヘッドマウントディスプレイ(HMD)をかぶって驚く”というのは、2015年にすでに起ってしまっているんです。ですので、いまの段階では“HMDをかぶってしっかり楽しめるものは何か?”というのが課題だと思います。あとは、酔いをどう克服するかという問題もあります。飛行機ゲームなどは視点制御も利かないので。長時間のインタラクティブな体験をユーザーに提供するにはまだ課題があるのではないでしょうか。ただ、将来的に弊社の担当するモバイルゲームの分野で、中国のお客様のニーズに合った、VR技術を使用したサービスを提供できる日が来ると期待しています。
――バンダイナムコグループとの連携という点についてはいかがでしょうか?
山田 出資関係で見ると、弊社は香港にあるバンダイナムコホールディングスアジアが出資しているので同じくこの子会社であるバンダイ広州(広州にあるバンダイの拠点)との連動についてはかなり協力的に行っています。モバイル関連のイベントで特典を与える際に商品を提供いただくという小さいところから連動を行っています。またバンダイナムコ上海の拠点が上海にあることもあり、フィギュアを購入した上海にある中国パートナー様もたくさんいますので、このような場合はバンダイ広州に相談をします。こういった小さな連携をつなげていくことで、他社にはできない差別化につながると思っています。いきなり大きなことをやろうとして、実際には何もできないということは中国ではよくあるので、現場でのコミュニケーションを活性化させながら、大きな連携が作り出せればと思っています。
――今後、中国に進出を考えている企業に対して、アドバイスなどありましたらお願いします。
山田 中国のユーザーは決して敵ではありません。日本対中国という考えではなく、楽しく仕事をするという意識を持っていれば楽しいことができると思っています。いっしょにがんばりましょう。