トリコにたくさん触れて、たくさん名前を呼んで、たくさんの思い出を作りたい

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアから2016年12月6日に発売予定のプレイステーション4用ソフト『人喰いの大鷲トリコ』。東京ゲームショウ 2016にてメディア向け体験会の機会が設けられ『人喰いの大鷲トリコ』の最新バージョンをプレイする機会を得た。気になる内容だが、英語版となるものの、こちらの記事でプレイムービーを公開しているので詳細は動画をご覧いただきたい。本稿では、動画からは伝わらない『人喰いの大鷲トリコ』の魅力について述べていく。

『人喰いの大鷲トリコ』プレイインプレッション 改めて驚いた大鷲トリコの“AIの自然さ”【TGS 2016】_03

 その前に私事ではあるが、書かせていただきたいことがある。東京ゲームショウ開幕前日にあたる9月14日、22年のあいだ生活をともにしていた愛猫を失った。死因は老衰。老いによる死の兆候があったため、その時を受け入れる覚悟はあったが喪失感は想像を遥かに越えていた。東京ゲームショウ取材の忙しさに救われていた面もあったのだが、この精神状態で『人喰いの大鷲トリコ』の試遊を行うのはかなりの覚悟が必要だった。なぜか。それはトリコに圧倒的な存在感があったからだ。ここで言う存在感とは、大きいとかフォトリアルとかそういった話ではない。ゲームデザイナー上田文人氏だからこそ表現できたであろう、あたかも現実に存在するかのような大鷲トリコの“AIの自然さ”にある。

 『人喰いの大鷲トリコ』が発表されて以来、担当記者として取材に赴き、記事を作成し、上田氏のインタビューも担当している。これまでの試遊の機会にはすべて参加しているし、『人喰いの大鷲トリコ』の魅力は十分わかっていると思っていた。いや、そう思い込んでいたのだ。最新バージョンをプレイしてもっとも驚いたのは、わかっていたはずの大鷲トリコの“自然さ”だった。ツボのようなものを拾おうとした際、偶然近づいてきたトリコの鼻息で体勢を崩される。謎を解いて先に進もうとした際、トリコが背後にあった好物の樽に興味を示して振り返ってしまう。いわゆるゲームの常識が通用しない。おそらくプレイした人の中には思い通りにいかないトリコの行動にイライラした人もいたことだろう。だが、これこそが動物の自然さなのだ。その瞬間は不可解さを抱く。しかし、時間の経過とともに動物の予期せぬ行動はかけがえのない思い出となっていくのだ。

 たとえば、僕の右手には傷跡がある。当たり前だが、他人から見たら「ああ、切ったりぶつけたりしたのね」と思うだけだろう。だが、僕にとってはただの傷跡ではない。これは、亡くなった愛猫が1ヵ月ほど前に僕の指を噛んだ跡だ。頭を撫でている最中の突然の行動だった。白猫ゆえの誰にも媚びない気高さと気まぐれさを持ち続けた愛猫らしい行動だと僕はわかっている。時間が経ち腫れも痛みもなくなった指には、いまは亡き愛猫の牙の跡だけが残っている。この傷跡の意味は、愛猫と僕だけがわかっていればいいし、愛猫と僕だけの思い出だ。そして、傷跡を見るたびに僕は愛猫のことを思い出す。傷跡は記憶の呼び水となり、猫じゃらしで遊ぶときに本気で追いかけるまでに時間がかかったこと、かつおぶしが大好きだったこと、粗相をするとベッドの下に隠れたこと、機嫌のいいときに顔をペロペロと舐めてくれたことなど、愛猫との思い出が浮かぶ。同じように『人喰いの大鷲トリコ』をプレイした人は、それぞれがそれぞれの体験と思い出を得るだろう。トリコの自然さが生み出すのは、予想のつかないオンリーワンの体験だからだ。

『人喰いの大鷲トリコ』プレイインプレッション 改めて驚いた大鷲トリコの“AIの自然さ”【TGS 2016】_02

 ここまでの記述だけではトリコが猫のようだと思うかもしれないが、そうではない。最新バージョンではトリコに指示を出せるようになっていた。R1ボタンを押しながら各種ボタンを押すことで、少年が向いている方向にトリコがジャンプしたり、待機したり、攻撃をしてくれる。このような従順さは猫には当てはまらない。どちらかというと犬らしい行動と言える。ただし、これらは指示というよりは”少年からのお願い”のような意味合いだ。推測だが、ある程度トリコとの信頼がなければ言うことは聞いてくれないのではないだろうか。操作で気づいた点がもうひとつ。これまでのバージョンでは、たとえばトリコの羽根につかまる際、R1ボタンを押すことで”つかむ”アクションを行っていたが、最新バージョンではR1を押さなくても羽根につかまることができた。これはゲーム的な難しさを排除しつつ、没入感を高めるための変更だと思われる。事実、プレイを終えるまでは変更に気づかないほど自然だった。

 「もっと頭を撫でてあげればよかったな」、「もっと名前を呼んであげればよかったな」。愛猫にしてあげたかったことは数え切れない。どんなに接する時間が長くても悔いのような感情はなくなるはずもない。だからこそ、僕はトリコにたくさん触れて、たくさん名前を呼んで、たくさんの思い出を作りたいと思う。12月6日にトリコに会える日を楽しみにしたい。

『人喰いの大鷲トリコ』プレイインプレッション 改めて驚いた大鷲トリコの“AIの自然さ”【TGS 2016】_01

 最後に、海外メディアで報じられているゲーム部分について所見を述べよう。確かに、少年が壁に張り付いているシーンでは、カメラワークがうまくいっていない印象を受けた。ただ、カメラ視点はプレイヤーが動かせるため、ストレスを感じるほどではない。それ以外に気になったのは、樽などをつかむときの判定が曖昧に感じられたこと。樽に近づいてつかもうとしても、なかなか判定が生じない状況があった。とはいえ、これらはあくまでも現時点のバージョンでの話。発売までにこのような部分は修正されるはずだ。