東京ゲームショウ 2016の開催に伴い、世界最大級のゲーム専用配信サイト“Twitch”のCOOであるKevin Lin(ケビン・リン)氏が来日。ファミ通.comでは、ケビン氏とTwitchのグローバルアンバサダーとして活動するプロゲーマー梅原大吾氏の対談インタビューを実施。ケビン氏がグローバルアンバサダーとして期待することや、格闘ゲームと同じくらい真剣に取り組んでいるという梅原氏の映像配信に対する考えをうかがった。
――ケビンさんはもともと梅原さんのファンだとお聞きしたのですが、それは本当ですか?
ケビン はい。本当です。僕は『ストリートファイターII』が好きで長いことプレイしていました。そのころのアメリカのルイジアナ州では現在のような盛り上がりはなかったのですが、時が経ち、競技シーンが成長して、Twitchの前身であるJustin.tv時代に動画を通じて梅原さんの活躍を知りました。その後、実際に会うことがとてもうれしかったです。
――梅原さんのどういった部分に魅力を感じたのでしょうか?
ケビン まずは、ネームバリューや評判があって梅原さんの存在を知り、それがきっかけで実際に試合を観るようになりました。すると、試合での盤石さ、ゲームスキルのレベルの高さに驚かされました。対戦ゲームの場合、ただゲームをするだけではなく、対戦相手のことを考えなくてはならない。もちろん相手は、梅原さんを倒そうと対策をしてきますが、梅原さんはそれに対してオープンな考えを持って適応していくスキルを持っています。その点において梅原さんは本当にすごいと思いました。
――梅原さんの人間性にというよりは、ゲームスキルに魅力を感じたのでしょうか?
ケビン 格闘ゲームのプレイは、そのプレイヤーの内面を反映したものだと思います。プレイを通じてどんな人間かが伝わってくるはずです。
――やはりゲームプレイに人間性が表れるものなのでしょうか? また、梅原さんのどのような性格がプレイに表れていると思いますか?
梅原 もちろん出るでしょう。ただ、自分ではどういった特徴が出ているのかはわからないんですよね。でも、みんながみんな口をそろえて「梅原のプレイは特徴的だ」というので、やっぱり人と違うんだろうなとは思います。
ケビン 実際のスポーツは身体的なスキルの面が大きいですが、対戦ゲームの場合は対戦相手に適応したり、相手の動きを読むといった心理戦が締める割合が大きいので、その人の人間性が表れやすいと思います。僕はゲームがうまくないので実際の理論はわかりませんが、“背水の逆転劇(※)”と呼ばれるEVOのウメハラ対ジャスティンの一戦を思い出すと、絶対絶命の状況でも諦めず、そしてジャスティンの大技を読んで逆転勝ちをおさめる。ふつうはあんなすごいものは見られませんよ。
※2004年に開催された格闘ゲーム世界大会EVOの『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』部門において、梅原選手がジャスティン・ウォン選手との対戦で見せた奇跡的な大逆転劇。体力がほぼゼロの状態に追い詰められた梅原選手が、ジャスティン選手の操る春麗がくり出した大技“鳳翼扇”を“ブロッキング”ですべて捌いて反撃を決めるという、劇的な勝利が多くのギャラリーを興奮させた。その模様を収めた動画は、“最も視聴されたビデオゲームの試合”としてギネス世界記録に認定された。
――ではつぎに、グローバルアンバサダーとしての梅原さんには何を期待していますか?
ケビン まずは、世界にプロとは何か?というものを発信してほしいと思っています。また、梅原さんに関しては、ゲームプレイヤーという枠にとどまらず、“梅原大吾”というブランドを発信してほしかったのですが、彼はそのブランドを築くことができたと思っています。これはすごくたいへんなことなので、配信者の皆さんはそのブランドをどういう風に構築していったのかを参考にしてほしいです。
つぎに日本マーケットに関して、梅原さんはTwitchを日本で広げるための特別なパーソナリティーでもあります。たとえば、新しい分野に進出するとき、どんな会社でもサービスをポンと出すだけではダメで、その地域の文化を理解して、コンテンツを作るためにはどうすればいいかを考えなくてはいけません。梅原さんは、そういった我々がやらなければいけないことを気づかせてくれる存在でもあります。これらがうまくいけば、プロゲーマーや配信者が増え、彼らが多くの人に羨望されるようなものになっていくはずです。これは簡単なことではありませんが、梅原さんがいままで築いてきたものを持ってすればできると思います。
――それを受けて、梅原さんはどういった意識を持って活動していますか?
梅原 Twitchのためにというのと違うかもしれませんが、グローバルアンバサダーという立場になった以上は格闘ゲームを競技としてプレイするのと同じくらい真剣に、「俺は配信で何ができるのか?」と考えるように意識が変わりました。だから自分なりの挑戦として、配信を使ってできることの枠をもっと広げたいと思っています。もっともっとやれることはあるはずなのに、活かし切れていないんじゃないかと。過去の例から学ぶことはするけど、それはあくまで新しいアイデアを出すための勉強。いずれは「配信でこういうことができるんだ!?」という驚きを与えたいですね。
――ほかの配信者の動画を見て研究しているのでしょうか?
梅原 研究と言えるほどはしていないのですが、「なんでこの配信が受けているのかな?」と考えることはあります。あとは自分が配信してみて、「あれ? 今回はおもしろかったけど、なんでだろう?」とか、原因の分析は格闘ゲームと同じくらいやっています。
――Twitchで梅原さん自身の番組を配信している中で、新しい発見はありましたか?
梅原 すごくたくさんあります。ただ、いままでまったくやってこなかったことなので、発見というより意識が変わったということのほうが大きいですね。いちばん大きく変わったところは、「自分という人間を出していく時期は終わった」と考えるようになったこと。いまは、とにかく自分のまわりにいる人間に光を当てることを第一に考えています。基本的には、番組に呼んだプレイヤーを視聴者にいかに理解してもらうか、魅力的に見せるか、ということに頭を使っているから、それは自分にとってメチャクチャ大きな変化だと思います。
――確かに、梅原さんの番組には若いプレイヤーを積極的に呼んでいるイメージがあります。
梅原 格闘ゲームは個人競技だから、「俺がいいプレイすればいい」とか、そういうことばかりをやってきたんですが、これからはそれじゃダメなんですよ。コミニティー全体に視野を広げて、若い人たちとのキャリアの差を埋めていかないと。
――ケビンさんは梅原さんのいまのお話を聞いてどう感じましたか?
ケビン 自分の名誉よりも、コミュニティー全体のことを考えて活動していることを感じます。たとえば会社だとしたら、いろいろな人のことを考えなきゃいけない。eスポーツやストリーミングもそういうことが必要だと考えています。eスポーツという言葉自体は数年前から使われていますが、人間の年齢にたとえるならまだ1歳くらい。経験ある者たちがつぎの世代にその経験を伝えていかなければなりません。世界中のみんなが試行錯誤している段階ですから、日本および世界中の人が梅原さんの経験から学ぶことがあるんじゃないかと思います。
――経験を伝える手段のひとつとして、世界中に発信できるTwitchが役立ちそうですね。
梅原 本当にやりがいのある新しい課題を与えてもらった気分です。格闘ゲームに熱中して、麻雀にも真剣に取り組んだと考えると、Twitch は人生で3つ目の真剣に取り組めるものですね。いまは「配信てどうしたらいいんだろう?」と考えるのが楽しくて、新しいオモチャを買ってもらった気分です。
――格闘ゲームとTwitchの相性はいかがですか?
梅原 すごくいいというか、ベストなんじゃないかと思います。配信画面にすべての情報が詰まっているところがいいですね。あとは、リアルタイムで変化が起きるから見ていて飽きない。編集もないのに見ていられるのはすごくいい。
――Twitchを格闘ゲームの練習に活用することはありますか?
梅原 ほかの人のプレイを見ることはありますけど、それについてはおそらく俺よりほかのプレイヤーのほうが活用してそうですね。格闘ゲームに関しては、俺は結構ひとりで考えるタイプですから。
――確かに、人のプレイを見て研究するイメージはないですよね。
梅原 気になる試合は見てみようかなというだけで、基本的には自分のプレイを見直すのに使うくらいです。
ケビン 梅原さんの言うとおり、『ストリートファイター』は全情報がひとつの画面に収まっているゲームです。それだけではなく、殴られたり倒れたりしたらどちらがやられたのかは、誰が見てもわかります。ですから、eスポーツとして『ストリートファイター』を見せるのはいいことだと思います。
――やはり、日本でTwitchを広めるキーワードに“格闘ゲーム”というものがあるのでしょうか?
ケビン 大きなキーワードのひとつだと思います。まず、認知度が高いのでそのゲームをあまりプレイしていない人でも内容がわかりますし、世界で活躍しているプレイヤーが日本人であるということも大きいと思います。また、eスポーツを発展させるということにおいても格闘ゲームは重要な要素だと考えています。
――ではつぎに、おふたりが今後チャレンジしたいことはありますか?
梅原 すごくたくさんあるんですよ。配信に関するアイデアが溢れてくるので、「なんでみんな同じことをくり返しやっているのかな?」と思うこともあります。ただ、アイデアをいざ実行しようとすると、さまざまな権利などクリアーしないといけない問題があることに気づきました。とはいえ、それらを差し引いても、できることはいくらでもあると思うんです。もしかしたら俺がいまするべきことは、そういったアイデアを実現してくれるパートナーを捜すことなのかもしれないと感じているほどです。
――梅原さんは、全部自分でやろうとするイメージがあったので、それは意外ですね。
梅原 そうなんですよ。当たり前ですが、時間が有限だということにいまごろ気づいたんです(笑)。自分が強くなれば解決する格闘ゲームの影響で、人に任せることが下手なんです。でも、いまの活動を考えると、人に任せられるものは任せるようにしないといけないですね。
――格闘ゲームでやってきたこととは正反対ですね。
梅原 まったく逆ですよ。すごく口出ししたくなるんだけど、「ここで言っちゃダメなんだな」と、最近はスタッフに任せて我慢しています(笑)。人に任せ切るということを練習中なんです。口を出したら人が育たなくなる。そうすると、新しいものが生まれない可能性がありますよね。俺には思いつかなかったことをやろうとしてるのかもしれないですし。
――ケビンさんはいかがですか?
ケビン 僕が会社を始めるときと同じ感じですから、梅原さんのいまいったことは身に着けるのがとても難しいことのはずです(笑)。自分がやる気があって、やろうと思えばできることはある。しかし、ほかの人に任せて学ぶ機会を与える。その人のパーソナリティーをプッシュしたり、自分のことを理解させる機会を与えないと、人は成長できないと思います。ですから、ただ任せるだけではなく、教えたり、導いたりしなければいけません。また、それは自分のやりたいことを任せられる正しい人を捜さなければいけないということでもあります。
梅原 難しそうだから、やっぱりやめようかな(笑)。
ケビン (笑)。今後のチャレンジについて、Twitchとしては何かに焦点を絞って大事なときに大事なことをしっかりこなし、慎重に大きくなっていかなくてはいけないと思っています。個人的には、歳を取ると『ストリートファイター』をプレイするのは難しくなると思いますので、『スーパーパズルファイターIIX』くらいは遊べるようにしたいですね(笑)。
――歳を取っても『ストリートファイター』なら遊べるのでは?
ケビン 達人は1万時間という言葉があるじゃないですか。僕にも1万時間『ストリートファイター』をプレイする時間があるのならできるかもしれません(笑)。
――では最後に読者へのメッセージをお願いします。
ケビン まずはTwitchのことを読んでくれてありがとうございます。僕らはこの1年でいろいろやってきました。ぜひTwitchを活用してコンテンツを作ってくれるとうれしいです。また、日本市場のためにTwitchが何をしたらいいのか教えてくれたら最高です。そして、日本の産業を世界で活かすにはどうすればいいか教えてください。
梅原 Twitchでの配信はすごく熱心に取り組んでいることなんですが、もともと訓練されていないことにチャレンジしているので、長い目で見て、自分の変化や成長を見てほしいです。いずれはすごくいいものしたいと思います。